アメリカ障害者法 (ADA) の成立、1973年のリハビリテーション法改
正、カナダ人権法の成立によって、企業、機能障害患者、リハビリテーション専門家などが、脳性麻痺 (CP) 患者に対応した職場環境整備についての知識を身
に付けることの重要性が高まっています。 特に、企業が環境整備についての知識を深めることで、CP患者の雇用や地位の改善を推進することができます。
環境整備は、大抵は、費用が安く実行も簡単です。
JANが収集したデータでは、機能障害患者のために環境整備をした企業は、収支面で実質上利益を得ているという結果を示しています。
報告書によると、環境整備全体の3分の2は費用が500ドル以下であり、調査対象企業の半分以上が5000ドルを超える効果を報告しています。
環境整備のプロセスには、機能障害患者にとって効果的な環境整備を選択するための、いくつものステッ
プがあります。 このプロセスは、個別対応を基本に管理しなければならないものです。 環境整備の最初のステップは、状況の把握です。
状況把握のためには、それぞれの患者、機能障害、必要な職務機能について、さまざまな問題点を考慮する必要があります。
患者の技能、能力、機能障害を把握して、情報をそれぞれの職務環境に応用することが必要です。
以下にCP患者への環境整備を決定する際に検討が必要だと思われる問題点について、基本的な情報を示します。
環境整備に関する問題点を解決するには、患者本人からの意見を得ることが、有効な環境整備結果を達成するための、もっとも基本的な事項です。
まったく同じ環境整備を必要とする患者は2人といないということと、機能障害をもつ患者すべてが環境
整備を必要とするわけではないということに注意しておくことは、非常に重要です。 以下は脳性麻痺患者に対する環境整備の例です。この文書は教育目的に用いることのみを目的としており、状況は個別対応で評価しなければならないという大きな理由から、環境整備問題の最終的な解決方法であると見なすべきではありません。
ここに列挙されていない環境整備の例も、もちろんあるでしょう。
それぞれの環境整備案や環境整備例についての、より詳しい情報は、文末の問い合わせ先表を参照してください。
脳性麻痺: 序論
脳性麻痺 (Cerebral
Palsy) は脳の損傷によって起こる障害で、特に運動や姿勢の制御に影響を与えます。 Palsyとは麻痺のことですが;
衰弱 (不全麻痺) と言った方が、もっとも一般的な症状である筋肉の障害や、随意運動を起こしたり不随意運動やけいれんを抑えたりすることができなくなると
いった症状を、適切に表現できるでしょう。
脳性麻痺には進行性、伝染性、遺伝性はなく、直接生命に関わるようなこともありません。
病気ではなく障害なのです。
CPには非常に多くの症状があり、医師からの情報提供も不足しているため、正確な統計を取ることは困
難です。 しかしながら、アメリカ脳性麻痺協会では、毎年約3000人のCPを持った新生児が生まれていると試算しています。
アメリカ合衆国には、なんらかのCPの症状を持つ人が、成人と子供を合わせて50万人います。
症状の例:
条件反射運動 (通常乳児にのみ見られる、特定の刺激に対する不随意の反応)
筋緊張の低下 (衰弱) と低血圧
骨格障害を引き起こす、姿勢の異常
体の左右どちらかの半身を偏って使用すること
筋肉の制御や協調運動の不全
筋肉のけいれんやてんかん
授乳、咀嚼、嚥下の障害
異常な緊張や過敏症 (幼児期)
膀胱や腸管の制御障害 (失禁)
発話障害
認知障害
触
覚などの知覚情報を解釈することが困難
聴覚や視覚など、その他の認知障害
