救急外来における受診数・入院率の季節・時間帯および症状別による解析
平成8年の当院救急外来受診者について,受診した季節,時間帯および症状別に解析を行った。受診数は冬期が多かったが,入諒察は3月と10月が高率であった。時間帯では午後5時から午後8時と午前O時から1時にかけて受診数のピークがみられた。症状別では,発熱,咳嗽および嘔吐を主訴として来院するケースが多かったが,入院となるのは、けいれん,喘鳴および咳嗽が高率であった。救急外来受診者の入院率は24%と,日中外来の入院察2.7%の約10倍と高く、核家族化および共働き世帯の増加した今日,救急外来はますます重要となるものと思われる。
はじめに
小児科救急外来の実態については、これまで、いくつかの医療施設により検討が行われており[1,2,4-7]、入院率は1.5%から1 1 .6%と報告されている。しかし,季節,時間帯および症状別に受診数と受診者あたりの入院率を比較検討した報告は少ないようである。そこで,我々は季節,時間帯および症状別に受診数と入院率を比較した。以下は,平成8年の当院救急外来を受診した患児のべ1,048人についての分析結果である。
対象
平成8年に函館中央病院急患家を受診した小児科受診患者1048名を対象とした。受診の日時および時間帯は当院事務当直日誌を参照した。また、受診の動機となっか主訴を外来カルテより記載した。
診療体制
当院は函館市における救急指定病院であり,月あたり5日ないし6日,函館市および近郊約50キロメートル圈から救急患者を受け入れている。平日の場合,夜間急病センターが診療している午後8時から午前0時までは二次救急,それ以外の午後5時から午後8時,午前O侍から午前9侍までは一次および1次救急を担っている。また,土曜日は午後1時から翌朝9時まで,日曜日は午前9時から翌使9時まで救急外来を行っているが,急病センターが診療を行っている午後8時から午前O時までと当番の開業医か診療を行っている日曜日の午前9時から午後5時までは二次救急を担い,それ以外の時間帯は一次と二次の救急を担っている。救急指定日以外の日は当院外来でフオロー中の患者に限定して急患室対応を行っている。
診療医
指定日の場合は院内待機,非指定日は登院により小児科医が診療を行っている,受診状況は救急指定日と指定日以外に分けて記載を行った。
結果
1)季節による受診数と入院率の比較
受診の月別の推移を図1に示す。インフルエンザか流行した12月,1月および2月に1つのピーク,また,5月を中心にもうひとつの小さなピークかみられた、この傾向は,救急指定日においても,それ以外の日においても同様であった。入院となる割合は指定日および非指定日に関係なく,3月から5月と9月から11月が高率であった(図2)。
図1および2
2)時間帯別による受診数と入院率の比較
救急指定日においては,夜間の受診数は午後7時台,午後11時から午前1時にかけての二つの時間帯にピークを認めた(図3)。非指定日においては,午後6時から午後8時にピ−クを認めるだけで午前0待付近における受診数の増加は認めなかった。午前9時から午後5時までの日勤帯における受診数は病院が休診となる日に限ったものであるか,午前と午後との間に大きな差異は認めなかった。また,入院率については各時間帯の絶対数が少ないため総計で解析したが、夜間における受診者の入院率は午後5時,午後9時および午前6時台が高率であった(図4)。
図3および4
3)年齢別による受診数と入院比率の比較
受診数はOから2歳にピークを認め、年齢の上昇とともに減少する傾向がみられた(図5)。しかし、受診者のばらつきがあるものの、10歳未満が高かった(図6)。
図5および6
4)主訴別における受診数と入院率の比較
832名について受診の動機となった主要な症状を同定することができた。主訴別の受診数の比較を行ったところ,発熱、咳嗽,嘔吐が上位を占めた(図7)。しかし、発熱,咳嗽および嘔吐か主訴とした受診者においては入院となる比率が低く,けいれんや喘鳴を主訴とした場合,入院となる比率が高かった(図8)。なお,救急外米受診者1,048名中253名が入院となっており,総体では受診者あたりの入院比率は24%であった(表)。
図7および8
表 表救急外来および平常外来における受診数と入院数
通常外来 | 救急外来 | |
受診数 | 30,455 | 1,048 |
入院数 | 851 | 253 |
入院率 | 2.70% | 24% |
考察
救急外来においては,小児科患者の占める割合は文献上,21から35.9%程度と高率である[1,2,5,7]。救急外来を受診する小児科受診者のうち,入院となる比率は1.5から11.6%といわれている[1,2,4-7]。当院の場合は,救急外来における入院比率が24%と高率であり,日中の外来における入院率2.7%の約10倍に相当する。これは本院が未熟児センターおよび神経外来を有し、未熟児で出生した児が退院後呼吸困難を呈して受診するケースやけいれん重積状態で来訪するケースが多いためと思われる。また,北海道という地域性から,住居と病院との距離が離れているということも一因であると思われる。市中病院のなかには急患家対応を全科当直医が行う例もあるが,本院では夜間および休日の小児の診療は小児科医が行っており,日中と夜間で入院の適応か著しく異なろとは考えにくい。受診の動機としては,発熱が首位であったが,これはこれまでの報告{1,4,5]と一致する。小児において感染症の占める割合か多いためであろう。救急外来において緊急を要する症状としては喘鳴などの呼吸困難や意識障害、極度の脱水があげられるが,こうした症状で受診した患者では入院比率が高くなる。
受診の季節的推移では,インフルエンザの流行がみられた12月、1月および2月に大きなピークと5月に小さなピークがみられた。感染症の流行時期に受診者が増えるのは当然であるが,5月のピークは連休が続いて休診の日が増えたこと,また,外出が増えて感染の機会が増えることが考えられる。入院となる比率は3月から5月と9月から11月にピークが見られたが,これは喘息の好発時期と一致しているためと思われる。
受診の時間帯と入院比率を検討してみると,救急指定日こおいては、午後6時から8時,午後11時から午前1時に受診数の増加を認めた。これは,両親の帰宅時に子供の変化に気づいて受診するケースと夜間に症状が悪化し、就寝前に受診するケースが多いことによるものと考えられる。入院率は午後5時,午後9時および午前6時台こピークがみられた。早朝の入院率の上昇は症状の悪化によって朝の外来開始時間を待ち切れない重症な患者が含まれているためと思われる。
救急外来においては,入院となる比率は日中の外来の約10倍と高率であり,核家族化および共働き世帯の多い今日,救急外米の重要性はますます増してくるものと思われる。
文献
1)近藤富雄他:小児科臨床44:1443-1147,1991.
2)渡部誠一他:茨城県救急医学会雑誌19: 1521,1996
3)馬場与志子作:東京郡司牛.局学会誌94:152-155,1995.
4)坂本裕華他:東京都衛生局学会誌93:248-249,1991
5)五十嵐千春池:市立釧路総合病院医学雑誌6:39-43,1994
6)富永正志他:京都市立病院紀要12:22-26.1992
7)林英蔚伸:松江赤十字病院医学雑誌4:83-86,1992.