筋ジストロフィー協会では、もっとも一般的な筋ジストロフィー (MD) である緊張性ジストロフィー患
者は、7000から8000人に1人であると見積もっています。
現在、多くの人がMDを抱えながら生活し働いています。その結果、被雇用者の中に占めるMD患者の割合が増加しています。
このことに加えて、アメリカ障害者法もMD患者への職場環境整備について知ることがいかに重要であるかを示しています。
MD患者への環境整備を考えるとき、そのプロセスは個別対応を基本に管理しなければなりません。
MDの症状は多様なので、効果的な環境整備を選択するには、その人固有の能力と障害の程度を考慮し、問題のある業務を特定すべきです。
そのため、患者本人がプロセスに参加することが望まれます。
すべてのMD患者が職務遂行に環境整備を必要とするわけではありませんし、必要な場合も、ごく簡単な
ものが大半です。
環境整備を必要とする人たちについては、以下に一般的な機能障害、症状、考慮すべき問題点、考えられる環境整備法についての基本情報を提供します。
これは参考例に過ぎません; この他にもたくさんの解決法や検討材料があります。
この文書には、さらに詳しい情報が必要な場合のための問い合わせ先リストがあります。
筋ジストロフィー
筋ジストロフィーに関する以下の情報は、いくつかの出典 (とくに筋ジストロフィー協会 (MDA) によ
るもの) から編集したもので、出典の多くは問い合わせ先リストに列挙してあります。 この情報は、医学的な助言を意図したものではありません。
医学的助言が必要な場合は適切な医療専門家に相談してください。
筋ジストロフィーとは?
MDはある種の進行性遺伝病の総称で、筋力の低下や筋肉の変質を引き起こすものを言います。
MDは筋肉を作るタンパク質の先天的な欠陥によって起こります。
これらのタンパク質のほとんどは、筋肉繊維の構造を支える役割をしていると見られるものです。
「筋ジストロフィー」という言葉は、進行性の虚弱や、運動をつかさどる骨格や筋肉の変質を特徴とする病気の一般的な名称です。
場合によっては、心筋などの不随意筋も、MDの影響を受けることがあり、その他の器官もまれに影響を受けることがあります。
異なる40種類の神経筋疾患があります;
筋ジストロフィーのおもな形態としては、筋緊張型、デュシャンヌ型、ベッカー型、肢帯型、顔面肩甲上腕筋萎縮、先天型、眼咽頭筋ジストロフィー、遠位型、
エメリー・ドライフス型などです。 上記の名前のうちいくつかは、患部の位置や最初に病気を定義した医師の名前をもとにしています。
上記9種類のMDのさらに詳しい特徴については、筋ジストロフィー協会のFacts About Muscular
Dystrophy (MD) を参照してください: <http://www.mdausa.org>。
筋ジストロフィーの原因は?
筋タンパク質遺伝子の欠陥によって、筋肉を維持し、筋肉にエネルギーを供給するのに必要な物質を、適
切な量だけ作り出すことができなくなるのが、MDの原因です。
遺伝子はすべて、その半分は母親から、もう半分は父親から、遺伝によって引き継がれます。
遺伝子の欠陥は、両親から遺伝する可能性に加え、子供の遺伝子に新たに発生することもあります。 専門用語で自然突然変異と呼びます。
親から子へと遺伝する場合には、さまざまなタイプが考えられ、以下の3つのパターンがあります:
1) 常染色体優性遺伝 (片方の親だけから欠陥遺伝子を受け継ぐ場合) 、2) 常染色体劣性遺伝 (両方の親から、同じあるいは似通った欠陥遺伝子を受け継ぐ場
合) 、3) 伴性劣性遺伝 (欠陥遺伝子がX染色体上にある場合) 。
筋ジストロフィーの症状は?
MD患者には、通常、拘縮が見られ、関節近くの筋肉の縮小を伴なうことが多くあります。
関節の位置が通常と変わる (場合によっては痛みを伴なう) ため、疲労や虚弱のほか、発話障害、粗大動作障害、精密動作障害が見られます。
さらに、側弯症や背骨のゆがみも多く見られます。
どのような人が筋ジストロフィーにかかるのか?
