第73回
2009年8月17日

日本放射線専門医会・医会のAi(Autopsy imaging)に関する提言

日本放射線科専門医会・医会 Aiワーキンググループ
一同
日本放射線専門医会・医会のAi(Autopsy imaging)に関する提言

Ai(Autopsy imaging)のニーズは高まっている。その理由は様々であり、その利用範囲が急速に広がっている。
放射線科医は、国民の視点に立ち、国民に開かれた死因究明制度の中に、Aiを組みこむことを提案する。放射線科医は、国民に対して、透明性を確保するために、病理、法医学会とのオープンなディスカッションの場を提供する。
Aiの実施について日本放射線専門医会・医会は、医療者と遺族が早期に、冷静に話し合える場を提供できると考え、Aiを通じて国民に対して役立てると考えている。
Aiの撮影、読影の技術も日々進歩している。しかしながら、社会基盤が整っておらず、救急救命医師、放射線科医師や放射線技師などの献身的な努力によって支えられている。
Aiは、画像の専門家である放射線技師、放射線科医が提供することが妥当と考える。病理、法医学と独立して、その診断の客観性を保つため、オープンなシステム作りを行う。その場合、適切な費用を積み上げた予算措置を行うことを望む。
我々、放射線科専門医は、放射線診断の専門家として、Aiをより良い社会基盤とすべく、その適正な使用、整備に、関わっていくことをここに表明する。

Ai施行に関して

Aiの撮影においては、院内のガイドラインを整備し、その適正な運営をおこなうことを推奨する。そのメンバーとしては、放射線科専門医(院内にいない場合には外部)、診療放射線技師、救急担当医師、安全管理部、看護師、事務職などの参加が望ましい。

院内死亡に関して
  1. 院内のガイドラインを作成し、それに基づき行うことが求められる。純粋に医療の延長としての見地において行う場合においても、その撮影を行う放射線技師や放射線科医の過度の負担にならないように、人員配置や手当てが保障されてからの実施を推奨する。
  2. 死因不明、事件や訴訟対策として行う場合は、撮影と読影に関する負担を明確にし、それに関わる人員配置や手当てが保障されてからの実施を推奨する。また、客観性を持たせるために、第三者に読影を依頼することが推奨される。そのためのシステム整備や費用を確保してからの実施を推奨する。
  3. 解剖に関しては、Aiの精度向上のためにも、解剖の承諾も同時にいただくことが望ましい。
  4. 見逃しやAiと解剖の齟齬が生じないように、Aiの所見を解剖医に伝えてから、行うことが望ましい。
  5. また、遺族に対しては、ミクロ解剖の結果の結果がでる以前に、Aiとマクロ解剖により、死因の説明がなされる。そのため、ミクロ解剖にて異なる結果がある場合には、臨床医、放射線科読影医、病理医での討議により、死因を確定することが望ましい。遺族に対する説明は主治医(それに準じる上級医師)から行われ、放射線科診断医は原則行わない。

院内死亡遺体のガイドラインの作成においては、以下の項目を満たすことを推奨する。

  1. 遺族からの同意書:院内において統一したAiの同意書の策定が望ましい。また、解剖の同意書の同時提示ならびに、解剖拒否例において、Aiにて所見があった場合の部分的な解剖、組織検体採取方法などについての同意書について取得することが望ましい。
  2. 受付担当者:放射線科部門責任医師または、責任診療放射線技師とする。現場における対応となるため、現場の責任者が望ましい。
  3. 利用時間:通常の患者検査との重複がないことを推奨する。また、救急画像診断対応を行う体制がとられていない場合は、深夜の対応は行えない。
  4. 汚染、感染防御方法:汚染、感染防御のためのラッピング方法、ディスポ製品の使用、使用後の消毒方法を各施設で決定する。
  5. 遺体の搬送ルートの確保:通常の患者の利用ドアや待合が同じにならないことが推奨される。これが出来ない場合には、時間帯の区別をする。
  6. 使用機種、撮影部位と撮影方法:機器、技術の進歩や社会のニーズにより、その方法は、変化する。そのため、適切な機械を用い、撮影を日本医学放射線学会、日本放射線専門医会・医会、日本放射線技師会、Ai学会のガイドラインや指針により常にアップデートする。
  7. データの保存:データの保存のため、通常の電子カルテの形式に則った保存形式により、10年間の保存が推奨される。また、地震や火災によるデータ損壊を防ぐために、コピーデータの院外保存が推奨される。裁判資料となる可能性を考慮し、撮影データの取捨選択をせず、全てのデータを保存することが推奨される。
  8. 読影:読影は放射線科医が行うことが望ましい。放射線科診断医以外の医師が読影を行うことについては制限を設けないが、標準的な日常臨床の画像読影能力以上を有することが当該医師には求められる。死因不明、事件や訴訟対策として行う場合は、日本放射線専門医会・医会Aiワーキンググループまたは、Ai学会を通じて、第三者読影を依頼することが望ましい。
院外死亡に関して
  1. 院外死亡遺体に関しては、感染性の有無の確認が即座には困難であり、感染性の強い遺体を扱う可能性がある。そのため、免疫低下などの可能性がある患者を扱う医療機関で通常の医療用のCT,MRIを利用するには、感染防御を行える場合にのみ行うことを推奨する。
  2. 施行のためのガイドラインを作成することが各施設に求められる。ガイドライン作成のメンバーとしては、放射線科専門医(院内にいない場合には外部)、診療放射線技師、救急担当医師、安全管理部、看護師、事務職などの参加が望ましい。
  3. 院内のガイドラインが作られない状態で、院外死亡遺体の撮影を行うことは、放射線科専門医会、医会としては、受け入れられない。

