臨床工学技士のしごと

 医療施設には医師や看護師の他に、X線・CT・MRIなどを扱う診療放射線技師、血液や尿検査・病理検査・心電図や脳波などの検査を行う臨床検査技師、リハビリテーションを行う理学療法士や作業療法士、言語聴覚士、視能訓練士、栄養管理を行う管理栄養士など様々な職種のスタッフが働いています。

  臨床工学技士も病院で働く医療職で、現在約30,000人の臨床工学技士が全国で活躍しています。

  臨床工学技士はCE(Clinical Engineer)と呼ばれ、医療機器の進歩に伴い、医学的、工学的な知識を持つ専門職が必要となったためにつくられた医療職で厚生労働省認定の国家資格です。

  厚生労働大臣の免許を受けて、臨床工学技士の名称を用いて血液浄化装置、人工心肺装置、人工呼吸器等の生命維持管理装置の操作及び保守点検を行うことが主な業務ですが業務範囲は呼吸・代謝・循環領域と多岐にわたり、すべての臨床業務を熟す「ゼネラリスト」になるには相当の知能と知識、能力とやる気が無ければ不可能です。一方では限定された分野の「スペシャリスト」として活躍している臨床工学技士もたくさんいます。

  臨床工学技士という名称から病院の機械屋と思われるかも知れませんが、そうではなく業務の多くは患者さまのベッドサイドで医師や看護師、他の医療スタッフと共に生命維持管理装置を扱う臨床業務に携わっています。

  臨床工学技士になるには、3年制の臨床工学技士養成専門学校及び4年制大学を卒業することにより、臨床工学技士国家試験の受験資格が得られ、国家試験に合格して厚生労働省から免許が与えられます。  
現在は大学院コースもあり、修士を取得している臨床工学技士や医学博士、工学博士を取得している臨床工学技士も増えています。

管理人が勤めている病院の臨床工学技士業務の概要を述べます。


     ■臨床工学技士とは  ■認定資格一覧  ■院内委員会活動一覧  ■所属学会
     ■院外活動        ■臨床実習の受け入れ    ■臨床工学技士の臨床業務

 

 臨床工学技士の仕事は大きく分けて患者様のベッドサイドで行う臨床業務と医療機器管理業務に別けられます。

 臨床業務としては救命救急医療、人工呼吸療法、心臓カテーテル検査と治療、内視鏡手術など各科手術室関連業務、冠動脈バイパス術や心臓の弁置換術、ICU・CCU・HCU業務、血液透析、急性血液浄化、アフェレーシスなど多岐にわたります。これらの臨床的な仕事が全体の70%を占めますので、決して機械ばかりを相手にしている仕事ではありません。機械屋ではなく臨床屋です。

CE イラスト

 また、臨床工学技士にはレベルの高い専門的な業務を行うために認定資格がたくさんあります。当院では質の高い医療を提供するために積極的に認定資格の取得を目指しています。

 ■ 認定資格一覧
医療安全管理者認定 1名
MDIC認定 1名
体外循環技術認定士認定 3名
ペースメーカ関連専門臨床工学技士認定 2名
呼吸療法認定士認定 6名
透析技術認定士認定 9名
ME1種技術実力検定認定 2名
ME2種技術実力検定認定 9名
ACLSインストラクター 4名
日本DMAT 1名
 
■ 当院臨床工学技士の院内委員会活動一覧
   院内の主要な委員会に所属し、立案や意見を述べています。
 
管理会議 感染対策委員会
リスクマネージメント委員会 手術センター運営委員会
リスクマネージャー会議 呼吸療法委員会
購買委員会 医療ガス安全管理委員会
医療安全推進会議 システム委員会
広報委員会 防災委員会
災害対策委員会 透析機器安全管理委員会
災害時災害対策本部 病院機能評価受審委員会
クリニカルパス作業部会 経営改善プロジェクト会議
 
 
 ■ 所属学会
   以下の学会に所属し常に新しい情報を獲得する努力をしています。
 
日本臨床工学技士会 北海道臨床工学技士会
日本航空医療学会 日本アフェレシス学会
日本呼吸療法医学会 日本集中治療学会
日本人工臓器学会 日本体外循環技術医学会
 
 ■ 院外活動
    以下の院外活動を行い、社会へ貢献しています。
   
日本赤十字社臨床工学技士会副会長 日本臨床工学技士会評議員
日本赤十字社臨床工学技士会 学術委員会委員 日本赤十字本社医療安全対策部会委員
日本赤十字社臨床工学技士会 IT・広報委員会委員 北海道臨床工学技士会 副会長
北海道臨床工学技士会 学術委員会委員 北海道臨床工学技士会 広報委員会委員
道北臨床工学会代表世話人 医療機器センター 医療機器安全基礎講習会講師
日本医療機器学会 MDIC認定セミナー講師  
 
 ■ 臨床工学技士養成施設臨床実習の受け入れ
北海道医療大学、札幌医学技術福祉歯科専門学校、吉田学園医療歯科専門学校、
北海道ハイテクノロジー専門学校の臨床工学技士養成施設の臨床実習を受け入れています。
 
 
 
