第4回
2004年1月16日

病理解剖の現状からみたAiが果たす役割の将来展望と期待

藤田保健衛生大学医学部病理部
黒田 誠

現在、日本では年間約100万人が死亡しており、その約80%が主治医に看取られる病院での死(普通の死,病死)であり、約20%が死因不明の急性死や事故死などの異状死である。

剖検数は最近の10年間では司法・行政解剖が約1000体増加しているが、病理解剖は約1万体減少している。剖検率は合計で5.8%から3.9%に,病理解剖単独では4.7%から2.8%へと著しく減少している。世界的にみるとWHOの統計では欧州諸国が20~30%という高い剖検率を維持しているが、米国は約10%,日本は4%を割っているという現状である。欧州の高い剖検率は英国の検死制度に由来している。剖検が国益と考えられ、費用は全て国が負担しているのである。米国では1970年に病院認定合同委員会が剖検率の項目を削除した影響が大きく、医療訴訟に関係した剖検以外は激減した。 日本では司法解剖は国が負担し、行政解剖は都道府県が負担し、病理解剖は病院が負担することになっている。補助金は国立大学にのみ教育的な立場で、文部科学省から支給されているのすぎない。現在、剖検には1体あたり約20万円の経費がかかると推定されており、これは全く保健診療の適応にはなり得ない。厚生労働省が病理解剖の重要性を国として認めるのならば、英国同様に国が負担する制度を導入しなければ、この問題は永久に本質論の解決をみないであろう。

病院による病理解剖の内容の違いを検討すると、大学病院・認定病院・登録病院等の大病院では、死亡統計では約30%しかない悪性腫瘍が約60%と突出している。これに対して個人病院や開業医等の中小病院や医院では、悪性腫瘍は極めて少なく、周産期死亡が最も多く、急死がこれに続いている。

また、最近の傾向として病院の大小にかかわらず、遺族が病理解剖を求める例が急増している。遺族は真実を知りたいという気持ちが強く、主治医はこのような場合でも自ら進んで病理解剖をすすめなければならない。

最近の10年間で医療訴訟は2倍以上に増加しており、その際に病理解剖が大きな論点となっている。真実を解明するためには病理解剖をするのが望ましいが、種々の問題で施行されなかった場合には正しい判定が下り難い。

本来の病理解剖の意義は現在も全くかわっていないが、医療社会は大きく変貌をとげており、Aiが病理解剖にどれだけ近い評価を受けるかが、今後の病理解剖がかかえる諸問題が解決される糸口になり得る可能性があり、この学会で大いに論議をしていただきたい。