NEJM勉強会2003第16回03/05/21実施Aプリント 担当:春原  光宏 (mitsuhiro.sunohara@nifty.ne.jp)
Case 12-2003: An 82-year-old man with dyspnea and pulmonary abnormalities
(Volume 348(16): 1574-1585)
───呼吸困難と肺の異常が認められた82歳男性───

【患者】82歳男性
【主訴】呼吸困難,末梢の浮腫
【現病歴】
  第1回入院の3日前;呼吸困難・末端浮腫を訴え他病院に入院した。検査(cf.Table1)で、CK, CK-MB; w.n.l.であった。
  第1回入院;MGHに転院した。バイタルはBP 120/50 mmHg, PR 90 /min.であった。頚静脈圧は正常で。呼吸音は減弱し、両側にびまん性のwheezesを聴取し、心音では、軽度のsystolic murmurを聴取した。腹部は異常なく、末梢の浮腫は認められなかった。検査値(cf. Table 12)で、RBC, AST, ALT, CK, CKアイソザイムはw.n.l.であった。ECG上、脈は整で、PR間隔正常だが、左脚ブロックを認めた。CXR(fig.1)では、心拡大,肺の間質性浮腫,両側性の少量の胸水,左肋骨骨折の既往が認められた。心エコーでは、左室拡大,びまん性の運動能低下,一部に収縮性のvariationを認め、EFは38%と推定された。A弁は肥厚していたが、AS, ARは認められなかった。軽度MRが認められた。右室は正常であった。血液・痰・尿から菌は培養されなかった。99mTc-sestamibiによるadenosineを用いた運動負荷心筋シンチグラフィーで、明らかな虚血や胸痛は認められなかったが、後下壁に大きな固定性の欠損が見られた。
  captopril,diltiazem,amiodarone(初め400mg/day,後に200mg/day),furosemide,aspirine,glipizide,atrovastatinを投薬し、8日目に退院した。
  第2回入院(12.5ヵ月後);1週間前から労作時呼吸困難、幻視を伴う見当識障害が生じ、増悪傾向であった。胸骨下に軽い胸痛が生じたため、その日に第2回入院をした。BT 36.7℃,BP 120/60 mmHg,PR 82/min.,RR 28/min.,SaO2 94%(酸素投与下),頚静脈圧の上昇を認めた。両側にcracklesと呼気時wheezesを聴取し、心音は異常なかった。腹部所見は異常がなかった。末梢浮腫を認めた。検査上、直接ビリルビン,総ビリルビン,Ca,P,AST,ALT,CK,CKアイソザイム,トロポニンIはw.n.l.であった(cf. Table 12)。ECGではPR 91/min.,PR間隔 221msec,QRS間隔121msecで、陳旧性梗塞の可能性と前壁側壁の虚血の疑いがもたれた。CXRでは、右上葉の体積減少,間質性浮腫,両側の肺底部の無気肺,および心拡大が認められた。血培,尿培養,尿レジオネラ抗原はいずれも陰性であった。
  azithromycine,cefuroxime,nebulized albuterol and ipratropiumが処方に加えられた。入院後24時間以内にBTは最大37.3℃まで上昇したが、その後正常化した。
  第2回入院4日目;CXR(fig.2)で、両側性の粗い網状影,右上葉のconsolidationと体積減少,少量の胸水を認めた。心エコーは、患者が協力できず不十分であったが、左室のびまん性の運動能低下を認め、EFは28%と推定された。右室のサイズ,収縮能は正常であった。prednisoneの短期投与後、頻呼吸とcrackleは若干の改善を認めたがwheezesは続いた。
  第2回入院7日目;リハビリ施設へ転院。
  第2回入院の2ヵ月後; captopril(12.5mg twice a day),amiodarone (200mg/day),furosemide,aspirin(daily),atorvastatine,antacidを服薬とし、リハビリ施設から退院した。
  リハビリ施設退院の6日後;再び労作時呼吸困難の悪化が見られた。胸痛は認めなかった。
  リハビリ施設退院の7日後;低血圧と軽いうっ血性心不全を呈した。furosemideを増量し,captoprilを減量したが改善しなかった。
  リハビリ施設退院の9日後(第3回入院初日);SaO2 80%に低下により第3回入院をした。
【既往歴】
・ 高血圧
・ 糖尿病
・ 軽度の痴呆を伴ったうつ病
・ 慢性閉塞性肺疾患(COPD)
・ 胸骨下の胸痛・呼吸困難・持続性の心室頻脈(VT)(入院の15ヶ月前);VTはadenosine, methoprolol, diltiazem, or lidocaineに反応しなかったが、電気的除細動により正常の脈を回復。
・ 左肋骨骨折
【生活歴】30年前までheavy smoker
 
【入院時現症】
<VITAL SIGNS> BT 36.6℃, BP 125/60 mmHg, PR 83/min., RR 28/miin.
<HEAD & NECK> jugular venous pulse: increased, lymphadenopathy(-)
<LUNG> wheezing(+), lung sound: fine crackles at the lung bases
<HEART> systolic murmur (grade 2)
<ABDOMEN> n.p.
<EXTREMITIES> edema (++)
<NEUROLOGICAL> n.p.
 
