NEJM勉強会2003 第26回03/10/01 実施 Aプリント 担当: 岩佐 健史 (tiwasa-tky@umin.ac.jp) Case 30-2003: A 21-Year-Old Man with sudden Alteration of Mental Status (Volume 349(13): 1267-1275) 【患者】21歳男性 【主訴】意識状態の急変 【現病歴】admission on ambulance 来院当日の夕方より友人達と飲酒していたが,次第に様子がおかしくなった.意思疎通ができなくなり,尿や便の失禁を認め,短時間の痙攣発作と思しきものも出現したため,友人が救急車を要請した. 救急隊到着時,患者は覚醒していたが意思疎通は不能,命令に従うことも出来なかった.血中glucose濃度は正常範囲内であった.静脈ルートを確保した後Massachusetts General病院に移送された. 病院到着時,患者は発汗しており交互に傾眠と興奮状態を呈していたが,痙攣発作は認めず,命令に従うのは不可能であった.自発的に開眼しており,発声はしていたが単語にならない音声のみであり,痛み刺激に対し体を背ける反応を示した.確認できた範囲では,患者はこれまで健康状態はよく常用薬物もなかったという.理学所見・検査結果は別記のとおり. 【入院時現症】 <General Impressions> 明らかな外傷は認めず <VITAL SIGNS> BT 35.5℃, BP 120/76mmHg, PR 108/min regular, RR 36/min <NEUROLOGICAL> pupils φ5mm, round, 対光反射(+), 眼球運動はsaccadicかつ非共同性 <Neck> goiter(-), pain(-), 可動性は良好で,頚部硬直や可動域制限は認めず <HEART> rhythm-regular, murmurs(-) <LUNG> n.p. <ABDOMEN> soft & flat, no palpable masses <EXTREMITIES> warm, well-perfused <その他> 失禁を認める 【入院時検査所見】 <SpO2 (under room air)> 100% <Blood Cell Count> WBC 8000/mm3, Ht43.4%, Hb 15.4g/dl, RBC 4,970,000/mm3 (→MCV 87μm3, MCH 31.0pg/red cell, MCHC 35.5g/dl), Plt 374,000/mm3, Red-cell distribution width 12.4% <CHEMISTRY> Na+ 139mM, K+ 4.0mM, Cl- 106mM, CO32- 27.2mM, BUN 16mg/dl, Cre 1.0mg/dl, Glu 91mg/dl, CK 408U/l, Troponin T <0.01ng/ml <coagulation> PT 12.8sec, APTT 22.6sec 【来院後経過】 O2マスク投与開始.心電図モニタで洞頻脈を認めた.Droperidol 1.25mg i.v.投与.10分後に意識状態低下し自発呼吸も怪しくなった.突然覚醒し医療スタッフや自身に危害を及ぼすほどの興奮状態となった.20分後気管挿管,ついで胃管挿入し活性炭50g投与.Chest X-pで挿管は正常,肺野も正常であった.心拍数は不安定に変化し46/min.まで低下した.ECG施行,前掲(fig.-1)の結果を得た. 血圧は150-166/60-84mmHg,経皮pacing用のpadを準備したが,pacingされることはなかった. 尿・血液の一般検査・薬物スクリーニングを施行,結果は上記のとおりであった.頭部CTではextra axial fluid collection(-), midline shift(-), mass effect(-), bleeding(-), infarction(-)と正常所見であった. 友人に詳しく事情を聴取したところ,患者がalcholの効果を増強する目的でlaser-printerのトナー洗浄液を摂取していたことが判明.Boston Poison Control Centerに問い合わせたところγ-hydroxybutyrateに代謝されることが判明した.患者の尿を採取し検査に出した. 来院5時間後,患者は覚醒し命令にも従うようになった.30分後に抜管.来院7時間後に患者は心電図モニタを外し帰宅したい旨を主張,患者には正常な判断能力があると判断されたため退院・帰宅した. Dr.Korowski (Emergency Department, Brigham and Woman’s Hospital): 病院に引き止めるべき何らかの理由があったのか? この時点でγ-hydroxybutyrate中毒との正式な診断は下っていない.尿検査結果が届くのは1週間後であり,患者本人からは薬物摂取に関する情報が一切得られないからである.数時間前までの意識状態,心電図上の変化が未だ改善していないことより,他の何らかの薬物を摂取している可能性が除外できず,もう数時間はモニタリングが必要と思われた. 一週間後,尿中有機酸検査の結果が届けられた.γ-hydroxybutirate濃度は著明な高値を示していた. Fig.-1;MGH到着直後のECG (HR 66/min, PR 121msec, QRS duration 96msec, QT 388msec) |