アルコールは、アメリカで最も広く利用されて
いる向精神薬です。 National Institute of Alcohol Abuse and
Alcoholism (NIAAA) によると、18歳以上のアメリカ人の7%以上 (およそ1380万人) が、飲酒に関係する障害を抱えており、そのうち
810万人がアルコール依存症患者です。
酒に関係する障害を抱える男性 (980万人) は、女性 (390万人) の3倍近くにのぼり、男性女性ともに18歳から29歳までの範囲で罹患率が最大になっ
ています。
職場に目を移すと、アメリカのフルタイム労働者の6.6%がヘビードリンカー (過去30日に、5杯以
上飲んだ日が5日以上ある) です; 同様にパートタイム労働者の4.9%、失業者の10.4%がヘビードリンカーです。
ヘビードリンカーの比率が最も高い (12.2%) のは、26歳から34歳までの非就労者です。
これらの統計結果に加え、アメリカ障害者法 (ADA) も、アルコール依存症を抱える人々への職場環境
整備について知ることがいかに重要かを示しています。
アルコール依存症患者への環境整備を考えるとき、そのプロセスは個別対応を基本に管理しなければなり
ません。 アルコール依存症の症状は多様です。
効果的な環境整備を選択するには、その人固有の能力と障害の程度を考慮し、問題のある業務を特定すべきです。
そのため、患者本人が環境整備プロセスに参加することが望まれます。
すべてのアルコール依存症患者が職務遂行に環境整備を必要とするわけではありませんし、必要な場合
も、ごく簡単なものが大半です。
環境整備を必要とする人たちについては、以下にアルコール依存症とアメリカ障害者法に関する基本的な情報と、考えられる環境整備法について情報を提供しま
す。 これは参考例に過ぎません。 この他にもたくさんの解決法や検討材料があります。
アルコール依存症
アルコール依存症に関する以下の情報は、いくつかの出典から編集したもので、出典の多くは問い合わせ
先リストに列挙してあります。 この情報は、医学的な助言を意図したものではありません。
医学的助言が必要な場合は適切な医療専門家に相談してください。
アルコール依存症とは?
National Council on Alcoholism and Drug
Dependenceとthe American Society of Addiction
Medicineが共同で、アルコール依存症を次のように定義しています「遺伝的、社会心理的、環境的要因によりその発病や進行が左右される、慢性の原疾
患。 飲酒をコントロールすることが継続的ないし定期的にできなくなる; 飲酒が最大の関心事になってしまう;
飲酒をするべきでない場合や飲酒をしたくないと思っているときにも飲酒をしてしまう、というのが特徴。」
アルコール依存症の症状は?
アルコールの乱用とは、健康上の問題や社会的な問題を引き起こすような飲酒のしかたを言います。
アルコール依存症 (もしくはアルコール中毒) は、異常にアルコールを求めるようになり、飲酒をコントロールできなくなる病気を指します。
アルコール摂取による短期効果の例:
視覚、聴
覚、協調運動の乱れ
知覚や情動の変化
判断力の低下
口臭と二日酔い
アルコールの大量摂取による長期効果の例:
食欲減退
ビタミンの欠乏
胃腸障害
肌の不調
性的不能
肝臓へのダメージ
心臓および中枢神経系へのダメージ
記憶障害
この他にも、気分が急に変わる、他人とうまく付き合えなくなる、職務遂行能力が低下する、神経が過敏
になる、うつになるなどの症状がありますが、他の原因が存在する可能性があります。
アルコールの摂取が原因であるかどうかは、実際にアルコールを過剰に摂取しているかどうかを確かめなければ判断が困難です。
治療は可能?
