病院1施設あたりの小児科医数はどう変化してきたのか:都道府県別に病院あたりの小児科医数を解析する
コアラメディカルリサーチ
江原朗(えはらあきら)


要約
 医療施設調査、医師歯科医師薬剤師調査をもとに、病院1施設あたりの小児科医数の年次変化を都道府県別に追跡した。この結果、病院小児科の閉鎖(集約化)が顕著であるのは関東地方と九州沖縄地方であった。一方、病院小児科医の数は漸増傾向にあるため、集約化が進んだこれらの地方では、施設あたりの小児科医数の増加が著しかった。さらに、集約化の進んだ地方では、病院小児科医の絶対数も他の地域に比べて増加率が高かった。
 小児科医の疲弊と研修の充実には、集約化による勤務環境の整備は必須である。集約化ができなければ、地域の小児医療は崩壊する以外にない。


はじめに
小児科医は漸増しているが、地域中核病院は勤務医の不足から小児科を縮小・閉鎖をする動きが出ている。事実、平成10年と平成16年を比較しても13%の病院小児科が閉鎖されている[1]。しかし、病院勤務の小児科医の数が一定であるなら、病院数が減少すれば施設あたりの小児科医は相対的に増加し、勤務環境は改善するはずである。そこで、この点を明らかにするために、医療施設調査[1]、医師歯科医師薬剤師調査[2](ともに厚生労働省統計情報部)をもとに都道府県別の病院1施設あたりの小児科医数の年次的な変化を追うことにした。
ここ数年で集約化の進んだ関東、九州沖縄では、施設あたりの小児科医数の増加率が高かったが、それ以外の地域では増加率は全国平均を下回り、施設あたりの医師数も低いものであった。



1)病院小児科は平成10年(1998年)から比べて13%減少している
(表1)

表1 病院小児科数の年次推移(県別)

病院小児科 H10 H12 H14 H16 H16/H10
全国 3720 3474 3359 3231 87%
北海道 219 206 204 200 91%
青 森 61 50 52 52 85%
岩 手 49 47 49 46 94%
宮 城 62 57 55 55 89%
秋 田 39 36 34 32 82%
山 形 30 31 30 31 103%
福 島 80 72 67 62 78%
東北 321 293 287 278 87%
茨 城 104 100 96 91 88%
栃 木 54 51 46 45 83%
群 馬 56 54 55 52 93%
埼 玉 176 164 146 136 77%
千 葉 144 136 130 122 85%
東 京 270 242 230 216 80%
神 奈 川 160 147 139 132 83%
関東 964 894 842 794 82%
新 潟 65 61 61 60 92%
富 山 49 45 43 43 88%
石 川 47 43 43 43 91%
福 井 48 45 41 43 90%
山 梨 31 30 30 30 97%
長 野 77 77 75 74 96%
岐 阜 63 59 58 58 92%
静 岡 69 63 62 61 88%
愛 知 188 174 164 151 80%
三 重 46 44 46 44 96%
中部 683 641 623 607 89%
滋 賀 32 33 36 36 113%
京 都 85 86 79 76 89%
大 阪 218 204 203 196 90%
兵 庫 123 121 119 113 92%
奈 良 31 30 32 31 100%
和 歌 山 36 32 33 32 89%
近畿 525 506 502 484 92%
鳥 取 20 20 20 20 100%
島 根 31 28 29 29 94%
岡 山 65 61 62 61 94%
広 島 80 78 76 77 96%
山 口 56 49 51 49 88%
中国 252 236 238 236 94%
徳 島 55 54 53 49 89%
香 川 35 34 33 32 91%
愛 媛 50 50 46 48 96%
高 知 61 52 48 48 79%
四国 201 190 180 177 88%
福 岡 142 127 120 113 80%
佐 賀 41 39 39 37 90%
長 崎 66 62 59 56 85%
熊 本 81 75 69 66 81%
大 分 48 43 42 41 85%
宮 崎 48 41 40 37 77%
鹿 児 島 76 70 64 59 78%
沖 縄 53 51 50 46 87%
九州沖縄 555 508 483 455 82%


平成10年以降も病院小児科は減少している。特に、関東地方や九州沖縄において著しい。福島、埼玉、高知、宮崎、鹿児島の各県では20%以上減少している。一方、北海道、近畿、中国地方では病院小児科の減少は10%未満にとどまる。

2)病院小児科医は漸増傾向にある
(表2)

表2 病院小児科医数の年次推移(県別)

