| 特徴 | 作用時間 |
ア ミ ド 型 | リドカイン Lidocaine, Lignocaine(キシロカイン Xylocaine®)
- アミド型としては最初に合成されたアニリド系局所麻酔薬
Ib群抗不整脈薬、鎮痛補助薬
1935年 | Hans Karl August Simon von Euler-Chelpin(P 1873/2/15〜1964/11/6, スウェーデンUniversity of Stockholmの化学者、1929年ノーベル化学賞、Ulf Svante von Eulerの父)はオオムギ(Gramineae)の中に特定の害虫に強い変異種があることに興味を持っていた。1932年に。Herman Nilsson-Ehle(1873/2/12〜1949/12/29スウェーデンUniversity of Lundの植物遺伝学者)から葉緑素非産生型のオオムギの提供を受け、研究室で広範な研究を行った。Harry Hellströmはオオムギの葉のアルコール抽出液について分光光度測定を行い、インドールに類似した化合物を発見し、その組成がC11H14N2であることを明らかにした。この化合物は葉緑素を持たない植物だけに発見される有毒なインドールアルカロイドで、von Eulerはグラミンと名づけた。
Holger Erdtman(P 1902〜1989, University of Stockholmの化学者、von Euler-Chelpinの助手)がグラミンの合成を試みたが、実際に得られたのは異性体のisogramineであった。Erdtmanは自分が合成した化合物の味を見て、isogramineには舌や唇をしびれさせる作用があることを見つけた。しかしグラミンにはそのような麻酔作用はなかった。
Nils Löfgren(P 1913〜1967, スウェーデンUniversity of Stockholmの化学者、Erdtmanの学生)も研究に加わり、16の化合物を合成し、有望な物質はアストラ社に送り、アストラ社はこの仕事のためにUlf Svante von Euler(オイラー P 1905/2/7〜1983/3/10, Stockholmカロリンスカ研究所の神経科学者、Hans Karl August Simon von Euler-Chelpinの息子)と医学顧問を結んだ。Ulf Svante von Eulerはこれらの物質をウサギの角膜に滴下し、異なった太さの髪の毛で刺激し、ウサギの目の瞬きの変化により麻酔効果を判定した。中には強い麻酔効果を持つものもあったが、プロカインを凌ぐものはなく、研究を中断した。 |
1942年 | Nils Löfgren↑とBengt Lundqvist(1922〜1953, スウェーデンの化学者)はプロカインよりも作用時間の長い化合物の合成に成功し、2人の名前の頭文字をとり、LL30(=リドカイン=Xylocaine®)と名づけた。これは、ErdtmanとLöfgrenが調製した化合物のベンゼン環の6位にメチル基が付加されたものであった。(ort効果に沿った新しい考え方でLL30やLL31を合成した。ベンゼン核のオルトの位置に2つのメチル基(Ch3)配置すると、分子は電荷分布に沿って屈曲(Bent)構造となる。)LöfgrenとLundqvistはフェンシング部の友人(医学生)が貸してくれた本を参考にして、今日伝達麻酔(↑)として知られる方法でLL30の麻酔効果を調べた。指の神経に注射して麻酔持続時間を測定し、血圧、脈拍などの変化を記載し、さらに腕、下肢の他、身体の各部にも注射した。特に脊椎に注射したときの効果についても記載した。(当時この麻酔は麻酔拮抗薬の蘇生器具のある病院で専門家だけが行っていた方法である。) |
1943年 | LöfgrenとLundqvistはLL30の特許を申請し、1948年に取得し、その後Astra ABに売却した。 |
1943年 | Astra ABがLL30の研究を開始した。動物実験はLeonard Goldberg、臨床試験にはTorsten Gordhが加わった。 |
1943年 | Leonard Goldberg(1911〜2010, スウェーデンKarolinska Instituteの薬理学者)がLöfgrenの依頼でLL30の毒性試験に加わった。 |
