■侵害受容反応 | │情動 emotion│ |
BC4C頃 | Aristotle(アリストテレス P BC 384〜BC322/3/7, 古代ギリシャの哲学者、Plato↑の弟子)は、「痛み」を五感に含めなかった。彼の著書「De partibus animalium 動物部分論」では、「感覚」の起源は心臓にある。知覚の波が血管に沿って心臓に伝わるが、それが激しいとき「痛いという情緒」が生じると説明した。また、心臓が柔らかくて熱をもち、そこに多量の血液がたまると、痛みが発生するとも説明している。「De anima 霊魂論」に述べている「五感」は「視覚」・「聴覚」・「嗅覚」・「味覚」・「触覚」であった。「痛み」は、感覚ではなく、生理的な反応によってひきおこされる不快や苦しみである情動としてとらえていた。* | ||||||
1675年 | Baruch (Benedict) De Spinoza(スピノザ P 1632/11/24〜1677/2/21, オランダのユダヤ系哲学者、神学者)は、デカルトとは異なり、情動としての痛みをとらえ、悲嘆と憂鬱を痛みがもつある種の特性としてとらえている。 | ||||||
1872年 | Charles Robert Darwin(P 1809/2/12〜1882/4/19, イギリスの自然科学者)は『人間と動物における情動の表現』↓で、人間と動物との表情の類似から、表情がもつ実用的な機能について論じ、動物での情動研究を基にしてヒトの情動を論ずる根拠を与えた。また、彼は情動を「非常事態にさらされた生物が、適切に対処し、生存の可能性を増加させるもの」であるととらえていた。つまり、情動の生物学的意義は、個体維持と種族保存を達成するためにある。参考1/2 | ||||||
1848年 9月13日 |
Phineas Gage(フィネアス・ゲージ 1823/7/9?〜1860/5/21, アメリカのダイナマイト職人, 当時25歳)は、Vermont州の小さな町 Cavendish の近くで鉄道敷設のための山岳開拓工事で不慮の事故に遭遇した。岩盤を爆破するために仕掛けたダイナマイトが爆発しないので、鉄棒でつついたその瞬間に爆発し、長さ 109cm、太さ3cm、重さ6kgの鉄棒は彼の下顎から頭を貫通し彼の後方へ30m近く飛んだ。奇跡的に一命を取りとめ、記憶や知性は以前のままであるにも関わらず、性格だけが著しく変化した。前頭葉の眼窩面(前頭眼窩回)と前頭葉の先端部(前頭極)が損傷したために、情動をコントロールができなくなった。事故以前は、生き生きとした働き者として周囲の信頼を得ていたが、事故後仕事に復帰した彼は、きまぐれで、非礼で、下品になり、彼の仲間に敬意をほとんど示さなかった。また、辛抱強さを失い、頑固になり、そのくせ、移り気で、優柔不断で、将来の行動のプランもきちんと決めることができなくなった。1860年5月21日に死亡し、 Gageの頭蓋骨と鉄の棒はHarlowの元に送られた後、ハーバード大学のWarren Anatomical Museumに保管されている。 →参考 1/2/3 | ||||||
1878年 | Pierre-Paul Broca(P 1824〜1880, フランスの内科医)は、ほ乳類の脳に共通する脳幹を取り巻く皮質領域(:帯状回、海馬傍回、梁下回、海馬)を大脳辺縁葉 le grande lobe limbiqueと呼んだ。現在われわれが大脳辺縁系と呼んでいるものは、ブローカの大辺縁葉よりもずっと広い領域を含んでいる。 | ||||||
Sigmund Freud(P 1856〜1944, オーストリアの精神科医)の精神分析理論では、性衝動や攻撃欲求などの原始的本能は、自我構造論の「エス Es(イド id)」として定義されている。そして、そのエスを社会化して抑制する精神機能(良心・倫理観)として、エディプス・コンプレックスの体験によって形成される「超自我 superego」が考えられました。現実検討能力を司る「自我 ego」は、本能的欲求の充足を志向するエスと社会適応のための欲求抑制を行う超自我のバランスをとる働きをする。 | |||||||
19世紀末 | 「ジェームズ・ランゲ説 James-Lange Theory of Emotion」(情動の末梢起源説):William James(P 1842/1/11〜1910/8/26, アメリカの心理学者)とCarl Lange(1834〜1900, デンマークの心理学者)が提唱した理論で、身体変化の認知が情動を生むという説。 情動 emotionは、感情 feelingより原初的な快・不快に近い感情内容であり、持続時間が短く、感情の程度が生理的変化を伴うほどに激しいという特徴を持ってる。James-Langeの理論は、「外部刺激→生理学的変化・行動の形成→感情体験(感情の自己知覚)」といった時間的順序で、情動の形成過程を捉えている。 自分自身の情動の生起を経験するよりも早く、涙が流れたり、心臓の鼓動が早くなって発汗したりといった生理学的反応が起こる。彼らの理論は、「悲しいから泣くのではなく、泣くから悲しい」のであり、嬉しいから笑うのではなく、笑うから嬉しいのであり、敵意を抱くから怒るのではなく、怒るから敵意を抱く。we feel sorry because we cry, angry because we strike, afraid because we tremble, and not that we cry, strike, or tremble, because we are sorry, angry, or fearful」というJamesの言葉に象徴されている。 | ||||||
1890年 | Friedrich Leopold Goltz(P 1834〜1902, ドイツの生理学者)が大脳皮質を除去したイヌでも怒りの反応が生じることを示した。 | ||||||
1894年 | Henry Rutgers Marshall(1852〜1927, アメリカの心理学者)は、痛みは感情であり、感覚ではないと述べた。→痛みの感情説 | ||||||
1915年 | Walter Bradford Cannon(P 1871〜1945, アメリカの生理学者、William James↑の弟子)は、動物の恐怖に対する反応としてfight or flight responseを定義した。 | ||||||
