米国国立衛生研究所の神経疾患卒中研究部門によると、慢性痛はアメリカでもっとも費用のかかる健康問
題です。 その費用は、直接の医療費、収入の低下、生産性の低下、休業保障、訴訟費用などを含めて、年間500億ドル近くにのぼる見通しです。
慢性痛を抱えながら働く患者のたいへんな数に加えて、アメリカ障害者法も、慢性痛を抱える人々への職
場環境整備について知ることがいかに重要かを示しています。
慢性痛患者への環境整備を考えるとき、そのプロセスは個別対応を基本に管理しなければなりません。
慢性痛の症状は多様なので、効果的な環境整備を選択するには、その人固有の能力と障害の程度を考慮し、問題のある業務を特定すべきです。
そのため、患者本人が環境整備プロセスに参加することが望まれます。
すべての慢性痛患者が職務遂行に環境整備を必要とするわけではありませんし、必要な場合も、ごく簡単
なものが大半です。
環境整備を必要とする人たちについては、以下に一般的な機能障害、症状、考慮すべき問題点、考えられる環境整備法についての基本情報を提供します。
これは参考例に過ぎません; この他にもたくさんの解決法や検討材料があります。
この文書には、さらに詳しい情報が必要な場合のための問い合わせ先リストがあります。
慢性痛
慢性痛に関する以下の情報は、いくつかの出典から編集したもので、出典の多くは問い合わせ先リストに
列挙してあります。 この情報は、医学的な助言を意図したものではありません。 医学的助言が必要な場合は適切な医療専門家に相談してください。
慢性痛とは?
慢性痛とは、数カ月以上持続する、頻繁もしくは継続的な、なんらかの痛みのことです。
一般的には、疾病の通常の治療期間もしくは外傷の妥当な治癒期間を超えて繰り返し起こる痛みであると言えるでしょう。
慢性痛は、神経系で通常の感覚が引き起こす、外傷の可能性を警告するための鋭い痛みの類とは異なります;
その痛みは数週間、数カ月間あるいは数年間続きます。
慢性痛の症状は?
慢性痛の症状は、食欲減退、抑うつ、極度疲労です。
通常、痛みが他の症状に勝っており、患者はなんらかの環境整備なしには労働ができないことがしばしばです。
慢性痛の原因は?
慢性痛は外傷、感染症、あるいは進行性の原因から発生することがあります。
一方、過去に外傷や病気がないのに慢性痛にかかる患者もいます。 慢性痛もタイプによっては次のような症状に付随するものもあります;アンギナ;
関節炎; がん; 慢性疲労; 糖尿病性末梢神経障害; 線維筋 (肉) 痛; 頭痛、偏頭痛; 背中、首、および肩の痛み;
反射性交感神経性ジストロフィー症; レイノー病; 難治性アンギナ; 帯状ヘルペス; そして、顎関節症 (TMJ) 。
慢性痛の治療法は?
多くの場合、抗うつ療法が慢性痛治療の中心です。
抗うつ治療の効果には間接的なもの (うつ状態を軽減する) と直接的なもの (神経の痛覚受容体を阻害する) があります。
患者は痛みの原因によってさまざまな処方薬を服用します; ある患者にはアヘン製剤と抗けいれん薬が有効でした。
別の患者には、経皮電気神経刺激 (TENS) (皮下の神経終末に電流をごく短時間流す) が効果がありました。
精神療法、リラクゼーションおよび瞑想治療、栄養調整、場合によっては神経終末を切断する外科手術が、痛みの軽減に役立つこともあります。
職場環境整備において考慮す
べき問題
どのような症状や機能制限が見られるのか?
症状や機能制限は患者ないし患者の職務機能にどのような影響を与えているのか?
症状や機能制限のために特に問題が出る職務は何か?
問題を避けるために、どのような環境整備が利用可能か? 環境整備の候補案を決定する際に、Job
Accommodation Networkなどのリソースはすべて活用されているか?
