食道癌の化学放射線療法

開 催 日 :2006年6月13日
I.胸部食道癌に対する外科治療と化学放射線治療との接点
筑波大学大学院 人間総合科学研究科 消化器外科 寺島 秀夫先生
胸部食道癌に対する外科療法と化学放射線療法(CRT)は,両者はともに局所療法であり,食道癌とリンパ節転移巣を除去することを目的としており,その本質は同一である.相違点は癌を除去する手段にあり,手術は食道切除とリンパ節郭清により物理的に癌を除去し,一方,化学放射線療法は放射線と抗癌剤の相乗効果により生物学的に癌細胞を殺傷し除去するものである. 食道癌のリンパ節転移個数別の5年生存率は,1~3個 38.3%,4~7個 20.9%,8個以上 10.1% と転移個数が増えるにつれて低下する.しかしながら, 10~40%の5年生存率が得られると言うことは,リンパ節転移陽性でも「Local Disease」に留まっていたため,手術を中心とした治療により救命できたことを示唆している.「たかだか10人中3人程度しか救命できないのかと評価するか,それとも3人も救命できることは価値あることと考えるか?」となるわけであるが,本邦の外科医は後者の立場で,無影灯のもと癌に立ち向かっているのである.実は,Definitive CRTが手術と同等の5年生存率を樹立したことが,外科医にとって大きな福音となっている.CRTは,手術によるリンパ節郭清範囲と同等の照射野を設定することで,大幅に治療成績を向上させ,手術と同等の治療成績を樹立した.このことは,局所における癌の制御が治療成績を向上させ得ることを証明しているからである 最近の知見からは,CRTの 中間評価で,responderと判定された場合,手術の付加する意義はなく,definitive CRTを推奨することができ,逆にnon-responderの場合には手術による救済を考慮しなければならい.外科医である私の視点からも,現在のdefinitive CRTは手術に匹敵する治療効果を上げており,放射線治療のlate injury がより一層軽減されれば全く遜色のない治療法になると考えられる.食道外科医は,definitive CRTに対して明確なadvantageを提示しなければならい.私どもは,その回答の一つとして,術式の改良・開発と術後の加速度的リハビリーションの開発を行い,日々,研鑽に励んでいる.

II.食道癌に対する化学放射線療法
国立がんセンター東病院 放射線部 二瓶 圭二先生
1. 欧米の化学放射線療法
 RTOG 85-01のrandomized controlled trial (RCT)にて,50Gyの放射線治療にCDDPと5-FUを併用した化学放射線療法が放射線治療単独64Gyに比べて有意に生存率が高いことが示され,以降,進行食道癌に対する標準治療は化学放射線療法となる流れが形成されるに至った.その後のINT0123にては,化学療法に併用する放射線の線量増加に関する比較試験(50.4Gy vs. 64,8Gy)が行われたが,線量増加による生存率向上は認めなかった.この結果を受けて,欧米ではCDDP+5-FU+50.4Gyが化学放射線療法の標準的レジメンとなっている. 次に化学放射線療法に外科切除を加えるべきかどうかであるが,responderについてはmedian survivalには差が見られていない.Mortality rateが増えることも考慮すると化学放射線療法にてnon-responderの場合にsalvage surgeryを行うとbenefitがあるかもしれない.
2. 日本での化学放射線療法,特にがんセンター東病院の経験から
92-99年における国立がんセンター東病院での経験では,139例の胸部食道扁平上皮癌を対象として,60Gyの放射線治療(40GyまでLong T, 20Gy局所Boost)とCDDP+5-FUによる化療を2コース行った.CR rateは56%で3生率37%, 5生率27%を得た.後ろ向き検討(non-randomize)による比較であるものの,外科的切除と生存率を比較しても有意差は認めず,治療効果は外科的切除と同等と考えられた. 次に,晩期障害について,78例のCR例を対象に検討を試みた. Grade2以上のtoxicityとしてはpericarditis 16例,Heart failure2例,Myocardial infarction 2例,Pleural effusion 15例,Radiation pneumonitis 4例が認められた.現在,がんセンター東病院ではStage II-III 食道扁平上皮癌に対して,晩期心毒性の軽減を目的として多門照射の導入と線量の変更(60Gy→50.4Gy, planned splitなし)を目玉とするRTOGレジメンを導入して臨床研究を継続している.このレジメンは,すでに46例に対して行われている. 今後,Toxicityを最小にするためには3D conformal RT/IMRT, 粒子線治療などがsolutionになりうると思われる.