脳性麻痺は、出産時あるいは出産直後に脳に損傷が与えられて起こります。
多くの場合、脳の損傷の原因は不明です。 しかしながら、胎児もしくは新生児の脳への酸素供給量の不足が、大きな原因の一つとなっています。
子宮から胎盤が離れるのが早すぎたり、出産時の胎児の姿勢が不適正だったり、分娩が急すぎもしくは長すぎであったり、へその緒が血行障害であったりするこ
とが、酸素不足の原因となることもあります。 母体がある種の疾患 (たとえば三日ばしか) にかかることで、胎児に深刻な影響を与えることもあります。
早産、出産時低体重、母体と胎児の間での血液型 (RHもしくはABO) の不一致、中枢神経系に影響を与える微生物なども、脳性麻痺のリスクファクターで
す。
CP患者は脳の筋緊張をつかさどる部分に損傷を受けています。 筋緊張は、姿勢を制御しています;
例えば、顔を上げて座るなど。 筋緊張が異常に高まったり、異常に緩んだり、もしくはその両方の症状があらわれることがあります。
脳性麻痺のタイプ:
痙直型脳性麻痺:
けいれん性脳性麻痺患者は、筋肉が緊張しすぎるために、動作が硬くぎこちなくなります。
移動したりや手で物をつんだりする動作を制御することが困難になります。 最も一般的なタイプのCPで、患者全体の半数に見られます。
失調型脳性麻痺: 失調 (ataxic) とは筋緊張の低下と協調運動の障害のことを言います。
震えやけいれんのため、書字、ページめくり、キーボードの使用などが困難になります。
バランス障害や歩行の不安定のため、移動の際、通常よりも、意識を集中することや長い時間が必要になります。
アテトーゼ型脳性麻痺:
アテトーゼ型とは、筋緊張が極端に高くなったり低くなったりする症状が両方見られる脳性麻痺を指します。
顔面、腕、上腕部に無秩序な不随意運動が見られます。
歩行、まっすぐに座ること、姿勢の制御などに、通常よりも時間がかかったり集中を要したりします。
CP患者の約4分の1にアテトーゼ型CPが見られます。
混合型脳性麻痺:
混合型とは、筋肉の一部では筋緊張が以上に高い一方、筋緊張が異常に低い部分もあるものを言います。 CP患者の約4分の1に見られます。
治療:
CP患者が自己の能力を最大限に発揮する助けとするための治療には、さまざまなものがあります。
たとえば:
手足を動かせる範囲を広げその他の粗大運動機能を向上させるための、エクササイズや運動による理学療
法。 歩行器や車いすなど、移動補助機器の使用法の訓練も重要。
バイオフィードバック技術を用いて身体への意識の集中を増すことで、体の動きの制御が改善することがあ
る。
作業療法 (通常は精密動作技能に焦点を置いたもの) が自立を助けることが多い。
会話療法や言語療法が、他者とのコミュニケーションの助けとなる。
会話コミュニケーション機器、会話シンセサイザー、会話コンピュータによる環境整備が可能。
移動補助機器の例として、歩行器、調節可能シート付きの手押し車型歩行器、車いす、電動車いす、電動ス
クーターなどの整形外科機器が挙げられる。
書字補助具、自動ページめくり、スピーカホンなどが、精密動作を要する活動を支援するための機器の一例
として挙げられる。
CP患者への環境整備決定の
際に考慮する問題点:
1. クライアントの役職は?
2. 問題の出る職務機能は何か?
3. 職務遂行上の問題について患者と相談したか?
4. 環境整備の必要性について患者と相談したか?
5. 問題を避けるために、どのような環境整備が利用可能か?
6.
上司や他の労働者には、機能障害問題や、その他のアメリカ障害者法に関する事項などについて、講習が必要か?
