オープンフィールド試験 Open field test 参考1/2/O
- 自発活動性、新奇場面への反応性のテスト
- 1934年にCalvin S. Hall(1909〜1985, アメリカの心理学者)がラットで情動性(emotionality)を測定するテストとして考案した。
- オープンフィールド:動物が制約を受けることなく自由に行動できる空間 動物にとってはこれまで経験したことのない新奇環境であるので、動物の情動性を評価するための有用な指標と考えられる。
- 容器内の色は灰色のような暗色系とし、照明は一定を保つ。動物の行動に影響を及ぼす可能性がある音・振動・光などの外部刺激は排除する。
- 動物を広くて明るく新奇な環境であるオープンフィールド(60×60×40cm)内で自由に行動させ、その様子をビデオカメラで撮影し、解析を行う。
- アリーナ内で10分間の活動性/情動性の指標として、移動距離、中心での滞在率、行動パターン(箱のどの位置にいるか、辺りを観察する回数・割合等)をパソコンソフトで処理する。
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社会的相互作用テスト Social Interaction Test) 社交性+新規探索性
→Three chambers/Simple?/Reciprocal
Three chambers Social interaction test 社交性+新規探索性
参考1/O
- マウスの社会性 sociabilityと新規探索性 social noveltyを調べるテスト:Crawleyが考案
- 2枚の透明のボードで仕切られた3つのチャンバーからなる。被研マウスは各チャンバー中央にある出入り口から、どのチャンバーにも行き来ができる。
- 左右のチャンバーにはstrangerマウスを入れる小さなケージがある。strangerマウスは移動できない。
Session 1:被研マウスのみ |
Session 2:左のケージにstranger1
社交性の高いマウスほどstranger1に臭い嗅ぎ行動を行う |
Session 3:右のケージにstranger2
新規探索性の高いマウスほどstranger2に臭い嗅ぎ行動を行う |
Social interactions ←→社会的敗北ストレスモデル@動物のストレスモデル 参考1
- 他個体に対する関心度(社交性)を評価する。
- オープンフィールドの中の一辺の真ん中に、ストレンジャーマウスを入れる金網でできたチャンバーを設置する。チャンバー周辺はInteraction Zone、チャンバーがない辺の左右にcorner zoneを設定する。
- Session 1ではチャンバーの中にターゲット(ICRマウス)を入れずに、Session 2ではチャンバーの中にターゲット(ICRマウス)を入れて、ターゲットとの接触時間を測定する。
接触時間:Interaction Zoneに滞在した時間 |
Social Interaction Ratio:Session 2での滞在時間/Session 1での滞在時間 |
- ストレスマウスでは、Social Interaction Ratioが減少する。
- ストレス感受性には個体差があり、感受性個体(Social Interaction Ratio<1)とレジリエント個体(Social Interaction Ratio≧1)がみられる。
Reciprocal social interactions 参考1
- 2匹のなじみのないマウスを装置にいれる。
- お互いの接触時間や接触回数を測定する。 Nose-to-nose sniffing
- 10分間 ビデオトラッキング
- 観察者が行動のスコアをつける。
following (one mouse walks closely behind the other, keeping pace) |
push–crawl (physical contact includes pushing the snout or head underneath the partner's body, squeezing between the partner and the arena wall or floor, and crawling over or under the partner's body). |
Non-social parameters include self-grooming (the mouse grooms its face and body regions in a normal sequential pattern) |
