第33回
2006年4月28日

ヨーロッパ放射線学会に参加して-Aiとvirtopsy の接点

重粒子医科学センター病院
神立 進

2006年3月3日から7日まで、オーストリアのウイーンで開催されたヨーロッパ放射線学会(ECR)に参加してきました。放射線関係の国際学会は、他に、北米放射線学会(RSNA)、アメリカ放射線治療学会(ASTRO)、国際核医学会(SNM)があります。私は、頭蓋底のMRI-CT診断(生きている人が対象)について発表しました。最終日にVirtopsyに関するSpecial Focus Sessionが開催されました。私はこれに参加しました。残念ながら、聴衆は多くはありませんでしたが、最終日ともなると、帰国する人も多く、そのためだったのかもしれません。

発表者は4人でした。法医学におけるvirtual autopsyの意義、画像データをどう処理するか、死後の造影検査、剖検を置き換えることができるか、というのが発表者のテーマでした。

法医学における画像検査の意義の実例として、アメリカの故ケネディ大統領の銃撃の画像診断が示されました。もちろん、この時代にはまだCT,MRI検査装置はありませんが、当時の画像診断装置でも、銃撃の方向や死因などが良く理解できました。法医学として大きな意義の一つは、解剖してしまうと、わからなくなってしまう体内の空気がvirtual autopsyでは良好に検出できるとしていました。

診断画像はかなり精細な絵が得られるようになっています。surface renderingで体の表面の状態を再現することができ、肉眼像のないことが、ある程度はカバーできるのではないかというのが演者の主張でした。また、三次元処理により、臓器の立体構造を表現することが容易になっており、画像診断の意義を高めているとしていました。最後に、こういった画像をデータとして蓄積しておき、将来、利用することができることは非常に大きな意義を持っているのではないかと結んでいました。

死後の造影検査に関しては、2006年1月に日本で開催されたAutpsy Imaging学会でも心臓マッサージをしながら造影検査をしたという発表があり、聴衆一同感動したのですが、それをはるかに越えるものでした。人工心肺装置を用いるのです。きちんと、動物実験を行っており、様々な造影剤を試してみて最適な造影剤を見つけたという報告でした。色をつけたリピオドールを用いるのです。まだ試みは始まったばかりであり、静脈血栓が検出できた、という報告にとどまりましたが、今後期待できると思います。普通の造影剤では、漏出が激しくうまくいかないとのことでした。

Virtual Autopsyでは、剖検を置き換えることはできない、というのが現時点での共通認識だと思われますが、実際の剖検よりすぐれた結果が得られたケースがいくつか表示され、条件次第では、剖検を置き換えてもいいのではないかと思われました。

最後に私の印象ですが、まだ、この種の試み(Autopsy imaging, Virtopsy等、名称はいろいろですが)は、始まったばかりであり、発展する方向はよくわかりません。法医学分野での有用性だけはすでに明かになっていますが、それにとどまらないのではないかという印象を持っています。今後、画像診断の能力があがるにつれ、現時点では想像できないような発展が期待できるのではないかと考えています。