塩酸ケタミン(ケタラール®) →ケタミンの歴史年表/依存性薬物 →参考1/2
→[麻酔薬としてのケタミン] →[鎮痛薬としてのケタミン]
- (RS)-2-(2-クロロフェニル)-2-メチルアミノシクロヘキサノン 塩酸塩
化学式:C13H16ClNO・HCl 分子量=274.19
- NMDA受容体の非競合的拮抗薬、フェンサイクリジン PCP結合部位に作用する解離性麻酔薬↓
- NR1/NR2AおよびNR1/NR2Bサブユニットで構成されるNMDA受容体に非競合的に拮抗する。
- PCPより副作用の少ない薬剤として1962年に合成され、1963年にベルギーで特許がとられ、1965年から臨床応用された。←→ケタミンの歴史年表
- ギ酸に非常に解けやすく、水やメタノールにも解けやすい特性を示す。また、無水酢酸やジエチルエーテルには殆ど解けない。pHは3.5〜5.5で、水溶液は酸性。
- 注射用麻酔薬↓、鎮痛薬↓として、筋注・静注および経口投与される。ケタラール®(三共エール薬品)は塩酸塩
- ケタミンには、S(+)とR(-)の光学異性体があり、塩酸ケタミンは2つの異性体が等分に入ったラセミ体である。S体ケタミンはR体ケタミンに比べて鎮痛作用は2倍以上で、精神神経作用が弱い。NMDA受容体の親和性は4倍。
- NR1/NR2AおよびNR1/NR2Bで構築されたNMDA受容体の双方に拮抗薬として働くので、鎮痛作用、麻薬作用、幻覚・妄想などの精神症状、依存性を示す。
- 厚生労働省は2005年12月13日に乱用が問題となっている全身麻酔薬ketamineを、麻薬及び向精神薬取締法に基づく「麻薬」に指定することを決め、2006年3月23日に改正政令を公布し、2007年1月1日から施行され、規制の適用を受ける。←→↑/*
[麻酔薬としてのケタミン] ←→全身麻酔薬/動物用
- 非バルビツレート系静脈麻酔薬、フェンサイクリジン(PCP)系全身麻酔薬
- 大脳皮質は徐波となるが、大脳辺縁系は覚醒波を示すため、解離性麻酔薬 dissociative anestheticと呼ばれる。
- 大脳皮質・視床などを抑制し鎮痛作用を現すとともに、大脳辺縁系を賦活し、向精神作用をあらわす。
- 鎮静・運動活性の低下・健忘・鎮痛・周囲との強い解離性などを生じさせる。
- 麻酔でケタミンを使用するときは、鎮静薬を併用して脳深層部の興奮を抑える。
- 他の静脈麻酔薬よりも、笑気に近い薬理作用を備える。
- 悪夢は、解離性麻酔薬の副作用
- 呼吸抑制が低いため、自発呼吸が可能という利点がある。ただし、大量では呼吸抑制が現れる。
- カテコールアミン遊離作用があるため、交感神経を刺激し、気管支拡張作用・昇圧作用を示すので、気管支喘息を持つ患者にも比較的安全に使用できる。
- 子供の小手術などに用いられる。
- 嘔吐中枢に作用し、嘔吐を誘発する。
- 静注後の生物学的半減期は、3〜4時間である。主代謝経路は肝臓で、チトクローム P450によりノルケタミンとなる。また、ヒドロオキシノルケタミンやデヒドロノルケタミンなどに変化するが、薬理活性はほとんどない。ノルケタミンはケタミンの 1/3〜1/5 の麻酔作用をもつが、デヒドロノルケタミンなどには麻酔作用を持たない。
適応 | 禁忌 |
- 小児
- 喘息患者
- ショック状態
- 熱傷
- 産科麻酔においては、帝王切開術時の全身麻酔導入薬として最も用いられている。
- 動物の麻酔の導入に使われる。静脈内投与も筋肉内投与も可能で、効果の発現が早い。
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- 頭蓋内圧が上昇するので、脳血管障害、虚血性心疾患、高血圧の患者には禁忌
- 眼圧が上昇するので、緑内障手術には禁忌
- 痙攣誘発作用があるので、てんかんの既往症がある患者には禁忌
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長所 | 短所 | その他 |
- 導入・覚醒が速い。
- 体性痛に対して強い鎮痛作用があるが、内臓痛には効かない。
- 静脈内に持続点滴で投与でき、筋肉内注射も可能。(精神症状は、ジアゼパムで拮抗できるので併用することが多い。)
- 交感神経刺激状態を示し、頻脈傾向、血圧上昇
- 呼吸や循環抑制が少ない。
