関東食道癌に対する3D-CRT ~ウチならこう治療します~

開 催 日 :2008年6月10日
慶應義塾大学医学部放射線科 茂松 直之 先生
吉田 佳代 先生
深田 淳一 先生
国立がんセンター中央病院放射線科 馬屋 原博 先生
伊藤 芳紀 先生
順天堂大学医学部放射線科 廣渡 寿子 先生
唐澤 久美子 先生
東京女子医大放射線科 清塚 誠 先生
三橋 紀夫 先生

【はじめに】
今回の治療談話会では、実際に治療した食道癌患者さんで治療に工夫を要したあるいは難渋した症例を各施設1-2例ずつ提示していただき討論を行った。手術可能食道癌症例の治療は手術療法がいまだスタンダードであるが、近年手術に変わる治療法として化学放射線療法が注目されていることは間違いない。治療のストラテジーがあまりに異なるためrandomized studyはなかなか成立せず、治療法選択の最終決定は、患者さんの希望と現場の医師の判断にゆだねられているのが現状で、その際の放射線照射の範囲・線量、さらに化学療法のレジメンなどはいまだ多くの議論がある。一方、手術不能食道癌患者では化学放射線療法がスタンダードとしてよいと考えるが、同様に放射線照射の範囲・線量、化学療法のレジメンに関しては様々な報告が混在している。近年、3次元放射線治療計画が一般化し、CTを用いた詳細な治療計画が行われるようになり、原発巣はもちろん、リンパ節領域をどこまで照射するか、リスク臓器である肺や心臓をどのように扱うかなどさらに議論が必要となってきている。現段階では各施設がそれぞれ独自の照射法を行っているのが現状だが、将来的に多施設のrandomized studyを行うことも見据えて討論を行った。

