序
9月11日の同時多発テロ以来、緊急避難計画(emergency evacuation planning)への関心が劇的に高まっている。 同様に、JAN(JAN)では、緊急避難計画を策定する法的義務に関する情報や、そのような計画に障害をもつ従業員をどう包括するかに関する情報を求める雇用主からの電話を受けることが多くなり始めている。 本出版物ではこうした問題を扱う。
法的要件
アメリカ障害者法(Americans with Disabilities Act、ADA)に基づき雇用主は緊急避難計画の策定を義務づけられていないが、ADAでカバーされる雇用主がその様な計画を作成する場合は、障害者を組み入れることが求められる。1 さらに、緊急避難計画をもたない雇用主は、それでもなお、アメリカ障害者法のTitle 1に基づき、正当な環境整備として障害をもつ従業員の緊急避難に取り組まなければならない。2 加えて、一定の産業の雇用主は職業安全衛生法(Occupational Safety and Health Act、OSH Act)、または州法や地域法に基づき、緊急避難計画を策定する義務を負う。3
強制的か、自発的かにかかわらず、多くの雇用主は緊急避難計画の策定を決定している。 次に障害をもつ従業員をそうした計画に組み入れるための手順を示す。
障害をもつ従業員を緊急避難計画に含めるための手順
I. 計画の策定
障害をもつ従業員を緊急避難計画に含めるための第1段階は、計画の策定である。 計画の策定は環境整備のニーズを特定することから始まる。 環境整備のニーズを特定する最も良い方法は、安全な緊急避難を妨げるような制限があるかどうか従業員に尋ねる方法である。 雇用機会均等委員会(Equal Employment Opportunity Commission)は、最近、緊急避難計画を策定するときに、雇用主はどんな情報を収集することが認められるか議論した指針を発表した。4 この指針によれば、雇用主が情報を入手できる方法が3つある:
仕事の申し出をした後、ただし雇用が始まる前に、雇用主は緊急時に支援を必要とするか否かを全員に尋ねることができる。
雇用主は、自己-同定は任意であることを明確にし、情報を求める目的を説明する限り、緊急時に支援を必要とするか否かを判断するために、定期的に現在いる従業員全員を調査することができる。
最後に、雇用主が全従業員を定期的に調査するか否かにかかわらず、周知の障害をもつ従業員に緊急事態の際に支援を必要とするかどうか尋ねることができる。 ただし、雇用主は、明らかな障害をもつ人はだれもが避難時に支援を必要とすると想定すべきでない。 例えば、目の見えない人の多くは支援なしで階段を下りることを好む。 障害のある人は一般的に自分の個別的ニーズを評価する一番良い立場にいる。
アメリカ障害者法はすべての医療情報を機密扱いにすることを雇用主に求めている。 しかしながら、適切な場合、救急隊員や安全隊員は、障害が緊急治療を必要とするか、あるいは緊急避難のために個別的手順が必要か否か通知を受けることができる。
雇用主は従業員に情報を求めることに加え、模擬避難試験を実施して従業員が気づいていないニーズを特定すること; 職場に固有の危険を特定する一助として危険分析を実施すること; 特殊なニーズをもった訪問者を特定する方法を開発すること; 地元の消防、警察、危険物担当部門(HazMat department)に連絡をとり指導を求めることもできる。
いったん環境整備のニーズが特定されると、雇用主は効果的な環境整備の選択肢を選ばなければならない。 障害をもつ従業員は環境整備について優れた情報源であることが多い。 加えて、雇用主は地元の消防、警察、危険物担当部門に連絡をとり、どんなサービスを提供できるか決定すべきである。 最後に、雇用主は、例えばJANなど、他の資源にも接触することができる。 JANは個別対応を基本に特定的な環境整備案を提供することができます。 以下に示したのは、しばしば提案している緊急避難用の環境整備の概観である。5
一般的環境整備:
雇用主は緊急警報装置と非常脱出口を示す標識を設置すべきである。 これらの警報装置と標識は利用しやすいものとし、正常に運転できるように維持管理しなければならない。
雇用主は全従業員に対して「相互協力方式(buddy system)」を実施することができる。 相互協力方式とは、従業員がチームを作り、緊急事態の際に互いの所在確認をして支援し合う方式をいう。
雇用主は救助支援(rescue assistance)の区域を指定することができる。 アメリカ障害者法アクセシビリティ指針(ADAAG)の第4.3.11項は、特に救助支援の区域を扱っている(http://www.access-board.gov/adaag/html/adaag.htm#4.3)。もしこれらの区域に退避路がなければ、1)緊急サービスに連絡が取れるように、オペレーティングホン、携帯電話、TTY、送受信兼用無線機; 2)防火扉; 3)個人がドアの下から進入してくる煙を防ぐことを可能にする用具; 4)窓と書く道具(口紅、マーカー)またはこの場所に人がいることを救助者に知らせるための「ヘルプ」の標識; 呼吸マスクを設置すべきである。
JANのSOARからTTYに関する情報を検索することができる
JANのSOARから呼吸マスクに関する情報 を検索することができる
運動機能障害:
運動機能障害をもつ個人を避難させるために、雇用主は避難用具を購入することができる。 避難用具は運動機能障害をもつ人が階段を下りたり、起伏の多い地面を横断するのを助ける。 避難用具を使用するなら、職員は用具の操作と維持管理の訓練を受けるべきである。
JANのSOARから緊急避難用具に関する情報を検索することができる
雇用主はバリアフリーの避難路を確保するために、いかなる障害物も取り除かねばならない。
