小児救急における小児科医師の人材難:外国人医師導入の可能性
市立小樽病院小児科江原朗

要旨

400 の二次医療圏地区のうち、4 割強は夜間の小児科単科当直および二次輪番制が確立できていない。また、これらを担う若手小児科医はこの数年漸減傾向にある。したがって、国内の小児科医だけでは小児救急の維持ができない可能性がある。経済財政諮問会議では、「日本の免許を持たない外国人医師による治療の解禁」を規制緩和の重点項目に盛り込もうとする動きもある。現時点では、日本の医師免許および日本国籍を取得しないと国内での医業は原則的に行えない。しかし、マンパワーの不足した小児救急の現場では規制緩和により外国人小児科医師の導入することで、小児救急の充実がもたらされる可能性もゼロではない。


核家族化、少子化の進行により、育児能力が社会から消えつつある。このため、子供のわずかな変化でも自宅で介抱することができず、夜間の小児救急外来に殺到する自体が生じている。しかし、全国400 の二次医療圏地区で小児科医単科当直、二次輪番制が行えるところは57%に過ぎない[1] 。こうした体制を組めない地域でも、地域の中隔病院には夜間休日に小児が診療を求めて殺到する。日勤帯に勤務した小児科医が夜間休日も診療を行うため、病院勤務の小児科医は過労死寸前の状況である。このため、医学生は小児科医になることを避ける傾向が見られる。平成6 年から12 年の間に小児科医は13346 人から14156 人に増加したが、小児救急を担う40 歳未満の小児科医は逆に5002 人から4822 人へと減少している(表1)[2] 。「小児科産科若手医師の確保、育成に関する研究」をテーマとした研究班が厚生労働省に設置されたが、若手小児科医の確保に関して打開策を打ち出せずにいる。

しかし、経済財政諮問会議は「日本の免許を持たない外国人医師による治療の解禁」を規制緩和の重点項目に盛り込もうとしている[3] 。そこで、入管法、国籍法および医師法をもとに、小児救急の担い手の確保に外国人医師の導入が法的に可能かどうか検討した。

1)日本の医師法では、外国で医学校を卒業し、医師免許を外国で取得したものには、日本の医師免許を取得する道は開かれている。

医師法第11 条、12 条に医師国家試験および予備試験の受診資格が規定されている(表2[4] )。外国の医学校を卒業すれば、第11 条3 項を満たしていなくても、医師国家試験予備試験を受験し、1 年間の実地修練後に医師国家試験を受けることは可能である。

2) しかし、出入国管理および難民認定法( 入管法)では、医療ビザは日本の医学校を卒業し、卒後6 年以内に臨床研修を盂ける者と医師が確保できない地域で働く医師以外には交付されない[5] 。


入管法の医療ビザ交付の基準を表3に示す。したがって、外国人医師が医療ビザによって医業を行う場合には、日本の医学校を卒業していることが条件として存在する。つまり、旧植民地出身で戦前に日本の医師免許を取得した医師を僻地に招聘することを政府が認めていたにすぎないのである。

3)外国人医師が日本の医師免許を取得した場合、帰化すれば日本国内で医業を行うことは可能である。しかし、5 年間の在住があらかじめ必要である。

国籍法における帰化の条件を表4に示す。5 年間の在住期間があり、医師免許を取得して生計を営むことが可能であれば、帰化が認められる可能性は高い。

4)外国人医師を小児救急で働いてもらうためには、日本の医師免許および日本国籍の取得が現時点では必須である。

外国の医学校を卒業した外国人医師が日本の医師免許を取得することは可能ではある。しかし、医療に関する就労ビザが発行されるには日本の医学校を卒業していることが必須であるため、就労ビザではなく日本国籍を取得する必要が出てくる[6] 。現段階では、外国人医師を小児救急の現場に招聘することは難しい。しかし、小児救急の分野では、夜間の過重労働が指摘され、日本人医学生は小児科医になることをためらう傾向がある。したがって、夜間休日の小児科医師の確保には外国人小児科医師の応援を頼むことも将来的には必要となるかもしれない。経済財政諮問会議は「日本の医師免許を持たない外国人医師による治療の解禁」を規制緩和重点項目に盛り込もうとしていると報じられている[3] 。したがって、海外の医師免許が日本で有効となり、就労ビザが発行されるようになれば、小児科単科当直、二次輪番制を組めない二次医療圏地区において外国人医師を招聘し、夜間休日の小児救急が確立される可能性もありうる。

育児能力が社会から減少しつつある今日、夜間休日の小児の受診行動を制限することは不可能である。アジア諸国等から医師を招聘し、日本の救急医療体制を再構築する必要もあるのではないだろうか。今後、経済の国際分業化の中で、日本も多民族国家の方向へと進んでいくことは否定できない。未熟練労働者に比べて、外国人医師の招聘は社会の治安の悪化にはつながらないであろう。さらに、勤務する職場を日本人医師の就労しない地区や分野に限定すれば、外国人医師が日本人医師の職域を侵すこともないであろう。マンパワーを大量に消費する小児救急の現場においては、外国人医師の招聘を検討する必要も将来的にはありうるかもしれない。


参考文献

1)厚生労働省医政局指導課。小児救急医療体制の整備状況等一覧。平成14 年10 月。
2)厚生労働省大臣官房統計情報部。医師歯科医師薬剤師調査。昭和31 年より平成12 年。
3)日本経済新聞。平成15 年1 月30 日。
4)医師法。昭和23 年法律第201 号。
5)入管法の基準省令による法務省告示の一部改正在留資格「医療」について。平成14年法務省令第11号
6)国籍法。昭和25 年法律147 号。