arena exploration (walking around the arena, sniffing the walls, floor and bedding, and digging in the bedding). |
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聴覚性驚愕プレパルス抑制テスト Acoustic startle and prepulse inhibition test:PPI 参考1/2/O
- 突然の強い感覚刺激によって引き起こされる驚愕反応が、先行する弱い感覚刺激によって抑制される現象をプレパルスインヒビションと呼ばれ、注意力の指標として用いられる。
- 感覚ゲーティング機構あるいは感覚フィルター機能を反映する指標の1つ
- 統合失調症の患者でプレパルス・インヒビションが低下していることが知られている。
- 私たちは電車の中で本を読んだり、人混みの中で会話ができるのは不要な刺激を取り除いて、読書や会話に集中できるという能力をもっていることによる。統合失調症を発症すると、情報処理がうまくいかずに「刺激の洪水」になってしまうために、注意・集中力が低下し、刺激の多い場所を避けようとする。 参考
- 人では瞬目反射などで偏差される・
- PPIは先行する小さな刺激の情報を、直後の強大な刺激から保護するための自動的、不随意的な抑制システムであるsensorimotor gatingの指標と考えられている。
- マウスに大きな音(110dB、120dB)を聞かせると驚愕反応が起こるが、提示される音刺激の直前に先行する少し弱い音(74、78dB)を聞かせると、驚愕反応が減弱する。
- 各プレパルス強度による驚愕反応の減弱度合い(%PPI)は、次の式で算出する。
{1-(各プレパルス後の驚愕反応の平均値/ASR)}×100
- auditory startleの神経回路 参考1/2
蝸牛神経(内耳神経) → 蝸牛神経核 cochlear nuclei (CN) → 下橋網様体核 caudal pontine reticular nucleus (PnC) → 運動神経
CN → 腹側外側被蓋核
ventrolateral tegmental nucleus (VLTg) → PnC
- 聴覚性驚愕反射は、聴覚神経から尾側橋網様体核を介して脊髄運動神経核に伝えられことで引き起こされる。
- 先行音による信号は、辺縁系皮質―線条体―淡蒼球―橋より尾側橋網様体核に至る神経回路を介して後続する驚愕音刺激に対する驚愕反射を抑制する。
- 最近PETや MRIなどを用いてヒトのPPIに関する脳画像研究も行われており、前頭葉―線条体―視床回路がヒトのPPIと関連していると考えられる。
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恐怖条件付け(文脈、手がかり学習)試験 Contextual & cued fear conditioning test ←→恐怖/恐怖条件付け文脈学習/回避モデル/PTSD/恐怖記憶/消去 参考1/2/O
- 一種のパブロフの古典的条件付け
古典的条件付け Classical conditioning、Pavlovian conditioning ←→オペラント条件づけ/学習
=レスポンデント条件づけ、あるいはパブロフ型条件づけ
- 学習の一形態、行動主義心理学の基本理論
- 条件刺激と非条件刺激の対呈示によって条件刺激が条件反応を引き起こし、学習を成立させる過程
- 刺激に応答(redpond)するというレスポンデント条件づけ
- 1903年、Ivan Petrovich Pavlov(1849/9/14〜1936/2/27日、帝政ロシア・ソビエト連邦の生理学者)によって、犬に餌を与える前にベルの音を鳴らすことで、次第にベルの音を聞くだけで唾液を分泌するという条件反射の研究観察がもとになった理論である。
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- 文脈記憶や注意能力(潜在抑制)を測定するテスト/連合学習、恐怖記憶
- 心理的ストレスにより引き起こされる不安や恐怖等の評価法して用いられる。
- 恐怖反応を誘発する非条件刺激と、通常恐怖反応を引き起こさない条件刺激の定時を繰り返すと、動物は両者を関連して学習し、動物は条件刺激だけでも恐怖反応を示すようになる。
- 動物が条件刺激受けたときの空間情報(文脈)や条件刺激に先行する音や光(手がかり)の情報を記憶しているかどうかを調べる。
条件刺激 conditioning stimulus: CS
- 中立的な刺激
