疫病管理予防センター (CDC) の最近の調査によると、人口10万人あたり75人から265人が慢性
疲労症 (CFS) にかかっています。
これらの統計結果に加え、アメリカ障害者法 (ADA) も、慢性疲労症を抱える人々への職場環境整備について知ることが重要であることを示しています。
慢性疲労症患者への環境整備を考えるとき、そのプロセスは個別対応を基本に管理しなければなりませ
ん。 慢性疲労症の症状は多様なので、効果的な環境整備を選択するには、その人固有の能力と障害の程度を考慮し、問題のある業務を特定すべきです。
そのため、患者本人が環境整備プロセスに参加することが望まれます。
すべての慢性疲労患者が職務遂行に環境整備を必要とするわけではありませんし、必要な場合も、ごく簡
単なものが大半です。
環境整備を必要とする人たちについては、以下に一般的な機能障害、症状、考慮すべき問題点、考えられる環境整備法についての基本情報を提供します。
これは参考例に過ぎません; この他にもたくさんの解決法や検討材料があります。
この文書には、さらに詳しい情報が必要な場合のための問い合わせ先リストがあります。
慢性疲労 (CFS)
CFSに関する以下の情報は、いくつかの出典から編集したもので、出典の多くは問い合わせ先リストに
列挙してあります。 この情報は、医学的な助言を意図したものではありません。 医学的助言が必要な場合は適切な医療専門家に相談してください。
CFSとは?
CFSは、慢性疲労免疫不全症候群 (CFIDS) とも呼ばれる機能障害で、睡眠によって回復せず、肉
体的ないし精神的活動によって蓄積することがある、著しい疲労が特徴です。
CFS患者は、病気にかかる前よりもかなり低い生産性での職務遂行しかできない場合が多くあります。
この症状のほかに、虚弱、筋肉痛、記憶ないし精神状態の障害、不眠、24時間以上続く回帰的疲労を始めとする症状が見られることがあります。
場合によってはCFSは何年にも渡って持続することがあります。
CFSの症状は?
臨床的に言うと、1) 原因不明、持続的、ないし回帰性の疲労があり、2) 以下に挙げたうち4つ以上の
症状が継続的に見られ、なおかつ1カ月のうちに6つの症状が見られる場合、その原因不明で慢性的な疲労はCFSである可能性があります:
短期記憶ないし集中力にかなりの障害がある;
のどの痛み;
リンパ節の軟化;
筋肉痛;
腫れや赤発を伴なわない複数の関節の痛み;
痛み方や痛みの度合いが異なる複数回の頭痛;
睡眠により疲労が回復しないもしくは睡眠障害;
疲労後24時間以上続く不快感; そして
におい、雑音、強い光、薬品、温度、複数の食品に対する過敏症。
上記の症状のほかにも、さまざまな症状が報告されています。腹痛、アルコール不耐性、ガスが溜まる、
腰痛、慢性的なせき、下痢、めまい、目ないし口唇の乾き、耳痛、不整脈、顎痛、起床時硬直、吐き気、夜汗、呼吸が浅くなる、敏感肌、ちくちくとした痛み、
体重減少などが報告されています。 CFS患者は、多くの場合、軽度から中度の不安ないし抑うつ症状を訴えています。
リウマチ様関節炎、多発性硬化症、神経筋疾患などの他の病気と比べて、CFS患者は精神病の併発率が高いという研究報告もあります。
一般的には安定して、場合によっては継続的かつ慢性的に、ほとんどの患者は部分的に回復し、完全に回復する場合もあり、あるいは再発を繰り返します。
CFSの症状の重さは、患者によって大きく異なります。
CFSの原因は?
