大半の公立病院が赤字経営:医師の給与は病院経営を圧迫しているのか

コアラメディカルリサーチ
江原朗


 多くの公立病院が赤字経営に悩まされている[1]。医療の分野は、労働集約的な作業が多く、少なくても支出の半分を人件費が占めている[1]。一方、医師の給与は他職種と比較して高いために[2]、医師の給与をさげろとの圧力を受けやすい。しかし、病院経営において医師の給与が経営を圧迫しているのだろうか。平成17年病院運営実態分析調査(全国公私病院連盟)[3]をもとにベッド100床あたりの人件費を医師と看護職、事務職で比較することにした。

1)公立病院の医師の給与は私的病院よりも低いが、看護職、事務職の給与は公立病院の方が高い(表1)

表1 各職種の平均給与(税込み、月額)

給与(千円) 自治体 その他公的 私的
総数 452 404 367
医師 987 934 1007
看護師 381 335 325
准看護師 409 365 297
看護業務補助者 234 217 197
薬剤師 437 395 339
その他の医療技術員 409 363 307
事務職員 402 347 296


 医師の平均給与(月額)は、公立病院で98万7千円、公的病院で93万4千円、私的病院で100万7千円である。公立病院医師の給与(税込み)は私的病院よりも低かった。
 一方、公立病院の看護師の平均給与(月額)は38万1千円、公的病院で33万5千円、私的病院で32万5千円であった。さらに、公立病院准看護師の平均給与(月額)は40万9千円、公的病院で36万5千円、私的病院で29万7千円であり、看護職の給与は公立病院で高い傾向が見られた。
 また、事務職においても、平均給与(月額)は公立病院40万2千円に対して公的病院で34万7千円、私的病院で29万6千円と公私で大きな差が見られた。

2)100床あたりの月あたりの人件費は、医師については病院の公私で差はあまりないが、看護職や事務職では大きな差が見られた

表2 開設者ごとの100床あたりの職種別職員数

100床あたり人員数 総計 自治体 その他公的 私的
総職員 122.3 117.0 128.3 128.2
医師 14.6 14.0 15.3 15.3
看護師 58.7 56.2 61.6 61.5
准看護師 6.5 6.2 6.8 6.8
看護業務補助者 7.6 7.3 8.0 8.0
薬剤師 3.2 3.1 3.4 3.4
その他の医療技術員 0.3 0.3 0.3 0.3
事務職員 10.4 9.9 10.9 10.9
医師_事務の合計 101.3 96.9 106.3 106.2
100床あたりの総職員数は総計122.3人、自治体117人、その他公的128.3人、私的128.2人であり、各職種の人員は、総計に対する各開設者別の総職員数の比率で按分して推計した

 職種ごとの100床あたりの人員数は表2のとおりである。なお、開設者ごとの職種ごとの職員数は、開設者ごとの総職員数の比率により推計した(表2)。
 100床あたりの人員数に給与をかけ、100床あたりの人件費(月額)の平均を算出した(表3)。公立病院では、医師1441万円、看護職2680万円、事務職418万円の人件費が月あたりかかる。一方、公的病院の100床あたりの月あたりの人件費は、医師1364万円、看護職2368万円、事務職361万円であった。
 私的病院では、100床あたりの月あたりの人件費は、医師1470万円、看護職2251万円、事務職308万円であった。

3)公立病院と私的病院との人件費の違いは、看護職員と事務職員の人件費によるところが大きい(表3)


表3 開設者別の100床あたりの職種別人件費(平均月額)

万円/月 自治体 その他公的 私的 自治体-私的 自治体−公的
総職員 5528 4941 4488 1040 587
医師 1441 1364 1470 -29 77
看護師 2236 1966 1908 329 270
准看護師 266 237 193 73 29
看護業務補助者 178 165 150 28 13
薬剤師 140 126 108 31 13
その他の医療技術員 12 11 9 3 1
事務職員 418 361 308 110 57


 100床・月あたりの医師の人件費(平均)は、公立1441万円、公的1364万円、私的1470万円と大きな違いはない。しかし、看護職(看護師、准看護師、看護業務補助者)の100床・月あたりの人件費(平均)は、公立と私的病院の差額が429万円ある。また、事務職員の人件費(平均)については、公立418万円、私的308万円と月あたり110万円異なる。自治体病院の少なくても半数以上が赤字と言われているが[1]、医師の人件費が他の開設者と比較して著しく高いわけではない。むしろ、コ・メディカルと事務職員の人件費が私的病院と比べて格段に高い。
 さらに、公立病院754施設の経常損益の合計は932億円で、1施設あたり平均1.23億円である[1]
。つまり、月あたり平均約1000万円の赤字である。

表4 開設者別の病床規模

都道府県 市 町 村
総数 271 756
20〜29床 3 12
30〜39 3 28
40〜49 7 37
50〜99 44 179
100〜149 38 103
150〜199 35 83
200〜299 33 96
300〜399 43 96
400〜499 22 51
500〜599 17 37
600〜699 9 18
700〜799 7 6
800〜899 6 5
900床以上 4 5
平成16(2004)年10月1日

 都道府県立および市町村立病院の病床規模のメジアンは、それぞれ200から299、150から199である(表4)[4]。公立病院では、私的病院よりも100床・月あたり約1000万円人件費が高い。したがって、開設者が変われば、公立病院の経常損益をゼロにすることも可能かもしれない。
 財政改革の中で、地方自治体は民間でも運用可能な分野を切り離す傾向が出てきている。地域医療の確保は重要な問題であるが、病院経営は民間においても不可能背はないため、公立病院の運営に対する社会の目はは今後ますます厳しいものとなるだろう。



参考文献
1)総務省.平成17年版(平成15年度決算)地方財政白書
http://www.soumu.go.jp/menu_05/hakusyo/chihou/17data/17cz.html
2)厚生労働省統計情報部賃金福祉統計課.平成16年賃金構造基本統計調査
http://wwwdbtk.mhlw.go.jp/toukei/kouhyo/data-rou4/data16/30401.xls
3)全国公私病院連盟.平成17年病院運営実態分析調査.
http://www005.upp.so-net.ne.jp/byo-ren/H17-gaiyou.doc
および
http://www005.upp.so-net.ne.jp/byo-ren/H17-toukei1.xls
および
http://www005.upp.so-net.ne.jp/byo-ren/H17-toukei2.xls
4)厚生労働省統計情報部.平成16年医療施設調査.
http://wwwdbtk.mhlw.go.jp/toukei/data/160/2004/toukeihyou/0005007/t0109436/A0010_001.html