雇用主は、手動式の車いすを押すときに瓦礫類から個人の手を保護する厚手の手袋、パンクしたタイヤを修理するための修繕道具一式、電動車いすやスクーターを使う人のために予備のバッテリーを用意することができる。 避難後に車いすを利用可能にする手筈も整えておくべきである。
感覚機能障害:
雇用主は可聴警報を補足するために、点灯式ファイヤー・ストロボや振動式の警報装置を設置すべきである。点灯ストロボは一部の個人の発作を誘発する危険があるため、1秒間に5回以上フラッシュさせるべきでない。 ADAAGの第4.28項は特に警報装置を扱っている(http://www.access―board.gov/adaag/html/adaag.htm#4.28)。
雇用主は聴覚障害をもつ個人に避難の必要を警告する手段として、警報装置、振動式呼出装置、無線通信機、双方向呼出システムを設置することができる。
JANのSOARから呼出装置に関する情報を検索することができる
JANのSOARから警報装置に関する情報を検索することができる
雇用主は視覚障害のある従業員のために、触知できる標識や地図を設置すべきである。 手話、音響式方向指示機、歩行者専用システムも利用可能である。 これらの製品は煙が充満した通路を進まなければならない他の人にも役に立つ。
JANのSOARから触知できる標識に関する情報を検索することができる
JANのSOARから触知できるグラフィックスや地図に関する情報を検索することができる
雇用主は発話に機能障害をもつ個人が救急隊員とコミュニケーションが取れるように、アルファベットや数値を使ったポケットベルやその他の通信装置を提供することができる。
JANのSOARから通信補助装置に関する情報を検索することができる
認知/精神機能障害:
雇用主は認知機能障害をもつ人とのコミュニケーションの方法を検討すべきである。 例えば、一部の人には仲間の写真や、避難口および救助支援区域の色分け、テープやCDロムでの情報が役に立つ場合がある。
雇用主は緊急避難訓練の効果を検討すべきである。 精神機能障害をもつ一部の個人にとって頻繁な防災訓練は役に立つが、その他の人には実践訓練が不安を誘発することがある。 近く行われる実践訓練を従業員に通知したうえで、彼らに不参加の選択を認めることが、合理的な環境整備であろう。 この場合は別形式の緊急避難訓練手順、例えば、書面による詳細な指示の提供などが必要となる。
呼吸器の機能障害:
呼吸器に機能障害をもつ従業員は、煙、埃、噴煙、化学物質、その他の香りによって制限が悪化する場合があり、緊急避難フード、マスク、呼吸用保護具などの製品が役に立つかもしれない。 救急隊員が到着するまで救助支援区域を使うことも、ひとつの選択肢である。
JANのSOARから避難用フードに関する情報を検索することができる
JANのSOARから呼吸用保護具に関する情報を検索することができる
呼吸器に機能障害のある従業員は、長距離を歩くと呼吸困難を起こし、そのために階段を下りることに問題を抱えている場合がある。 雇用主は避難装置の購入、従業員の職場環境の配置換え、適切な医薬品の利用可能性を確保するために従業員と協同することを検討することができる。
効果的な環境整備が選択された後、雇用主は誰が避難計画の実施に加わり、計画を文書にして従業員と共有し意見を求め、計画が上手く機能することを確認するために、計画を実践し、必要に応じて計画を修正するか決定しなければならない。
II. 計画の実施
障害をもつ従業員を緊急避難計画に組み入れるための第2段階は、計画の実施である。 最終の避難計画が起草された後、写しを全従業員と主要職員に配布する。 加えて、全従業員が計画に精通することを確実にするために、避難訓練を実施すべきである。 最後に、計画は標準実施手順に統合されるものとする。
III. 計画の維持
障害をもつ従業員を緊急避難計画に組み入れるための最終段階は、計画の維持である。 環境整備が継続して効果的であることを保証するために、避難計画を実践し、定期的に更新すべきである。 加えて、新たな危険と環境整備ニーズを報告する制度を開発しなければならない; 地元の消防、警察、HazMat担当部署との関係を維持すべきである; 新入社員には計画を周知させなければならない。 最後に、緊急避難に使われる収容施設はすべて、適切な手順で検査して維持管理しなければならない。
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脚注
1.アメリカ障害者法、Title Iは従業員15名以上を抱える民間経営者、州政府と地方政府の職員、職業安定所、労働組合、労使合同委員会に適用する。 連邦政府の雇用主は1973年リハビリテーション法でカバーされる。 両法律とも、雇用慣行や雇用条件に関して、障害をもつ人を差別待遇することを雇用主に禁じている。
2.アメリカ障害者法、Title Iは、障害をもつ従業員の既知の制限に対して、適正な環境整備を提供することを雇用主に求めている。 適正な環境整備に関する追加情報については、実施指針: アメリカ障害者法における適切な環境整備と過度の困難:http://www.eeoc.gov/policy/docs/accommodation.html。
3.職業安全衛生法は、必ずしもすべての雇用主が緊急行動計画を策定することを要求していない; だが、同法律は特殊の産業の雇用主には緊急行動計画を策定することを要求している(例えば、金属、化学、穀物取扱い施設など)。 雇用主は特殊産業コードを調べ、緊急行動計画が必要であるか否か、またどんな要素が必要か確認しなければならない。
4. 緊急避難手順の一部として、従業員の医療情報を入手して利用することに関するファクトシートhttp://www.eeoc.gov/facts/evacuation.html。
5.製品に関する情報については、JANで検索可能なオンライン・環境整備資源を閲覧されたい(http://www.jan.wvu.edu/soar)。