【入院時検査所見】(cf. Table 1&2)
<CBC> WBC 11.5×103/mm3 (Neu 86 %), Ht 32.5%, Plt 51.3×104/mm3
<CHEM> TP 6.5 g/dl, Alb 2.2 g/dl, Globulin 4.3 g/dl, ALT 100 IU/l, AST 102 IU/l, T.Bil 0.8 mg/dl, Glu 137 mg/dl。
BUN, Cre, P, Mg, 電解質, ALP, CK, CKアイソザイム, トロポニンI;w.n.l.
<COAGULATION> PT 14.6 sec., PTT: w.n.l.
<DRUGS>captopril (12.5mg twice a day), amiodarone (200mg/day), furosemide, aspirin(daily), atorvastatine, antacid
<U/A>Protein(+), RBC 20-50/LPF, WBC 50-100/LPF, numerous bacteria (*LPF=low-power field)
<ECG> normal rhythm, HR 73 bpm, PR-interval 179msec, QRS-interval 133msec
<CXR (fig.3)> lung fields: bilateral air-space disease (greater in the right, worse than 50 days ago), pleural effusion (left; moderate, right; slight), CTR; 拡大
<MICROBIOLOGOCAL> 5 blood cultures, 2 urine cultures, legionella urine antigen, influenzaA, B, parainfluenza, RS virus, CMVはいずれも陰性
 
【入院後経過】
  今までの処方に、nebulized ipratropium and albuterol,minidose heparine,ranitidine,ferrous sulfate,K製剤,levofloxacin,酸素補給がさらに加えられた。精神状態は日々変動し、断続的に幻視を伴った。入院後5日間毎日、BTは最大37.9℃まで上昇して平熱となることを繰り返した。
  第3回入院2日目;SaO2 90%(28%O2吸入時)。呼吸困難はないものの、頻呼吸で、喘鳴が聴取された。CXRで、左肺底部と右肺の全体に網状影がみられた。心拡大は改善しなかった。high-flow O2を用いSaO2は改善した。atorvastatinを中止し、spironolactoneが処方に加えられた。
  第3回入院4日目;電解質,ALPはw.n.l.であった(cf.Table1)。CXRでは、集簇性(confluent)の網状影が見られ、左肺下葉の網状影が拡大していた。amiodarone,levofloxacin,captoprilを中止し、ceftriaxone,azithromycin,vancomycineが処方に加えられた。血ガスは、PaO2 90mmHg,PaCO2 42mmHg,pH 7.49であった。ICUに移動した。
  第3回入院5日目;CXR上、肺水腫が若干改善した。気管が右に偏移し、縦隔左縁はirregularで腫瘤や動脈瘤を疑わせた。furosemideを中止した。SaO2は91-95%であった。(他の検査値はTable1参照)
  第3回入院6日目;興奮状態となり、SaO2 88%(high-flow O2下)であったため、挿管を行った。CT(無造影, fig.4)では、両側にびまん性のスリガラス様陰影と、traction bronchiectasis、肺底部にハニカム構造が見られた。左上葉は比較的正常に保たれていた。Swan-Ganzカテーテル検査では、肺動脈圧 49/17 mmHg,肺毛細血管楔入圧(PCWP) 12mmHg,心拍出量(CO) 6.1l/min.,一回拍出量(SV) 67ml,心係数(CI) 3.0l/min./m2であった。BALではGram(+)球菌と酵母が見られたが、抗酸性桿菌,P.cariniiは見られなかった。検体培養では呼吸器常在細菌のみ見られ、wet preparationで真菌(-)であった。真菌培養でTorulopsis glabrata(+)、PCRでMycoplasma pneumonia(-)であった。
  第3回入院7日目;心エコーは、特に変化無し。検査値はTable1参照。
  第3回入院8日目;CXRで一部肺野の透過性が正常化した。血ガスは、PaO2 117mmHg,PaCO2 46mmHg,pH 7.41(40%酸素下)であった。その他検査値はTable2参照。RBCを2単位輸血した。
  ある診断的手技が施行された。