関東地方における小児人口に対する小児科医師数―二次医療圏ごとの解析―

Pediatricians and child population in the metropolitan area of Japan

 

江原朗(えはらあきら)

Akira.ehara@nifty.com

 

Key word:小児救急、二次医療圏、医療計画、医師不足、過重労働


 

要旨

 全国で小児救急の危機が報道されている。そこで、小児人口の最も多い関東地方各都県の二次医療圏(都道府県が策定する入院診療がほぼ完結する圏域で保健所の管轄地域とほぼ一致する)について小児人口に対する小児科医師の数を検討した。

 東京近郊では、県庁所在地や医育機関を有する地域以外で小児人口に対する小児科医師の数が全国平均を下回るところが多く見られた。医療体制の崩壊の危険は関東地方でも例外ではない。

 

 全国で小児救急医療の危機が報じられている。この問題は、地方・僻地に限らず、首都東京を有する関東地方でも例外ではない。読売新聞記事情報データベースを用いて、「医師不足 AND 小児科」の条件で検索すると(1986年9月〜2007年8月21日の記事)、全国284件の記事のうち、60件が関東地方の記事である1)。小児人口(15歳未満)の30%が関東地方に居住しており、この地域で医療が崩壊した場合、影響は甚大である2)。そこで、関東地方における小児人口1万人あたりの小児科医師数を二次医療圏ごとに求め、比較検討することにした。

 

対象および方法

 各都県の小児科医師(主たる診療科が小児科である医師)の数は、平成16年医師歯科医師薬剤師調査3)によった。また、15歳未満の小児人口は平成17年国勢調査2)によった。各二次医療圏の圏域は、平成16年の医師歯科医師薬剤師調査、各市町村の圏域は平成17年国勢調査によった。平成16年から17年にかけて合併が行われた市町村の医師数については、各市町村の値を積み上げて計算した。なお、茨城県小美玉市、栃木県下野市は、平成17年10月1日以降に合併し、現在、圏域が2つの二次医療圏にまたがっている。小美玉市は、以後水戸医療圏に分類されていたので水戸医療圏に、栃木県下野市は、小児科医師数が下野市の旧南河内町が属していた県東・央医療圏に便宜上分類した。地図上での表示は、白地図Kenmap 8.3を用いて行った。

 

結果

 全国平均では、小児人口(15歳未満)1万人あたり小児科医師数は8.4人である。一方、各都県の平均は、茨城5.8、栃木8.3、群馬9.2、埼玉6.1、千葉6.4、東京13.0、神奈川7.6であり、東京と群馬以外は全国平均を下回っていた。(表1)。

 

表1 15歳未満の小児人口1万人あたりの小児科医師数が全国平均を上回る二次医療圏

都県

小児人口1万人あたりの小児科医師数

(県全体、人/万人)

各都県の

二次医療圏数

全国平均(8.4人)を

上回る二次医療圏数

全国

8.4

-

-

茨城

5.8

9

1

栃木

8.3

5

2

群馬

9.2

9

4

埼玉

6.1

9

0

千葉

6.4

9

1

東京

13.0

13

9

神奈川

7.6

11

3

 

 一方、小児人口1万人あたりの小児科医師数が全国平均を超える二次医療圏の数を県別に見てみると、茨城1ヶ所(水戸医療圏)、栃木2ヶ所(県東・央医療圏、県南医療圏)、群馬4ヶ所(前橋医療圏、高崎・安中医療圏、渋川医療圏、桐生医療圏)、埼玉0ヶ所、千葉1ヶ所(千葉医療圏)、東京9ヶ所(区中央部、区南部、区西南部、区西部、区西北部、区東北部、北多摩西部、北多摩南部、北多摩北部)、神奈川3ヶ所(横浜南部、川崎南部、湘南西部)であり、医療圏の一部に限られていた(表1、図)。こうした地域は、主に県庁所在地や医育機関の所在地である。

 

図 関東地方の二次医療圏のうち、15歳未満の小児人口に対する小児科医師の数が全国平均(8.4人小児科医師/1万小児人口)を上回る地域

(黒塗りの部分)

 

 なお、東京特別区内でも、区東部(墨田区、江東区、江戸川区)では、小児人口1万人あたり6.3人と全国平均を下回っていた。また、政令指定都市でも、神奈川県では3ヶ所(横浜北部医療圏5.9人、横浜西部医療圏7.4人、川崎北部医療圏7.1人)、埼玉県でも1ヶ所(中央医療圏:さいたま市5.6人)が、小児人口あたりの小児科医師数の全国平均を下回っていた。

 また、各都県の二次医療圏における小児人口あたりの小児科医師数の最大値と最小値を表2に示す。茨城、埼玉、千葉では、全国平均の半分以下の地域が存在した。一方、東京では、全国平均の約5倍の地域も存在している(区中央部医療圏:千代田区、中央区、港区、文京区、台東区)。

 

表2 二次医療圏の15歳未満の小児人口1万人あたりの小児科医師数の最大値と最小値

都県

県全体(人/万人)

最高(人/万人)

最低(人/万人)

茨城

5.8

9.2

2.5

栃木

8.3

10.7

4.6

群馬

9.2

15.9

4.4

埼玉

6.1

8.4

1.0

千葉

6.4

10.3

3.1

東京

13.0

41.4

4.3

神奈川

7.6

11.7

5.1

 

 

考察

 東京周辺の埼玉、千葉、神奈川、茨城では、小児人口に対する小児科医師の数が少ない傾向が見られた。小児人口当たりの小児科医師数が全国平均を上回るところは、主に県庁所在地や医育機関のあるところであった。一方、東京特別区や近郊の政令指定都市においても、小児人口当たりの小児科医師数が全国平均を下回る地域が存在している。地方で小児救急の危機が叫ばれているが、首都東京を取り囲む近郊地域においても、小児医療の環境が恵まれているとはいえないのである。

小児科医師の不足問題を解決するには、絶対数を増やすか、他科の医師が小児の診療に参加する以外にない。今後、医学部の定員が増員されて医師が増える希望はある。しかし、その効果が出てくるのは10年後である。少ない小児科医師の疲弊を防ぐには、スクリーニングで急を要さない患者の時間外受診診を防ぐこと、他科医師による小児診療を推進することを検討する必要があろう。

 確かに、医師は都市部に偏在している。しかし、小児人口の都市部への偏在も著しい1)。地方における医師不足も深刻であるが、大都市周辺の医師不足も同様に深刻である。

 
 

参考文献

1)江原朗. 県庁所在地への小児科医師の集中は小児人口の集中と強い相関を示す 日本医事新報 4353:77-79,2007.

2)総務省統計局.平成17年国勢調査.

3)厚生労働省統計情報局.医師歯科医師薬剤師調査,平成16.