アメリカ人のおよそ6180万人が何らかの心臓疾患を持っています: 高血圧は5000万人;
虚血性心疾患は1260万人; 鬱血性心不全は479万人; 心臓発作は460万人; そして、先天的な心臓血管障害は100万人にのぼります。
虚血性心疾患はアメリカ人の死亡原因で最も多く見られる疾患です、また、心臓関連の病気は深刻な、慢性障害の主な原因となっています。
これらの統計結果に加え、アメリカ障害者法 (ADA) も、心臓疾患を抱える人々への職場環境整備について知ることがいかに重要かを示しています。
心臓疾患患者への環境整備を考えるとき、そのプロセスは個別対応を基本に管理しなければなりません。
心臓疾患の症状は多様です。 効果的な環境整備を選択するには、その人固有の能力と障害の程度を考慮し、問題のある業務を特定すべきです。
そのため、患者本人が環境整備プロセスに参加することが望まれます。
すべての心臓疾患患者が職務遂行に環境整備を必要とするわけではありませんし、必要な場合も、ごく簡
単なものが大半です。
環境整備を必要とする人たちについては、以下に一般的な機能障害、症状、考慮すべき問題点、考えられる環境整備法についての基本情報を提供します。
これは参考例に過ぎません; この他にもたくさんの解決法や検討材料があります。
心臓疾患等
心臓疾患に関する以下の情報は、いくつかの出典から編集したもので、出典の多くは問い合わせ先リスト
に列挙してあります。 この情報は、医学的な助言を意図したものではありません。 医学的助言が必要な場合は適切な医療専門家に相談してください。
心臓の異常にはどんな種類があるのか?
アメリカ心臓協会によると、潜在的な心臓の異常には以下のようなものがあります:
アダムズ-ストークス病は、脈が弱くなるなど、心拍の乱れから来る一時的な異常で、けいれんを伴なうことがあります。
この場合、心房から心室へと連続してゆく正常な鼓動が阻害され、「心臓ブロック」と呼ばれる状態になります
心臓ブロックが起こると、通常、心拍数がかなり下がり、脳への血流が異常になり、失神を起こすことがあります。
後天性免疫不全症候群 (AIDS) 患者には、次のような心臓の異常が見られることがあります、心筋炎
(心臓の筋肉の炎症) ; 拡張型心筋症; 不整脈 (脈拍の乱れ) ; 心膜炎 (心臓を包む膜の炎症) ; 心内膜液 (心臓の回りにある体液) 浸出など。
動脈瘤 (血管や心臓の壁がはれ上がる) は、疾病、負傷などによる血管の壁の変質や、先天異常が原因でお
こることがあります。
動脈硬化には、コレステロールなどの脂肪質の物質、細胞の老廃物、カルシウム、繊維素 (血中の凝固物)
が動脈の内側にたまるものなどがあります。 動脈硬化は、プラーク (動脈の肥大や硬化の原因となる) の発生を引き起こすことがあります。
バクテリア性心膜炎は、心臓弁もしくは心臓の内側に起こる感染症の一種です。
この病気は血中のバクテリア (循環血液中に生菌が存在することを菌血症という) が、異常があったり損傷のある心臓弁やその他の心臓組織に住みつくことに
よっておこります。
心筋炎は、心臓の筋肉が炎症を起こして本来の機能を果たさなくなる病気です。
感染症など、さまざまな原因が考えられます。
慢性閉塞性肺疾患 (COPD) は、喫煙によるものが代表的で、肺気腫や気管支炎がきっかけとなって発症
します。 肺の血圧の上昇を引き起こすことがあり、肺の疾患に引き続いて、心臓疾患を誘発する恐れがあります。
冠状動脈 (心筋に血液を運ぶ血管のひとつ) にけいれんが起こることがあり (血管攣縮) 、心臓の一部で血
流が減少したり、場合によっては止まってしまうことがあります。
心臓は心拍を打つたびに伸縮します。
この運動のサイクルのうち、心臓が縮むときを収縮期、伸びるときを拡張期といいます。 拡張期に異常が発生した場合を、拡張機能障害といいます。
患者によっては、収縮機能は正常であっても、心臓の拡張に障害がある場合があります (とくに心室の障害) 。
心室が正常に拡張しないために、心室内の圧力が、次の心拍を始められる正常値を上回ってしまいます。
このことが、肺血管での圧力の上昇と体液の浸出 (肺うっ血) や、心臓に戻ってくる血管での体液の浸出 (全身性うっ血) を引き起こすことがあります。
心臓弁の異常、先天性の心臓疾患、心臓肥大、雑音、高血圧、マルファン症候群、リウマチ熱なども、心臓
の異常の原因となります。 先天性の心臓障害や血管障害は、新生児の約1%に見られ、他の心臓疾患を誘発することがあります。
心臓の異常の症状は?
