国際パーキンソン基金の試算によると、150万人にのぼるアメリカ人がパーキンソン病
(Parkinson's Disease:PD) にかかっており、多発性硬化症と筋ジストロフィーの患者を合わせたよりも多くなります。
患者のうち15%は50歳以前にパーキンソン病の診断を受けていますが、一般にパーキンソン病は老人がかかる病気であると考えられています。
60歳以上の人の100人に1人がパーキンソン病患者です。
現在、多くの人がパーキンソン病を抱えながら生活し働いています。
その結果、被雇用者の中に占めるパーキンソン病患者の割合が増加しています。
このことに加えて、アメリカ障害者法もパーキンソン病患者への職場環境整備について知ることがいかに重要であるかを示しています。
パーキンソン病患者への環境整備を考えるとき、そのプロセスは個別対応を基本に管理しなければなりま
せん。
パーキンソン病の症状は多様なので、効果的な環境整備を選択するには、その人固有の能力と障害の程度を考慮し、問題のある業務を特定すべきです。
そのため、患者本人がプロセスに参加することが望まれます。
すべてのパーキンソン病患者が職務遂行に環境整備を必要とするわけではありませんし、必要な場合も、
ごく簡単なものが大半です。
環境整備を必要とする人たちについては、以下に一般的な機能障害、症状、考慮すべき問題点、考えられる環境整備法についての基本情報を提供します。
これは参考例に過ぎません; この他にもたくさんの解決法や検討材料があります。
この文書には、さらに詳しい情報が必要な場合のための問い合わせ先リストがあります。
パーキンソン病
パーキンソン病に関する以下の情報は、いくつかの出典 (とくに国際パーキンソン基金によるもの) から
編集したもので、出典の多くは問い合わせ先リストに列挙してあります。 この情報は、医学的な助言を意図したものではありません。
医学的助言が必要な場合は適切な医療専門家に相談してください。
パーキンソン病とは?
パーキンソン病とは慢性的な神経症状で、1817年にこの症状を初めて発表した、ロンドンの外科医
James Parkinson博士にちなんで名づけられました。
パーキンソン病は、中脳の中の、黒質と呼ばれる小さな部分に影響を与える、遅進行性の病気です。
この部分が漸進的に変性することによって、生存に必要な化学物質として知られる「ドーパミン」の減少を引き起こし、パーキンソン病になるのです。
パーキンソン病の症状は?
パーキンソン病によるドーパミンの減少が引き起こす症状のうち、もっとも顕著なものには、1) 安静時
振せん、2) 全般におよぶ動作の鈍さ (運動緩徐) 、3) 四肢のこわばり (硬直) 、4) 歩行もしくは平衡障害 (姿勢維持障害) があります。
他の症状には以下のようなものがあります:
小さくひきつった文字での書字 (小書症) 、患部側の腕がうまく振れない、無表情になる (ヒポミミア) 、声が小さくなる (構語障) 、抑うつ感や不安感、歩き
始めるときに「足をとられる」感じがする症状 (「フリージング」という) 、患部側の足の軽い引きずり、ふけの増加ないし油性肌、まばたきないし嚥下頻度の
低下などを初めとする症状が考えられる。
パーキンソン病の原因は?
パーキンソン病の原因はわかっていません。
初期のパーキンソン病患者のほとんどは、特発性 (正確な原因がわからないという意味) の患者です。
事故、外科手術などの外傷、過度の精神的苦痛などが関わっている場合がありますが; ほとんどの神経学者は直接的な引き金はないと考えています。
研究の結果、外傷は発症を早めるようですが、本当の原因ではないようです。
脳でのドーパミンの代謝を阻害する薬物という、もうひとつの発症原因もあり、そういった薬物の持続的な使用によってパーキンソン病の症状が起こることもあ
ります。
どのような人がパーキンソン病にかかるのか?
パーキンソン病の発症率が高い家族など、個別的な例はありますが、現在のところ、特発性パーキンソン
病を引き起こす本当の原因を特定するような研究結果はありません。
国立保険研究所が主催した、一卵性双生児におけるパーキンソン病の初期研究では、遺伝的な引き金は発見されませんでした;
しかしながら、現在は研究データを見直し中であり、パーキンソン病の本当の疾病素質の有無を調べるため、この他にも研究が行われています。
パーキンソン病はどのように進行するのか?