病院小児科医 H10 H12 H14 H16 H16/H10 H16/H14
全国 8022 8158 8429 8393 105% 100%
北海道 379 381 386 378 100% 98%
青 森 81 79 91 83 102% 91%
岩 手 82 84 79 83 101% 105%
宮 城 141 136 133 128 91% 96%
秋 田 79 80 80 84 106% 105%
山 形 70 71 74 70 100% 95%
福 島 103 107 118 114 111% 97%
東北 556 557 575 562 101% 98%
茨 城 140 147 145 163 116% 112%
栃 木 129 135 152 149 116% 98%
群 馬 119 126 134 123 103% 92%
埼 玉 276 288 311 329 119% 106%
千 葉 290 298 306 304 105% 99%
東 京 1039 1027 1023 1121 108% 110%
神 奈 川 469 447 465 451 96% 97%
関東 2462 2468 2536 2640 107% 104%
新 潟 150 152 156 144 96% 92%
富 山 76 82 82 83 109% 101%
石 川 92 83 82 81 88% 99%
福 井 59 62 60 66 112% 110%
山 梨 67 69 71 72 107% 101%
長 野 149 147 163 146 98% 90%
岐 阜 118 120 118 109 92% 92%
静 岡 215 212 220 228 106% 104%
愛 知 409 405 416 422 103% 101%
三 重 101 108 111 112 111% 101%
中部 1436 1440 1479 1463 102% 99%
滋 賀 100 111 121 128 128% 106%
京 都 236 241 269 193 82% 72%
大 阪 587 627 642 606 103% 94%
兵 庫 313 314 357 327 104% 92%
奈 良 86 95 91 92 107% 101%
和 歌 山 70 70 82 76 109% 93%
近畿 1392 1458 1562 1422 102% 91%
鳥 取 60 59 63 60 100% 95%
島 根 57 61 65 67 118% 103%
岡 山 141 154 165 164 116% 99%
広 島 171 189 188 180 105% 96%
山 口 77 80 79 82 106% 104%
中国 506 543 560 553 109% 99%
徳 島 64 66 69 66 103% 96%
香 川 75 78 83 90 120% 108%
愛 媛 89 89 97 91 102% 94%
高 知 73 70 67 66 90% 99%
四国 301 303 316 313 104% 99%
福 岡 376 393 388 400 106% 103%
佐 賀 55 50 54 61 111% 113%
長 崎 84 96 95 100 119% 105%
熊 本 141 133 129 129 91% 100%
大 分 77 78 79 87 113% 110%
宮 崎 57 55 58 60 105% 103%
鹿 児 島 95 90 94 98 103% 104%
沖 縄 105 113 118 127 121% 108%
九州沖縄 990 1008 1015 1062 107% 105%


平成10年から平成16年までに、病院小児科医(病院に勤務する主たる診療科が小児科である医師)は5%増えている。県別には減少した県もあるが、地方ごとに比較すればどの地方においても増加が認められている。しかし、直近の平成14年から16年の2年間では、全国的には変化がほとんどないものの、関東、九州沖縄以外の地方では減少している。青森、群馬、新潟、長野、岐阜、京都、兵庫、和歌山、愛媛の各府県では平成14年に比べて平成16年は、5%以上病院小児科医の減少が見られる。一方、茨城、埼玉、東京、福井、滋賀、香川、佐賀、大分、沖縄の各都県では平成14年から16年の間に5%を超える病院小児科医の増加が認められている。

3)施設あたりの小児科医数は年々増加している。しかし、東北、北海道における小児科医の数は東京都の半分以下である
(表3、図)

表3 病院1施設あたりの小児科医数(県別)

