Myasthenia Gravis Foundation of
Americaによると、アメリカ人10万人のうちおよそ14人が重症筋無力症 (myasthenia
gravis (MG) ) 患者であるということです。
しかしながら、この比率だとアメリカ全体で36,000人しか患者がいないことになり、実際の罹患率はこれよりもはるかに高いと考えられます。
以前の調査では、男性よりも女性の方が重症筋無力症にかかりやすいという傾向がありました。
発症が最も多い年齢は、女性では10歳から30歳まで、男性で60歳から80歳までの間です。
年齢別の人口としては、発症年齢からだんだん患者数が増えていきます;
現在では男性の方が女性よりも患者数が多いとされており、発症は50歳以降が普通です。
現在、多くの人が重症筋無力症を抱えながら生活し働いています。その結果、被雇用者の中に占める重症
筋無力症患者の割合が増加しています。
このことに加えて、アメリカ障害者法も重症筋無力症患者への職場環境整備について知ることがいかに重要であるかを示しています。
重症筋無力症患者への環境整備を考えるとき、そのプロセスは個別対応を基本に管理しなければなりませ
ん。
重症筋無力症の症状は多様であるため、効果的な環境整備を選択するには、その人固有の能力と障害の程度を考慮し、問題のある業務を特定すべきです。
そのため、患者本人がプロセスに参加することが望まれます。
すべての重症筋無力症患者が職務遂行に環境整備を必要とするわけではありませんし、必要な場合も、ご
く簡単なものが大半です。
環境整備を必要とする人たちについては、以下に一般的な機能障害、症状、考慮すべき問題点、考えられる環境整備法についての基本情報を提供します。
これは参考例に過ぎません; この他にもたくさんの解決法や検討材料があります。
この文書には、さらに詳しい情報が必要な場合のための問い合わせ先リストがあります。
重症筋無力症
重症筋無力症に関する以下の情報は、いくつかの出典 (とくにMyasthenia Gravis
Foundation of America) から編集したもので、出典の多くは問い合わせ先リストに列挙してあります。 基礎的な情報はDr.
James F. Howard、Jr.の「Myasthenia Gravis-A Summary」<
http://www.myasthenia.org/information/summary.htm>から編集されています。また、こ
の情報は医学的助言を意図したものではありません。 医学的助言が必要な場合は適切な医療専門家に相談してください。
重症筋無力症 (MG) とは?
重症筋無力症は神経筋接合部を冒す免疫疾患で随意筋の麻痺を引き起こします。
英語ではmyasthenia gravisといい、「重症の筋肉麻痺」という意味のラテン語とギリシャ語に由来する慢性疾患です。
重症筋無力症は後天性の免疫異常から起きるのが普通ですが、神経筋接合部の遺伝的な異常から起きることもあります。
ここ20年で、重症筋無力症の病態生理学および免疫病理学的研究が大きく進歩しました。
以前は比較的研究の遅れた分野でしたが、現在ではもっとも研究の進んだ自己免疫疾患となっています。
有効性の見こまれる治療法がいくつも発見されていますが、その多くは他の自己免疫疾患にも応用可能なものです。
重症筋無力症の症状は?
