NEJM勉強会2003 第27回03/10/8 実施 Aプリント 担当: 森川 真大 (morikawa-tky@umin.ac.jp)
Case 20-2003: A Nine-Year-Old Girl with Hepatosplenomegaly and Pain in the Thigh
(Volume 348(26): 2669-2677)
───肝脾腫と大腿部の疼痛を認めた9歳女児───

 
【患者】9歳女児
【主訴】肝脾腫,大腿の痛み
【現病歴】
妊娠経過に異常なく,発育でも入院の3年前までは特記すべき異常が認められていなかった.
  入院の3年前から鼻血がしばしば認められるようになった.
  入院の2年前,腹部膨満感が出現した.近医を定期的に受診したが,診察では異常を認めなかった.
  入院の1年前,同様に右脚の痛みを自覚していたが,この時は自然に消失した.
  入院の2ヶ月前,腹部膨満感が悪化した.腹痛(-).診察で肝脾腫が指摘され,腹部超音波エコー検査で肝脾腫が確認された(Fig. 1).門脈血栓(-).肝機能検査LFTsは全て基準値内かほぼそれに近いものだった.またA型,B型,C型肝炎ウイルスの検査は全て陰性であった.
  入院の3日前,右大腿部の疼痛が出現した.
  翌日(入院の2日前)になっても痛みがおさまらず,痛みのために歩行不可能であった.体重減少,倦怠感,発熱,寝汗,咳嗽,食欲不振,悪心・嘔吐,吐血,下痢,黄疸は認められない.
  患児はMassachusetts General Hospitalに入院した.
 
【生活歴】両親はハイチ出身であるが,患児はアメリカ合衆国で生まれた.兄弟は3人で皆健康.
最近の旅行(-),外傷(-)
【既往歴】特記すべきものなし.sickle cell disease(-),ヘモグロビン異常症(-),肝疾患(-),
炎症性腸疾患(-),自己免疫性疾患(-),甲状腺疾患(-)
【家族歴】出血傾向(-)
 
【入院時現症】
<VITAL SIGNS> BT 38.6℃, BP 130/75 mmHg, PR 93 /min reg., RR 18 /min, SpO2 99 % (room air)
<SKIN> purpura (-), petechia (-), jaundice (-), rash (-)
<HEENT> [Eyes] conj: not anemic & not icteric [Oral Cavity] gum bleeding (-)
<LUNG> normal vesicular sound, no crackles
<HEART> systolic ejection murmur (Levine I/VI, PMI: LSB)
<ABDOMEN> distended, navel protrusion (+), Liver/ Spleen: palpable
肝臓辺縁は骨盤上口(pelvic brim)まで下降し,正中線を越えている.脾臓は肋骨弓下5 cm.
<EXTREMITIES> tenderness (+) (proximal protion of the right femur), erythema (-), arthralgia (-)
膝関節,股関節の他動運動のROMは保たれている.膝伸展に疼痛を伴う.膝関節の熱感(-),腫脹(-)
<NEUROLOGICAL>
[Mortor] motor power: intact
[Sensory] light touch: preserved
[Gait] 右脚の疼痛が激しく,歩行を観察することはできなかった
eye-movement abnormalities (-), ataxia (-), cognitive difficulties (-)
【入院時検査所見】
<CBC> WBC 14700 /mm3 (Neu 73 %, Mono 2 %, Lym 25 %), Ht 33.7 % (MCV 72 μm3), Reti 1.2 %, Plt 25.6×104/mm3
<CHEMISTRY> TP 9.2 g/dl, Alb 4.6 g/dl, Glb 4.6 g/dl, LDH 268 IU/l(110-210), AST 43 IU/l(9-25), ALT: w.n.l, ALP: w.n.l., T.Bil: w.n.l., D.Bil: w.n.l., BUN: w.n.l., Cr: w.n.l., UA: w.n.l., Na 132 mEq/l, K 4.0 mEq/l, Cl 102 mEq/l, Ca: w.n.l., Mg: w.n.l., iP 4.1 mg/dl, Glu(随時) 132 mg/dl, Fe 24 μg/dl, IBC 341 μg/dl
<COAGULATION> PT 13.6 sec.(11.1-13.1), PTT 33.6 sec., ESR 92 mm/hr
<U/A> SG 1.030, Prot (+), Ket (+/-), Uro (+/-)
<Peripheral Blood Smear> microcytosis (+++), anisocytosis (+)
<Hemoglobin Electrophoresis> HbA 62 %, HbC 35 %
<CXR> lung fields: clear
<骨レントゲン> n.p.
<腹部・骨盤造影CT>
左大腿骨頭部にpatchy sclerosisが認められ,無腐性壊死avascular necrosisを示唆している.右股関節には中等度の関節液貯留が認められる.骨髄のdensityが脂肪というよりも軟部組織のものに近く,細胞浸潤を示唆する.著明な肝脾腫を認める.後腹膜のリンパ節の数個がφ1 cm以上になっている.gallbladder, kidneys, pancreas, adrenal glands, large and small bowel: n.p.
<骨盤MRI>(Fig. 2)
右股関節の関節液貯留,右大腿骨近位部と殿部の滑膜と軟部組織の異常なenhancementを認める. T1強調像(Fig. 2A)では,骨盤や大腿骨の骨髄が筋と同程度の”低い”signal intensityであることが明らかになった.明らかな骨髄炎や膝関節液貯留の徴候は認められなかった.T2強調像(Fig. 2B)では,右大腿骨近位部の骨髄や軟部組織の浮腫が認められた.gadoliniumの造影効果が認められないことから(Fig. 2C),急性骨梗塞に特徴的な所見と考えられる.
<骨シンチ> 99mTc-methylene diphosphonate (99mTc-MDP)
右大腿骨近位部に取込みが減少している部分が存在した.大腿骨骨幹部近位1/3にわたり,梗塞の存在を疑わせた.
 
【入院後経過】
  患者の疼痛はpatient-controlled analgesiaでのmorphine静注にて緩和した.入院中には体温が37.4℃まで上昇することがあったが,平熱のときもあった.抗生物質の投与は開始されていない.尿培養からはmixed bacteriaが検出された.血液培養は陰性であった.これ以外の検査はpendingである.
 
  ある診断的手技が施行された.