病院に従事する医師における常勤・非常勤の比率について
−新臨床研修制度導入前後における比較−

北海道大学大学院医学研究科予防医学講座公衆衛生学分野
客員研究員 江原朗


 平成16年4月の新臨床研修制度を契機として、地域における医師不足が深刻化している。厚生労働省の「医師の需給に関する検討会」においても、医師の不足が深刻であると認識され、平成18年7月に対応策が報告書にまとめられている1)。病院に従事する医師の総数は年々増加しているが2)、常勤・非常勤の比率の変化は十分に検討されていない。そこで、新臨床研修制度の導入の前後において、病院に勤務する医師の常勤・非常勤の比率がどう変化したか、都道府県・二次医療圏別に検討することにした。

方法
 平成14、18年の病院報告3,4)を用いた。都道府県別、二次医療圏ごとに病院従事の医師数(常勤換算)と非常勤医師の比率を、新臨床研修制度導入前の平成14年と導入後の18年で比較した。なお、平成14年と平成18年との間に二次医療圏の名称や圏域が変更となった宮城、茨城、千葉、新潟、山梨、静岡、京都、奈良、岡山、広島、山口の各県は二次医療圏の解析からは除外し、解析対象となった二次医療圏は280地域である(なお、全国の二次医療圏数は、平成14年363、平成18年358である)。

結果

 各都道府県の病院に従事する医師数の平成14年から18年への推移を表1に示す。

表1 各都道府県の病院従事医師数と非常勤医師の比率の比較

(平成14年対平成18年、医師数は常勤換算)

下線は医師数の減少したか非常勤医師の比率が5%以上上昇した地域

 

非常勤医師は常勤換算しているので小数点以下の数が出る。全国では、病院従事の医師数は、174,261.2人から181,190.8人へと6,929.6人増加していた。
 しかし、都道府県別に見ると、福島、石川、山梨、山口、徳島、愛媛、熊本、大分の8県では、病院従事の医師数が減少していた。
 病院に従事する非常勤医師の比率が低下した地域は、宮城、秋田、茨城、東京、岐阜、三重、滋賀、奈良、鳥取、島根、香川、高知、福岡、熊本、沖縄15都県に限られ、他の32道府県では非常勤医師の比率が増加していた(図1)。

図1 平成14年から18年の間に非常勤の医師の比率が上昇した都道府県(黒塗りの地域、沖縄は低下)

 


 また、非常勤医師の比率が5%以上上昇した都道府県を図2に示す。

図2 平成14年から18年の間に非常勤の医師の比率が5%以上上昇した都道府県(灰色の地域、沖縄は低下)


 

福島、石川、山梨、山口、徳島、愛媛の6県では、病院従事医師数の減少と同時に5%以上非常勤医師の増加がみられた。
 非常勤医師の比率が平成14年から18年の間に、10%以上上昇した二次医療圏を表2に示す。

表2 非常勤医師の比率が10%以上増加した二次医療圏(圏域の変更のあった宮城、茨城、千葉、新潟、山梨、静岡、京都、奈良、岡山、広島、山口は除外し、解析対象は合計280二次医療圏)

下線は医育機関の所在地を示す

病院に従事する医師が少ない二次医療圏ばかりではなく、豊能(大阪)、東部T(徳島)、長崎(長崎)、石川中央(石川)、和歌山(和歌山)、中部(佐賀)といった医育機関を有して医師数の多い二次医療圏においても非常勤医師の比率が上昇している。しかし、病院従事医師数(常勤換算)の増加が認められた地域は、医育機関を有する地域では、7地域中5地域(71%)と高いのに対し、医育機関がない地域では12地域のうち3地域(25%)と低かった。

考察
 新臨床研修制度の導入前の平成14年から導入後の平成18年にかけて、病院に従事する医師の数は全国的には増加している。しかし、福島、石川、山梨、山口、徳島、愛媛、熊本、大分の8県で減少している。医師の偏在が進行していることは確かである。このうち、福島、石川、山梨、山口、徳島、愛媛の6県では、非常勤医師の比率も5%以上上昇している。
 大都市から離れた地域で病院に従事する医師数が減少し、それを補うために非常勤医師の比率が上昇していると考えられる。
 一方、医育機関のある二次医療圏で、非常勤医師の比率が上昇した地域が数か所見られた。多くの場合、こうした地域では病院従事医師数は増加している。大学病院への医師の引き上げにより非常勤医員が増加したものと思われる。また、臨床系の大学院生が増加したために、近隣の病院へ非常勤医師として働きに出る医師も増加したものと考えられる。
 全国平均では、非常勤医師の比率は、平成14年の18.3%から平成18年の19.5%へと1.2%しか上昇していない。しかし、へき地や医育機関のある地域では、非常勤医師の増加が認められる。継続性のある医療を提供するには、医師の人数の確保とともに、常勤医師の確保が必須である。そのためには、適切な労務管理を行い5)、医療施設の重点化・集約化を行い、十分な医師数を確保しなければ、病院に従事する医師の勤務環境が改善されない。地域の利害を超えて広域化した医療提供体制を構築する必要があろう。
 地域医療の崩壊が社会問題化し、地方への医師の派遣が国政レベルで検討されている。しかし、医師を強制的に地方へ派遣することは憲法に抵触するおそれがある。医局制度が崩壊しつつある今日、医師をひきつけることが出来る地域とできない地域との格差は開くばかりである。さらに、地方では財政が悪化し、医師を金銭的に継ぎとめることも困難になってきている。
こうした悪環境の中で地域住民の健康を守るためには、発想の転換が必要である。地方の自治体は、医師を呼び寄せるのではなく、都市部の医療施設へ住民を迅速に搬送することを検討すべきではないだろうか。


参考文献
1)厚生労働省医政局。医師の需給に関する検討会報告書、平成18年7月28日。
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/07/dl/s0728-9c.pdf
2)厚生労働省統計情報部。平成18年医師歯科医師薬剤師調査、第1表 医師数の年次推移、業務の種別。
http://wwwdbtk.mhlw.go.jp/toukei/data/180/2006/toukeihyou/0006337/t0139935/K0001_001.html
3)厚生労働省統計情報部。平成14年病院報告、閲覧 第36表 従事者数、職種・二次医療圏別。
http://wwwdbtk.mhlw.go.jp/toukei/data/170/2002/toukeihyou/0004424/t0090801/BYO02E36_001.html
4)厚生労働省統計情報部。平成18年病院報告、閲覧 第36表 従事者数、職種・二次医療圏別。
http://wwwdbtk.mhlw.go.jp/toukei/data/170/2006/toukeihyou/0006425/t0141490/BYO06E0036_001.html
5)江原朗.小児救急担当者の夜間における診療と睡眠について.
小児科臨床 59:2071-2075,2006.