典型的な重症筋無力症の症状は、徐々に筋力が低下するというもので、筋肉を使うと悪化し、部分的にで
もその筋肉を休めると回復します。 随意筋もしくは横紋筋と呼ばれる筋肉が影響を受けます。
心臓の不随意筋や、腸、血管、子宮などの平滑筋は影響を受けません。
普段から常に動かしている筋肉、たとえば眼球を動かしたりまぶたを開いたりするための6つの筋肉などが、重症筋無力症の影響を受けやすい筋肉です。
顔の表情を作ったり、笑ったり、噛んだり、話したり、飲み込んだりする筋肉に、部分的な症状が出る場合もあります。
首や手足の筋肉も影響を受けることがあります。
重症筋無力症は痛みがないと言われていますが、頭を支えている首の筋肉が弱くなり、けいれんが起こると、首や頭に痛みが生じることがあります。
左右対称の手足の筋力低下は、重症筋無力症以外の神経や筋肉の疾患で生じることがよくありますが、重症筋無力症の場合、手足の筋力低下は左右対称ではあり
ません (一方により重い症状が出る) 。 肩、手、尻、足などで、片方が反対側より弱くなります。
重症筋無力症の「gravis (重症さ) 」は、呼吸を司る筋肉が冒されたときわかります。
呼吸やせきが十分にできなくなることを「クリーゼ」と言い、病院での人工呼吸器の使用が不可欠になります。
クリーゼの原因はさまざまですが、どのようなクリーゼであっても、治療法が人工呼吸であることには変わりがないので、それが「筋無力性クリーゼ」 (重症筋
無力症による筋肉の麻痺が原因) なのか「コリン作動性クリーゼ」 (抗コリンエステラーゼ剤の過剰投与が原因) なのかを見分けようとしてもあまり意味はあり
ません。 嚥下や会話に困難がある場合、たいてい呼吸にも困難があります。
通常、クリーゼが起こる前には、嚥下、会話、呼吸などの働きが徐々に弱まるという兆候があります。
重症筋無力症では患者によって症状が現れる筋肉も異なります。
眼筋と眼の周辺の筋肉に症状が出る眼筋無力症もあれば; 嚥下障害や発話障害がおもな症状である場合もあり;
多数の筋肉に影響が出る全身性の重症筋無力症もあります。
特定の筋肉が疲労するのが重症筋無力症の特徴ですが、患者が全身の疲労を訴えることが少なくありません。
発症時には眼筋無力症だけがあらわれていた患者で、症状が眼以外に広がらないのはおよそ15%です。
重症眼筋無力症患者の約半数が発症から1年で、30%が2年で他の筋肉にも症状が広がります。
症状の広がりは、発症後5年から7年くらいまでで終わるのが普通で、その後は進行しない傾向がありま
すが、症状の出る筋肉や麻痺のしやすさには、時間や日によって変動があります。
一般に、治療を受けないと、起床後や仮眠の後には調子がよくても、時間が経つにつれて筋力が弱まっていきます。
呼吸困難になった場合には、速やかに治療を行わなければ命に関わる病気ですが、適切な治療を受ければ、通常の生活を送ることが可能です。
どのような人が重症筋無力症かかるのか?
重症筋無力症は、世界中のあらゆる人種の人に見られる病気です。
女性は出産期に、男性は中年期に発症することが多いのですが、誕生直後から90代までどの年齢でも発症します。
まれに、重症筋無力症ではない母親から生まれた子供に、神経筋伝達物質の遺伝的欠損による筋無力症の症状が見られることがあります。
このような場合、子供は遺伝的な筋無力症であると言われています。
しかしながら、重症筋無力症の原因の大多数は自己免疫 (身体の免疫系が、筋肉の表面のあるタンパク質
を、外敵と誤解して攻撃し、破壊してしまう) によるものです。
あるタンパク質と言うのは、神経が興奮すると出てくるアセチルコリンという化学物質に反応するタンパク質です。
この反応によって、筋肉の収縮を生じるプロセスが始まります。 このタンパク質のことをアセチルコリン受容体と呼びます。
アセチルコリン受容体のうちいくつかが欠けると、神経刺激に対する筋肉の反応が鈍くなり、動きが悪くなります。
自己免疫型重症筋無力症を持つ母親から生まれた子供の12%が、泣き方が弱かったり、母乳を吸う力が
弱かったり、呼吸が苦しそうだったりしますが、これらの「元気のなさ」は、抗コリンステラーゼ剤を処方したり、血液交換をしたりすることで改善します。
この新生児型重症筋無力症の症状は、生まれてから数カ月で自然に消え、自己免疫型重症筋無力症の母親から生まれた子供に起きる自己免疫型重症筋無力症の詳
細な症例はありません。
重症筋無力症、甲状腺疾患、膠原病等、リウマチ様関節炎、若年性糖尿病などの自己免疫疾患は遺伝しま
すが、それらの疾患が起こる家系は、統計的に (ばらつきはありますが) 共通の組織マーカーを持っています。
今日、高い効果が期待される自己免疫疾患の実験的治療が、このようなマーカーの存在を基に研究されています。
重症筋無力症の治療法は?