CFSの原因は今のところ不明で、これといった診断方法もありません。
そのうえ、疲労不耐性を伴なう病気は数多くあるので、既知の (そして多くの場合治療可能な) 病気の可能性を排してCFSと診断するときは、注意が必要で
す。 数多くの病気の症状が、CFSと似た傾向を持っています。
一例として、繊維素血、ライムボレリア症、軽度の全身性エリテマトーデス (SLE) 、筋肉脊髄炎、神経衰弱、化学物質複合刺激反応、慢性単核細胞症などが
あります。 これらの病気の主だった症状は疲労ではありませんが、慢性疲労症が誘発される可能性は常にあります。
多くの場合、CFSは突然発症します; ただし、、ゆっくりと発症していく場合もあります。
急性の発症は、およそ3例につき1例の割合で、呼吸器、消化器、単核細胞症を始めとするその他のインフルエンザに似た症状のある急性感染症の後に起こって
います。 その他の症例では、外科手術や肉親の死亡などの、肉体的ないし心理的な外傷のあとに発生しています。
CFSの診断方法は?
CFSの診断は困難です。 CFSに関する検体検査や、明解な臨床指標は一切ありません。
同じような症状を持つ疾患の可能性を排除してCFSの診断を下すには、医師による総合的な評価が必要です。この評価には、一般に、検体検査に加え、病歴の
調査や理学的検査も必要となります。 他の疾患の可能性を排除できるまでは、患者がCFSの条件を満たすかどうかの判断は下せません。
CFSの治療法は?
CFSには治療法はありませんが、生活習慣を改めることによって症状を処理しやすくなる場合がありま
す。 CFS治療の主眼は症状を処理しやすくすることで、たとえば、アスピリンとイブプロフェンで痛みをとったりします。
患者によっては、健康的な食生活; アミトリプチリンやドキセピンなどの抗うつ・抗不安・睡眠障害治療効果のある薬;
行動療法などが有効な場合があります。
さらに、深呼吸法、筋リラックス法、瞑想、催眠、バイオフィードバック、メッセージ療法を始めとする、リラクゼーションやストレス軽減法が効果的な場合も
あります。
職場環境整備において考
慮すべき問題
どのような症状や機能制限が見られるのか?
症状や機能制限は患者ないし患者の職務機能にどのような影響を与えているのか?
症状や機能制限のために特に問題が出る職務は何か?
問題を避けるために、どのような環境整備が利用可能か? 環境整備の候補案を決定する際に、Job
Accommodation Networkなどのリソースはすべて活用されているか?
環境整備案について、患者本人と相談したか?
環境整備を実行に移した後、患者が環境整備の効果を評価し、追加の環境整備が必要かどうか判断する機会を与
える機能は働いているか?
上司や他の労働者には、慢性疲労、その他の機能障害、アメリカ障害者法などについて、講習が必要か?
CFS患者への環境整備の検討
(注意:
CFS患者において以下の機能障害や症状の一部、場合によっては全部が進行することがあります。 機能障害は患者によってさまざまです。
慢性疲労患者すべてが職務遂行に環境整備を必要とするわけではなく、必要な場合も、ごく簡単なものが大半であることに注意してください。
以下は考えられる可能性のほんの一例です。 この他にもたくさんの解決法や検討材料があります。)
集中力の問題:
可能であれば、職務上の指示を書面で与える
仕事に優先順位をつけ、なるべく秩序だてる
柔軟な勤務時間や自分のペースでの職務負担を認める
気分転換のため、定期的な休憩を認める
手帳や電子手帳などの記憶補助機器を用意する
気を散らす要因を最小限におさえる
ストレスを軽減する
抑うつと不安:
気を散らす要因を減らす
To Doリストを用意し、指示を書面で与える
重要な締め切りや会議については、何度も確認する
カウンセリングのための休暇を認める
責任分担や業績評価について、何が求められるのかを明確にする
同僚の意識向上のための講習を行う
ストレス対処法の実践のために休憩を取ることを認める
事前に問題解決の計画を立てておく
勤務中に、医師などに支援を求める電話をすることを認める
カウンセリングや被雇用者支援計画に関する情報を提供する