1929年 | 「キャノン・バード説 Cannon-Bard theory」(中枢起源説):Sir Charles Sherrington(P 1857〜1952, イギリスの生理学者)とWalter Bradford Cannon ↑は、James-Lange↑の末梢説に異論を唱えた。Cannonは情動の座が視床にあり、Bardは情動の座が視床下部にあるとした。 Sherringtonは、末梢神経の自律神経系を損傷した犬が、心臓などの内臓器官からのフィードバックを脳に受けることの出来ない状態で情動反応を見せた事例を挙げた。 Cannon(1927)は同一の生理学的変化が、複数の情動経験で起こることを挙げて、James-Lange説では複数の質的な差異のある情動経験の存在を説明できないという反論をした。皮質下組織(特に視床)が情動の座であり、視床から「情動の衝動」が起こり、それを大脳皮質が抑制すると考えた。 Cannonは視床が情動反応を調整する中枢であると提唱し、Philip Bard(P 1898/10/25 〜1977/4/5, アメリカの生物学者)が動物実験で実証した。大脳皮質を除去されたイヌが見せかけの怒り(sham rage)と呼ばれる攻撃を伴わない 威嚇の表出を見せる。このことを踏まえ、ネコの皮質、視床、視床下部の前部を除去しても見せかけの怒りが見られる、視床下部が全て除去されるとこの行動が見られなくなった。情動は1知覚→2視床の興奮→3情動反応(末梢)と情動体験(皮質)の順に起こる。 | ||||||
情動の経験と表出に関する理論は、その他にもトムキンスやゲルホーンらの『顔からのフィードバック説』というものもあり、これは感情と対応した顔の表情を作る顔筋の変化が脳幹や大脳辺縁系、視床下部などにフィードバックして情動の経験と自覚を生じるというものです。つまり、主観的な情動の経験よりも先に、顔の筋肉の変化が起きて感情に合った表情が作られることによって情動が自己知覚されるという考え方が『顔からのフィードバック説』と呼ばれるものです。 | |||||||
1936年 | Hans Selye(P 1907〜1982, カナダの生理学者)は、有害な因子によって体に生じた歪みと、それに対する防衛(適応)反応を「生体内の歪みの状態」、すなわちストレスと呼んだ。 | ||||||
1937年 | 「Papezの情動回路 Papez circuit」:James W. Papez(P 1883〜1958, アメリカの神経解剖学者)は、臨床データも考慮して、情動回路モデルを提唱した。
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1937年 | 「Klüver-Bucy症候群」:Heinrich Klüver(P 1897/5/25〜1979/2/8 心理学者)とPaul Bucy(P 1904/11/13〜1993 シカゴの神経学者)はアカゲザルの両側側頭葉を切除し、その結果として出現する5つの徴候を示した。 →クリューバー・ビューシー症候群 | ||||||
1946年 | Henry Knowles Beecher(P 1904〜1976, ハーバード大学麻酔学教授)が「Pain in Men Wounded in Battle*」の中で、痛みの認知的要素と情動的要素の影響を示唆した。 | ||||||
1949年 | Walter Rudolf Hess(P 1881〜1973, スイスの生理学者、1949年にノーベル賞受賞)は、ネコの間脳、脳幹部を系統的に電気刺激し、視床下部刺激が、自然の刺激によって誘発されるのと同様の攻撃行動あるいは防衛行動が誘発されることを発見した。視床下部の腹内側部とその周辺部の刺激によって、怒りの反応が誘発され、その怒りは対象のない怒りであるということから見せかけの怒り sham rageと呼んだ。←→睡眠 | ||||||
1949年 1973年 |
Paul Donald MacLean(P 1913〜2007, 米国の生理学者)は、Broca↑の辺縁皮質およびそれと神経結合している皮質下組織を辺縁系 limbic systemと呼び、情動および内臓機能に関与する1つの機能系とする概念を提唱した。
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1954年 | James Olds(P 1922〜1976, ハーバードの心理学者)とPeter Milner(アメリカの心理学者)は、ラットがレバーを押すと一瞬弱い電流が流れ、脳が刺激される研究法(自己刺激実験)を考案した。側坐核や腹側被蓋野が快情動を司る中枢(脳内報酬系↓)であることが明らかにした。 | ||||||
1963年 | M.D.エガーとJ.P.フリンによるネコの攻撃実験 | ||||||
1964年 | 「シャクター・シンガー理論 Schachter-Singer 情動の二要因理論」:Stanley Schachter(1922〜1997, 心理学者)とJerome Singer(児童心理学者)による理論で、情動経験の成立に関して、生理的な覚醒とその状況に関する認知の認知の両方が不可欠(情動の二要因理論)とする。 | ||||||
大脳辺縁系という概念はその後もNauta、Heimerなどによって拡張されている。 | |||||||
年 | Ludwig Wittgenstein(P 1889〜1951 20世紀を代表する哲学者)も痛みが感覚であると同時に情動であると捉えていた。 | ||||||
1979年 | IASPの用語委員会が出した痛みの定義には、感覚的側面だけではなく、情動的側面があることが示された。 | ||||||
1995年 | Antonio R Damasio(ポルトガル生まれ、アメリカの行動神経科学者)がソマティック・マーカー仮説を提唱した。 |
一次性情動 個体や種族の維持が脅かされる時に生じる情動 生得的な基本的欲求に直接関係する情動 | ||||||||
二次性情動 ←→理性に対立する脳の機能
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好ましいと判断した時 | →→→ | 快の情動が生じる。 |
好ましくないと判断した時 | →→→ | 不快の情動が生じる。 |
アパシー apathy
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情動 | 情動行動 | |||
快感・喜び | →→→ | 接近行動 | 快情動行動=報酬刺激獲得 | |
不 快 感 |
恐怖 Fear | →→→ | 逃避、回避行動 | 不快情動行動=嫌悪刺激回避 |