- 訓練前には特に反応を引き起こさないが、条件付け訓練の結果、初めて不随意的反応を引き起こす刺激
- パブロフの犬では、唾液放出を通常誘発しないベルなどの刺激
- 恐怖条件付け実験では、通常恐怖反応を引き起こさない刺激:場所(文脈)、音、光(手がかり)など
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非条件刺激 unconditioning stimulus: US
- パブロフの犬では、唾液放出を必ず誘発する餌などの刺激
- 恐怖条件付け実験では、恐怖を反応を誘発する刺激:フットショックなど
- フットショック中に学習によらない疼痛関連行動が引き起こされ、フットショック後にフリージングが引き起こされる。
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- チャンバー(条件刺激ー文脈)の中で音(条件刺激ー手がかり)とフットショック(非条件刺激)を対提示することによって、チャンバーと音に対する恐怖を条件づけする。
- 特定の時間後(1日後、1週間後、1ヶ月後など)に、フットショックを受けたチャンバー(文脈 context)と音(手がかり cue)に対するフリージングを調べることで、恐怖条件づけの成立の有無を評価する。
Conditioning session
- 明るい立方体のチャンバーにマウスを入れ、音刺激(手がかり)の最後にフットショックを加える(遅延条件づけ)と、マウスはフリージングする。この刺激を3回繰り返すと、フリージング時間が延長していく。
- 条件刺激と非条件刺激のタイミング
遅延(延滞)条件づけ delay conditioning
- 条件刺激の呈示開始に遅れて非条件刺激を与えるが、両刺激は同時に終了させる。
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痕跡条件付け trace conditioning
- 条件刺激の呈示が終了した後に、少し時間をあけてから非条件刺激を与える。
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逆行条件付け backward trace conditioning
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文脈テスト Contextual test ←→恐怖文脈条件付け↓
- 明るい立方体のチャンバーにマウスを入れて、フリージング時間を測定するが、フットショックは与えない。
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手がかりテスト Cued test = Alterd contextual test
聴覚性恐怖条件づけ ←→恐怖手がかり条件付け↓
- 薄暗い三角柱のチャンバーや大きさの違う立方体のチャンバー(alterd context)にマウスを入れて、フリージング時間を測定する。途中から音刺激を加える。
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消去処理 ←→神経回路↓/消去
- 形成された恐怖条件付け反応は、条件刺激のみを提示することで、恐怖反応が減少する。
- 消去は忘却ではなく、新しい記憶の塗り替えである。
- 消去学習のプロトコールにも分散学習や集中学習がある。
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- 恐怖条件付けには3つの心理学的側面が内在している。
(1)CS-USの連合学習・記憶の獲得 (2)条件性恐怖反応表出のための学習性の情報の伝達 (3)恐怖反応の表出
- 1989年代初期以降、Joseph E. LeDouxの研究グループは破壊実験により、恐怖条件付けの脳内経路を明らかにした。
- 扁桃体外側核は音CS-USの連合学習・記憶を担い、扁桃体中心核は恐怖反応の表出に関係する脳部位へ学習性の情報を伝達するための扁桃体からの出力部位である。
- 扁桃体中心核からさまざまな脳神経核に出力され、中脳中心灰白質でフリージングを、外側視床下部で血圧上昇心拍数増加を、視床下部室傍核で副腎皮質ホルモン濃度上昇を、腕傍核で呼吸数増加をもたらす。
- 扁桃体を切除すると恐怖条件づけが生じなくなる。
- 短期記憶の形成は既存の分子の修飾により行われるのに対して、長期記憶の形成には新たに合成されたタンパク質を必要とする。不安定な状態である短期記憶から安定化した長期記憶に変化する課程は、記憶の「固定化」と呼ばれる。固定化された記憶を想起した後に、いったん記憶が不安定な状態に戻り、その記憶を保持・強化するために新たなタンパク合成を必要とする「再固定化」過程が存在することが示された。