- ヒスタミン遊離作用がないので、喘息にも使用可能。呼吸抑制が少ない。
- 筋弛緩作用がないので、麻酔中、舌根や下顎の沈下が起こりにくい。咳反射保持
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- 悪心、嘔吐、気道分泌が亢進するので、口腔内手術には不向き。
- 筋硬直を引き起こす。
- PCP結合部位に作用するために、精神症状と依存性を示す。
- もうろう状態、生々しい悪夢、幻覚などを起こす。
- 覚醒時、錯乱・異常興奮・不快感、落ち着きのなさ、不眠、めまい
- 2週間以内に繰り返し使った場合は、特に肝毒性が発現するため、ヒトでは二週間以内の再使用は禁止
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- コリン作動性ニューロンの活性を亢進させる。
- 脳圧↑(脳血流↑⇒頭蓋内圧↑)、脳酸素消費量↑
- 循環抑制(ー)(心拍数↑、心拍出量↑, 血圧↑)
- 体動、不随意運動(+)(麻酔が深くても)
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[鎮痛薬としてのケタミン] ←→ドラッグ・チャレンジ・テスト
- 麻酔で用いられる(anesthetic dose:1日量50〜300mg)よりも低用量 で鎮痛作用を有することが以前より知られていたが、慢性疼痛でのNMDA拮抗薬の有用性が注目されるようになった。
- 低用量ケタミンは、急性体性痛に有効であるが、内臓痛には効かない。
- ガーゼ交換や熱傷の処置時の鎮痛として使われる。
- 低用量ケタミンの利点は、生体機能や筋トーヌスを抑制することなく、鎮痛作用の発現が速いことである。
- ドラッグ・チャレンジ・テストで、ケタミン感受性の症例には、中枢性の過敏化を解除できる可能性がある。
- モルヒネ耐性の予防及びすでに発現したモルヒネ耐性を回復させる作用があり、経口投与が可能であることから、モルヒネとの併用投与が行われる。
- 主な欠点は、抗精神作用と単回投与後の鎮痛作用持続時間が短いことである。不快な精神的副作用は、ミダゾラムなどの即効性ベンゾジアゼピンに先だって、あるいは同時に投与することによって防ぐことができる。しかし、精神的副作用が生じた後に、神経遮断薬や催眠薬を投与したのではあまり効果はない。
- ケタミンは本来麻酔薬で、使用方法によっては、生命に関わる事態の発生する可能性がある。また、乱用の危険性も否定できないので、他の鎮痛法を試みた後に、なお疼痛制御が困難な症例に対して初めてケタミンを考慮する。
- 低用量ケタミンの点滴療法
- 低用量で帯状疱疹痛などの神経障害性疼痛に鎮痛効果。
- 熱傷の痛み
- モルヒネの耐性を回復させる作用もあるので、がん性疼痛の鎮痛補助薬と併用する(2〜5mg/kg/日)。
- 塩化マグネシウムの持続静脈内投与には効果を認めない。
- 日大脳外科の山本隆充教授ら:Dual-leadによる脊髄刺激療法に低用量ケタミンを併用
⇒塩酸アマンダジン
⇒メサドン
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塩酸メマンチン Memantine hydrochloride(Namenda®)
- 医療用のNMDA受容体の非競合的拮抗薬。経口タイプのamantadine誘導体
- 抗パーキンソン病薬:ドイツや韓国で承認されている。神経保護効果作用並びにパーキンソン病の症状改善効果を示す。
- アルツハイマー病治療薬:ドイツでは1989年抗痴呆薬として上市され、ヨーロッパでは中等度から重度のアルツハイマー病を適応として申請、2002年5月に承認されている。
- 米食品医薬品局(FDA)は2003年10月17日に、軽度から中度のアルツハイマー病だけではなく、重度のアルツハイマー病の適応を許可した。
- 日本では国内の臨床試験(SUN Y7017)が、第一三共グループのアスビオファーマによって行われ、2011年1月21日に「症状の進行抑制」について製造販売承認され、同年6月8日に商品名メマリーが第一三共から発売された。メマリーは、病態の進行を抑制する成績は得られていない。