休息とバランスのとれた食事が筋力の回復を助けます。
できれば、オレンジ、トマト、アプリコットやそのジュース、バナナ、ブロッコリー、鶏のホワイトミートなど、カリウムを多く含む食品を多く取るといいで
しょう。 可能であれば、感染症の危険とストレスをさけるようにしましょう。
不必要な疲労をさけるために、自分のペースで活動する必要があります。
例として、1時間ごとに数分目を閉じて目を休めたり、一日に何回か横になったりすることが挙げられます。
重症筋無力症の症状は患者によって異なるので、調子のよい時間を最大限に利用できるようなスケジュールを組むのがよいでしょう。
感染症 (風邪、肺炎、歯肉の腫れ) 、発熱、暑さや寒さ、過労、ストレスなどさまざまな原因で、一時的
に筋無力症が悪化することがあります。 女性の場合、月経周期の特定の期間、妊娠中、出産後などに、重症筋無力症の症状が悪化することがあります。
利尿剤の使用や頻繁な嘔吐によって体内のカリウムが減少したときに、甲状腺機能の亢進や低下によって、重症筋無力症の調子が悪くなることもあります。
手術や放射線治療のようなストレスで重症筋無力症が悪化することもあります。
妊娠が重症筋無力症におよぼす影響は「三分の一の法則」に基づいています:
妊娠によって3分の1が改善し、3分の1が悪化し、3分の1が変化しないということです。
以前の妊娠での経験から、その次の妊娠での変化が予測できるわけではありません。 重症筋無力症は、妊娠中に症状が現れはじめることがよくあります。
抗コリンエステラーゼ剤や副腎皮質ステロイドなど、一般的な重症筋無力症の治療に用いられる薬品には、先天性障害に関する大きな危険性はありませんし、血
漿交換法であれば、妊娠中でも安全に実施できます。
子宮 (平滑筋) は筋無力症の影響を受けないため、出産に関して重症筋無力症に伴う障害はあまりありません。
唯一、出産の第2ステージで随意「横紋」腹筋が用いられるときに、筋無力症が問題になることがあります。
筋無力症ではない女性でも出産後にこの筋肉が弱くなることがあり、重症筋無力症の場合はそれがさらに強く感じられます。
重症筋無力症患者は、医師や歯科医師に、多くの薬物に重症筋無力症を悪化させる危険があることを伝え
ておく必要があります。
もっとも問題なのは、重症筋無力症の治療薬の投与です (過剰な抗コリンエステラーゼ、ステロイド、甲状腺疾患治療薬など:下記参照) しかし、他にも麻酔
薬、筋弛緩薬、マグネシウム塩、抗けいれん薬、不整脈の治療に用いられる膜安定化薬、アミノグリコシド系抗生物質などの摂取も、一般に重症筋無力症を悪化
させると言われています。
職場環境整備において考
慮すべき問題
どのよ
うな症状や機能制限が見られるのか?
症状や
機能制限は患者ないし患者の職務機能にどのような影響を与えているのか?
症状や機能
制限のために特に問題が出る職務は何か?
問題を
避けるために、どのような環境整備が利用可能か? 環境整備の候補案を決定する際に、Job Accommodation
Networkなどのリソースはすべて活用されているか?
環境整
備案について、患者本人と相談したか?
