小児の時間外・休日・深夜受診における受診数は全受診数の10%を超える
Above 10 percent of total pediatric services were done in pediatric emergency rooms


江原朗

要旨
 急患センター受診者に占める小児の割合と診療報酬の給付状況から推計すると、小児の時間外・休日・深夜の受診数は小児の受診全体の10%を超える。
時間外・休日・深夜の診療は、急患センターも担ってはいるが、医師の派遣元は主に大学病院である。したがって、原則的に夜間・休日の小児科診療は病院小児科医によって行われているといえる。こうした状況の下では、時間外・休日・深夜における病院小児科医あたりの月間受診者数は、日中の45.3%にも達することになる。
 小児救急は、もはや日勤者の残業で担えるはずはない。夜間・休日に特化した小児科医の勤務体制の確保が必須である。

T.はじめに
 夜間、小児科医の診察が受けられずに死亡した小児の事例や、過労死した小児科医の事例が報道され、小児救急体制の不備が社会問題化している。十分な診療が受けられなかったこと、また、医師が過労であえいでいることが共存しており、医療制度上問題があるとしか考えられない。
 「医師は高給を得ているのだからいつでも働いて当たり前」といかいった市民の声があり、一方で、救急外来をお手軽に利用する市民に対して怒りを覚える医師の声があり、患者と医師との信頼関係は揺らいでいる。もはや、現代の救急医療問題を解決するには、財政および人的資源を適正配分し、体制そのものの設計を変更する以外に方法はない。
 しかし、その根拠となる夜間・休日の小児の受診数を公表した資料はごくわずかに限られる[1]。そこで、休日・夜間急患センターの小児の受診比率や診療報酬における時間外・休日・深夜の加算の回数から小児の受診数を推計し、時間・休日を中心とした小児救急医療体制の実情を推定した。

U.全受診数の2.2%は時間外・休日・深夜受診であり、小児においてはその率は10.4%にも達する
 平成14年社会医療診療行為調査報告[2]によると、平成14年6月の受診回数は1億2600万回、時間外・休日・深夜加算回数は274万回(総受診回数の2.2%)であった。一方、15歳未満の受診回数は1323万回であった。15歳未満の時間外・休日・深夜加算回数は不明である。しかし、休日・夜間急患センター受診者のうち、小児の占める割合が50.4%であるとの報告がある[3]。そこで、この値を乗じて推計すると138万回小児の時間外・休日・深夜受診があることになる。この値は、小児の受診の10.4%に相当する(表1)。田中らは、15歳未満の患者に対する救急患者の占める割合を11.7%としたが[1]、今回の推計値と大きな差はない。したがって、小児の受診の1割強は、時間外・休日・深夜であることは明らかである。


表1 社会医療診療行為調査報告による小児の全受診数と時間外・休日・深夜の受診数の比較

平成14年6月審査分 全年齢 15歳未満
初診・再診回数 126918038 13237272
時間外・休日・深夜加算回数 2741587 1381406
時間外・休日・深夜の比率 2.2% 10.4%
※15歳未満の時間外・休日・深夜は全年齢に急患センターの小児の割合(50.4%)を乗じて推計


 小児科は、患者数の季節変動があるといわれる。社会医療診療行為調査報告[2]は、毎年6月分の診療報酬の給付状況を検討しているに過ぎない。しかし、平成14年度医療経済実態調査[4]によれば、6月の小児科1施設あたりの医療費は、年12か月の平均の0.94倍に相当する。したがって、受診人数についても、6月の受診回数を検討すれば、ほぼ1年の傾向を把握できると考えて問題ないと考えられる。

V.病院小児科には平均2.5人の小児科医が勤務し、診療所(小児科を主ないし従として標榜している診療所)にはほぼ1人の医師しか勤務していない
 平成14年医師歯科医師薬剤師調査[5]、医療施設調査[6]によると、病院小児科は3359施設、病院小児科医(病院に勤務する主たる診療科が小児科である医師)8429人存在し、病院小児科あたり平均2.51名の小児科医がいる計算になる(表2)。

表2 病院小児科と小児科診療所(小児科標榜が主・従の総計)およびその従事者数

H14医師歯科医師薬剤師調査 医師数 施設数(医療施設調査H14) 施設あたりの医師数
病院小児科医(主たる) 8429 3359 2.51
診療所小児科医
(重複小児科医-主たる病院小児科医)
24277 25862 0.94
小児科医総計(重複) 32706 29921 1.12

