時間外・休日・深夜の受診傾向
市立小樽病院小児科 
江原朗、石津桂、柴田睦郎

会社勤めのサラリーマン世帯が多い今日、日中に医療機関を受診することは難しいものと思われる。このため、夜間および休日に救急外来を受診する傾向がみられるのではないだろうか。このことを検証すべく、休日および深夜の受診件数を診療報酬給付に占める時間外、休日および深夜の加算件数から推計し、救急医療の実態を検討することにした。

方法
病院および診療所の時間外、深夜および休日の受診回数の推計には、各年度6月のレセプト(診療報酬明細書)より項目別診療行為を記載した社会医療診療行為調査報告[1]を用いた。同調査では、対象が平成3年から10年までは国民健康保険と政府管掌健康保険加入者であり、平成11年は国民健康保険と政府管掌および組合管掌健康保険加入者となっている。そこで、保険診療全体の受診数を推計するためには、国民医療費[2]における各医療保険の給付金額のを比率を用いた。
すなはち(表)、
全医療保険給付額/(国保+政管健保)の給付額の合計
あるいは、
全医療保険給付額/(国保+政管健保+組合健保)の給付額の合計
を時間外、休日および深夜の受診数に掛け合わせた。

表 社会医療診療行為調査報告の対象となる保険と全医療保険の給付金額の比

平成3年 平成4年 平成5年 平成6年 平成7年 平成8年 平成9年 平成10年 平成11年
全医療保険/(国保+政管) 1.49 1.49 1.49 1.48 1.44 1.44 1.43 1.45
全医療保険/(国保+組合+政管) 1.08


結果
各年度6月の時間外、休日および深夜における、全医療保険加入者の受診数の推計値を図1から図3に示す。この約10年で、時間外(主に20時から22時、6時から8時)、休日の受診回数は横ばいか、むしろ漸減状態にあるといえる。しかし、深夜(22時から6時)の受診回数に関しては増加しており、平成10年の受診数は平成5年の1.54倍である。しかし、深夜帯の受診を診療所と病院に分けてみると、診療所での受診件数は横ばいか微増であり、深夜帯の診療は主に病院で行われている。

図1:時間外(主に、20時から22時、6時から8時)の受診回数




図2:休日の受診回数

図3:深夜(22時から6時)の受診回数
考察
6月期の比較ではあるが、時間外、休日総加算件数は減少し、深夜帯の受診件数は増加している。夜間帯の診療が少数であるうちは、当直医による診療で十分であったと思われるが、深夜帯の受診が増えていくのならば、深夜帯の診療体制の確立が急務である。これまでのように、医療スタッフの残業に依存するだけでは、成り立たない。準夜帯の診療は就寝前でもあり、当直医にとって負担の度合いが少ないが、睡眠を取れずに深夜帯の診療が続けば疲弊してしまう。睡眠不足、疲労は医療行為への集中度を欠くことにつながりかねない。また、当直ないし在宅待機当番医師は翌日非番とならないケースも多い。したがって、連続36時間(日勤8時間+当直16時間+翌日の日勤8時間)以上勤務する可能性も高い。急患を診療すること自体は重要ではある。しかし、医師のおいても2交代や3交代の勤務体制を敷くか、深夜帯の勤務翌日には非番となるよう勤務体制を整備しなければ、深夜の診療の増加に対処できない。
マンパワーを増やす点では財源の問題もあろう。場合によっては、受益者の負担を増額する必要が生じるかも知れない。そうでなければ、増加する深夜の受診に対処できないのではないだろうか。

結論
時間外(主に、20時から22時、6時から8時)、休日および深夜(22時から6時)の受診回数は総計では横ばいか漸減傾向にある。しかし、深夜帯の受診回数はこの10年間で増加傾向にある。深夜帯の受診回数の増加は、主に病院への受診の増加である。受診者は夜間においても応急処置ではなく、日中と同様の診療を期待しているものと思われる。深夜帯の受診が増えることで、当直医は過剰な勤務を余儀なくされており、夜間の診療体制の整備が必須である。

参考文献
1) 厚生労働省大臣官房統計情報部。社会医療診療行為調査報告、平成3年より11年。
2) 厚生労働省大臣官房統計情報部。平成11年国民医療費