放談会:私の原著・自選10編:

開 催 日 :2007年 12月 11日
国立がんセンター中央病院 放射線治療部長 池田 恢 先生

国立がんセンター中央病院放射線治療部長池田恢先生が退官されるにあたり『私の原著・自選10編』とのことでお話いただきました。内容は、題名から想像されることよりも遥かに幅広 く、放射線腫瘍医としての先生の自伝として、これからの放射線治療のあり方を含んだ若手へのメッセージとして、興味深いものでありました。当時は有効な治療法がなかった悪性リンパ腫が放射線治療でよくなおっているのをみられて、放射線治療を志された先生のお話をまとめていただいております。 なお、終了後、池田先生を囲んで忘年会をおこないました。
  1. 池田 恢、真崎 規江:頭頸部細網肉腫の放射線治療 日本医放会誌 1971. 31:515 - 527.
  2.  細網肉腫と聞いて「何これは?」と思われる方も多いかと思う。当時は「炎症か腫瘍か?」といわれるほどで、病理学的に悪性リンパ腫の概念が定まっていず、わが国では赤崎学説「細網内皮系の支持細胞から発生する」が横行していた。当時の阪大は重松康講師が米国から帰られ、治療の新しいチームを作って活動を始め、真崎先生のほか牧野、井上、宮田先生や歯学部の渕端先生、物理の速水先生などが頭頸部腫瘍を主体に治療・臨床研究を始めた頃である。また当時は学園紛争の真っ只中で「インターン」は形骸化し、自主研修とかで大学病院内を 「勝手に」うろついていた。小生も内科・耳鼻科などの研修を廻った後、「でもしか内科医」になるために診断学を会得しようと放射線科で研修した。同期生が2名居たが、その中でのローテで最初に放射線治療に廻った。重松先生に挨拶に行き、研究発表のテーマまで話が及んで「部位別には牧野、井上がおおよそやっているから、残っているのはリンパ腫と胸腺腫だ」といわれた。どちらにしても余りなじみがないが、当時 外来・病棟でよく見ているリンパ腫を集計するか、と過去の患者カルテを繰り始めた。発表は昭和44(1969)年4月京都で、論文化はずっと遅れて1971年である。 発表に纏めるだけでも牧野、井上両先生に助けられ、すったもんだしながら何とか格好をつけることが出来た。(地方会を経ずに、いきなり)日医放総会で発表した。医科歯科の堀内先生の後の発表で、同じような纏め方であった。聴衆席のすぐ前の方に確か塚本先生 が座っておられたし、緊張で脚が震えていた事を思い 出す。何とか発表したら今度は「論文にせい」であ る。訳の分からない病気で、過去の発表を見ても自分 で納得いく内容のものは全くなく、纏めように苦渋し、研修を終えて大阪労災に勤務してからもずっと考えていた。そこで出逢った(購入した)のが”Leukemia- Lymphoma”という、M. D. Anderson病院での講演を纏めた本である。丸善新刊案内で知って(LP盤2枚くらいは我慢して)到着を待ちわび、読み始めて初めて納得がいく気がした。従ってこの論文は小生の研究のいろいろな意味での原点である。「炎症か腫瘍か?」、「多中心性か、単中心性 か?」、「リンパ節外に出るのはどうしてか?」、「ホジキン病とどう違うのか?」など当時の疑問にある程度の見通しがついたと思った。
  3. 池田 恢、速水昭宗、井上俊彦、他:口腔内癌 に対する 192Ir ワイア組織内照射 臨床放射線 1976. 21:665 - 672.
  4.  当時のラジウム、セシウムなどのrigidな線源を、何とか患者さんに負担が少なく、被ばくも少ない方法を、と阪大が導入したIr-192線源(もちろん、LDR)の、最初 の論文である。従ってグループの共同作業であり、いわば代表で書かせてもらった。臨放に出したら、後で重松先生が「日医放誌にしたら」といわれたそうである。
  5. 池田 恢、黒田知純、打田日出夫、他:肝門部 胆管癌に対するIr192ワイアによる胆道腔内照射 日本医放会誌 1979. 39 : 1356 - 1358.
  6.  打田日出夫先生がIVRのはしりの仕事をしておられた。胆道の内庶ヤ化に成功したのが1973年で、その頃から「治療に応用できないか」と問いかけられていた。それをIr-192ワイアでなら、と試みたのがこの研究である。これは方法だけを1日で書き上げ「研究速報」として掲載してもらったが、当時同様の報告が出はじめ、その魁としての意義もあったようだ。DeVita: Cancer の初版本に引用されたので、それを廃棄できずに居る。
  7. 池田 恢、宮田俶明、真崎規江、他:食道・他 臓器重複癌 - 頭頸部癌との重複について - 癌の臨床 1979. 25:118-122.
  8.  当時は食道疾患研究会は年2回開催されていたが、あるとき重複癌をテーマとしたので、集計して応募したもの。頭頸部癌との重複が多いことを指摘したのは、他の報告者とは際立っていた。これから川本論文(日本医放会誌)へと続いていく。
  9. 池田 恢、西山謹司、真崎規江、淵端 孟: 198Au グレインによる口腔・咽頭癌の治療 臨床放射線 1987. 32:269-273.
  10.  当時LDR線源としてIr-192線源と同じように頻用していた Au-198線源の、線量計算とか、注文個数とかを算出するのに苦労していたので、使い方の便宜さを考えてノモグラムを作った。もう1つの線量計算シートと一緒に臨床現場でワークシートとして活用した。オリジナリ ティーはないので、臨放への投稿。別刷はなくなったので図書館蔵書からデータ化した。
  11. 池田 恢、真崎規江、西山謹司、他:長期経過観察にもとづく胸腺腫の予後の検討 日本医放会誌  1988. 48:342-351.v  重松先生から言われていたもう1つの宿題のようなもので、「胸腺腫」を纏めた。長期生存する疾患だとは思っていたが、手術の成否によって予後が変わることを自分で納得できたことが実は最も大きな成果であった。大阪大学20年間(もっと)の症例蓄積の成果でもある。
  12. 池田 恢、沢井ユカ、井上俊彦、他:喉頭癌患者放射線治療後の quality of life. 癌の臨床 41(10): 1050- 1055, 1995.
  13.  当時話題になり始めたQOLについての論文。喉頭癌の患者さんが、実際にはどのような愁訴をもっているのかを調査した。このとき既にEORTCのQLQ-C30は存在したが、その集計にはピンとこないものを感じていた。
  14. Ikeda, H, Ishikura, S, Oguchi, M, et al.: Analysis of 57 nonagenarian cancer patients treated by radical radiotherapy. - A survey of 8 institutions - Jpn J Clin Oncol 1999; 29:378-381.
  15.  国立がんセンターに移ってから、高齢者がんの班研究 を行ったので、その成果の1論文。90歳以上というと ころに眼をつけたのが面白かった。8施設からの症例持ち寄りによる。最も協力していただいたのは信州大学と群馬大学であった。発表はRSNAに、小生の都合で、石倉先生にしてもらった。
  16. Ikeda, H: Editorial: Quality assurance activities in radiotherapy. Jpn J Clin Oncol 2002;32:493-6.
  17.  井上俊彦先生のPCS班会議での成果の論文に対して編集 者から依頼され、Editorialとして、放射線治療のQA/QCの当時の現状をまとめたもの。このあたりからは評論家になっている。
  18. 池田 恢、早淵尚文、廣川 裕:放射線治療システムの品質保証・品質管理 映像情報メディカル 2004;36(12):1352-1356.
  19.  放射線治療にまつわる事故報道や、当時発足したQA池田班の活動、放射線治療計画QAに関するTG-53の和訳などをまとめたもので、ここでコミッショニングの定義とその責任所在を明確に施設側としたことが最も大きな成果であったのか、と思っている。

