NEJM勉強会2003 第32回 03/11/12実施 Aプリント 担当:藤田 大司
Case 1-1995: An elderly man with a questionable bronchial carcinoid tumor of long duration and recently increasing tracheal obstruction
─長期にわたり増大する肺腫瘍と再発生の閉塞による肺炎が呼吸不全に進展した80歳男性─

 
【現病歴】
  長い経過を伴って増大する肺腫瘍と再発性の閉塞後の肺炎発作、そして最近呼吸不全を呈した80歳男性が入院した。
  22年前より胸部X線上で左の主気管支に緩徐に発育する腫瘤を指摘されていた。患者は開胸術を拒否しており、気管支鏡にて Carciniod tumor として矛盾しない像が得られていたのみであった。その際に生検はなされていない。発見より15年の間に腫瘤に起因すると考えられる症状は何もなかった。
  7年前(すなわち発見より15年して)、年に1、2回の左の肺炎を反復するようになったが、それらは抗生物質にて緩解していた。潮紅、頻脈、喘鳴、呼吸困難、下痢などの症状はなかったものの、ゆっくりと増大する腫瘍として Carciniod tumor であると考えられていた。ここ数年は近くの内科医と呼吸器専門科にかかっていて、胸部X線を時折撮影していたが、著変なしであった。2.5年前に施行したCTでは、気管の遠位から左気管支、左上気管支の近位にまで及ぶ nodular soft-tissue mass が見られた(figure 1)。Massの内部には斑点状の石灰化を認め、左肺はところどころ虚脱していた。縱隔の拡張は見られなかった。
  入院2.5週前には、体温が39.4℃に上昇し、咳、食欲不振、易疲労感などの症状が出現した。悪寒、胸部痛、呼吸困難はなかった。左下葉の肺炎の治療目的にて他院に入院した。そこで施行された造影CTでは、腫瘤は以前に比べて増大しており、左主気管支を閉塞し、左肺が完全に虚脱してた(figure 2)。縱隔の拡張やリンパ節の腫脹は見られなかった。気管支鏡でも腫瘤の増大が確認され、それは気管軟骨より上方にまで進展し、気管を80%閉塞していた。その病院では、患者は3度の呼吸不全発作に見まわれたが、そのうち2回は痰を吐き出して収まった。何種類かの抗生物質の投与後に解熱し、当院に搬送された。
 
  患者は教師をしていたが、すでに引退してしまっている。健康状態は良く、喫煙も飲酒もしない。12ブロック歩くことが出来、2階以上階段も登ることが出来る。喀血の既往はなく、 endocrine neoplasiasにかかったこともない。
 
【現症】
<vital> BT 36.7℃, PR 60, RR 20, BP 130/70mmHg
<general appearance>感じの良い、元気な様子。年齢の割に若く見える。
<skin> rash(-), teleangiectases(-), lymphadenopathy(-)
<head/neck> normal
<lung> breath sounds diminished over the left lung , a few rhonchi and respiratory stridor over the right lung
<heart>normal
<abdomen> normal
<extremities> peripheral edema(-), digital clubbing (-), cyanosis (-)
<neurological> no findings
<血算> Ht 32.3%, MCV 89.0
<生化> UA 正常、Cre 正常、Na 正常、K 正常、 Cl 正常Ca 正常、P 正常、GOT 正常、GPT 正常
<凝固> PT 正常, aPPT 正常
<血ガス> (room air) PaO2 57mmHg, PaCO2 41mmHg, pH 7.47
<ECG> normal rhythm, rate 84, evidence of left atrial enlargement
 
<CXR> 遠位気管にa smooth , well defined mass, 2.5×2 cm、左肺の完全虚脱を伴う。左の主気管支と区域気管支は特定できず。心臓、縱隔は左に偏位。右肺は過膨張でclear。
 
ある診断的手技が施行された。
 
 

Figure 1. CT Scan of the Chest Obtained 2 Years before Admission, Showing a Soft-Tissue Mass in the Left Main Bronchus Containing Peripheral Stippled Calcifications, with Partial Collapse of the Left Lung.
 
 

Figure 2. CT Images of the Chest Obtained 2 Weeks before Admission, with Enhancement after the Intravenous Injection of Contrast Material. Contrast enhancement shows that the mass in the left main bronchus has enlarged; the left lung is collapsed (top). The mass is nodular, extending into the distal trachea; an enlarged aortopulmonic lymph node is visible (bottom).