1947年 | Torsten Gordh(P 1906〜2010/6/25, スエーデン Karolinska Hospitalの麻酔科医、Leonard Goldberg↑の友人)がLL30の麻酔作用および毒性を検査した。同僚、学生および患者で検査した。患者の謝礼は5クローネ、学生は当時スウェーデンでは貴重品であったアメリカ製のタバコ1箱(キャメルかラッキー・ストライク)かGordhの論文のどちらかの選ぶことができた。当時学生であった妻のUlla Gordh(1918〜2005)もボランティアの一人であった。注射器に入った8種類の溶液を1ml前腕に注入すると、蚊に刺された程度の膨疹ができる。注射した薬が区別できるように、万年筆で注射部位にマークし、番号をつける。鎮痛効果は針先でテストした。多くのマークは15分ぐらいで消えるが、遙かに大きい領域が麻酔されている場合があり、それが後になってこの薬剤がXylocaine®であることがわかった。1%プロカインの膨疹は17分、1%キシロカインの膨疹約70分麻酔作用が持続した。Gordhは1947年の麻酔学会で初めてキシロカインの臨床試験について発表し、1948年にGoldbergと最初の論文を書き、1948年にAnaesthesia(英国の国際的学術雑誌)に掲載された。
* |
1948年 | 1月にAstra ABがスウェーデンでXylocaineの販売を開始した。(1947年11月、スウェーデンのNational Board of Healthにキシロカインとキシロカインエキサドリン(アドレナリン添加製剤)について0.5, 1, 2%の濃度を申請した。) |
1950年 代初頭 | Jens Christian Skou(1918/10/8〜, 化学者)は局所麻酔の作用を研究し、麻酔物質は当時タンパク質だと推定されていたナトリウムチャネルを開くことを発見した。彼はこの作用がナトリウムイオンの移動に影響を与え、神経細胞を沈静化し、麻酔作用が現れると主張した。1997年にNa+/K+-ATPアーゼ(ナトリウム-カリウムポンプ)の発見の功績によって、Paul Delos Boyer、John Ernest Walkeとともにノーベル化学賞を受賞した。 |
1950年代 | リドカインの全身投与ががん性疼痛や術後痛を軽減すると報告された。 |
- アミド型局所麻酔薬は、エステル型局所麻酔薬の、中間鎖をエステル結合をアミド結合に置換することにより、組織浸透性と安定性の高い麻酔薬として合成された。
- 鎮痛補助薬、局所麻酔薬、Ib群抗不整脈薬↓=Naチャネルブロッカー
- 表面麻酔、浸潤麻酔、伝達麻酔、硬膜外麻酔、脊椎麻酔
- リドカイン持続皮下注入や持続点滴で投与
- 他の局所麻酔薬に比べて安全域が広い薬物である。
- 作用発現が速く、持続時間が長い。
- 不整脈の治療薬としても重要である。(心室性不整脈に有効)Vaughan-Williams分類のⅠb群に該当する。
- メキシレチンやフレカイニドの経口投与が無効あるいは困難な場合に適応する。
- リドカインテスト:静注用のリドカイン1mg/kg 緩徐に注入
- プロカインと比較すると脂溶性、タンパク結合能がいずれも高い。
- テトラカインよりも作用や作用時間の点で若干劣るが、テトラカインよりも毒性が弱く十分な薬効を持つため、リドカインを使用することが一般的である。
- 麻酔部周囲の血管を収縮させ、少量の麻酔剤で持続的な効果を得るためと、止血作用により術中の出血を抑制するために、アドレナリンなどの血管収縮剤等が配合されている。
- 副作用:眠気が強い、特に肝、腎機能障害がある場合は、血中濃度を測定始、中毒域になっていなければ、副作用はきわめて少ない。
- リドカインの全身投与はがん性疼痛だけではなく神経障害性疼痛にも有効とされている。
- 正常な末梢神経の軸索伝導に与えない濃度で鎮痛効果を発揮する。したがって感覚および運動障害を与えずに鎮痛効果を得ることができる。
筋注用、静注用、点滴用、ビスカス(viscous ゼリー状の経口表面麻酔剤)、スプレー、ジェル、クリーム、リドカインパッチ
リドカインパッチ Lidocaine patch ←→テープ剤(パッチ)
- パッチ貼付時の血中のリドカイン濃度の上昇が軽微であることから、局所に投与されたリドカインが直接皮膚の浅層内の損傷や機能異常となった末梢神経からの異所性興奮を抑制すると考えられている。