施設あたりの小児科医 H10 H12 H14 H16 H16/H10 H16/H14
全国 2.2 2.3 2.5 2.6 120% 104%
北海道 1.7 1.8 1.9 1.9 109% 100%
青 森 1.3 1.6 1.8 1.6 120% 91%
岩 手 1.7 1.8 1.6 1.8 108% 112%
宮 城 2.3 2.4 2.4 2.3 102% 96%
秋 田 2.0 2.2 2.4 2.6 130% 112%
山 形 2.3 2.3 2.5 2.3 97% 92%
福 島 1.3 1.5 1.8 1.8 143% 104%
東北 1.7 1.9 2.0 2.0 117% 101%
茨 城 1.3 1.5 1.5 1.8 133% 119%
栃 木 2.4 2.6 3.3 3.3 139% 100%
群 馬 2.1 2.3 2.4 2.4 111% 97%
埼 玉 1.6 1.8 2.1 2.4 154% 114%
千 葉 2.0 2.2 2.4 2.5 124% 106%
東 京 3.8 4.2 4.4 5.2 135% 117%
神 奈 川 2.9 3.0 3.3 3.4 117% 102%
関東 2.6 2.8 3.0 3.3 130% 110%
新 潟 2.3 2.5 2.6 2.4 104% 94%
富 山 1.6 1.8 1.9 1.9 124% 101%
石 川 2.0 1.9 1.9 1.9 96% 99%
福 井 1.2 1.4 1.5 1.5 125% 105%
山 梨 2.2 2.3 2.4 2.4 111% 101%
長 野 1.9 1.9 2.2 2.0 102% 91%
岐 阜 1.9 2.0 2.0 1.9 100% 92%
静 岡 3.1 3.4 3.5 3.7 120% 105%
愛 知 2.2 2.3 2.5 2.8 128% 110%
三 重 2.2 2.5 2.4 2.5 116% 105%
中部 2.1 2.2 2.4 2.4 115% 102%
滋 賀 3.1 3.4 3.4 3.6 114% 106%
京 都 2.8 2.8 3.4 2.5 91% 75%
大 阪 2.7 3.1 3.2 3.1 115% 98%
兵 庫 2.5 2.6 3.0 2.9 114% 96%
奈 良 2.8 3.2 2.8 3.0 107% 104%
和 歌 山 1.9 2.2 2.5 2.4 122% 96%
近畿 2.7 2.9 3.1 2.9 111% 94%
鳥 取 3.0 3.0 3.2 3.0 100% 95%
島 根 1.8 2.2 2.2 2.3 126% 103%
岡 山 2.2 2.5 2.7 2.7 124% 101%
広 島 2.1 2.4 2.5 2.3 109% 95%
山 口 1.4 1.6 1.5 1.7 122% 108%
中国 2.0 2.3 2.4 2.3 117% 100%
徳 島 1.2 1.2 1.3 1.3 116% 103%
香 川 2.1 2.3 2.5 2.8 131% 112%
愛 媛 1.8 1.8 2.1 1.9 107% 90%
高 知 1.2 1.3 1.4 1.4 115% 99%
四国 1.5 1.6 1.8 1.8 118% 101%
福 岡 2.6 3.1 3.2 3.5 134% 109%
佐 賀 1.3 1.3 1.4 1.6 123% 119%
長 崎 1.3 1.5 1.6 1.8 140% 111%
熊 本 1.7 1.8 1.9 2.0 112% 105%
大 分 1.6 1.8 1.9 2.1 132% 113%
宮 崎 1.2 1.3 1.5 1.6 137% 112%
鹿 児 島 1.3 1.3 1.5 1.7 133% 113%
沖 縄 2.0 2.2 2.4 2.8 139% 117%
九州沖縄 1.8 2.0 2.1 2.3 131% 111%

図 地方ごとの病院1施設あたりの小児科医数の年次推移


平成10年から16年の間に病院1施設あたりの小児科医数は若干ながら増加している。特に、病院小児科の閉鎖が顕著であった関東、九州地方では、6年間で施設あたりの小児科医数が30%以上増加している。集約化による効果が出ている。一方、集約化の進まない地域では、施設あたりの医師数の増加は、北海道9%、東北17%、中部15%、近畿11%、中国17%、四国18%と全国平均の20%を下回った。
さらに、施設あたりの小児科医数は都道府県ごとにばらつきがあり、東京都の5.2人に比べて、集約化の進まない県では医師数の少ない傾向がある。東北、北海道における平成16年の施設あたりの小児科医数は、北海道1.9人、青森1.6人、岩手1.8人、宮城2.3人、秋田2.6人、山形2.3人、福島1.8人と半数以下に過ぎない。

4)小児科の集約化が進んだ地域では施設あたりの医師数も多く、小児科医の絶対数も増加が著しい

関東地方がもっとも病院小児科の減少が顕著であった。このため、施設あたりの医師数は相対的に増加率が高いことになる。それだけではなく、病院小児科医の総数も他の地方と比べて増加が著しい。一方、東北、北海道、四国においては病院小児科の集約化が進まず、相対的な施設あたりの医師数も低い増加率である。それだけではなく、病院小児科医の総数も平成14年から16年の間に減少傾向が見られる。
 集約化により、施設あたりの医師数を確保しなければ24時間体制の救急医療は提供できない。また、勤務環境も劣悪なものになる。このために、小児科を専攻する意思のある人は環境の良い関東、近畿地区をめざすものと考えられる。施設あたり2人未満の小児科医であれば、1日おき、あるいは、連日の夜間・休日の診療を余儀なくされる。一方、東京では、施設あたりの小児科医数は5人を超えており、夜間・休日の負担も東北、北海道に比べて少ない可能性がある。
 地域によって、集約化が進まない理由はそれぞれあると思われる。しかし、行政がリーダーシップを発揮して、地域の利害を超えた医療施設の統合を行わなければ、勤務医の環境は改善しない。このまま勤務形態が改善しなければ、地域の小児科勤務医の数はじり貧となる以外にない。地域医療は、この数年危機的な状況にある。一時期、開業の要件としてへき地、産科・小児科等の経験を求めようと厚生労働省が検討したこともあった[3]。しかし、地域の医療の確保には、法的な規制をするのではなく、勤務環境や研修環境を整備することが必要である。

参考文献

1) 厚生労働省統計情報部.医療施設調査.平成9年から平成16年.
2) 厚生労働省統計情報部.医師歯科医師薬剤師調査.平成8年から平成16年.
1)、2)のいずれも、厚生労働省統計表データベース
http://wwwdbtk.mhlw.go.jp/IPPAN/ippan/scm_k_Ichiran
にて閲覧可能.
3)厚生労働省医政局総務課.第22回社会保障審議会医療部会.平成18年1月20日.http://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/01/s0120-2.html