- 欧米で承認された抗アルツハイマー病薬のうち、唯一の非アセチルコリンエステラーゼ阻害タイプの薬剤 アセチルコリンエステラーゼ阻害型の薬剤(塩酸ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミン)が、軽・中等度のアルツハイマー型認知症を適応疾患とするのに対し、塩酸メマンチンは中・重度のアルツハイマー型認知症を対象とし、記憶の減退や判断力低下の進行の遅延効果が報告されている。
- 副作用としては、めまいや頭痛などが挙げられる。
- 緑内障治療薬としての開発も行われている。
- NMDA受容体に作用し、Ca2+ 透過性を減弱させるが、正常なシグナル伝達は阻害しないことから、幻覚、精神障害、昏睡などの副作用が見られないとされている。
- 動物を対象とした痛みでは有効であるが、・・・・。
- 社会的敗北ストレスを付加したマウスはPTSD様症状を示し、メマンチン投与が社会回避記憶の忘却と、PTSD様の不安行動を改善する。 *
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臭化水素酸デキストロメトルファン dextromethorphane(メジコン®)
- 中枢性非麻薬性鎮咳薬、非麻薬性鎮咳薬
- NMDA受容体の非競合的拮抗薬、フェンサイクリジン拮抗薬
- 延髄の咳中枢を抑制し、咳反射を抑える。
- NMDA受容体の選択性:NR2A>NR2B
- コデインと同程度の咳中枢抑制作用を有する。
- コデインはオピオイド受容体に作用して咳中枢を抑制するようだが、デキストロメトルファンはNMDA受容体を抑制して鎮咳効果???
- 非麻薬性鎮咳薬は気道分泌抑制を起こさない。
- 有痛性糖尿病性末梢神経障害や帯状疱疹後神経痛にも有効であるようだが、あまり利用されていない?
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酒石酸イフェンプロジル Ifenprodil Tartrate(セロクラール®)
- 脳循環・代謝改善薬
- NMDA受容体のポリアミン部位での拮抗作用とα受容体遮断作用を持つ。
- ポリアミン部位に結合するNMDA受容体(NR1/NR2B)選択的拮抗薬
- NR2Bへの選択性が高い。NR1/NR2Bで構築されたNMDA受容体のみに選択的に拮抗する。
- NMDA受容体のMg2+による遮断は、ポリアミンが結合することで弱められるので、イフェンプロジルはポリアミン結合部位に拮抗薬として働くことで、チャネルの開口を防ぎ、鎮痛作用を示すと考えられる。
- ケタミンよりは鎮痛作用は弱く、比較的高用量では鎮痛作用を示すが、ケタミンのような精神症状や精神依存などの副作用は発現しないことが、動物実験および臨床において報告されている。
- 脳循環代謝改善剤。脳梗塞後遺症、脳出血後遺症の改善に内服
- ケタミンと同様に、オピオイド抵抗性の神経性疼痛に有効である。
- ケタミンと同様に、モルヒネの鎮痛作用を増強し、耐性や精神依存、身体依存の形成を抑制するが、イフェンプロジル自体に依存形成能や精神症状はない。
- イフェンプロジルはモルヒネの精神依存形成および退薬症候の発現を有意に抑制する。
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アグマチン agmatine
1‐4-(Aminobutyl)guanidine
- L-アルギニンの代謝産物:L-arigineからagmatine脱炭酸化酵素により産生される。内因性ポリアミン代謝産物
- 魚介類などの腐敗過程で生成されるので、アレルギー様食中毒の原因物質でもある。麦角中にも含まれる。
- NMDA受容体に高い親和性を示すが、ketamine, MK801, AP7などとは異なる部位を遮断する。
- イミダゾリン受容体に作用することから、クロニジンと類似の作用を呈し、交感神経刺激を抑制して中枢性の高血圧治療薬となる可能性がある。
- NOSを非特異的に阻害し、NOの産生を抑制する。
- 神経障害性疼痛の脊髄神経部分切結紮モデル(SNL)モデル、ならびに糖尿病性神経障害のストレプトゾトシンモデルの両方に有効である(Karadag et al., Neurosci. Lett. 339(1):88-90, 2003)
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