第55回
2007年11月2日

「Ai雑感」

三重大学医学部附属病院 安全管理部
兼児 敏浩

本年、7月からAi学会に入会いたしました。87年卒の内科医で(血液、内科一般)ほとんど市中病院(野戦病院)にいましたが、5年前からいきなり大学病院の安全管理部に転勤、現在、に至っております。医療の質の担保には必要不可欠なAiを現行のようなアングラではなく、正規のシステムにすることをとりあえずの目標と考えております。ここでは、放射線科医でも病理医でもない小生のAiに関する雑感を書かせていただきます。

小生が医者になって間もない20年近く前、市中のいわゆる救急病院に勤務しておりました。研修医に毛が生えた程度の知識・技量しかない自分でしたが、当然のように週1回、一人当直をしておりました(今考えれば恐ろしいことですが)。野戦病院ですので何回かに1回はDOA事例がやっています。当時は今のように異状死について議論されているわけでもなく(しかし、今も本質は20年前と変わっていない)、初診で外傷がなければ心不全と何の抵抗もなく先輩医師に教わったとおりに死亡診断書に記載しておりました。外傷がなければ心不全にするという死亡診断書は医学生がみてもおかしな話ですが当時は(今も)まかり通っていたのです。そのうち、急死の原因として脳血管障害を無視するのはまずいのではと思い始め、脳出血だけでも除外しようと始めたPMCTが小生にとってのAiことはじめであります。当時のCTは古い機械で全身を取るには労力を要しましたので、PMCTといいましても頭部CTだけでしたが、いままでなら心不全としていたような事例のなかにくも膜下出血や脳幹出血が一定の割合で存在しました。当時の自分はこれを急死の原因としてごく当たり前の結果として捉えておりましたので、何の記録も残っておりませんが、かくして、自分の中では、DOAで頭部CTに何もなければ心不全、という公式が自然とできたように思えます。その後、全身CTが容易に撮れるようになると大動脈瘤の破裂なども何件か経験した記憶があります。

それから、十数年後、医療安全管理者の集まりがありました。ある有名大学の偉い安全管理の先生から焦ったような口調で「Aiは実施していますか」とたずねられ、「システム化はされていないが実際はされている」と答えますと実施されていることに対する驚きとシステム化されていないことの安堵感が表情から見て取れました。実は小生も当時はAiは死亡後に実施するCT撮影のことという程度の認識しかありませんでしたが、田舎病院勤めの長い小生が何の考えもなく普通にやってきたことが「エーアイ」という立派な名前をもらって、偉い先生が「そんなのあるんだー」という顔をしていたことにむしろ驚いてしまいました。

以上のようにAiに関する認識は知らない人はまったく知らないというのが実情ですし、有用性について十分分かっている人にとってもつつかれたら埃が出るアングラのレベルで実施している施設が多いので、威張って知らない人に勧められない、ましてや学会発表なんぞ、という人が多いかと思われます。

Aiをアングラからお天道様のもとに引っ張り出す、これがまず、私が取り組むべき課題であると考えております。(ついでに少し悪態をつきますとDOAを見たこともないような偉い安全管理の先生方には議論してほしくないですね。)

今後とも御協力、御指導お願い申し上げます。