新臨床研修制度導入の前後における各都道府県の小児科医師数の変化について

江原朗

キーワード:臨床研修制度、小児科医師、偏在、地域医療

要旨
 新臨床研修制度の導入の前後において、各都道府県の小児科医師数がどう変化したのか検討した。
 平成14年から平成16年にかけて小児科医師の総数は196人増加した。特に東京都をはじめとする関東地方と九州・沖縄への集中が著しかった。また、時間外および休日診療の主体となる病院勤務の小児科医師は、この2年で36人減少したが、関東地方では104人(東京都だけで98人)、九州・沖縄では47人増加した。
 勤務医が増加している関東地方、特に東京都では他の地域に比べて病院1施設あたりの小児科医師の数が多く、時間外・休日の小児救急医療に従事する月当たりの日数も他の地域に比べて少ないと考えられる。また、豊かなマンパワーを背景に高度先進医療に従事することもできる。勤務医が東京都をはじめとした関東地方に集中する理由を検討し、地方においても小児科医師の過重労働の改善と先進技術習得の促進を行わなければ、地域医療は崩壊する。

 新しい研修制度の導入に伴い、地方の病院に勤務していた医師が派遣元の大学に戻り、地域医療は崩壊の危機に瀕している。しかし、毎年、8000名近くの医師国家試験合格者が誕生しており、小児科を主たる診療科としている医師が激減しているとは考えにくい。医師不足の原因は、絶対数の減少ではなく、偏在によるといわれている。しかし、その詳細は不明のままである。そこで、平成14年と16年の医師歯科医師薬剤師調査(厚生労働省統計情報部)をもとに、新臨床研修制度導入前後における各都道府県の小児科医師数の増減を解析することにした。

方法
 厚生労働省統計情報部編の平成14年、16年医師歯科医師薬剤師調査1,2)を用いた。公表された医師数は平成14年12月31日、平成16年12月31日現在の値である。また、小児科医師数は、主たる診療科が小児科である医師の数を用いた。医師数の変化は都道府県、および二次医療圏ごとに検討した。なお、二次医療圏については、平成14年から16年の間に圏域の設定が変化した地域があるので、全国370地区のうち、圏域の変化のなかった344地区を対象とした。
 また、病院1施設あたりの小児科医師数は、(主たる診療科が小児科である医師で病院勤務をしている者の数2))÷(小児科を有する一般病院数3))により算出した。

結果
 臨床研修制度が導入された前後(平成14年12月31日および16年の12月31日)において主たる診療科が小児科である医師の数を表1に示す。

表1 主たる診療科が小児科である医師数の平成14年から16年への変化 

H16-H14

総計

病院

診療所

北海道

-10

-8

-2

東北

-18

-13

-5

関東

193

104

89

(東京)

144

98

46

中部

17

-16

33

近畿

-72

-140

68

中国

22

-7

29

四国

-7

-3

-4

九州・沖縄

71

47

24

全国

196

-36

232

小児科医師の総数は196人増加し、特に東京都をはじめとする関東地方と九州・沖縄への集中が著しかった。また、時間外および休日診療の主体となる病院勤務の小児科医師は、この2年で36人減少したが、関東地方では104人(東京都だけで98人)増加し、九州・沖縄では47人の増加が見られた。その他の地方では、小児科勤務医は減少していた。
 病院勤務医が5人以上増加、減少した都道府県を図1、2に示す。

(図1)5人以上の小児科病院勤務医が増加した都道府県(地図外の沖縄県:5人以上の増加)

埼玉、東京、静岡、愛知、福井、滋賀、香川、福岡、佐賀、長崎、大分、沖縄では、病院勤務医が5名以上増加している。

(図2)5人以上の小児科病院勤務医が減少した都道府県

しかし、北海道、青森、宮城、群馬、神奈川、新潟、長野、岐阜、京都、大阪、和歌山、兵庫、広島、愛媛では5名以上の病院勤務医の減少が見られた。特に、近畿地方における勤務医の減少は、京都76名、大阪36名、兵庫30名と顕著であった。
 二次医療圏344地区(勤務医単独の資料がないため、小児科医師の総数で表す)における小児科医師の変化は表2のとおりである。

表2 主たる診療科が小児科である医師数の平成14年から16年への変化

(二次医療圏の圏域に変化がなかった344地区)

H14からH16への増減

増減(人)

増加

152

10以上増加)

12

増減なし

71

減少

121

10以上減少)

8

152地区で増加、71地区で増減なし、121地区で減少であった。特に、12地区では10名以上の小児科医師(勤務医・開業医の総数)が増加し、8地区では10名以上の小児科医師(勤務医・開業医の総数)が減少していた。
 10名以上小児科医師(勤務医・開業医の総数)の増減が見られた地区を表3に示す。

表3 平成14年から16年の間に主たる診療科が10人以上増加・減少した二次医療圏 

二次医療圏名

都道府県

増減(人)