MDは、一般的には遺伝病ですが、近親者に病歴のあるものがいなくても、発症する例はあります。
すべての年齢層で発症の可能性があります。
幼少期に症状があらわれ始めるタイプのものもある一方、中高年になるまで症状が出てこないタイプのものもあります。
筋緊張型とデュシャンヌ型は、MDのなかでもっとも一般的なタイプのもので、男性に起こります。
男性は正常な遺伝子の「バックアップ」コピーである2本目のX染色体を持っていないため、伴性劣性遺伝によるMDにかかるのは、たいてい男性です。
女性は2本のX染色体を持っているので、もう1本の染色体にある正常な遺伝子が「バックアップ」コピーとして機能します。
伴性遺伝子に欠陥がある女性には、伴性遺伝子疾患は発症しないのが普通です。
しかしながら、疾患の因子を持っていることには変わりがなく、50%の確率で欠陥遺伝子を子供に伝えることになります。
この女性の娘は、それぞれ50%の確率で欠陥遺伝子を受け継ぎ、疾病の因子を持つことになります。
筋ジストロフィーの治療法は?
適度な運動プログラムと理学療法によって萎縮を最小限に抑えることが可能であり、側弯症の発症を防い
だり遅らせたりする運動法もあります。 筋肉の縮小を避けるために外科手術が有効な場合もあります。
さらに、患者によっては呼吸法の矯正が効果的な場合もあります。
コルチコステロイドという薬品が、デュシャンヌ型MDによる筋肉の変質を遅らせるということがわかっ
ています。
ただし、こういった強力な抗炎症剤 (MD以外の症状にも広く用いられる) には、体重増加、骨量の減少、白内障、皮膚の障害、高血圧、感染症にかかりやすく
なる、心理学的障害などの重い副作用があります。 現在、より副作用の少ないコルチコステロイドの研究が進められています。
デュシャンヌ型とベッカー型のMD患者の近親者のための、正確なタンパク質とDNAによる疾患因子検
出テストが考案されています。 他のタイプのMDに関する疾患因子テストは現在開発中です。
MDの予後は、MDのタイプと機能障害の進行程度によってさまざまです。
筋肉の衰弱や機能障害が著しく、歩行が困難な場合がある一方、機能障害が軽度で進行も非常に遅い場合には、通常の日常生活が可能です。
平均余命は、進行の速さと呼吸器障害の程度によって決まります。 デュシャンヌ型のMDでは、10代後半から20代前半に死亡するのが普通です。
職場環境整備において考慮すべき問題
どのよ
うな症状や機能制限が見られるのか?
症状や
機能制限は患者ないし患者の職務機能にどのような影響を与えているのか?
症状や
機能制限のために特に問題が出る職務は何か?
問題を
避けるために、どのような環境整備が利用可能か? 環境整備の候補案を決定する際に、Job Accommodation
Networkなどのリソースはすべて活用されているか?
環境整
備の候補案を決定する際に、利用可能なリソースはすべて活用されているか?
環境整
備を実行に移した後、患者が環境整備の効果を評価し、追加の環境整備が必要かどうか判断する機会を与える機能は働いているか?
上司や
他の労働者には、筋ジストロフィー、その他の機能障害、アメリカ障害者法などについて、講習が必要か?