- 内服薬に比べて副作用が少ない。
Lidoderm®
- 世界初となるリドカイン貼付剤 Lidocaine patch
- Lidocaine Patch 5%
- local and topical anesthetic
- 1999 年3月19日に帝國製薬株式会社と Hind Healthcare(ハインド・ヘルスケア)社(米国・カリフォルニア州)が米国で共同開発したLidoderm®が帯状疱疹後神経疼痛の治療薬として、米国・FDAに承認された。 参考1
|
ペンレステープ®(PENLESS)18mg
- リドカイン貼付剤(18 mg 30.5 mm x 50.0 mm)
- リドカイン 60%
- 注射をする場所に30分間貼る。
|
EMLA patch cream:Eutectic Mixture of Lidocaine and Prilocaine
|
--------------
QX-314---リドカイン↑の誘導体
- カプサイシンとの併用投与で運動機能や触覚を損なわずに鎮痛 ←参考1 [Nature. 2007 Oct 4;449(7162):607-10.] /2
- QX-314は単独では細胞膜を通過できないリドカインの誘導体
- カプサイシンが開放したTRPV1チャネル通って細胞内に入り込み、細胞内からNaチャネルを阻害する。
|
中間 |
プリロカイン prilocaine
- ヨーロッパで繁用されている局所麻酔薬
- リドカインと構造が似ているが、毒性が低く、作用発現が速いことから広く使用されている。持続時間は中程度で約90分である。
- 作用発現と持続時間はメピバカインとほぼ同程度
- 肝臓だけではなく、肺や腎からも排泄され、血漿中濃度がメピバカインほど上昇しないので、メピバカインより毒性が低い。
EMLA patch cream:Eutectic Mixture of Lidocaine and Prilocaine |
塩酸プロピトカイン Propitocaine Hydrochloride (歯科用シタネスト-オクタプレシン Citanest-Octapressin for Dental Use)
1ml中 [塩酸プロピトカイン:30mg] + [フェリプレシン(=バゾプレシンの誘導体):0.03単位]
- 歯科用麻酔薬
- 局所麻酔としてアドレナリン含有リドカインを使用できない患者に、フェリプレシンと併用されて用いられる。アドレナリンと異なり、心室細動の危険性を伴うことなく、血管を収縮させる。
- 分娩促進作用があるため、妊婦には禁忌
|
|
短い |
塩酸メピバカイン Mepivacaine Hydrochloride(カルボカイン Carbocaine®)
[1-methyl-2-(2,6-xylylcarba-moyl)-piperidine]
1956年 | af EkenstamとEgner(スエーデンBofors 社)がメピバカインを合成した。 |
1957年 | Dhunerが臨床応用した。 |
- アミド型であるが、アミノ基としてピペリジン環がつき、ピペリジン環のアミンに“メチル基”がついた構造となっている。
- 表面麻酔、浸潤麻酔、伝達麻酔、硬膜外麻酔、脊椎麻酔
- リドカインに類似した構造で、基本的には同じ作用を示すが、速効性である。
- ラセミ体
- 血管拡張作用*がないため、アドレナリンは添加不要
|
中間 |
塩酸ブピバカイン Bupivacaine hydeochloride(マーカイン Marcain®)
[1-butyl-2-(2,6-xylylcarba-moyl)-piperidine]
1957年 | af EkenstamとEgner(スエーデンBofors 社)がブピバカインを合成した。 |
1957年 | Dhunerが臨床応用した。 |
1969年 | 日本で販売が開始された。 |
- メピバカインと構造は似ているが、臨床的には効果発現が遅く、作用時間が長い。
- アミノ基としてピペリジン環をもち、ピペリジン環のアミンにメチル基がついたのがメピバカインで、プロピル基がついたのがロピバカインで、ブチル基がついたのがブピバカインである。
- 硬膜外麻酔、神経ブロックにも利用される。脊髄くも膜下麻酔にも使用される。
- 毒性はリドカインと比較して弱く、一過性神経症候群を引き起こす頻度が低いとされている。