【症例報告】
① 慶応義塾大学病院吉田佳代先生:両側頸部リンパ節転移を伴う食道癌に対し、前後対向2門照射後に斜入対向照射とIMRTを併用した一例。 症例は59歳男性。2006年8月末より嗄声を自覚し、9月11日に当院耳鼻科受診。精査にて右反回神経麻痺と頚部リンパ節転移を認めた。9月14日に上部内視鏡施行され、門歯列30cm~ECJ直上に27-30cmの広がりを持つ表層拡大型の食道癌を認めた(MtLt, Type 0-Ⅱc, T1bN4 IM1, stage Ⅳa)。46GyまではLong-T照射野で前後対向2門照射を施行し、それ以降、原発巣に対しては斜入照射に変更した。両側鎖骨上窩リンパ節転移への照射法には苦戦したが、IMRTを施行した。IMRTを行うに当たって、当時はMLCが搭載されていない治療機器であったため、各ビームに固定物理フィルターを作成するなどの工夫をした。治療後2年の経過観察中、局所コントロールは良好である。
②国立がんセンター中央病院馬屋原博先生:食道がんに対する3D-CRT 日常臨床において当院では食道がんStageⅡ/Ⅲ症例に対して60Gy/30frの化学放射線療法(FP70-700)を行ってきた。しかしながら総線量60Gyでも局所制御率は不十分であるほか,前後対向2門で予防的縦隔照射を行った場合,重篤な遅発性有害事象により致命的となる症例があり、治療成績は頭打ちとなっている。そこでJCOG消化器グループを中心とした臨床試験では総線量50.4Gy/28frの化学放射線療法を導入した。これは総線量の低減により局所制御に失敗した場合でもSalvage食道切除術により救命できる可能性を高めること、1回線量/総線量の低減と3D-CRTによる多門照射の導入で心臓・肺を中心とした遅発性有害事象を低減させることにより、最終的な生存率の向上を得ることを目的としている。総線量50.4GyのいわゆるRTOGレジメン(FP75-1000)の施行可能性を検証する多施設第Ⅱ相臨床試験の症例集積が本年終了した。詳細な解析はまだ行われていないものの,当院で経験した症例では従来の化学放射線療法と同等の抗腫瘍効果が得られるという印象である。多門照射による予防的縦隔照射の3D-CRT計画では体厚の違いに起因する上縦隔・脊髄の過線量を避けるために一部の門でPTVを部分的にブロックすることを許容している。
③順天堂大学廣渡寿子先生:治療計画に苦慮した2症例 症例1 43歳男性。GIF上切歯から28-35cmに1/2-3/4周性の腫瘍があり、CT上縦隔リンパ節腫大、気管支鏡で気管浸潤が確認されT4N1M0であった。術前照射目的に、T字照射40Gy/20f+weekly Docetaxel 10mg/m2を予定した。20Gy照射時に肺炎出現、気管支瘻を認めたがPS 0であり4日間の休止を挟み治療を再開した。40Gy後のCTで肺静脈浸潤を認めたため切除不能であり、腫瘍部に20Gy/10fの追加照射を施行したが、治療終了2週間後に肺炎にて死亡した。気管支瘻が出現後も照射を継続し完遂したことが予後に寄与したかどうか疑問が残る局所進行例であった。 症例2 52歳男性。以前より尋常性乾癬で光線療法を繰り返していた。GIFにて食道癌と下咽頭癌を指摘された。食道はGIFで切歯より40-41cmの高分化SCC(T1N0M0,stageⅠ)で、右梨状陥凹内に径3cmの易出血性でわずかな陥凹を伴う腫瘍があり、高分化SCC(T2N0M0,stageⅡ)であった。皮膚の有害事象を避けるため、食道は振子照射で60Gy/30f/43日、下咽頭は前斜入で63Gy/28f/41日の照射を施行した。急性有害事象は2度の皮膚炎と食道炎のみであった。現在、照射野内はCRであるが、照射野外の食道での再発に加療中である。尋常性乾癬の既往があったため通常よりも皮膚線量を軽減した照射法を施行したが、問題となる有害事象は出現しなかった。
④東京女子医大清塚誠先生:PTVの線量を確保しながらリスク臓器(脊髄・肺)への線量を低減するために6門照射を行った症例 症例は45歳女性。特記すべき既往歴なし。飲酒は焼酎2合/日、喫煙は30本×25年であった。2005年10月、嚥下困難を自覚したが放置。2006年3月、嚥下困難が増悪したため、近医を受診し、上部消化管内視鏡検査ならびに生検にて食道扁平上皮癌と診断され、精査加療目的に当院へ紹介された。内視鏡検査では門歯より30-37cmの前壁を中心に全周性の3型病変が認められるとともに、28-30㎝にも左壁中心に亜全周性の上皮内進展が認められた。胸部CT検査では、食道壁の全周性肥厚を認め、肺動脈との境界が一部不明瞭になっていた。また、#3リンパ節が1㎝大に腫大していたことから胸部食道癌 cT4N1M0(Ⅲ期)と診断され、化学放射線治療の方針となった。放射線治療は標的体積としてGTVを原発巣および転移リンパ節、CTVを原発巣+頭尾方向2㎝、転移リンパ節についてはGTVと同一、PTVはCTVに側方向0.5-1㎝、頭尾方向1-2㎝程度を加えた。リスク臓器(特に脊髄)の線量を軽減させるため多門(6門:ガントリー角0°、70°、93°、180°、245°、276°)照射を施行した(ビームウエイト: 0.75 : 0.23 : 0.21 : 0.37 : 0.23 : 0.21)。1回2Gy、週5回法で総線量は60Gyとした。なお、化学療法はlow dose CDDP(20 mg/m2)+5-FU(200 mg/m2)を照射日に施行した。本例ではPTVの線量を確保しながらリスク臓器(脊髄・肺)への線量を抑えることが容易でなく、脊髄の最大線量は43%、肺のV20は20%と抑えることができたが、肺のV15が44%と高い結果となった。化学放射線治療後1か月後の上部消化管内視鏡にて腫瘍の残存を認め、その後肺転移が出現し死亡した。

【まとめ】
今回の治療談話会ではここ最近ではもっとも多くの参加者があり、食道癌の放射線治療に対して放射線治療医師・技師・物理士などの方々が強い関心を持っていることが伺われた。討論も活発で、化学放射線療法の適応はもとより、放射線治療に関しては、リンパ節をどのようにdelineationするか、どのような方向から何門で照射するか、線量は60Gy(2Gy)か50.4Gy(1.8Gy)か、肺野心臓の合併症を防ぐための照射計画などなど多岐にわたる具体的な議論がなされた。今後も、学会ではなかなか議論できないような“現場の声”が反映できる談話の場を提供したいと考えますので、宜しくお願いいたします。