環境整
備を実行に移した後、患者が環境整備の効果を評価し、追加の環境整備が必要かどうか判断する機会を与える機能は働いているか?
上司や
他の労働者には、重症筋無力症、その他の機能障害、アメリカ障害者法などについて、講習が必要か?
重症筋無力症疾患への環境整
備の検討
(注意:
重症筋無力症患者において以下の機能障害や症状の一部、場合によっては全部が進行することがあります。 機能障害は患者によってさまざまです。
重症筋無力症患者すべてが職務遂行に環境整備を必要とするわけではなく、必要な場合も、ごく簡単なものが大半であることに注意してください。
以下は考えられる可能性のほんの一例です。 この他にもたくさんの解決法や検討材料があります。
環境整備を実施する前に、この疾患を専門とする医師に相談することが必要となることもあります。)
疲労および衰弱:
肉体の酷使
やストレスを避ける
定期的
に休憩時間を設けて職場から離れる
柔軟な
労働時間と勤務外時間の利用を認める
自宅勤
務を認める
徒歩に
よる移動が必要な場合は、電動車いすなどの移動装置を支給する
視覚障害:
活字の
大きな印刷物や、画面読み取りソフトウェアを用意する
コンピュー
タの画面にちらつき防止フィルタを取り付けて、ちらつきを抑える
職場の
照明を調整する
頻繁な
休憩を認める
手持ち式/
スタンド式/光学式の拡大鏡で印刷物を拡大する
左右の
眼を交替で使うようにする
言語障害:
拡声器
などのコミュニケーションツールを用意する
電子メール
やファックスなどの視覚コミュニケーションを利用する
コミュニ
ケーションをあまり必要としない部署に配置転換する
定期的
な休憩時間を認める
精密動作障害:
人間工
学に基づいた職場設計をする
コン
ピュータの操作方法を変更する
ひじ掛
けの導入
書字補
助具、握り補助具の導入
ページめく
り機や書見台を用意する
筆記助
手を手配する
粗大動作障害:
職場近
くに駐車場を確保する
自動ド
アを取り付ける
人間工
学に配慮する
機器や物品
が手の届く範囲にあることを確認する
他の作
業場所、オフィス機器、休憩室などの近くに座席を移動する
重症筋無力症患者への環境整
備の例
ある教員は、重症筋無力症患者で、筋肉の疲労のために、職務に必要な身体条件を満たすことができな
かった。 フルタイムの補助教員を手配し、頻繁に利用する機器を座席の近くに移動し、勤務中に短い休憩を取ることを許可して環境整備をした。
ある配達員は、重症筋無力症による下半身の麻痺のため、荷物の積み下ろしに支障があった。
身体的な負担の少ない配送ルートに転属して環境整備をした。
ある事務員は、重症筋無力症患者で、呼吸困難、発話障害、歩行困難などにより、職務に集中できな
かった。 部分的な自宅勤務を認め、電子メールで連絡をとることで環境整備をした。
ある管理職員は、重症筋無力症患者で、ストレスへの対処に支障があり、複視の障害もあった。
休憩をとることを認め、助手と読み上げ補助者を手配して環境整備をした。
ある医療関係者は、歩行が困難だった。
病院の近くに駐車場を確保し、職場内で利用する電気スクーターを用意して環境整備をした。
機器
機能障害を持つ人々への環境整備に利用可能な機器は、数多くあります。
JANの検索機能付きオンライン環境整備 (SOAR) <http://www.jan.wvu.edu/soar>
で、さまざまな環境整備の可能性を探索できます。 多くの機器取り扱い業者リストにアクセスできます;
しかしながら、JANではウェブサイトで利用できるもののほかにもたくさんのリストを用意しています。
特別な環境整備条件がある場合、特別な機器を探している場合、取り扱い業者の情報が必要な場合、医師への紹介状を請求する場合は、JANに直接問い合わせ
てください。
問い合わせ先リスト
(完全なリストではありません)