- ブピバカインの化学構造には不斉炭素原子があるため、光学異性体(R体とS体)が存在する。S体とR体が1:1に混合したラセミ体
- エナンチオマー (光学異性体) が存在する。S (-) -エナンチオマーがレボブピバカイン、 R (+) -エナンチオマーがデクスブピバカイン
- 脂質親和性が高いため、神経膜のナトリウムチャンネルばかりでなく、心筋ナトリウムチャンネルへの作用も強く持続的である。
- ブピバカインは、血管内誤投与時や大量投与時における心毒性が強く、痙攣が発現する投与量と心停止が発現する投与量の差が少ないことが問題である。
- 重篤な心血管系症状(心室性不整脈など)が生じた場合、長時間作用型であるために、蘇生が難しくなるという問題も指摘されている。
- ブピバカインは薬剤の普及が始まった当初、投与薬剤として頻用され、硬膜外麻酔や脊椎麻酔だけでなく、伝達麻酔などにも頻用されたが、局所麻酔薬中毒による循環虚脱およびそれに起因する心停止に対して蘇生率が非常に悪い(ブピバカインは強い心血管系毒性を有する)ため、昨今は過去ほど頻繁には使用されなくなった。
- 脂質親和性が高いため、運動神経の厚い髄鞘・神経膜、並びに、BBBを透過しやすく、持続的で強い運動神経遮断作用及び中枢作用(痙攣誘発作用)を示すと考えられる。
- 中枢神経毒性、心毒性が強い。血中濃度の上昇により救命困難な不整脈を引き起こす可能性がある。
- 胎盤通過性が低いため、分娩麻酔に広く用いられてきた。
|
最も長い |
塩酸レボブピバカイン levobupivacaine(Chirocaine®、ポプスカイン popscaine®)
- ブピバカインのS(-)-エナンチオマー:ブピバカイン(ラセミ体)に含まれる2つの光学異性体のうち、心毒性がより少ないとされる左旋性(S(-)体)のみを製剤化したもの。
- 英国のChiroscience社(現UCB社)が開発した、アミド型の長時間作用性の局所麻酔薬
- 1998年にスウェーデンで承認されてから、現在までに米国およびEU(欧州連合)諸国を含む57カ国で承認されている。
- 2008年4月16日に製造承認を取得し、6月13日薬価収載された。
- 硬膜外麻酔などに用いられる長時間作用タイプの局所麻酔薬
- ブピバカインと同等の効力を持ちながら、心血管系や中枢神経系への副作用が少ないことが最大の特徴である。
|
最も長い |
塩酸ロピバカイン Ropivacaine hydrochloride(Naropin®、アナペイン®)
- キシリジン系製剤、純粋なS(-)体
- 脂質親和性が比較的低く、アミノ アミド型の長時間作用性局所麻酔薬に属する。
- 心停止、特に妊婦の心停止が問題となったブピバカインを改良してから開発された。
- 動物モデルではブピバカインよりも新毒性が低いことが確認されている。
- 局所麻酔薬では最初のS(-)-エナンチオマー
- 光学異性体の研究によってもたらされた長時間作用性の局所麻酔薬である。
1957年 | af Ekenstam(スエーデンBofors 社)がロピバカインを開発した。 |
1963年 | Widmanが臨床使用した。 |
1997年 | 臨床使用された。 |
2001年 | 8月から日本で臨床使用が可能となった。 |
- 術後鎮痛に対する適応が初めて認められた局所麻酔薬であり、低濃度での痛覚遮断と運動神経遮断の分離に優れ、術後痛管理への有用性が期待されている。
- アミノ基としてピペリジン環をもち、ピペリジン環のアミンにメチル基がついたのがメピバカインで、プロピル基がついたのがロピバカインで、ブチル基がついたのがブピバカインである。
- 高濃度溶液を使用すると、 ブピバカインと同等の麻酔効果と作用時間をもたらす。
- ブピバカインに比べて毒性が低いので、硬膜外麻酔や術後鎮痛にも適している。
- 純粋なS(-)体であり、毒性はラセミ体のブピバカインより弱い。ナトリウムチャンネルに対する作用選択性が高く、心筋ナトリウムチャンネルへの作用は弱い。
- 細胞膜を通過しやすい塩基型が多いと結合部位への到達が容易になるが、ロピバカインはpH6.0で結晶が析出するので、アルカリ化には適さない。
[薬理学的性質↑]
- pKa:ロピバカインとブピバカインのpKaはいずれも8.1であり、作用発現までに要する時間は両薬剤ともほぼ同等である。
