頭頸部癌の最新治療 -放射線治療がやらねばならないこと, やってはならないこと-

開 催 日 :2007年 4月 24日
国立がんセンター東病院 河島 光彦 先生、林 隆一 先生、田原 信 先生、宮岸 朋子 先生

IMRTと化学放射線同時併用療法を中心に、これらを適切に実施する上での1)患者選択、2 )毒性管理、3)救済手術、4)品質管理に焦点を当てて放射線科、頭頸部外科、腫瘍内科 、医学物理の立場から議論した。

1)患者選択
 化学放射線治療では、臓器温存ではなく機能温存がその目的である。 1)腫瘍の肉眼形態と正常組織破壊の程度の評価、2)予想される術式と放射線治療 の標的体積における機能的予後の予測、3)患者の全身状態と精神的支援(闘病意欲)、 4)これらにおける各専門科間のコンセンサスに基づく治療選択、の重要性について議論した。近年研究の盛んな導入化学療法の意義と問題点、分子標的薬剤が日本でなぜ使えないかについて言及した。
2)毒性管理
 IMRTでは、唾液分泌障害のみならず味覚障害や嚥下障害の低減も重要である。強い急性粘膜障害の適切な管理は、治療期間の延長とconsequential late effectの双方を予防する上で重要である。適切な標的設定と緻密な線量分布作成、胃瘻増設と早期のモルヒネ製剤 使用、嚥下リハビリの重要性について議論した。
3)救済手術
 強力な化学放射線治療後の救済手術では、ひとたび術後合併症(吻合不全、瘻孔、感染、組織壊死)が起こればその重症度は増し、頚動脈出血、敗血症、MRSA感染などの重篤な状態を引き起こす。救済切除の安全性を考慮した化学放射線治療の適応決定と治療計画について議論した。また、救済切除における安全性の向上に関する当院外科の考え方を提示した。
4)品質管理
 当院におけるIMRT導入当初から現在までの機器選定、多分割コリメータの位置精度管理、 小照射野や不整形照射野の線量分布評価の正確性、そして個別検証について、その経過と現状をreviewした。その間の検討事項と検証の省力化に向けての方向性が提示された。
5)おわりに
 進行頭頸部癌の治癒率は、時代とともに新しい概念と技術を導入することで着実に向上してきた。海外のエビデンスを日本でも共有するための鍵となるのは熟練したチーム医療であろう。医学物理士や放射線治療専任看護師の職制の整備は欧米に比べ大きく立ち遅れている。頭頸部腫瘍内科医は、治療選択や毒性管理に関して高い専門性が要求され、人材育成が急務と言える。嚥下リハビリを担う言語療法士もきわめて人材に乏しい。最新治療はその効果や毒性評価に関していまだ発展途上と言え、高い精度と品質を保証した上で長期的に評価する必要がある。海外の標準治療が日本でも同等に安全で有効であることを示すには依然として困難な課題が多く、わが国独自の検証を積み重ねる必要があるが、今回の例会で議論した内容はそのためのminimum requirementの一部ととらえるべきである。