アルコール依存症は治療可能な疾患ではありますが、完全に治す方法はわかっていません。
このため、症状が長期的に落ち着いて健康を取り戻した場合でも、再発の可能性があり、あらゆるアルコール摂取を避けつづける必要があります。
禁酒のために薬が必要になる場合もありますが、多くの場合は、社会的な支援、周囲の励まし、カウンセリングなどによってのりこえることができます。
アルコール依存症とアメ
リカ障害者法
アルコール依存症は障害か?
はい。
雇用機会均等委員会 (EEOC) や裁判の判例のほとんどは、アルコール依存症はアメリカ障害者法 (ADA) の障害者の定義を満たすとしています。
ただし、飲酒が職務の遂行に悪影響を与えたり、「認められる」限度を越えて飲酒をしている場合は、指導、解雇、雇用の拒否などを行うことができます
例えば:
アルコール依存症患者が、アルコールの常習が原因で仕事が遅くなるということが頻繁にある場合、雇用主は、その職務遂行能力の低さを理由に懲戒処分とする
ことが可能です。 ただし、同程度の職務能力を持つ他の従業員がいる場合、飲酒を理由にアルコール依存症の従業員を解雇することはできないでしょう。
(A Technical Assistance Manual on the
Employment Provision (Title I) of the Americans with Disabilities
Act、Equal Employment Opportunity Commission、January 1992:http://www.jan.wvu.edu/links/ADAtam1.html)
環境整備として飲酒を許可しなければならないか?
いいえ。
アメリカ障害者法は職場での飲酒を禁止したり、酔った状態で仕事をしないよう要求することができると、はっきりと定めています。
職場での飲酒がないかどうか確認することも認められており、アルコールの摂取を禁止するキャンペーンの実施も禁止していません。
(A Technical Assistance Manual on the
Employment Provision (Title I) of the Americans with Disabilities
Act、Equal Employment Opportunity Commission、January 1992:http://www.jan.wvu.edu/links/ADAtam1.html)
アルコールテストはアメリカ障害者法の定める医学検査に当たるか?
はい。
飲酒の有無をチェックするための血液、尿、呼気の分析は医学検査と考えられており、アメリカ障害者法の規制対象となります。
EEOCによると、雇用者が障害について質問したり、医学検査を求めたりする権限は雇用前、雇用決定後、雇用開始後の3段階で変化します:
雇用前、雇用決定後、雇用開始後。
最初の段階 (雇用前) では、仕事に関係する内容であっても、障害についての質問や医学検査の要求は、すべてアメリカ障害者法で禁じられています。
次の段階 (雇用契約を結んでいるが、仕事を開始していない状態) では、同じ職種に就く予定の労働者全員に対して行う場合に限り、仕事に関係あるかどうかに
関わらず、障害について質問したり、医学検査を求めたりすることができます。
最後の段階 (雇用開始後) では、職務上必要な場合に限り、障害について質問したり、医学検査を求めたりすることができます。
また、酒に酔った状態での勤務を禁止する規則を作ったり、酒に酔った状態で勤務していると判断するに
足る合理的な理由がある場合は、アルコールテストを行うことができます。
(Enforcement Guidance on Disability-Related
Inquiries and Medical Examinations of Employees under the Americans
with Disabilities Act、Equal Employment Opportunity Committee、July 2000:http://www.eeoc.gov/policy/docs/guidance-inquiries.html)
アルコールのリハビリテーションのために休職していた労働者が職場復帰した場合、定期的なアル
コールテストを実施することは可能か?