MD患者への環境整備の検討
(注意:
MD患者において以下の機能障害や症状の一部、場合によっては全部が進行することがあります。 機能障害は患者によってさまざまです。
MD患者すべてが職務遂行に環境整備を必要とするわけではなく、必要な場合も、ごく簡単なものが大半であることに注意してください。
以下は考えられる可能性のほんの一例です。 この他にもたくさんの解決法や検討材料があります。)
日常生活活動:
付き添
い介助人の利用を認める
介助動
物の利用を認める
機器が
利用可能であることを確認する
休憩室
の近くに座席を移動する
通常よ
り長い休憩を認める
適切な
公共サービスに相談する
疲労および衰弱:
肉体の
酷使やストレスを避ける
定期的
に休憩時間を設けて職場から離れる
柔軟な労働
時間と勤務外時間の利用を認める
自宅勤
務を認める
人間工
学に基づいた職場設計をする
粗大動作:
徒歩に
よる移動が必要な場合は、電動車いすなどの移動装置を支給する
職場近
くに駐車場を確保する
出入り
をしやすくする
自動ド
アを取り付ける
他の作業場
所への移動が容易な通路を確保する
物品が
手の届く範囲にあるかどうか確認する
他の作
業場所、オフィス機器、休憩室などの近くに座席を移動する
精密動作障害:
コン
ピュータの操作方法を変更する
電話機
の操作方法の変更
ひじ掛
けの導入
書字補助
具、握り補助具の導入
ページ
めくり機や書見台を用意する
筆記助
手を手配する
治療の許可:
柔軟な
勤務スケジュールを認める
自分の
ペースでの職務負担と、柔軟な勤務時間を認める
自宅勤務を
認める
パート
タイムの勤務スケジュールを認める
言語障害:
拡声器
などのコミュニケーションツールを用意する
電子
メールやファックスなどの視覚コミュニケーションを利用する
コミュ
ニケーションをあまり必要としない部署に配置転換する
定期的
な休憩時間を認める
ストレス:
事前に
問題解決の計画を立てておく
同僚に
意識向上のための講習を行う
勤務中
に、医師などに支援を求める電話をすることを認める
カウン
セリングや被雇用者支援計画に関する情報を提供する
機器
機能障害を持つ人々への環境整備に利用可能な機器は、数多くあります。JANの検索機能付きオンライ
ン環境整備 (SOAR) <http://www.jan.wvu.edu/soar>
で、さまざまな環境整備の可能性を探索できます。多くの機器取り扱い業者リストにアクセスできます;
しかしながら、JANではウェブサイトで利用できるもののほかにもたくさんのリストを用意しています。
特別な環境整備条件がある場合、特別な機器を探している場合、取り扱い業者の情報が必要な場合、医師への紹介状を請求する場合は、JANに直接問い合わせ
てください。
MD患者への環境整備の例
あるMD患者のエンジニアは、頻繁に使用するファイルをつかむことが困難であった。
卓上カルーセルによって環境整備をした。
あるMD患者の学生はコンピュータの使用に支障があった。
マジックワンドキーボード (小型キーボード) とマウスによって環境整備をした。
このキーボードは、スタイラス (ワンド) で軽く触れるだけで操作でき、筋力を必要とせずにキータイプできる。
あるMD患者の事務職員は、操作スティックで操作する電動車いすを利用しており、ドアの開閉が困難で
あった。 ドアの取っ手をつかむことができなかったのでドアの自動開閉器によって環境整備をした。
あるMD患者の医師は、診察の後立ち上がることが困難であった。
いすに起立補助用のクッションをとりつけて環境整備をした。
あるカウンセラーは、認知障害のため心理学的な評価を行うことが困難であった。
上司は、可能な場合には指示を書面で与え、容易に使用できるスケジューラーや電子手帳を用意した。
あるサービス員は、疲労のため終日勤務が困難であった。
持ち場を離れての定期的な休憩、柔軟な勤務スケジュール、柔軟な休暇取得、職場近くの駐車場、定期的な自宅勤務などによって環境整備をした。
あるMD患者のテクニカルライターは、座席周辺の物に手を届かせるのが困難であった。
フラットスクリーンモニタ、モニターアーム、キーボード台、キーガード、フットレスト、ヘッドホン、整理整頓したファイル入れなどによって環境整備をし
た。
あるMD患者の秘書は、精密動作障害のため、情報をコンピュータにタイピングすることに支障があっ
た。 音声認識装置によって環境整備をした。
あるMD患者の管理職員は、日常生活に支障があった。
職場で介助動物を利用することを認め、利用しやすい休憩室を用意した。
あるMD患者の法律家は、階段を上ることが困難であった。 階段リフトによって環境整備をした。
ある郵便物係の事務職員は、MDにかかっており、郵便物を座席まで運ぶのが困難であった。
台車によって環境整備をした。
あるMD患者のライターには、手に重度の筋力低下があり、キーボードのタイピングに支障があった。
力を入れずに操作できる小型キーボードによって環境整備をした。
問い合わせ先リスト
(完全なリストではありません)