- 脂溶性:ロピバカインが6.1で、ブピバカインよりも小さくリドカインよりも大きいことから、作用強度はブピバカインよりも少し弱く、リドカインより少し強いと考えられる。
- タンパク結合率:ロピバカインは94.0で、ブピバカインとほぼ同様であることから、作用持続時間は両者でほとんど差はないものと考えられる。
- 分離麻酔に優れている。神経線維の細い感覚神経と神経線維の太い運動神経に対する局所麻酔薬の作用の違いを利用して、痛覚を優先的に遮断し、運動神経への影響を少なくする。
- 有髄および無髄の痛覚神経に対する遮断作用は塩酸ブピバカインと同程度で、運動神経に対する遮断作用は塩酸ブピバカインに比べて弱く、高用量の静脈内投与時の痙攣誘発作用及び不整脈誘発作用は塩酸ブピバカインに比べて弱い。
- 硬膜外麻酔作用及び伝達麻酔作用は塩酸ブピバカインと同程度
|
最も長い |
塩酸ジブカイン Dibucaine Hydrochloride
- キノリン型、最も古いアミド型局所麻酔薬
- 表面麻酔、浸潤麻酔、伝達麻酔、脊椎麻酔
1911年 | キニーネの代用薬を研究していたKarl Meischer(Carl Meischer、Cibaの化学者)がジブカインを合成した。 |
1928年 | Uhlmannが臨床応用した。 |
- 日本で脊椎麻酔によく用いられるが、米国FDAではジブカインのくも膜下投与は許可されておらず、ほとんどの先進国では脊髄麻酔用として販売されていない。
- 局所麻酔薬の中でも効力、毒性ともに強力
- この神経毒性を利用して、神経破壊薬のブロックの代わりに使う。
- 血漿エステラーゼによって分解されにくい。
- ジブカインと脂質膜およびモデルペプチドとの相互作用をプロトンMNRで解析した研究で、ジブカインのキノリン環は脂質の極性基部分に存在し、ブトキシル基はNaチャネルのⅢ、Ⅳドメインを連結する疎水性アミノ酸残基に貫入する状態であろうと推測されている。
ネオビタカイン注シリンジ Neo Vitacain Injection Syringe
|
|
最も長い |
エ ス テ ル 型 |
塩酸プロカイン Procaine Hydrochloride (Novocaine®)
- 中枢作用のあるコカインに代わる、臨床で使用できる局所麻酔薬として最初に開発されたエステル型局所麻酔薬
1905年 | Alfred Einhorn(P 1856〜1917, ドイツHoechstの化学者)がコカインの持つ局所麻酔作用が、安息香酸によってエステル化されたアミノアルコールに由来すると考えて、多くの化合物を合成した。全身作用をほとんど伴わない局所麻酔薬であるプロカインが合成された。 |
年 | Hoechst社から、Novocaineとして発売し、Heinrich Braun↑(P 1862〜1934, ドイツの外科医)が臨床応用した。 |
- Novocaine(商品名)=Novus(=newのラテン語)+Caine("cocaine"から)
- 浸潤麻酔、伝達麻酔、脊髄麻酔、硬膜外麻酔
- 強い局所麻酔作用を持つが、コカインのような毒性がきわめて弱い。しかしアミド型局所麻酔薬よりもアナフィラキシーショックを起こしやすい副作用がある。
- 粘膜への浸透性が悪い。作用発現は遅く、作用時間は短い。
- 心臓に対する直接作用があり、心筋の興奮性と刺激伝導系の抑制(Ia群抗不整脈薬)。
- 血管拡張作用を持つため、アドレナリンの併用が必要である。
- 血漿中のコリンエステラーゼ pseudocholinesteraseによって加水分解され、パラアミノ安息香酸となり、腎臓から排出される。(サルファ薬の抗菌作用を減弱する) ↓副作用
|
最も短い |
塩酸テトラカイン Tetracaine Hydrochloride(Amethocaine®)
1928年
| Eislerがテトラカインを合成した。(Otto Eisleb(ドイツHoechst-Am-Mainの化学者)が発見したと書かれているものもある???) |
1928年 | テトラカインが臨床使用された。 |
- 表面麻酔、浸潤麻酔、伝達麻酔、硬膜外麻酔、脊椎麻酔(腰椎麻酔)
- 日本で低比重脊麻に用いることのできる局所麻酔薬
- プロカインの約10倍の毒性、効力を有する。
- プロカインに比べ作用発現時間は遅く、血漿エステラーゼにより分解されにくい。