環境整備案について、患者本人と相談したか?
環境整備を実行に移した後、患者が環境整備の効果を評価し
追加の環境整備が必要かどうか判断する機会を与える機能は働いているか?
上司や他の労働者には、慢性痛、その他の機能障害、アメリ
カ障害者法などについて、講習が必要か?
慢性痛患者への環境整備の検
討
(注意:
慢性痛患者において以下の機能障害や症状の一部、場合によっては全部が進行することがあります。 機能障害は患者によってさまざまです。
慢性痛患者すべてが職務遂行に環境整備を必要とするわけではなく、必要な場合も、ごく簡単なものが大半であることに注意してください。
以下は考えられる可能性のほんの一例です。 この他にもたくさんの解決法や検討材料があります。)
日常生活活動:
付き添い介助人の利用を認める
介助動物の利用を認める
機器が利用可能であることを確認する
休憩室の近くに座席を移動する
通常より長い休憩を認める
適切な公共サービスに相談する
冷蔵庫が利用できるようにする
抑うつと不安:
事前に問題解決の計画を立てておく
同僚に意識向上のための講習を行う
勤務中に、医師などに支援を求める電話をすることを認める
カウンセリングや被雇用者支援計画に関する情報を提供する
治療のために時間を取ることを認める
疲労および衰弱:
肉体の酷使やストレスを避ける
定期的に休憩時間を設けて職場から離れる
柔軟な労働時間と勤務外時間の利用を認める
自分のペースでの職務負担を認める
職場の近くに駐車場を確保する
自動ドアを取り付ける
他の作業場所への移動が容易な通路を確保する
他の作業場所、オフィス機器、休憩室などの近くに座席を移動する
筋肉痛および筋肉のこわばり:
人間工学に即した職場設計を実現する (たとえば、立ったり座ったりしやすい、
人間工学に即したいすや調節可能な座席など)
反復性の高い作業を減らすか、他の仕事をはさむようにする
カートや昇降機を用意する
職場の温度調節ないし服装規定の調整
扇風機ないしエアコンの利用、もしくはヒーターの利用
極端に暑いまたは寒い天候時には自宅勤務を認める
慢性痛患者への環境整備の例
ある秘書は慢性痛による注意散漫のために訓告を受けた。
定期的な休憩時間と部分的な自宅勤務をみとめられた。
ある人事マネージャーは、交通事故のために慢性痛になった。
時間どおりに出勤することが困難であった。
柔軟なスケジュールによる環境整備を受け、公共交通を利用するために従来より長い時間を取ることができるようになった。
ある慢性痛と線維筋肉痛を抱えた電話交換手は次のようあn環境整備を受けた、柔軟なスケジュール、休
憩時間、調整機能付の
座席。 調節可能な座席によって、立ったり座ったりしやすくなった。
背中を負傷したために慢性痛になったある患者は、長時間座っていることが困難であった。
リクライニングつきの座席によって環境整備をした。
ある慢性痛患者の医療技師は、反復作業に障害があった。
この技師は、長時間タイピングをする必要があった。 反復作業の必要が少ない部署へ配置転換された。
ある慢性痛患者の組み立てライン作業者は、長時間立っていることが困難であった。
寄りかかりいすと抗疲労床材で環境整備をした。
機器
機能障害を持つ人々への環境整備に利用可能な機器は、数多くあります。
ANの検索機能付きオンライン環境整備 (SOAR) <http://www.jan.wvu.edu/soar>
で、さまざまな環境整備の可能性を探索できます。多くの機器取り扱い業者リストにアクセスできます;
しかしながら、JANではウェブサイトで利用できるもののほかにもたくさんのリストを用意しています。
特別な環境整備条件がある場合、特別な機器を探している場合、取り扱い業者の情報が必要な場合、医師への紹介状を請求する場合は、JANに直接問い合わせ
てください。
問い合わせ先リスト
(完全なリストではありません)