各種の心臓の異常には、それぞれに診断基準があり、ほとんどの症状は他の症状を誘発する恐れがありま
す。 また、男性においてはまったく症状があらわれない心臓の異常が、女性においては症状があらわれるという場合もあります。
女性の症状は、男性と比べて、長期的に進行する場合があります:
アンギナ (腰の痛みで、左手もしくは顎にかけて放射状の範囲にわたることがある) ;
心臓がどきどき、どこどこ、あるいはどんどんとなったり、心拍が速くなったりすること (動悸) ;
水腫 (脚部、足首、腹部、肺などにできる腫れ物や水脹れ) ;
立ちくらみ、衰弱、めまい、失神など;
息切れ;
慢性疲労; そして
消化器の不調 (もしくは嘔吐) 。
心臓の異常のリスクファクターは?
45歳以上の男性、55歳以上もしくは更年期を過ぎた女性、卵巣の摘出を受けた女性は、心臓の異常が
発見される危険が高まります。 その他のリスクファクターには以下のようなものがあります:
高血中コレステロール
高血圧
運動不足
肥満
糖尿病
冠動脈疾患
心音異常
動脈硬化による頚動脈の損傷 (動脈壁への、プラークと呼ばれる脂肪質の堆積)
血縁者に、55歳 (父親か兄弟の場合) 以下もしくは65歳以下 (母親もしくは姉妹の場合) で心臓発作を
起こした者がいる
喫煙
過度の飲酒
食生活の乱れ
薬物乱用
どのような人が心臓の異常を起こすのか?
年齢別に見ると、心臓の異常に起因する心臓や血管の疾病は、65歳以上の年代では、最も多く見られる
病気であり、25歳から64歳の間の年代では2番目、0歳から14歳までの年代では3番目、15歳から24歳までの年代では5番目に多く見られる疾病で
す。 男女合わせて5人に1人はこの病気にかかっています: (男性は3人に1人、女性は10人に1人) 。
心臓の異常の治療法は?
心臓の異常のタイプにより、外科手術、薬物療法、運動療法、食事の調整、移植手術などが選択肢となり
えます。
職場環境整備において考
慮すべき問題
どのような症状や機能制限が見られるのか?
症状や機能制限は患者ないし患者の職務機能にどのような影響を与えているのか?
症状や機能制限のために特に問題が出る職務は何か?
問題を避けるために、どのような環境整備が利用可能か? 環境整備の候補案を決定する際に、Job
Accommodation Networkなどのリソースはすべて活用されているか?
環境整備案について患者本人と相談したか?
すでに実行中の環境整備の効果を評価し、他の環境整備が必要かどうか判断するための、機能障害患者との定期
的な打ち合わせは行われているか?
上司や同僚への、心臓の異常、その他の機能障害、アメリカ障害者法などについての講習は必要か?
