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その姿をその「あるべき場所」で

そのすがたをその「あるべき場所」で

                                  (2013年5月27日 室月 淳)

5月24日に奈良にいきました.興福寺南円堂が創建1200年記念の特別開帳をおこなっており,秘仏・不空羂索観音像を拝観することが第一の目的でした.南円堂と北円堂の印象はまた格別のものでしたが,今日ははじめて訪れた東大寺ミュージアムの印象を書きたいと思います.それまで宝物館とか国宝館といわれるものをもたなかった東大寺がはじめてつくった専用の収蔵庫が東大寺ミュージアムです.

有名な法華堂は東大寺に現存する数少ない奈良時代建築のひとつであり,東大寺創建以前からあった寺の金堂であったという説もあるくらいです.堂内に安置される仏像18体のうち14体が奈良・天平時代の作で,そのなかの12体が国宝に指定されています.東大寺が創建された天平時代には乾漆像,塑像がつくられ,法華堂にもおおくの傑作がのこっています.乾漆像,塑像は非常に微細な造形表現が可能ですが,年月とともに材質が劣化し保存がむずかしい欠点があります.

もう30年ちかくまえになりますが,法華堂に最初にはいったときは,あまりに素晴らしい仏像群に圧倒されました.温度も湿気も外気とつうじているうす暗い堂内に,八角二重の壇上に本尊の不空羂索観音像と周囲の仏像群がところせましとならんでいました.あざやかな色彩がのこっていることで有名な執金剛神像は,本尊の背後におかれた厨子のなかにはいっていて,12月16日のみ開扉の秘仏ですが,あとは内陣のなかでじかにみることができます.その光景はまさに圧巻でした.

しかし実際は,脱活乾漆像や塑像のおおくはボロボロになっていて,法華堂内須弥壇などもシロアリの被害が深刻だったようです.2011年の東大寺ミュージアム開館にさいし,多くの仏像が同ミュージアムに移動され,堂内須弥壇の修理がしばらくおこなわれていましたが,修理は最近完成して現在は内部の拝観が再開されています.本尊の不空羂索観音像は法華堂にもどされましたが,塑像である日光菩薩・月光菩薩像や吉祥天・弁才天像はミュージアム内にそのままおかれています.もちろんミュージアムは耐震,耐火仕様で,温度や湿度調整もきちんとなされていて,乾漆像,塑像などの保存には適した環境となっています.

今回,日光菩薩像,月光菩薩像をあかるい照明のもとで,透明度のたかいガラスごしにじっくりとながめることができて,あらためてそのすばらしさに心うたれました.とくに塑像に特有の表情の微細な表現を,あかるいひかりの下でじゅうぶんに観察することができたのが感動的でした.和辻哲郎や亀井勝一郎が日光・月光菩薩像を高く評価したのは有名ですが,そのことが良く理解できます.塑像は耐久性にすぐれずたいへんこわれやすいので,博物館の企画展などにでてくることもすくないので,東大寺ミュージアムができたおかげですばらしい体験ができるようになったといえます.

貴重な塑像や乾漆像が木造の本堂をでて,コンクリート製の近代的な収蔵庫にはいったおかげで,盗難や火災などの災厄からのがれ,良好な状態で保管が可能となりました.そしてそれまでの堂内で拝観するのではわからなかった,仏像彫刻の「芸術」としての美や超越性といったものを心ゆくまで鑑賞できるようになりました.その美しさはまさに息をのむ思いです.人生の至福の経験といっても過言でもありません.

しかし同時に,あのすこしほこりっぽくて空気がよどんでいるような,うすぐらくていろがうすい堂内の須弥壇に,むかしから同じ位置にすこしだけ雑然とならんでいる仏像群が,きみょうになつかしい気がしてしょうがないのです.わたしは東大寺法華堂の1400年間の最後の一瞬に,仏像のすがたをその「あるべき場所」でながめることができたのをこころから幸せにおもっています.

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カウンタ 1428 (2013年5月27日より)