 ■ 臨床工学技士のおもな臨床業務

救急外来で溺水の患者様にPCPS(心肺補助循環)を行っている臨床工学技士

 救急外来で救急医や心臓血管外科医師とともに心肺停止に陥った患者様に心臓と肺の代行機能を目的にPCPS(経皮的心肺補助循環)を行い、尊い命を継ぎます。

 交通事故や溺水、重症な心疾患により心臓が停止し呼吸ができなくなってしまった患者様に行う救命治療のひとつで一刻を争う緊迫した中で絶対にミスが許されない環境で仕事をしています。

 

 臨床工学技士の全ての臨床業務に言えることですが、治療中は患者様や医療機器の僅かな変化をも見逃さないように鋭い観察力とリスク感性を養っています。

 我々のミスが患者様の命に関わる重大な事態につながりますので臨床工学技士は迅速・的確な能力が必要です。

 救命救急の場も臨床工学技士が活躍できる部門です。

冠動脈バイパス術で人工心肺を操作している臨床工学技士

 手術室で心臓血管外科医師とともに冠動脈疾患の患者様に対し冠動脈バイパス術を行う場合や心臓の弁置換術を行う場合、一時的に心臓を停止します。その時に心臓と肺の代行を行う人工心肺装置の操作と循環管理を行うのが臨床工学技士の仕事です。

 人工心肺のトラブルは致命的になりますので、手術中は一瞬たりとも気が抜けません。

 

内視鏡装置

 外科や婦人科、心臓血管外科、泌尿器科、整形外科、脳外科疾患の患者様に対する手術にも医師、看護師と共にチーム医療の一員として活躍しています。

 最近は侵襲の少ない内視鏡下手術が各科で行われるようになりました。

 手術の侵襲によって出血した血液を装置を使って回収し再利用する自己血回収輸血や手術室にある数多くの医療機器の保守管理も臨床工学技士の重要な仕事です。

 眼科の白内障の手術や硝子体手術も医師、看護師とのチーム医療でサポートしています。

透析業務を行っている臨床工学技士

 現在30万人を超えた慢性腎不全患者様に対して行う血液透析や自己免疫疾患などの神経内科疾患に対するアフェレーシスや血漿交換など、多岐にわたる血液浄化法に対応しています。

臨床工学技士は透析の穿刺操作も行います。

人工呼吸器装着者へは喀痰吸引も行います。

人工呼吸器を操作する臨床工学技

 ICU・CCU・HCU、一般病棟には人工呼吸器をはじめ各種生体情報監視モニター、シリンジポンプ、輸液ポンプ、血液浄化機器など重要な医療機器が数多く装備されており、その操作や保守管理も臨床工学技士の重要な仕事です。

高気圧酸素療法を行っている臨床工学技士

 脳梗塞の急性期や眼科疾患、一酸化炭素中毒に陥った患者様に対して高い気圧の下で酸素を吸入させることで、血液中の酸素を増やすのが高気圧酸素療法で、その他にも様々な疾患の治療に用いられます。これら高気圧酸素療法に関わる各種医療機器のの操作や点検なども臨床工学技士の業務です。

(他院の画像を拝借 m(_ _)m)

心臓カテーテル業務を行っている臨床工学技士

 冠動脈疾患の患者様に対して行われる心臓カテーテル検査や救急で病院に搬入された急性心筋梗塞患者様に対し、循環器内科医師、放射線技師、看護師とともに緊急心臓カテーテル検査やPCI(経皮的冠動脈形成術)を行います。

 その際に使用されるポリグラフで生体情報のモニタリングや記録をはじめ、患者様の病態によっては緊急的に心臓の補助を行うIABP(大動脈バルーンパンピング)装着、心肺停止に陥った患者様に対してはPCPSを行う場合もあります。

IABP(大動脈バルーンパンピング)を操作する臨床工学技士
  ペースメーカの植え込み術やペースメーカ外来、ペースメーカを植え込まれた患者の手術時対応なども臨床工学技士が行っています。

  写真はペースメーカ外来で循環器内科医師と看護師と共にプログラマを操作して患者をサポートしている様子です。

当院ICU・CCUやHCUで行われている高度先端医療

  ICUでは写真のように生命維持管理装置をはじめとする数多くの医療機器が動いています。
・生体情報モニタ
・人工呼吸器
・PCPS (心肺補助循環)
・IABP(大動脈バルーンパンピング)
・急性血液浄化装置
・輸液・シリンジポンプ
・循環動態モニタなど

教育も臨床工学技士の重要な仕事です。

 人工呼吸器など生命維持管理装置やその他の医療機器の研修会や勉強会でおもに看護師に教育することも重要な仕事です。

 安全な医療を提供するにはきちんと使用方法をマスターしてリスクをしっかりと認識してもらう必要があります。

 輸液・シリンジポンプや医療材料の研修会も行っています。

 新規に導入された医療機器や臨床デモンストレーションの医療機器は必ず使用する部署で研修会を開催してから使用しなければなりません。

 また病院の責任の重い医療機器安全管理責任者の任を務めている臨床工学技士も全国に多数います。

 RST(呼吸療法サポートチーム)にも所属し、看護師へ人工呼吸器の注意点やBiPAPマスクフィッティング方法の講義を行っています。

 

 さらに医療安全講習会で講義をしたり、北は北海道から南は沖縄まで日本全国にわたり他院の医療安全講習会や学会・セミナーなどの講演活動も行っています。また、学会発表や論文の実績も多数あります。その他、院内で利用されている1500台以上にも及ぶ生命維持管理装置をはじめとする医療機器の管理など、当院臨床工学部門は臨床工学技士のすべての業務に対応しています。