- アナフィラキシーショックやアレルギーの発現の危険性がある。
|
長い |
ベンゾカイン benzocaine=アミノ安息香酸エチル ethyl 4-aminobenzoate
←→パラアミノ安息香酸:PABA
- プロカインよりも前に合成された局所麻酔薬
16世紀 | benzoic acid(安息香酸)が発見された。(ガム・ベンジャミン(Gum Benjamin、安息香)はエゴノキ科のStyrax benzoinからとれる樹液であり、痰を取り去り息を安らかにするとして昔から薬として使われていた。) |
1556年 | Michel de Nostredame(1503/12/14〜1566/7/2, 単なる予言者ではなく、ルネサンス最大の有機化学者、医師)が安息香酸を発見したと言う説とそうでないという説があるようだ。ノストラダムスはペストの対症療法と防腐と消毒に使っていた。 |
1832年 | Justus von Liebig(1803/5/12〜1873/4/18, ドイツの化学者)とFriedrich Wöhler(1800/5/31〜1882/9/23, ドイツの化学者、尿素の化学合成)が安息香酸の構造を決定した。安息香酸誘導体の研究から、反応によって変化しないC7H5Oの部分が存在することに気がつき、これをベンゾイル根と命名した。 |
1875年 | Salkowskiが安息香酸の抗菌作用を発見した。 |
1890年 | Eduard Ritsert(P 1859/11/11〜 ドイツEberbachの化学メーカーRitsertの設立者)がbenzocaineを合成した。 |
- 外用局所麻酔薬:5〜15%の軟膏剤、液剤、散布剤。歯科用医薬品:20%程度のものが用いられている。外傷や虫さされ、痔などの痛み・痒みの緩和に使用される。
- 内服薬としては、胃の痛みや吐き気を抑えるため胃腸薬や乗り物酔い防止薬に配合される。
- 疎水性(難溶性)のため、表面麻酔薬としてのみ用いられる。
- 生体内ではほとんど陽イオンにならないため、use-dependent blockを生じない。
- 非イオン型の局所麻酔薬:非特異的に膜の脂質に浸入し、膜を膨張させ(膜の高次構造を変化させ)、Na+チャネルを狭めるという膜の膨張説がある。
- パラアミノ安息香酸:PABA誘導体エステル型局所麻酔剤。血漿中のコリンエステラーゼで、加水分解される分解されて、代謝物パラアミノ安息香酸となり、スルホンアミドの作用を阻害する。
- PABAは高い抗原性を持ち、抗体産生やTリンパ球の感作を促すすため、アレルギー反応が起こりやすい。
|
|
パラブチルアミノ安息香酸ジエチルアミノエチル塩酸塩 Diethylaminoethyl p-Butylaminobenzoate Hydrochloride (テーカイン原末®)
←→パラアミノ安息香酸:PABA
- 効能又は効果:伝達麻酔、浸潤麻酔、表面麻酔、歯科領域における伝達麻酔・浸潤麻酔
- アドレナリンやジブカインなどに添加されている。
- 兎角膜反射実験において、効力はテトラカインと同等で、作用時間はテトラカインより長い。
- また、ヒト皮内注射における麻痺発現時間はジブカインより速いが、持続時間はジブカインより短い。
|
|
コカイン Cocaine ←→局所麻酔薬の歴史年表/依存性薬物
- コカの葉から抽出されるトロパンアルカロイド。麻薬
- 最初に使われたエステル型局所麻酔薬であるが、全身麻酔作用もある。
- 組織浸透性が高く表面麻酔のみとして適用されることがある。
- 中枢神経作用、局所麻酔作用、交感神経興奮作用(アミントランスポーター阻害)を持つ。
- コカインは興奮薬であり、覚醒レベルを高め、多幸感をもたらし、疲労感や飢餓感を忘れさせ、精神的な持久力を増強させることから、戦時中には積極的に利用され、現代ストレス社会でも中毒患者が少なくない。
- 全身作用は少量では鎮痛作用および幻覚作用が、大量では催眠作用があり、依存性薬物でもある。
- コカインはNa+チャネル遮断作用のほかに、ノルアドレナリンやドーパミンの再取り込み阻害作用がある。
- BBBを通過して中枢抑制作用を示す。そのため、大量に投与するとノルアドレナリンやドーパミンの量が増えて、血管が収縮するとともに、精神依存に陥ります。
- アンフェタミンと同様、中枢神経に影響を与え、乱用薬物でもある。
|
|
→