心臓疾患患者への環境整備の
検討
(注意:
心臓疾患患者において以下の機能障害や症状の一部、場合によっては全部が進行することがあります。 機能障害は患者によってさまざまです。
心臓疾患患者すべてが職務遂行に環境整備を必要とするわけではなく、必要な場合も、ごく簡単なものが大半であることに注意してください。
以下は考えられる可能性のほんの一例です。 この他にもたくさんの解決法や検討材料があります。)
疲労および衰弱:
肉体の酷使を減らす
定期的に休憩時間を設けて職場から離れる
柔軟な労働時間と勤務外時間の利用を認める
自宅勤務を認める
人間工学に基づいた職場設計をする
徒歩による移動が必要な場合は、電動車いすなどの移動装置を支給する
職場近くに駐車場を確保する
自動ドアを取り付ける
他の作業場所、オフィス機器、休憩室などの近くに座席を移動する
介護機器や昇降機を導入する
呼吸障害:
調節機能付きの空調を用意する
職場からほこり、タバコの煙、香水、においなどを取り除く
「無香の」職場環境方針と「禁煙」職場環境方針を実践する
スケジュールの一時的な偏りを避ける
扇風機ないしエアコンの利用、もしくはヒーターの利用
空調の吹き出し口からの風が直接当たらないようにする
オフィス機器が発するガスを取り除くために、適応支援機器を導入する
人工呼吸マスクの着用を認める
自宅勤務を認める
てんかんと失神:
鋭利物の取り扱いを避ける
点滅やちらつきのある明かりを使用しない
蛍光灯をフルスペクトラムもしくは自然光に変える
コンピュータ画面にちらつき防止フィルターを取り付け、画面の輝度・色彩を調節し、マウスによるカーソ
ルの動きを遅く設定する
保護衣服や保護機器を用意する
手先の器用さが特に要求される職務を避ける
柔軟なスケジュールを認める
定期的な休憩時間を認める
自宅勤務を認める
ストレス:
事前に問題解決の計画を立てておく
同僚に意識向上のための講習を行う
勤務中に、医師などに支援を求める電話をすることを認める
カウンセリングや被雇用者支援計画に関する情報を提供する
職場でのストレスを軽減する
気温過敏症:
職場の温度調節を行う
服装規定を変更する
扇風機ないしエアコンの利用、もしくはヒーターの利用
柔軟な勤務スケジュールと休憩時間の利用を認める
極端に暑いまたは寒い天候時には自宅勤務を認める
常に換気をする
空調の吹き出し口からの風が直接当たらないようにする
個別気温調節装置を導入する
機器
機能障害を持つ人々への環境整備に利用可能な機器は、数多くあります。JANの検索機能付きオンライ
ン環境整備 (SOAR) <http://www.jan.wvu.edu/soar>
で、さまざまな環境整備の可能性を探索できます。多くの機器取り扱い業者リストにアクセスできます;
しかしながら、JANではウェブサイトで利用できるもののほかにもたくさんのリストを用意しています。
特別な環境整備条件がある場合、特別な機器を探している場合、取り扱い業者の情報が必要な場合、医師への紹介状を請求する場合は、JANに直接問い合わせ
てください。
心臓疾患患者への環境整備の例
ある列車運転手は、心筋梗塞の発作を起こしたことがあり、体力が落ちて、深夜シフトで勤務すると疲れ
果ててしまった。 環境整備のため、昼勤と午後勤のみで勤務することが必要となった。
ある管理職職員は、心臓疾患患者で、精神的な活発さに限界があった。
力仕事など、不可欠ではない職務を避けるようにした。
ある整備士は、極端な温度条件下での勤務に支障があったので、そのような状況での屋外勤務を避けるた
め、勤務スケジュールを調整して環境整備をした。
ある組み立てライン工員は、うっ血性心臓疾患と慢性肺閉塞疾患があり、着席姿勢の作業しかできず、
15ポンド以上のものを持ち上げる作業に支障があった。
組み立てラインでの職務には、起立姿勢での作業も、15ポンド以上のものを持ち上げる作業も必要で、環境整備ができなかった。
このため、着席姿勢で行う職務に転属して環境整備をした。
ある受付クラークは、うっ血性心臓疾患患者で、激しい運動に支障があった。
環境整備として、荷物を入れる入れ物を小さくし、高さを調整可能な荷物リフトを用意して、入れ物を回収しやすくした。
また、会社の近くに駐車場を用意し、同僚がタイムカードを代わりに押すことを認めて、歩行や階段の上り下りを最小限にした。
問い合わせ先リスト
(完全なリストではありません)