比率

1302 区南部

東京都

48

53.3%

1304 区西部

東京都

42

17.2%

1305 区西北部

東京都

33

17.7%

1103 西部第一

埼玉県

24

19.2%

4001 福岡・糸島

福岡県

16

7.0%

1408 湘南西部

神奈川県

12

18.5%

2307 知多半島

愛知県

12

33.3%

2708 大阪市

大阪府

11

3.3%

3302 県南西部

岡山県

11

13.4%

1303 区西南部

東京都

10

4.9%

1312 北多摩北部

東京都

10

10.5%

2501 大津

滋賀県

10

15.2%

2802 阪神南

兵庫県

-10

-6.5%

1504 新潟

新潟県

-11

-11.3%

3301 県南東部

岡山県

-11

-7.3%

1301 区中央部

東京都

-15

-5.4%

2703 北河内

大阪府

-15

-12.2%

2007 松本

長野県

-19

-18.8%

0403 仙台

宮城県

-31

-16.0%

2604 京都・乙訓

京都府

-69

-22.5%

東京都をはじめとする関東地方において増加が著しく、京都、大阪、兵庫などの近畿地方、宮城、新潟、長野といった東北、中部地方(東海地方を除く)において減少が著しい傾向が見られた。

考察
 新臨床研修制度の導入により、平成16年、17年度は、新卒の小児科医局への入局者はゼロとなる。したがって、大学等では地方病院に勤務する医師を派遣元に戻す動きが見られた。その結果、地方病院に残った勤務医には過重な負荷が生じ、過労から開業する傾向が著しいといわれている。この研究においても、平成14年から16年の間に診療所において診療を行う小児科医師が232人増加しており、平成12年から14年の間の増加数54名1,4)、平成10年から12年の31名4,5)を大きくしのいでいることが確認された。
 平成14年から16年の間に小児科医師の総数は196名増加したが、病院勤務医に限れば36名の減少である。もし、各都道府県において一様な減少が見られるのではあれば、平均1名弱の小児科医師が減ったに過ぎない。しかし、小児科医師の偏在が顕著となったため、地方によっては小児科医師の激減にあえぐことになった。関東では104人、九州・沖縄では47名の小児科勤務医が増加しているにもかかわらず、他の地域は減少している。特に近畿地方では著しい。
 では、偏在を解決するにはどうしたらよいのか。平成18年1月18日のNHKは、「へき地勤務や産科・小児科などの医師の足りない診療科での勤務経験を開業の条件とするよう国が検討している」と報じた。しかし、僻地での小児科勤務を義務付けても抜本的な解決にはならない。僻地小児科における勤務環境の整備が必須である。勤務医が増加している関東地方、特に東京都では他の地域に比べて病院1施設あたりの小児科医師の数が多い(表4)。

表4 病院1施設あたりの主たる診療科が小児科である医師数(平成16年) 

病院あたりの小児科医師数

H16

北海道

1.9

東北

2.0

関東

3.3

(東京都)

5.2

中部

2.4

近畿

2.9

中国

2.3

四国

1.8

九州・沖縄

2.3

全国

2.6

このため、1日あたりの時間外・休日受診数は多いとしても、他の地域に比べて月当たりの小児救急に従事する日数は少ないと考えられる。さらに、豊かなマンパワーを背景に高度先進医療に従事もできる。なぜ、勤務医が東京都をはじめとした関東地方に集中するのか考慮しなければ、問題は解決しない。地方においても、病院小児科の集約化による小児科医師のQOLの改善と先進医療の習得システムの整備を行わなければ、志のある小児科医師は燃え尽き、都会に小児科医が集中する傾向はさらに加速することになるだろう。


参考文献

1)厚生労働省大臣官房統計情報部.医師歯科医師薬剤師調査.平成14年.
2)厚生労働省大臣官房統計情報部.医師歯科医師薬剤師調査.平成16年.
3)厚生労働省大臣官房統計情報部.医療施設調査.平成16年.
4)厚生労働省大臣官房統計情報部.医療施設調査.平成12年.
5)厚生労働省大臣官房統計情報部.医療施設調査.平成10年.


上記5つの文献は、厚生労働省統計表データベースシステムで検索可能。
http://wwwdbtk.mhlw.go.jp/IPPAN/ippan/scm_k_Ichiran


Has the new clinical training system concentrated pediatricians into urban hospitals from rural small hospitals?

Akira Ehara,
Koala Medical Research

    The effect of new clinical training system introduced on April first, 2004 on the working place of pediatricians was reviewed.

    From Dec 31st, 2002 to Dec 31st, 2004, 196 pediatricians increased in number while 36 physicians who worked in a pediatric department of hospitals decreased. Furthermore, the decrease was not homogenous in the whole country, and hospital pediatricians concentrated into the metropolitan area and Kyushu district from other part of Japan. In Tokyo, the number of pediatricians per hospital was more than those in other prefectures, therefore, better personnel management might be done there. In order to prevent runaway of pediatricians from rural hospitals, there must be a proper working system compatible with Labor Standard Law.