パーキンソン病は普通、片方の腕が震えるという症状から始まります。
持続性の震えが、やがて半身の動きの遅れやこわばりを伴なうようになります。
症状が進むと、最初に発症した半身よりは程度が軽いのがほとんどですが、もう片方の半身にも機能障害を覚えるようになります。
精密動作障害から、高度な複合動作を要する手や指の運動が、遅くなったり困難になったります。
患部側の足の軽い引きずりや、流砂の中を歩いているような感覚を覚えることもあります。
歩幅が狭くなったり、ときには歩き始めに「フリージング」が起きます。 声が小さくなったりかすれたりすることもあります。
多くの患者が、歩行ないし平衡障害、戸口や狭い通路の通過の困難、千鳥足、方向転換時のバランスの不安定などを起こします。
パーキンソン病の治療法は?
パーキンソン病の症状の多くは、投薬によって抑制できます。
レボドパ (L-ドパともいう) という抗パーキンソン病の劇薬 (シネメト錠の成分になっているほか、レボドパ錠という名前の薬も出ている) が、唯一、パーキ
ンソン病の症状の緩和に大きな効果のある薬です。 L-ドパは、脳内でドーパミンに変化する、短時間作用性の薬品です。
レボドパは、「カルビドパ」という、脳内でのL-ドパの働きを助け、悪心などの副作用を最小限に抑える薬と組み合わせて使用します。
低用量シネメトは、パーキンソン病の症状が通常の活動を妨げることが原因で、患者が一定の不自由をきたすようになった時点で投与を開始します。
ほとんどの場合長期的に持続した効果が得られますが、最大の効果が得られるのは投与開始後数年間です。
長期投与の場合、患者によっては薬効の持続時間が次第に短くなることがあります。
このほかにも、パーキンソン病治療に (単独薬ないし併用薬として) 用いられる薬品があります。
そういった薬の多くは、効果的である一方、口渇、視覚のぼやけ、尿閉、便秘などの副作用があります。
治験における新薬投与も、パーキンソン病治療の選択肢を広げます。
新薬は単独薬ないし併用薬として用い、他の薬の薬効を高めたり、症状を改善する効果を持つ可能性があります。
しかしながら、現在のところ病気そのものを防いだり直したりするということがわかっている薬品はありません。
理学療法、作業療法、言語療法、カウンセリングなどにも、患者が効果的なコミュニケーションを行うのを助け、日常生活を支障なく送れるよう維持する効果が
見込めます。
職場環境整備において考
慮すべき問題
どのよ
うな症状や機能制限が見られるのか?
症状や
機能制限は患者ないし患者の職務機能にどのような影響を与えているのか?
症状や
機能制限のために特に問題が出る職務は何か?
問題を
避けるために、どのような環境整備が利用可能か? 環境整備の候補案を決定する際に、Job Accommodation
Networkなどのリソースはすべて活用されているか?
環境整
備案について、患者本人と相談したか?
環境整
備を実行に移した後、患者が環境整備の効果を評価し、追加の環境整備が必要かどうか判断する機会を与える機能は働いているか?
上司や
他の労働者には、パーキンソン病、その他の機能障害、アメリカ障害者法などについて、講習が必要か?
パーキンソン病患者への環境
整備の検討
(注意:
パーキンソン病患者において以下の機能障害や症状の一部、場合によっては全部が進行することがあります。 機能障害は患者によってさまざまです。
パーキンソン病患者すべてが職務遂行に環境整備を必要とするわけではなく、必要な場合も、ごく簡単なものが大半であることに注意してください。
以下は考えられる可能性のほんの一例です。 この他にもたくさんの解決法や検討材料があります。)
精密動作:
人間工
学に基づいた職場設計をする
ひじ掛
けの導入
コン
ピュータ操作方法の変更もしくはキーガードの用意
電話機
の操作方法の変更
書字補助
具、握り補助具の導入
ページめく
り機や書見台を用意する
筆記助
手を手配する
粗大動作:
歩く機
会を減らすか、電動車いすなどの移動手段を用意する
職場近
くに駐車場を確保する
出入り
をしやすくする
自動ド
アを取り付ける
他の作業場
所への移動が容易な通路を確保する
他の作
業場所、オフィス機器、休憩室などの近くに座席を移動する
疲労および衰弱:
肉体の
酷使やストレスを避ける
定期的
に休憩時間を設けて職場から離れる
柔軟な労働
時間と勤務外時間の利用を認める
自宅勤
務を認める
物品が
手の届く範囲にあるかどうか確認する
会話:
拡声器
などのコミュニケーションツールを用意する
電子
メールやファックスなどの視覚コミュニケーションを利用する