はい.EEOCは「定期的なテストをしないと具体的な問題が生じるという、客観的な証拠に基づいた合
理的な判断がある場合に限る」としています。
この合理的な判断とは、それぞれの患者や患者の役職に合わせた評価でなくてはならず、一般的な通説に従ったものであってはなりません。
定期的なテストに「ラストチャンス」合意を適用することも可能です。
定期的なアルコールテストを実施するかどうかの判断には、 (「ラストチャンス」の合意がない場合) 労
働者の職務に伴なう安全上のリスク、職務を遂行できない場合や職務遂行能力が低下した場合の影響、具体的な問題が生じると判断するに至った経緯 (たとえ
ば、雇用期間の長さ、リハビリテーションが終わった時期、過去にアルコール依存症が再発したことがあるかなど) について考慮する必要があります。
また、テストの継続期間と頻度は、具体的な安全問題の解決を目的に決定する必要があり、嫌がらせ、脅し、能力の低下に対する処罰などを目的に行ってはなり
ません。
アルコールテストで繰り返し陰性の結果が出た場合、具体的な問題が生じるという判断は合理的な根拠を失うので、テストの継続は職務上の必要なものとは言え
なくなります。
例A:
ある市バスの運転手は、採用後3カ月後に上司にアルコール依存症であることを伝え、休職してリハビリテーションを受けるよう命じられた。
彼は最近、離婚のストレスを和らげるために、就寝前にビールを2杯飲むようになったが、それまで10年以上の間禁酒していたと話した。
リハビリテーションとカウンセリングを4ヶ月受けた後、彼は職場復帰が可能になった。
バスの運転業務には安全性の問題があること、雇用期間がまだ短いこと、リハビリが終了して間もないことなどから、職場復帰後頻繁に定期アルコールテストを
行うことは、職務上必要なことであると言えます。
例B:
ある弁護士は、合宿制のアルコール依存症治療プログラムを受けるための6カ月間休職し、その後職場復帰が可能になった。
彼女の上司は、飲酒を再開していないかをチェックするために、定期的なアルコールテストを実施したいと考えている。
彼女が具体的な問題を起こすという証拠がないため、定期的なアルコールテストが職務上必要なことだとは言えません
(Enforcement Guidance on Disability-Related
Inquiries and Medical Examinations of Employees under the Americans
with Disabilities Act、Equal Employment Opportunity Committee、July 2000:http://www.eeoc.gov/policy/docs/guidance-inquiries.html)
アルコール依存症患者へ
の環境整備の検討
(注意:
アルコール依存症患者において以下の機能障害や症状の一部、場合によっては全部が進行することがあります。 機能障害は患者によってさまざまです。
アルコール依存症患者すべてが職務遂行に環境整備を必要とするわけではなく、必要な場合も、ごく簡単なものが大半であることに注意してください。
以下は考えられる可能性のほんの一例です。 これ以外にも環境整備法は無数にあります。)
労働時間の問題:
治療のための有給および無給休暇の取得を認める
カウンセリングを受けるため、有給および無給休暇の取得や柔軟な勤務スケジュールを認める
自分のペースでの勤務スケジュールもしくは1日ごとのスケジュール調整を認める
集中力の維持:
職場から気を散らす要因を取り除く
職場に囲いを設置するか、プライベートオフィスを用意する
勤務時間が乱れないような勤務計画
頻繁に休みを取ることを認める
大きな職務は複数の小さな職務や段階に分ける
必要最低限の職務機能だけを含むように、職務を再編する
計画的な行動および締め切り遵守の困難:
事務的なサポートを行う
To Doリストを毎日作成する
電子手帳を利用する
最新のスケジュールを表にしておく
重要な締め切りは何度も確認する
毎週上司とのミーティングを行って、目標を設定したり疑問点を解決したり、仕事の進み具合を確認したり
する
自分の責任と、それを果たせない場合どうするかを簡潔な書面にしておく
長期目標と短期目標をそれぞれ書面にしておく
ストレスの制御の問題:
誉めたり、肯定的な情報を与える
カウンセリングや労働者支援プログラムに相談する
勤務スケジュールの変更を認める
頻繁に休みを取ることを認める
職務に関連する社会的付き合いを持つことを強制しない
勤務中の体力維持:
柔軟な勤務スケジュールを認める
通常より長いあるいは頻繁な休憩を認める
会社が実施する健康プログラムへの参加を推奨する
問い合わせ先リスト
(完全なリストではありません)