北海道における休日夜間急患センターの利用状況と小児の受診回数の推移について
市立小樽病院小児科 
江原朗、石津桂、柴田睦郎

抄録
 平成4年から13年までの北海道における休日夜間急患センターの小児受診回数の推移を検討した。受診者の約3割は小児であったが、年次的には小児の受診回数は横ばいであった。しかし、この10年で北海道の小児人口は23%減少しているので、小児ひとりあたりの急患センターの受診回数は増加していると考えられる。
全国的には、小児科診療所受診回数は、この10年間増加傾向にある。また、全国の急患センターにおける受診者の約50%は小児である。したがって、全国的にも、北海道と同様に夜間における小児ひとりあたりの受診数も増加していると考えられる。一方、時間外休日診療を担う一般病院小児科の数は減少している。これら時間外休日診療を担う病院小児科に時間外休日の患者が殺到することが小児救急の問題点であると考えられる。

小児救急の充実が求められているなかで、小児科医の疲弊と小児救急担当医の確保が難しくなってきている。しかし、時間外および休日、深夜の小児の受診状況に関する調査資料はいまだに乏しいのが実状である。平成13年に、田中らは「二次医療圏毎の小児救急体制の現状評価に関する研究」1)を行い、平成12年には急患センター受診者の50%が小児であることを明らかにした。しかし、小児の夜間および休日の受診回数について年次変化を追った研究は現在のところ見当たらない。昨今、小児救急がなぜ問題視されているのかを解析するため、北海道の休日夜間急患センターにおける小児の受診回数の年次変化を調査し、小児救急の問題点に関して考察した。

対象および方法

 北海道には17施設の休日夜間急患センターが存在したが、13年までの間に3か所が休止ないし廃止された。そこで、残りの14施設に対し、平成4年から13年までの総受診回数および小児の受診回数を郵便にて問い合わせた。
北海道における小児科外来受診回数は不明である。そこで、全国のデータから近似することにした。しかし、全国資料もないのが実情である。社会医療診療行為調査報告2)に、各科診療所の初診再診回数が記載されているだけである。そこで、全国の小児科受診回数の年次変化は、小児科外来施設(病院および有床ないしは無床の診療所)の約9割3)を占める小児科診療所(有床および無床)における外来受診回数の年次変化を追うことにした(平成3年から12年)。外来受診回数は、小児科診療所における初診再診回数と定義した。しかし、平成8年より、3歳未満の患者について包括医療の小児科外来診療料が創設され、本診療料を請求する際には初診再診料や乳幼児加算を請求できなくなり、統計上も初診再診および乳幼児加算の回数として算定されなくなった。そこで、平成8年以降は初診再診回数と小児科外来診療料の請求回数の和を外来受診回数と定義した。また、6歳未満の外来受診回数は、小児科診療所(有床および無床)における初診再診乳幼児加算回数とし、平成8年以降については、同様に小児科外来診療料の請求回数を加算した。
なお、同調査報告は、年度により対象となる医療保険の種類が異なる。平成10年までは国民健康保険および政府管掌健康保険加入者、平成11年以降は国民健康保険、政府管掌健康保険および組合健康保険加入者について、6月期1か月分の診療行為を解析している。対象とする医療保険が限定されるので、保険医療全体の受診回数は国民医療費における各医療保険の給付金額の比率を用いて推計することにした。すなわち、
(保険診療全体の小児科外来受診回数)=
(算出された総外来受診回数)×
(各年度の国民医療費3)における医療保険全体の給付額)÷
(各年度の国民医療費3)における対象となった医療保険の給付額の総計)

の式を用いて保険医療全体の受診回数を推計した。
 また、夜間および休日における小児科受診回数を年次的に追跡した資料も存在しない。そこで、全科総計の休日および夜間における受診回数を社会医療診療行為調査報告2)の時間外、休日および深夜加算の請求回数から計算した(平成3年から12年)。保健診療全体の時間外、休日および深夜受診回数の推計をする際には、同様に(各年度の国民医療費3)における医療保険全体の給付額)÷(各年度の国民医療費3)における対象となった医療保険の給付額の総計)を乗じた。

結果
 質問表を郵送した14施設中、12施設から回答を得た。しかし、2施設については、10年間の小児の受診状況が記載されていなかったため、研究対象からはずした。
平成8年から12年の実績では、回答のあった10施設で北海道内の休日夜間急患センター全体の取り扱い患者の77から82%を診療していた5)(表1)。各施設において、小児は全受診者の2割から5割を占め、10施設総計では受診者の約3割が小児であった。年次的には、この10年間で総受診回数はやや減少し、小児の受診回数は横ばいのままであった(図1)
北海道の受診傾向を知るため、近似的に全国の小児科における受診傾向を解析した。全国の小児科診療所における、平成3年から12年の推定受診回数を図2に示す。受診回数は増加傾向にあり、平成10年から12年の平均受診回数は、平成4年から6年の平均受診回数を23%上回った。
 全国の6月期(平成3年から12年)における時間外、休日および深夜の推計受診回数(全科総計)を図3,
図4図5に示す。時間外および休日の受診回数は漸減ないし横ばい傾向である。しかし、深夜の受診回数は、この間に4割近く増加した。診療機関についてみると、時間外および休日は、診療所と病院がほぼ同数の患者を診療していたが、深夜においては、病院の診療が主であった。年々増加する深夜の受診は、主に病院における受診の増加によるところが大きかった。
 