コミュ
ニケーションをあまり必要としない部署に配置転換する
定期的
な休憩時間を認める
治療の許可:
柔軟な
勤務スケジュールを認める
柔軟な
休暇取得を認める
自分の
ペースでの職務負担と、柔軟な勤務時間を認める
自宅勤
務を認める
パート
タイムの勤務スケジュールを認める
抑うつと不安:
気を散
らす要因を減らす
To
Doリストを用意し、指示を書面で与える
重要な
締め切りや会議については、何度も確認する
カウン
セリングのための休暇を認める
責任分
担や業績評価について、何が求められるのかを明確にする
同僚の
意識向上のための講習を行う
ストレ
ス対処法の実践のために休憩を取ることを認める
事前に問題
解決の計画を立てておく
勤務中
に、医師などに支援を求める電話をすることを認める
カウン
セリングや被雇用者支援計画に関する情報を提供する
認知障害:
可能で
あれば、職務上の指示を書面で与える
職務を
重要度で分ける
柔軟な
スケジュールを認める
息抜きのた
めの定期的な休憩を認める
手帳や
電子手帳などの記憶補助機器を用意する
気を散らす
要因を最小限におさえる
自分の
ペースでの職務負担を認める
ストレ
スを軽減する
制度を
充実させる
日常生活活動:
付き添
い介助人の利用を認める
介助動
物の利用を認める
機器が
利用可能であることを確認する
休憩室
の近くに座席を移動する
通常よ
り長い休憩を認める
適切な
公共サービスに相談する
機器
機能障害を持つ人々への環境整備に利用可能な機器は、数多くあります。JANの検索機能付きオンライ
ン環境整備 (SOAR) <http://www.jan.wvu.edu/soar>
で、さまざまな環境整備の可能性を探索できます。多くの機器取り扱い業者リストにアクセスできます;
しかしながら、JANではウェブサイトで利用できるもののほかにもたくさんのリストを用意しています。
特別な環境整備条件がある場合、特別な機器を探している場合、取り扱い業者の情報が必要な場合、医師への紹介状を請求する場合は、JANに直接問い合わせ
てください。
パーキンソン病患者への環境
整備の例
パーキンソン病と手の震えを抱えるある秘書は、キーボードの使用、筆記、マウスの操作、ファイリング
作業が困難であった。 キーガード、タイピング補助具、ページめくり、ファイル開きによって環境整備をした。
ある管理職員は疲労への対処に困難を抱えていた。
会社側は寝台付きの個人用休憩室を用意し、一日中いつでも休憩が取れるようにした。
ある事務員は、職場内での歩行、ファイル棚の前に立つ、ファイルを運ぶといった職務に必要な身体条件
を満たすことが困難であった。 かご付きの電動電動車いすと座位/立位補助いすによって環境整備をした。
あるパーキンソン病患者の技術者は、職務への集中が困難であった。
担当の上司は、可能な場合には書面による指示を与え、定期的な休憩をとることを認めた。
さらに、計画的に防音板を設置して気を散らす要因を最小限に抑えた、部屋の隅の席に移動させた。
パーキンソン病を抱えるあるカスタマーサービス部門責任者は、マウスの操作、筆記、会釈のための起
立、効果的なコミュニケーションが困難であった。 トラックボール、書字補助具、上下クッション付きいす、拡声器によって環境整備をした。
ある技術コンサルタントは、疲労のため、午後になるとコンピュータの操作が困難であった。
音声認識装置と人間工学に即した座席によって環境整備した。
けいれんと疲労症を抱えるある事務補助員は、職務に必要なすばやいタイピングが困難であった。
気を散らす要因を減らすために座席を移し、柔軟なスケジュールを認めた。
ワープロソフトにマクロを組み込んでキータイプを減らし、さらに音声認識ソフトを用意した。
パーキンソン病を抱えるあるコンサルタントは、時間どおりに出勤することが困難であった。
柔軟なスケジュールにより環境整備を行い、公共交通手段を利用できるようになった。
パーキンソン病を抱えるある教員は、黒板の前に立ってものを書くことが困難であった。
電動車いすとラップトップPCプロジェクターによって環境整備をした。
これによって、コンピュータとプロジェクタを使って、座ったまま生徒に情報を与えることができるようになった。
あるエンジニアは職務への集中とコミュニケーションが困難であった。
気を散らす要因のない、静かなオフィスによって環境整備をした。 さらに、上司は定期的な休憩をとる方針を採用し、書面での確認と指示を実践した。
コミュニケーション機器も用意した。
問い合わせ先リスト
(完全なリストではありません)