    ※番外:池田 恢:放射線腫瘍医を薦める10の理由 山下孝編著「放射線腫瘍医になろう」真興交易出版部 2007.
    番外で、山下先生編著の「放射線腫瘍医になろう」で 書かせてもらったものを入れた。自分の生い立ちから oncologistとしての放射線腫瘍医、放射線治療の立場などを、若い、これから放射線腫瘍医になろうとする方々に向けて書いた積りである。

  20. 池田 恢、真崎規江、打田日出夫、重松 康: 頭頸部の悪性リンパ腫の進展、再燃様式とその診断法に関する検討 日本医放会誌 1977. 37:554-561.
  21. 池田 恢、真崎規江、青笹克之:甲状腺初発の非ホジキンリンパ腫の治療成績 - 癌の臨床 1988. 34:637 - 643.
  22. 池田 恢、真崎規江、青笹克之:ホジキン病の放射線治療成績 - 大阪大学症例の分析 - 癌の臨床  1988. 34:693 - 697.
  23. 池田恢、井上俊彦、山崎秀哉、他:高線量率組織内照射による舌可動部癌の治療 - 連結ダブルボタン法 -  臨床放射線 37 : 1121 - 1124, 1992.
  24. 池田 恢:放射線治療と仲良くつきあう方法  診療と新薬 1997; 34 : 291-316.
  25. Ikeda, H: Editorial: Structure of Radiotherapy in Japan. Jpn J Clin Oncol 2001;31: 133-134.
  26. 池田 恢:肝胆膵領域への放射線治療の変遷と展望 胆と膵 2007;28:681-686.