怒り Rage | →→→ →→→ | 闘争、逃走行動 攻撃行動 | ||
悲しみ | →→→ | フリージング |
闘争・逃走反応 fight or flight response=緊急反応 emergency reaction ←→急性痛/逃避反射/fear-avoidance model
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怒り Rage→攻撃行動 aggressive behavior
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快感 pleasure
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多幸感 euphoria ←→モルヒネによる多幸感 参考1
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不安 anxiety 恐怖 fear ←→抗不安薬/不安障害/行動解析/恐怖ー回避モデル/恐怖条件付け/恐怖記憶/エンリッチメント/恐怖症
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新奇性恐怖反応 neophobia ←→phobia
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フリージング(すくみ反応、凍結反応) freezing response, freezing behavior ←→
不動化 immobilization ←→すくみ運動/アキネシア/カタレプシー
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解離 dissociation (心理学) ←→
不動化 immobilization
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シャットダウン shutdown
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レオナルド・ダ・ヴィンチ(1452~1519)も「絵画論」で顔の様態の一般的な原則について考察していた。 | ||||||||||
Charles Bell(P 1774〜1842) 参考1
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Charles Robert Darwin(P 1809/2/12〜1882/4/19, イギリスの自然科学者) 参考1/2/
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表情フィードバック仮説 Facial Feedback Hypothesis ←→エクマンのBasic Emotion Theory:BET
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Ekman and Friesen’s POFA *
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脳 内 報 酬 系 |
脳内報酬系 brain reward system ←→DAによる鎮痛系
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脳 内 懲 罰 系 | 懲罰系 punishment system |
Attachment is characterized by specific behaviors in children, such as seeking proximity to the attachment figure when upset or threatened (Bowlby, 1969). |
動物行動学的視点
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パーソナリティ発達理論 *
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学習理論
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---意思決定 decision making における情動と感情の役割に関する仮説。 ---推論と意思決定には、理性と感情は両方必要。脳と身体からなる一つの「有機体」に支えられている。 ---推論と意思決定には、理性と感情は両方必要。脳と身体からなる一つの「有機体」に支えられている。 ---脳が選択のオプションを思い浮かべると、身体が自動的に反応し、快・不快の感情が生じ、それによって瞬時にオプションが絞り込まれる。 ---意思決定は合理的ではなく、情動と感情によって絞込みがなされた後、その結果が合理的に解釈される。 |
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要約
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情動的状態 emotional state
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情動的感情 emotional feelings
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シャクターの情動の二要因理論 two-factor theory of emotion
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メンタライジング mentalizing 参考1
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メンタライゼーション mentalization
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ミラーニューロン mirror neuron
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観察者 | ||||||||||
刺 激 個 体 |
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Pain Relief |