    院外死亡遺体のガイドラインとしては、以下の項目を満たすことを推奨する。

  1. 受付担当者:放射線科部門責任医師または、責任診療放射線技師とする。現場における対応となるため、通常医療業務を勘案しての撮影となるため、現場の責任者が望ましい。
  2. 利用時間:通常の患者検査との重複がないことを推奨する。また、救急画像診断対応を行う体制がとられていない場合は、深夜の対応は行わないことが望ましい。
  3. 汚染、感染防御方法:汚染、感染防御のためのラッピング方法、ディスポ製品の使用、使用後の消毒方法、またそれに対する関する費用負担を決めておく。費用負担があいまいである場合は、物品の欠品などにより、その実施がなされずに、感染事故につながる可能性がある。
  4. 遺体の搬送ルートの確保:通常の患者の利用ドアや待合が同じにならないことが推奨される。これが出来ない場合には、完全な時間的な分離を行う。また、終了後は、速やかに院外に運び出すルールやルートを確保する。
  5. 使用機種、撮影部位と撮影方法:機器、技術の進歩や社会のニーズにより、その方法は、変化する。そのため、適切な機械を用い、撮影を日本医学放射線学会、日本放射線専門医会・医会、日本放射線技師会、Ai学会のガイドラインや指針により常にアップデートすること。
  6. データの保存: データの保存のため、通常の電子カルテの形式に則った保存形式により、10年間の保存が推奨される。また、地震や火災によるデータ損壊を防ぐために、コピーデータの院外保存が推奨される。裁判資料となる可能性を考慮し、撮影データの取捨選択をせず、全てのデータを保存することが推奨される。
  7. 読影:読影のガイドラインは現在作成途中である。現状では、日本放射線専門医会・医会Aiワーキンググループまたは、Ai学会を通じて、第三者読影を依頼することが望ましい。放射線科診断医以外の医師が読影を行うことについては制限を設けないが、標準的な日常臨床の画像読影能力以上を有することが当該医師には求められる。
費用請求に関して(撮影報酬・読影報酬)
  1. 通常の医療行為ではなく、現在の社会保険制度から費用請求を考えることは難しい。しかしながら、通常の社会保険制度と同程度の費用は発生する。そのため、一般的な受刑者のCTに法務省から払われる費用を参考に示す。
    1点20円(初診料、マルチスライスCT、コンピュータ画像診断料、画像診断管理加算-2、電子画像情報処理加算料、診療情報提供料=2120点)での税込44520円である。これを基準と考えることが望ましい。MRIや造影剤の使用においては、その金額を同様に加える。その他に以下の報酬を確保することが必要である。
  2. 読影/撮像報酬:受刑者に対する画像検査は通常の医療行為であるが、Ai実施(撮影・読影)は医療行為ではない。したがってこれに対する特別な放射線医師・放射線技師の勤労手当てが必要となる。加えて、その習熟には費用と時間が必要であるため、読影担当医・診療技師に正当な対価を確保してから行うことが必須となる(検査立会い、撮像、読影、検案書作成時間を考慮すること)。ちなみに、司法解剖においては、解剖料金の大学への支払い以外に、法医学者には、時給9000円が支払われており、これに相当する対価が検討されなければならない。
読影(認定医制度)に関して
  1. )撮影と同様、その読影には、より特殊な知識と経験が要求されるために、日本放射線専門医会・医会はAi経験のある読影医師や施設を拡充させる様、努力して行く必要がある。
    Ai実施・読影カリキュラムが策定された時点で、Ai読影認定医制度について、日本医学放射線学会、日本放射線専門医会・医会、Ai学会主導で計画されることが妥当と考える。
  2. 放射線科医以外の臨床医師や法医学、病理学者が読影することも考えられるが、日本で最も先進的な千葉大学の例を参考にすると、放射線科専門医の関与が無ければ、画質及び読影の精度が保てないと考えるのが妥当である。
  3. 放射線診断医(あるいは読影を行う医師)は、通常のCT,MRIについての知識以外に、死後変化についての知識や、新しい知見が必要となるため、セミナー、学会等を通じてその知識の習得に努める必要がある。
  4. 日本放射線専門医会・医会は教育セミナーを定期的に実施し、Aiの撮像法・読影法について教育を継続して行う。
  5. 院内死亡、院外死亡どちらにおいても、その画像・読影結果は臨床画像・読影と同様に保全されなければならない。また、裁判資料になるなどを考慮し、全てのデータを保存し、破損や破棄が起こらないようにする。
  6. Aiに不慣れな医師が読影を行うことは、一定の精度を保つことが難しく好ましくない。認定医制度(仮)が制定されるまでは、Ai画像読影の実施経験のある放射線科専門医に読影依頼をすることを考慮し、オンラインによる読影依頼システム、読影謝礼、レポートの保存システムなどを十分整えてから、行うことが望ましい。制度制定後は、Ai読影認定医が読影に当たるとともに、後身の指導を行うことが望ましい。
注:幼児画像検査について

搬入された幼児のなかには虐待の恐れのあるケースが含まれるため、幼児についてはAiを総合的に判断するシステム構築が必要である。そのことが、その後の虐待の抑止力につながると考えられる。

Aiワーキンググループ 小熊栄二、塩谷清司、高野英行、高橋元一郎、高橋直也、中島康雄、兵頭秀樹、山本正二(順不同)