考察

 時間外加算、休日加算および深夜加算の保険請求回数から推計すると、全科における時間外および休日の受診回数は漸減ないし横ばい傾向にある。深夜帯の受診回数は、時間外および休日における受診回数の4分の1程度にすぎないが、この10年で4割近く増加している。そして、深夜における受診回数の増加は、主に病院における受診の増加であった。深夜の受診が病院に集中する理由としては、全国360の二次医療圏のうち、準夜帯に稼動している急患センターがある地区は4割程度存在するものの、深夜帯に稼動している地区は2割に満たないこと1)があげられる。深夜帯に受診が必要になれば、地域の中核病院に頼らざるをえないのである。
小児科に限定してみると、全国の小児人口は平成2年から12年の間で18%、5歳未満人口は10%減少している(表2)6)。しかし、この間に全国の小児科診療所の外来受診回数は増加している。平成10から12年の平均受診回数は、平成4から6年の平均受診回数に比べて23%増加している。深夜帯における小児の受診回数が全国的にどう推移したかは不明である。しかし、急患センターの受診者の50%が小児であること1)、小児科診療所の受診回数が増加したことの2つの点を考えると、小児においても深夜の受診は増加していると考えられる。
深夜の小児の受診数は、北海道においても増加しているものと考えられる。しかし、北海道内の急患センターにおける小児の受診回数は増加していない。北海道には21の二次医療圏に14の急患センターが存在し、このうち11の急患センターが深夜帯に稼動(11/21=52%)している5)。深夜帯の稼動率は全国に比較して高いので、北海道においては、深夜帯に受診できないために急患センターの受診回数が増加しないとはいえない。では、どうして受診回数の増加が認められないのか。国勢調査6)によると、北海道の15歳未満の人口は、平成2年から12年の10年間で23%減少している(表3)。さらに、小児科の中でも受診率の高い7)5歳未満の人口は、北海道においては18%減少し(表3)、全国の減少率10%(表2)を大きく上回る。つまり、北海道においても、急患センターにおける小児ひとりあたりの受診回数は増加した可能性が高いが、小児人口の著しい減少のため、急患センターにおける総受診回数は増加しないと考えられる。むしろ、小児人口の減少地である北海道においてさえ、急患センターにおける小児の総受診回数は減少していないといえる。したがって、小児人口の増加が著しい他の地区では、急患センターにおける受診者の増加は、人口の増加率を大きく上回るであろう。この点は、小児救急の問題点として重要であると思われる。
もちろん、急患センターは初期救急が主であるため、入院施設がなかったり、検査施設が限定されているところが多い。このため、応急処置が主体の急患センターよりも、小児科専門医がいる地域の中核病院での診療を希望する人が増加した可能性も高い。夜間の診療体制の整わない中核病院に殺到することが小児救急のもう一つの問題点となりうる。その上、全国的に乳幼児時間外休日診療1000件あたりの一般病院小児科の数は1985年を100とすると、2000年には41.2と減少したため8)、現存する病院小児科はこれまで以上に負担がかかっている。小児科医は北海道および全国的において漸増はしている(表4)9)。しかし、時間外休日を担当する施設が減少すれば、現存する施設の夜間休日診療担当者の負担は増加し、疲弊してしまうのである。
 全国的な調査は国の研究機関等に任せるほかはないと考えられるが、急患センターの中には設置から20年以上経過している施設もあり、夜間休日急患センターの提供するサービスと市民の要求する夜間休日の医療レベルとが合致しているかどうか再検討する必要もあるかもしれない。
 今後、夜間の診療のレベルを応急処置のみに限定するのか、また、日中と同様にすることを推進するのか議論することも必要であろう。しかし、医療を24時間均質に維持するには、多大なるマンパワーが必要となり、小児科医だけでは到底まかないきれるわけではない。休日夜間における小児の診療には、小児科医だけではなく、内科等他科の医師も巻き込んだ診療体制の確立も必要だろう。今後、小児の時間外診療の体制作りにおいては、国民各位の大規模な議論が必要となろう。

ご高閲いただいた、北海道大学大学院医学研究科生殖・発達医学講座小児発達医学分野小林邦彦教授に深謝いたします。また、ご協力いただきました、北海道保健福祉部地域医療課救急医療係吉田亮輔様、札幌市医師会夜間急病センター、市立江別総合病院夜間急病診療部、小樽市夜間急病センター、帯広市夜間急病センター、旭川市夜間急病センター、釧路市医師会病院休日夜間急病センター、苫小牧市保健センター、岩見沢市夜間急病センター、北広島市夜間急病センター、恵庭市夜間急病診療所、滝川市休日夜間急病センター、伊達赤十字病院救急センターの皆様に感謝いたします。

参考文献

1) 田中哲郎,田久浩志,市川光太郎ほか.二次医療圏毎の小児救急医療体制の現状評価に関する研究.平成13年度厚生労働省研究.
2) 社会医療診療行為調査報告.厚生労働省大臣官房統計情報部.平成3年より12年.
3) 医療施設調査.厚生労働省大臣官房統計情報部.平成11年.
4) 国民医療費.厚生労働省大臣官房統計情報部.平成3年より12年(12年は国民医療費の概況).
5) 救急医療体制現況調査.厚生労働省医政局指導課救急医療係.平成13年.
6) 国勢調査.総務省統計局.平成2年,7年,12年.
7) 江原朗,高橋真紀,信本和美ほか.救急外来における受診数・入院率の季節・時間帯および症状別による解析.小児科臨床. 1998; 51: 2303-2308.
8) 志水武史.アクセス改善が求められる小児医療体制.Japan Reaserch Review 2002; 5: 69-102.
9) 医師歯科医師薬剤師調査.厚生労働省大臣官房統計情報部.平成2年より12年.