小児の外来受診は小児科に特化してきている:小児人口減少と小児科外来受診数微増のパラドックス
市立小樽病院小児科
江原朗
はじめに
私たちは、平成4年から平成11年の小児科外来受診数の推移を、社会医療診療行為調査報告をもとに解析し、報告した[1]。しかし、この研究では小児科診療所の受診数のみを対象としており、小児の全医療施設における受診行動を議論していたわけではなかった。そこで今回、厚生労働省の「患者調査」[2]から病院および診療所における小児の受診行動を解析し、外来受診行動の推移を探ることにした。
患者調査[2]は3年ごとに10月期における推定患者数を記載している。そこで、昭和62年から平成11年までの0歳から14歳までの外来患者数について、年次変化を追うことにした。
2)小児(0〜14歳)の総外来受診数は減少傾向にある
昭和62年10月の総外来受診数(総診療科、病院および診療所の合計)は0〜14歳の年齢層で99.7万人であったが、平成11年10月には73.3万人へと減少している(図1)。
図1:小児(0〜14歳)の外来総受診数
各診療科の外来受診数を検討する。0〜14歳の昭和62年10月における外来受診数は、総診療科82.6万人(各診療科別に解析した場合、全受診数が上記のものより少なく報告されている)、小児科25.3万人であった(図2)。一方、平成11年10月の外来受診数は、総診療科62.9万人、小児科29.6万人であった(図2)。14歳以下の小児における外来受診傾向を解析すると、総診療科の受診数は2割以上減少しているものの、小児科受診数は横ばいないし微増傾向を示していた。
昭和60年から平成12年までの15年間で0〜14歳の人口が3割減少しているので(図3)[3]、小児の総受診数が2割以上減少していることは、人口の減少によるものと考えてよいかもしれない。しかし、小児科外来受診数は微増傾向にあり(図2)、0〜14歳の年齢層においては小児科に特化した受診傾向が見られたといえる。
図2: 小児(0〜14歳)の小児科と総診療科の外来受診数の推移
図3:国勢調査にみる小児(0〜14歳)の人口推移
3)小児科に特化した小児の受診傾向は加速している
0〜14歳の外来受診数について、小児科の総計に対する比を検討すると、昭和62年には0.31であったものが、平成11年には0.47となり、小児科の受診率は約5割上昇している(図4)。小児内科領域の疾患を持った小児は、近所の内科や外科を受診せずに小児科に来る傾向が強まったものと思われる。
図4:小児(0〜14歳)の外来受診数にしめる小児科外来受診数の割合の推移
4)小児救急の問題点のひとつに小児科に特化した受診傾向があるのではないか
小児においては、疾患に罹患した場合に、内科や外科を受診せず、小児科を受診する傾向が顕著になっている。しかし、小児科医師の数は平成12年現在14156人であり、全医療機関に従事する医師243201人の5.8%に過ぎない[4]。平成11年10月には0〜14歳の外来受診数は全体の9.6%を占め[2]、時間外や休日の受診の多いこれらの患者を小児科医師だけで診療することには無理があろう。
現在、夜間休日の小児救急の確保が課題となっているが、この背後には保護者に「子供はいつでも小児科医に診療してもらいたい」との意識があるものと思われる。実際に、北海道における急患センターの小児受診数の年次推移を解析すると、小児科医以外の医師が担当することの多い急患センターの受診数は増えていない。むしろ、地域の中核病院の時間外診察室に小児の患者が殺到していることが示唆される[5]。
0〜14歳人口の減少と、小児科の採算性の悪さから、病院小児科が閉鎖、廃止の憂き目に遭っている。こうした中で、「小児の疾患は小児科医が診療すべきだ」との社会傾向が強まっている。現時点では、小児救急は一部の小児科医(主に病院小児科医)が労働環境を無視した中でかろうじて維持されているにすぎない。法的に臨床研修が義務化され、プライマリケアの重要性が叫ばれる今日、全医師が小児のファーストエイドを身につけ、夜間休日においては小児の応急処置を全科の医師が行う体制を構築すべきであろう。
このまま、夜間休日の小児の診療を小児科医だけに負わせていれば、労働環境の悪さから小児科志望の若手医師は減少し、この国の小児医療は崩壊してしまうであろう。
ご意見をいただいた、日本福祉大学二木立先生に感謝いたします。
参考文献
1) 江原朗他:小児科の外来受診数は増加している、日本医事新報、4093: 62-63、 2002。
2) 厚生労働省統計情報部:患者調査(昭和62年、平成2年、平成5年、平成8年、平成11年)。
3) 総務省統計局:国勢調査(昭和60年、平成2年、平成7年、平成12年)。
4) 厚生労働省統計情報部:医師、歯科医師、薬剤師調査、平成12年。
5) 江原朗他:北海道における休日夜間急患センターの利用状況と小児の受診回数の推移について、投稿中。