脳性麻痺患者への環境整備の
検討:
(注意:
脳性麻痺患者にはさまざまな機能障害が見られますが、すべての患者が担当の役職に不可欠な職務機能を発揮するために環境整備を必要とするわけではありませ
ん。 以下は一般的な例であり、脳性麻痺患者すべてに当てはまるわけではありません。 個別対応により、この他の環境整備もありえます)
日常生活活動:
座席を休憩室の近くに配置する
休憩室を利用しやすいよう条件を整える
介護者の付き添いを認める
介助動物の利用を認める
余分な時間、日常生活動作 (ADL) を考慮する
精密動作:
職場の設計を見直す
コンピュータの出入力ソフトウェアを変更する
電話に補助機器を取り付ける
書字補助具や握り補助具を利用する
ファイリングシステムを調整する
粗大動作:
通路、廊下、出入り口などに障害物がないようにする
オフィス機器に近い作業場所を割り当てる
座席の設計や高さを見直す
軽量ドアやドアの自動開閉器を設置する
職場に近い駐車場、移動しやすい通路や出入り口などによって、移動するときの不都合を減らす
認知:
自動編集、単語予測、文法・つづりチェックなどの機能を持ったコンピュータソフトを利用する。
電子手帳、メモとり、注意書きなどを利用する
職務を完了するまでの時間を通常より多く与える
コミュニケーション:
防災計画を立てておく
緊急時に備えて、消防署に運動障害を持つ人の所在を知らせておく
防災設備を設置する
機器:
機能障害を持つ人々への環境整備に利用可能な機器は、数多くあります。
JANの検索機能付きオンライン環境整備 (SOAR) <http://www.jan.wvu.edu/soar>
で、さまざまな環境整備の可能性を探索できます。 多くの機器取り扱い業者リストにアクセスできます;
しかしながら、JANではウェブサイトで利用できるもののほかにもたくさんのリストを用意しています。
特別な環境整備条件がある場合、特別な機器を探している場合、取り扱い業者の情報が必要な場合、医師への紹介状を請求する場合は、JANに直接問い合わせ
てください。 (注意: 完全なリストではありません。取り扱い業者の情報は頻繁に変更されます。
正確な、最新の情報はJANにお問い合わせください。)
発語に支障がある場合:
音声増幅機器-キー入力された単語やメッセージを合成された音声に変換して出力する携帯用コミュニケーション機器。 Speech to
Text-パソコンからコミュニケーション機器に変換するための拡大コミュニケーションソフト。
音声明瞭化機器-不明瞭な音声もしくは小さな音声向けのバッテリー駆動の携帯式音声システム。
日常生活活動:
被服および身に付けて使用する補助具、台車、移動式リフト、てすり、高さを調節した鏡、書類、石鹸、タオル、洗面台など。
座席: 高さが調節できる机、楽な姿勢をとれて姿勢を正す効果のあるいす。
電話:
ヘッドホン、コードレスヘッドホン (コードが絡む心配がない) 、スピーカホン、電話を手元に引き寄せられる電話台、オートダイヤラー、ヘッドスティック、
マウスポインティングスティック。
ファイリング:
自動ファイリング装置、カルーセル、スライド式書類棚、高さが調節できる書類棚 (引き出しが2段から3段のもの) 、引き出し1段に収納するファイルを減ら
す、書類の量が多いときにしおりの代わりにするための定規。
書字補助具: ペン握り補助具、人間工学に適った筆記用具、握り補助具、重心を調整したペン。
コンピュータ入力
スイッチ: 絵柄で説明する、もしくはオン/オフだけの単純なスイッチにする。
キーガード:
通常、キーボードのキー上に穴のあいたガイドをかぶせるもので、キーボードの上に手を置いて休めても、キーが押されてしまうことがなくなる。
複数のキーを同時に押してしまう可能性を低くできる。
キーボードの変更: 拡張キーボードやボタンの大きなキーボードを使用する;
携帯用のスタイラスで電気的に入力するタイプのものなら、キーを押下するのに力を入れる必要がない。
音声認識ソフトウェア: 特殊なマイクに向かって話すだけで、コンピュータに入力ができる。
正確で明瞭な発音をすると効果的。
トラックボール:
マウスの代わりに用いる機器で、非常に小さな動きでコンピュータのカーソルを動かすことができる。
タッチパッド: 指やこぶしで触れるだけで、手全体の動きによって、簡単にカーソルを移動できる。
ヘッドプリンタ:
マウスの代わりに使用する、頭に装着する機器で、頭の動きに合わせてカーソルが移動し、マウスのボタンと同じ機能を持ったスイッチがついている。
オンスクリーンキーボード: 特殊なマウスによって、コンピュータ画面上で通常のキーボードと同じ機能のキーボードを利用できる。
問い合わせ先リスト
(完全なリストではありません)