疲労および衰弱:
肉体の酷使やストレスを避ける
定期的に休憩時間を設けて職場から離れる
柔軟な労働時間と勤務外時間の利用を認める
自宅勤務を認める
人間工学に基づいた職場設計をする
徒歩による移動が必要な場合は、電動車いすなどの移動装置を支給する
偏頭痛:
業務一覧表を用意する
蛍光灯を避ける
コンピュータ画面にちらつき防止フィルタを使用する
防音板、環境音楽機器、ヘッドホンなどを利用して雑音を軽減する
視聴覚的な気を散らす要因を減らすために、座席を変更する
「無香の」職場環境方針を実践する
空気清浄機を用意する
柔軟なスケジュールを認める
定期的な休憩時間を認める
自宅勤務を認める
光線過敏症:
日差しの強い午前10時から午後4時までの間の屋外業務を極力減らす
砂、雪、コンクリートなどの輻射物を避ける
UVカット衣類を用意する
サンブロックやサンスクリーンなどの「ウォータープルーフ」の日焼け止めを用意する
ワット数の少ない室内照明を設置する
業務一覧表を用意する
蛍光灯をフルスペクトラムもしくは自然光に変える
点滅やちらつきのある明かりを使用しない
調節機能つきのブラインドや光線フィルタを設置する
睡眠障害:
柔軟なスケジュールを認める
頻繁な休憩を認める
自宅勤務を認める
気温過敏症:
温度調節を行い、換気装置を調節する
服装規定を変更する
扇風機やエアコン、ないしヒーターを利用するとともに、空調の吹き出し口からの風が直接当たらないよう
にする
極端に暑いもしくは寒い天候時には、柔軟なスケジュールや自宅勤務を認める
個別気温調節装置を導入する
機器
機能障害を持つ人々への環境整備に利用可能な機器は、数多くあります。
JANの検索機能付きオンライン環境整備 (SOAR) <http://www.jan.wvu.edu/soar>
で、さまざまな環境整備の可能性を探索できます。多くの機器取り扱い業者リストにアクセスできます;
しかしながら、JANではウェブサイトで利用できるもののほかにもたくさんのリストを用意しています。
特別な環境整備条件がある場合、特別な機器を探している場合、取り扱い業者の情報が必要な場合、医師への紹介状を請求する場合は、JANに直接問い合わせ
てください。
CFS患者への環境整備
の例
あるカスタマーサービス責任者には、慢性疲労症と記憶障害と集中障害があり、顧客の質問に対応するこ
とが困難であった。 記憶力を補うためのメモと、気を散らす要因を減らすための個室によって環境整備をした。
ある慢性疲労症患者の設計エンジニアは、フルタイムの勤務が困難であった。
週のうち3日間自宅勤務することを認めた。
ある慢性疲労症患者の学生は、授業の進行に合わせてノートを取ることが困難であった。
授業中にラップトップコンピュータを利用することで環境整備をした。
ある慢性疲労症患者の手術室担当看護婦は、交代シフト勤務が困難であった。
日勤のみにすることで環境整備をした。
ある慢性疲労症患者の教員は、職務に必要な身体条件を満たすことが困難であり、午後に入ると疲労困憊
してしまった。 教務補助具を用意し、休憩時間を午後に移動し、午後休み中の職務を免除することで環境整備をした。
ある慢性疲労症患者の託児所の管理職員は、定時に出勤してフルタイムで働くことが困難であった。
出勤時間を遅らせパートタイムでの勤務とした。
ある慢性疲労症患者の客室乗務員は、疲労のため職務上の失敗が多かった。
医師はフライトの回数を減らすよう勧めた。 フルタイムでの勤務を希望していたので、事務職への配置転換を申請した。
ある学校勤務の心理士は慢性疲労症で、通常の水準での勤務が困難であった。
診察を午前中に回すことを認められ、午後にペーパーワークに集中できる時間を確保した。 1日数回の休憩と必要に応じた有給休暇の使用も認められた。
ある慢性疲労患者のソーシャルワーカーには、頭痛と光線過敏症の症状があった。
蛍光灯から手元照明への変更や、コンピュータ画面へのちらつき防止フィルタの使用、ブラインドの設置、その他の人間工学的効果を強める職場環境の変更など
の環境整備を行った。
問い合わせ先リスト
(完全なリストではありません)