NEJM勉強会2003 第31回03/11/5 実施 Aプリント 担当: 東 健一 (higashi-tky@umin.ac.jp)
Case 6-1994: A 31-Month-Old Girl with Fever, Diahhrea, Abdominal Distension, and Edema
(Volume 330(6): 420-426)
───発熱、下痢、腹部膨満と浮腫が認められた2歳7ヶ月の女児───

 
【患者】2歳7ヶ月女児
【主訴】発熱、下痢、腹部膨満と浮腫
【現病歴】
  成長発達に関しては、体重が下5パーセンタイルぎりぎりである他は異常がなく、入院2ヶ月前までは元気であった。
  入院の2ヶ月前、咳、喘鳴、軽度の発熱のため近医受診。入院し、抗生剤と、5日間のprednisoneによる治療を受け、amoxicillin(広域ペニシリン)と吸入用albuterol(β刺激薬)を処方され退院した。
  入院の18日前,前回同様の症状があり同病院受診。入院し、抗生剤と5日間のprednisoneによる治療を受け、amoxicillinとprednisoneを処方され退院した。
  入院の13日前,嘔吐と下痢が出現、増悪し、やはり同病院を受診し、そこでロタウイルスが検出された。 8日間入院し退院したが、その時も一日に8回の下痢が続いていた。
  入院当日,患児はだるそうで、傾眠傾向、熱っぽく、嘔吐が長引き始めていた。白血球74900(好中球93%)であり、同病院に来た。その時点での体温は38.8℃、脈拍160/分、収縮期血圧は90mmHgであった。脱水傾向が見られ、黄色の下痢が見られた。SaO2はroom airにて80%、HCO3は13mmol/lであった。輸液、電解質、ceftriaxon(第3世代セフェム)の点滴を受け、患児はMassachusetts General Hospitalに搬送された。その途中では酸素マスク8L→2LにてSaO2 100%が維持された。
 
【生活歴】ペットへの暴露なし。水は上水道から得ている。
【既往歴】血痰、アレルギーなし。Sweat test(-)
【家族歴】父は気管支炎で抗生剤の治療を受けている以外は特記すべき事項なし。父は早期産で産まれ、現在の身長は174cmである。患児の4歳の兄はやはり体重が下5パーセンタイル程度で、中耳炎の治療を受けている。
【入院時現症】
<VITAL SIGNS> BT 37.2℃(acetoaminophen服用後), BP 85mmHg(systolic), BW 9.6kg(下5パーセンタイル以下)
<CONS>somnolent
<SKIN> purpura (-), petechia (-), lymphadenopathy(-), perioral cyanosis(+) when the oxgen mask was removed
<髄膜刺激症状>項部硬直見られるが、「真の」硬直かは疑問
<LUNG> clear <HEART> normal
<ABDOMEN> distended, with diminished bowel sounds. Organomegaly(-), tenderness(-), hernia(-)
<EXTREMITIES> normal
<NEUROLOGICAL> negative
【入院時検査所見】(Table 1, 2を参照)
<CBC> WBC 31200 /mm3 (Band 30%, Neu 57 %, Mono 2 %, Lym 11 %), Ht 38.3 % , Plt 29.2×104/mm3
<CHEMISTRY> TP 3.4 g/dl, Alb 1.4 g/dl, Glb 2.0 g/dl, LDH 425 IU/l, AST 49 IU/l(9-25), ALP:117U/l, T.Bil: 0.3mg/dl, BUN: 36mg/dl, Cr: 1.1mg/dl, UA:5.5mg/dl, Na 129 mEq/l, K 5.8 mEq/l, Cl 105 mEq/l, Ca: 8.3mg/dl, Mg: 0.85mmol/l, iP 4.3mg/dl
<ABG(O2マスク2L下)>PaO2 102mmHg, PaCO2 23mmHg, pH 7.50
<CXP>細気管支炎と考えられる変化と、両側の胸水が見られる。
<AXP> Figure 1参照。腹部中央に軽度の小腸loopの拡張が見られる。明らかな腸管の拡張や腹腔内遊離ガスは見られない。骨は年齢相応。
<髄液所見> Table 3参照。
<便の顕微鏡的所見>moderate number of neutrophils。
<infection>rotavirus infection(-)
 
【入院後経過】
 入院当日、血液、尿、便、髄液検体の培養を提出した。輸液、電解質、ampicillin、ceftriaxon、metronidazole(嫌気性菌を狙って)が経静脈的に投与された。患児は頻回の下痢が続き、緑色調の便(潜血陽性)をし、1回嘔吐した。腹部はさらに膨満してきた。繰り返し撮られた腹部X線写真では、臥位でair-fluid level を伴った主に小腸の拡張したloopが認められた。経鼻胃管挿入し、透明な液体が引けた。外科からは急性腹症の所見は無いとのことであった。体温は38.2℃まで上がった。
 翌日も下痢は続き、便潜血陽性であった。体温37.8℃、脈拍130/分、呼吸数41、血圧105/55mmHg。両側肺底部でcrackleが聴取された。腹部所見著変なし。四肢に浮腫2+。尿蛋白が陽性であり、RBC 8/HPF, WBC 4/HPFであった。血算、生化学はTable 1, 2を参照のこと。Na 132mmol/l, K 4.2mmol/l, Cl 118mmol/l。ABGはroom airでPaO2 74mmHg, PaCO2 30mmHg, pH 7.43 であった。腹部X線写真で、腹腔内遊離ガスは認められない。全ての培養は陰性であった。
 
診断的検査結果が手元に来た。
 
 
Table 1. Hematologic Findings. Table 2. Blood Chemical Findings.

 

Figure 1. Radiograph of the Abdomen, Showing Slight Dilatation of Loops of Bowel Consistent with a Nonobstructive Ileus. There is no evidence of free intraperitoneal air.
 

Table 3. Findings on Lumbar Puncture.