 一方、小児科を標榜すべての診療所は25862施設、小児科医を標榜する診療所勤務の医師(小児科を標榜する医師全体から、病院勤務で主たる診療科が小児科である医師を減じたもの)は、24227人であった。つまり、小児科標榜の診療所には平均0.94人(ほぼ1人)の医師しかいない計算となる(表2)。

W.小児科を標榜する施設のすべてが日中の診療を行い、時間外・夜間・深夜の小児診療を病院小児科が行うとすると、時間外・休日・深夜の病院小児科医1人あたりの患者数は、日中の45.3%にも達する
 日中は、病院・診療所ともに小児の診療が行われているが、夜間・休日は診療の主体は急患センターないしは病院小児科によって行われているのが実情である。
 日中において、全ての小児科標榜医療機関が小児の診療を担うと仮定すれば、小児科医1人あたりの月間受診者数は、平均362人に達する(表3)。

表3 日中および時間外・休日・深夜の小児の受診数

平成14年6月 小児科受診数 診療施設数 小児科医 小児科医あたりの月間患者数
日中 11855866 29221 32706 362
時間外・休日・深夜 1381406 3359 8429 164
合計 13237272 29221 32706 405
日中
病院(主たる診療科が小児科である病院勤務医)+診療所(診療科が小児科である医師の重複総数)
時間外・休日・深夜
病院(主たる診療科が小児科である病院勤務医)

 一方、時間外・休日・深夜において、施設あたりの医師数がほぼ1人(表2)である小児科標榜診療所が対応するのは物理的に不可能である。また、急患センターも、大学病院等からの出張医によって診療が行われていることが多い。そこで、病院小児科医が時間外・休日・深夜の診療を行うと仮定する。こうした仮定のもとでは、夜間・休日における病院小児科医1人あたりの月間受診者数は164人と推計される(表3)。
つまり、病院勤務の小児科医にとって、時間外・休日・深夜における小児科医あたりの月間受診者数は、日中の45.3%(164÷362)に相当することになる。

X.時間外・休日・夜間の医師1人当たりの受診者数が日中の約半分に達する現状では、病院小児科においては交代勤務が必須である
 夜間や休日の宿日直体制は、本来、電話番や緊急対応に限られる性質のものである[7]。しかし、小児救急(時間外・休日・深夜診療)における病院小児科医の負荷は、日中の半分にも達することが判明した。したがって、日勤者が夜勤を連続して行うことは、法的・人間工学的にも問題がある。
 24時間睡眠しない状況下での判断力は、0.1%の血中アルコールが存在する条件下と同等であるとの報告もある[8]。この血中アルコール濃度では、人間は泥酔下にある。判断力の落ちた状態では、医療事故の発生は必至である。したがって、交代勤務制の導入は、勤務環境の改善とともに、医療安全の視点からも必須である。小児救急は、病院小児科医の残業に頼るものではなく、今後、小児救急を担う小児科医については、交代勤務が推進されなければならない。

参考文献
1) 田中哲郎:わが国の小児救急の現状.田中哲郎;小児救急医療の現状と展望,診断と治療社,p7-16,2004.
2) 厚生労働省統計情報部.平成14年社会医療診療行為調査報告.http://wwwdbtk.mhlw.go.jp/toukei/data/650/2002/toukeihyou/0004470/t0093144/ti51_001.html
およびhttp://wwwdbtk.mhlw.go.jp/toukei/data/650/2002/toukeihyou/0004469/t0093192/ji51_001.html
3) 田中哲郎ほか.平成13年度厚生科学研究,「二次医療圏毎の小児救急医療体制の現状等の評価に関する研究報告書」.
http://www.mhlw.go.jp/topics/2002/07/tp0719-2.html
4) 厚生労働省保険局調査課.平成14年度医療経済実態調査.http://www.mhlw.go.jp/topics/medias/month/index.html
5) 厚生労働省統計情報部.平成14年医師歯科医師薬剤師調査.http://wwwdbtk.mhlw.go.jp/toukei/data/180/2002/toukeihyou/0004386/t0089376/k41_001.html
6) 厚生労働省統計情報部.平成14年医療施設調査.http://wwwdbtk.mhlw.go.jp/toukei/data/160/2002/toukeihyou/0004610/t0094856/A07_001.html
および
http://wwwdbtk.mhlw.go.jp/toukei/data/160/2002/toukeihyou/0004610/t0094857/A08_001.html
7) 厚生労働省労働基準局監督課長通達.基監発第1128001号.医療機関における休日及び夜間勤務の適正化の当面の対応について.平成14年11月28日.
8) Gaba DM, et al: Patient safety: fatigue among clinicians and the safety of patients. N Engl J Med. 347: 1249-55, 2002.