二次医療圏の中心都市への小児科医師の集中度は約7割におよぶ
About 70% of pediatricians in Japan work in the central cities of secondary medical service areas

江原朗(えはらあきら)
北海道大学大学院医学研究科予防医学講座公衆衛生学分野
北海道札幌市北区北15条西7丁目

要旨
 二次医療圏ごとに,小児科医師の地域の中心都市への集中度を検討した.この結果,新臨床研修制度の導入をはさんで,平成14には69.1%,平成18年には70.7%の小児科医師が地域の中心都市で診療に従事していることが判明した.
 不足したマンパワーを有効活用するには,集約化が不可欠である.しかし,すでに小児科医師のほとんどは二次医療圏の中心都市で診療している.したがって,集約化は中心都市に存在する複数の病院小児科を1つにまとめることが中心となろう.

キーワード:集約化,小児科医師,二次医療圏,医師歯科医師薬剤師調査,医療計画

はじめに
 平成17年12月,医師不足の著しい産科・小児科に関して集約化を進めるよう,厚生労働省・文部科学省・総務省は連名で通達を出している1).集約化に関しては,二次医療圏(入院治療を主体とした一般の医療需要に対応するために設定する区域で保健所の管轄地域とほぼ一致する)において小児科医師の従業地がどのように分布しているかが重要となる.そこで,厚生労働省の発表した医師歯科医師薬剤師調査2)をもとに,小児科医師の二次医療圏における散らばりを検討することにした.

方法
 平成16年4月の新臨床研修制度の導入をはさんだ平成14年,18年の医師歯科医師薬剤師調査2)を用いた.小児科医師は主たる診療科が小児科である医師とし,二次医療圏において小児科医が最も多い市町村を中心都市とした.そして,二次医療圏ごとに中心都市への小児科医師の集中度を地域ごとに計算した.

結果
 表1に各二次医療圏における小児科医師数のパーセンタイルを示す.

表1 二次医療圏の小児科医師数の分布

二次医療圏の小児科(主たる)医師数

平成14年

平成18年

最小値

0

0

10%タイル

4

4

20%タイル

6

6

30%タイル

9

9

中央値(メディアン)

17

18

70%タイル

41

44

80%タイル

68

69

90%タイル

101

108

最大値

330

337

二次医療圏数

363

358

平成14年から18年にかけて二次医療圏数の変化のあった都道府県:
宮城(5から10),千葉(8から9),新潟(13から7),山梨(8から4),静岡(10から8),奈良(3から5),山口(9から8)

平成14,18年における10%タイルはともに4人,中央値は17および18人,90%タイルは101および108人であった.新臨床研修制度が平成16年4月に導入されたが,各二次医療圏の小児科医師数に大きな変化は見られなかった.
 図1および表2に各二次医療圏の小児科医師の中心都市への集中度を示す.

図1 平成14年と18年の中心都市への集中度

(白は平成14年,黒は平成18年を表す.また,横軸に中心都市への集中度,縦軸に相対頻度(該当する二次医療圏数/全二次医療圏数)を示す)

表2 二次医療圏の中心都市への小児科(主たる)医師の集中度

中心都市への

集中度

相対頻度

該当医療圏数/全医療圏数)

 

平成14年

平成18年

 

10%未満

0.3%

0.3%

0.0%

10%〜20%

0.0%

0.0%

0.0%

20%〜30%

2.8%

2.8%

0.0%

30%〜40%

10.2%

7.3%

-2.9%

40%〜50%

12.9%

8.7%

-4.3%

50%〜60%

14.0%

14.2%

0.2%

60%〜70%

14.3%

15.1%

0.8%

70%〜80%

12.4%

12.3%

-0.1%

80%〜90%

11.6%

12.8%

1.3%

90%〜100%

21.5%

26.5%

5.0%

集中度の全国平均

69.1%

70.7%

1.6%

全医療圏数

363

358

 

 

平成14年には69.1%,平成18年には70.7%の全国の小児科医師が二次医療圏の中心都市で診療に従事していた.集中度ごとに二次医療圏を分けてみると,90から100%の集中度を示す地域が最も多かった(全国の二次医療圏数が,平成14年363,平成18年358と異なるために,相対頻度(該当する医療圏数/全医療圏数)で表示している).    
 また,集中度による医療圏数の増減を検討した.この結果,平成14年から18年にかけて,中心都市への集中度が30から50%の医療圏が減少し,80から100%の地域が増加する傾向があると判明した.
 図2に平成18年の二次医療圏の小児科医師数と中心都市への集中度との相関を示す.

