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「妊娠と薬カウンセリング」の目的

「妊娠と薬カウンセリング」の目的

                                (2012年9月21日  室月 淳)

羽黒山五重塔

「妊娠と薬カウンセリング」の目的はなんでしょうか? それは妊娠中に服用してしまった薬やこれから服用しなければならない薬についての不安や心配に対して,薬の正確な情報を提供し,服薬や今後の妊娠経過についての方針を判断していただくことにあります.催奇形性のある薬剤によって生じる先天異常児の出生を予防することや,妊婦の不安を鎮めて人工妊娠中絶そのものを減らすことなどは,カウンセリングの直接の目的ではありません.

先天異常児の出生予防という意味においては,マスとして出生数を減らすという公共医療政策上の視点と,個々のカップルに対するアドバイスの視点のふたつが考えられます.しかし薬物,化学薬品,放射線などが先天異常の原因と推定される比率は1%程度と推定されていて,薬物だけを取り上げてカウンセリング体制をつくるのは,先天異常全体を減らすという公共医療政策としてはあまりに効率が悪いでしょう.また個々のカップルに対する情報提供にしても,この場合のリスクは確率でしか提示できないため,予防という観点からはきわめて不充分なものにならざるを得ません.

「妊娠と薬カウンセリング」は医療カウンセリングのひとつですから,医学的に正しいデータや事実をきちんと伝えることが基本です.薬剤のリスク評価のための情報収集と専門的理解,その内容をクライアントにわかりやすく説明するコミュニケーションが求められます.しかしそれだけでならばいわゆる「服薬指導」と大きくかわりません.いちばんたいせつなのは中立的で非指示的な対応によるクライアント自身の自己決定や受容へのうながしです.カウンセリングは講義でもなければ啓蒙でもありません.不特定多数を対象とするのではなく,「あなたの問題を考える」というスタンスが重要です.

妊娠中に服用した薬が胎児に及ぼす影響についての妊婦や家族の心配にこたえる必要があります.妊婦の不安に向き合うためには,同時に妊婦が感じているかもしれない責任や罪悪感へきちんと対処するということです.過剰に心配するあまりリーズナブルでない選択肢を選んでしまったり,自己判断で薬を中止して原疾患を増悪させてしまったりすることがないよう,正確な情報を提供することによって今後の妊娠についての方針を適切に判断できるようにクライアントのお手伝いすることが基本となります.

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カウンタ 2122 (2012年9月21日より)