- NMDA受容体拮抗薬の注入することで恐怖条件付けが生じなくなる。
- Infralinbicは扁桃体を抑制することによって恐怖の表出を抑制している。
- 恐怖条件付けが関連する神経回路
- PTSDやパニック障害などの不安障害の患者では、海馬や前頭前野による恐怖記憶の消去学習過程や抑制制御機構が機能不全に陥っている可能性が示唆されている。
- PTSDの治療では、患者に安全な環境下で、繰り返し恐怖体験を想起させ、記憶を整理し、恐怖を減弱させていく持続エクスポージャー療法という行動療法が用いられているが、これは消去学習の基づいていると考えられる。
- 記憶の消去には海馬ーInfralinbic回路のヒストンのアセチル化が関与 ←→ヒストン脱アセチル化(HDAC)酵素阻害剤(ボリノスタット:VS・バルプロ酸など)
HDAC酵素阻害剤は恐怖記憶の消去を増強する。
参考1/2
- 文脈依存性課題にDNAのメチル化が関与 ←→長期記憶学習
海馬のCA1領域において神経栄養因子であるBDNFの遺伝子のメチル化が増加し、BDNFの発現が変化する。DNAのメチル化を薬理学的に阻害すると、条件付けから24時間後のBDNFの発現が変化し、恐怖記憶が障害される。DNAのメチル化の変化にはNMDA受容体の活性化を必要とする。
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コンフリクト試験 conflict test ←→抗コンフリクト作用 参考1
- 動物のオペラント行動を利用した試験
- 条件付け行動による不安・恐怖の評価
- 電撃ショックという不快なストレス(罰刺激)を負荷することによって動物に葛藤(コンフリクト)状態を引き起こし、学習の要素を含む不安を評価する。
- Geller - Seifter型コンフリクト試験と非オペラント行動を利用したVogel型コンフリクト試験が知られている。
- コンフリクト試験はベンゾジアゼピン系抗不安薬をはじめとする、多くの薬物に対して信頼性の高い評価が可能である。
Geller - Seifter型コンフリクト試験 Geller–Seifter Conflict Test、Geller-Seifter conflict paradigm
- 実験動物に正の強化因子としての餌報酬と負の強化因子ととしての床グリッドから電撃ショック(罰)を組み合わせたオペラント条件付けによって、コンフリクト行動を惹起させるモデルである。
- 摂餌制限を加えて飼育した動物にレバー押し行動を習得させテスト試行の前日に訓練試行を実施する。
- 一定数のレバー押し行動に対して電撃ショックを負荷し、動物を条件付けさせると、レバー押し行動は著しく減少する。このように餌を得たいという欲求と電撃ショックという罰に対する不安・恐怖からコンフリクト状態が惹起される。この状況下に被験薬を投与して、被ショック回数、餌摂取回数およびレバー押し回数を評価指標として測定する。
- 抗コンフリクト作用が強い抗不安薬では、レバー押し回数が減少しなくなる。
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- 非オペラント行動を利用したコンフリクト試験
Vogel型コンフリクト試験
- Vogel型コンフリクト試験はGeller - Seifter型の餌による強化の代わりに飲み水を正の強化因子とした評価系である。
- Geller - Seifter型コンフリクト試験は安定したコンフリクト行動を得るのに長期間の訓練を必要とするが、Vogel型は絶飲条件下に飼育し、1回の電撃ショックにて条件付けが成立するため、短時間で同様のコンフリクト行動を惹起させることができる。Vogel型コンフリクト試験においても、評価の指標となる飲水行動は電撃ショックによって著しく抑制され、被ショック回数が低下する。ベンゾジアゼピン系抗不安薬やセロトニン5-HT1A受容体作動薬は、いずれのコンフリクト試験において、被ショック回数の増加や摂餌行動あるいは飲水行動の増加が観察され、抗不安活性が認められている。
- しかし選択的セロトニン再取込阻害薬:SSRIの効果については一定した見解が得られていない。罰刺激となる電撃ショックの強度や摂餌・摂水条件が試験試行に影響を及ぼす要因であり、被験薬が抗不安作用以外に、食欲亢進作用、鎮痛作用、鎮静作用あるいは記憶障害作用などを有する薬物においては、その結果の解釈に注意を要する。
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