図2 二次医療圏の小児科(主たる)医師数と中心都市への集中度

(平成18年)

医師数と集中度との相関は弱く,相関係数は0.002,P=0.9657で両者の間に有意な相関関係を認めなかった.

考察
 厚生労働省,文部科学省,総務省の連名で集約化をすすめるように通達が出され1),日本小児科学会も重点化・集約化に向けて地域小児科センターの設置を進めている3).今回の研究では,中心都市への集中度が90-100%を占める二次医療圏が最も多かったことが判明した.全国平均でも小児科医師の約7割が二次医療圏の中心都市で勤務をしていた.
 したがって,すでに中心都市への小児科医師の集約化は,ほぼ完了しているともいえる.今後は,中心都市内の集約化,つまり,中心都市の複数の病院小児科を1つにすることが主体になるだろう.このため,集約化に関して多くの医師は住居を変える必要がない.さらに,医師の勤続年数は,40から44歳で4.9年,45から49歳で8.2年,50から54歳で8.2年,55から59歳で10.3年にすぎない4).退職金は勤続20年を越えるころから急激に上昇するので5),勤続年数が少ない医師が勤務先を変更しても,生涯に受け取る賃金に大きな影響を与えない.したがって,集約化に伴う障害は小さいと考えて問題ないだろう.
 もちろん,表1のとおり二次医療圏の3割は二次医療圏の小児科医師数が10人未満である.勤務医と開業医の比率は約8対6である2)ので,こうした地域では小児科医師は5人以下しかいないことになる.こうした地域では,小児科医師に過重な負担を与えないために,他の診療科の医師も休日・夜間の小児診療に参加する必要があろう.そして,入院が必要な場合には複数の二次医療圏の中核となる小児救急拠点病院などに搬送することも考慮すべきである.
 新臨床研修制度の導入を契機に地方の医療が崩壊しているとの報道が見られるが,導入の前後で二次医療圏における小児科医師数の10%タイル,メジアン,90%タイルの値に変化がほとんどないことから,二次医療圏の圏域を越えて地方から都市部へ移った小児科医師数が多くはないといえる6).むしろ,同じ医療圏内で中心都市への医師の集中がわずかながらも進行している.このことが,中心都市以外の医療機能の低下をもたらした可能性もある.しかし,集約化されなければ,その医療圏の全員の医師が燃え尽きてしまう.もちろん,平成14年4月1日には3218あった市町村が平成18年4月1日には1820まで減少している7).したがって,合併によって見かけ上中心都市への集中度が上昇した可能性は否定できない.しかし,医師の拠点病院への集約化に対して新臨床制度の導入が逆風となっているとはいえない.
 今後,二次医療圏単位の集約化は,中心都市における複数の病院小児科を1つにまとめることが主体となると思われる.想像するよりも,集約化はスムーズに実施されるかもしれない.

参考文献
1)厚生労働省医政局長,厚生労働省雇用均等・児童家庭局長,総務省自治財政局長,文部科学省高等教育局長.小児科・産科における医療資源の重点化・集約化について.医政発第1222007号,雇児発大1222007号,総財経第422号,17文化高第642号.平成17年12月22日.
http://www.wam.go.jp/wamappl/bb13GS40.nsf/0/2987b5147419fa274925711d001e2848/$FILE/2-2-11_1.pdf
2)厚生労働省統計情報部.医師歯科医師薬剤師調査,平成14,16,18年.
3)日本小児科学会理事会.わが国の小児医療提供体制の構想,2007年8月28日.http://jpsmodel.umin.jp/DOC/2007ShoniIryoTaiseinoMokuhyoutoSagyokeikakuBassui.doc
4)厚生労働省大臣官房統計情報部.平成18年賃金構造基本統計調査,第5表  職種・性,年齢階級別きまって支給する現金給与額,所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(産業計).
http://wwwdbtk.mhlw.go.jp/toukei/kouhyo/data-rou4/data18/30501.xls
5)総務省人事・恩給局.平成13年民間企業退職金実態調査の結果.
http://www.soumu.go.jp/jinji/minkan_13.html
6)江原朗. 新医師臨床研修制度導入年度の小児科医の状況―導入前と比較して偏在は進行していない.日本医師会雑誌 136:1804-1808,2007.
7)総務省合併相談コーナー.市町村数の推移グラフ.
http://www.soumu.go.jp/gapei/xls/060328_01.xls