NEJM勉強会2003 第10回03/04/09 実施 Aプリント 担当: 岩佐 健史 (tiwasa-tky@umin.ac.jp)
Case 5-2003:
A 16-Year-Old Girl with a Rash and Chest Pain
(Volume 348(2): 151-161)
───発疹と胸痛が認められた16歳女性───

【患者】 16歳女性
【主訴】 胸膜性の胸痛
【現病歴】
  入院15ヶ月前,くり返す股関節亜脱臼に対して,両側股関節包の鱗状重層術(*1)が施行された.入院時の評価では抗核抗体陽性(x2560, homogeneous pattern; 均質型)であったが,SS-A(anti-Ro)抗体,SS-B(anti-La)抗体は共に陰性,抗dsDNA抗体陰性(x10)であった.術後,発赤・掻痒感を伴う紅斑様の皮疹が出現,CEZ(*2)による多形性紅斑される.退院後,発疹は徐々に消失した.
  4ヵ月後(入院11ヶ月前),膝関節の動揺性に対し両側大腿骨遠位外反骨切り術を施行.同時期より血便排泄が出現した.トイレの水に血液が混入するのが2〜3日続くというエピソードが幾度か認められたが,便が血液で覆われたりタール便であったりすることはなかったという.吐血,下痢も認めない.消化管造影,内視鏡検査は施行されなかった.入院26日前に抗核抗体を再検査,陽性(x2560, homogeneous)であった.
  その後健康状態は安定していたが,入院12日前より鼻漏と乾性咳嗽が出現.2日後に鼻漏・咳嗽は消失するも,代わって血便が再出現.なお同時期,彼女の姉2人にも同様の呼吸器症状が出現していた.
  入院4日前,顔面・背部・上胸部に圧痛(+)の隆起性紅斑が出現した.報告にある1年前の皮疹と類似しているという.同日に予定されていた大腸内視鏡検査は皮疹のためキャンセルされた.抗核抗体を再検,陽性(x2560, homogeneous)であった.入院2日前に小児リウマチ科医に診察を受け,【table-1】の検査結果をえた.
  入院前日は週末であった.患者は正午頃に目覚めてすぐ下背部に鈍痛を感じるも,寝違えたものと自分で判断した.痛みは右側で強く,部屋の掃除には支障ない程度であったが,徐々に強くなった.午後8時,右胸部に限局した痛み(放散痛(-))が出現した.胸部痛は深呼気で強くなり,横臥位より座位で悪化する.皮疹は続いており,痛みも悪化したため,翌日病院へ搬送された.
 
*1: imbrication; 鱗状重層術.創を覆うために組織を重ね合わせる術式.整形外科的には反復性肩関節脱臼への有効性などが報告されている.
*2: cefazolin; セファゾリン.第1世代セフェム.グラム陽性菌をはじめバランスのとれた抗菌力をもっている. 重大な副作用として,アナフィラキシー症状,急性腎不全,溶血性貧血,Stevens-Johnson症候群,Lyell症候群,間質性肺炎・PIE症候群etc.

 
【生活歴・既往歴】
  患者は第11学年(高校2年に相当)の優等生で,サッカーをしていた.3年前から片頭痛を患っており,アミトリプチリン(*3)内服にて軽快.
  最近の発熱,咳嗽,呼吸困難,無尿,下痢,羞明,日光暴露,関節痛,Raynaud現象,脱毛,口腔内病変,眼球・口の乾燥,タール便,血尿,出血(血便を除く),体重減少,腹痛などのエピソードはない.
  初経は3年前,生理は不規則で30〜50日周期,最終月経は入院26日前であった.
【嗜好品・薬物】 タバコ(-), 酒(-), 薬物濫用(-), アミトリプチリン頓服
【アレルギー】 セファロスポリン,ペニシリン
【家族歴】 DM(+; 祖父母), 自己免疫疾患(-), 反復流産(-), IBD(=炎症性腸疾患)(-), 小児癌(-)
 
*3: amitriptyline; アミトリプチリン.三環系抗鬱薬の一種で,日本ではトリプタノールとして発売されている.適応は,うつ病,うつ状態,夜尿症.副作用として,悪性症候群,心筋梗塞,幻覚・譫妄,無顆粒球症,麻痺性イレウス,SIADH.
 
【入院時現症】
<General Impressions> 健康だが,やや疲労した様子
<VITAL SIGNS> BT 37.7℃, BP 135/80 mmHg, PR 110 /min reg., RR 26 /min
<SKIN> 眼瞼・顔面・胸部・腹部前後に,圧痛を伴い中心部以外が紅変した隆起性の皮疹(+)
<Lymph Node> リンパ節腫脹(-)
<FACE> 頬と鼻唇部が紅潮(+),口腔咽頭病変(-)
<HEART> n.p.
<LUNG> lung sound: clear,胸膜摩擦音(-),胸骨上部より右5cmにφ3cmの圧痛を認める部位(+)
<ABDOMEN> 右下腹部に弱い圧痛(+) CVA tenderness(-), 右仙腸骨領域に著明な圧痛(+)
<Joints> 股関節・膝関節の可動性は良好で,可動域制限(-),関節痛(-)
<Anus> 視診・直腸疹で異常を認めず
<EXTREMITIES> well perfused, edema (-), 脹脛の圧痛(-),爪周囲紅斑(-)
<NEUROLOGICAL> n.p.
 
【入院時検査所見】(Table 1Table 2を参照)
<CBC> WBC 7.5×103/mm3 (Neu 64%, Eos 1%, Mono 5%, Lym 30%), Ht 35.7% (MCV 78μm3), Plt 18.7×104/mm3, ESR 44mm/hr
<CHEMISTRY> Glu w.n.l., BUN normal, UA normal, Cre normal
<COAGULATION> PT 12.8 sec., PTT 48.0sec., D-Dimer 0.5-2.0μg/ml, Fib 420mg/dl
<U/A> Alb(+), RBC 20-50/hpf, WBC 100/hpf, 硝子円柱 3-5/lpf, bacteria 2-3/hpf
 
<CXR> w.n.l.
<胸部造影CT> (Fig. 1を参照)
  造影剤は経静脈的に投与された.
  肺塞栓症の所見は認められなかった.
  両側の腋下リンパ節が認められる.(fig.1-A, →部)
  φ5-9mmの両側肺門部リンパ節,縦隔リンパ節が認められる.(fig.1-B, →部)
  肺野・胸膜,縦隔,心臓は正常で,上腹部臓器にも異常は認められなかった.
<US> 下肢の深部静脈血栓は認められなかった
 
【皮膚科受診】
  顔面の中央部と頬部に,血管拡張を伴わない紅斑を認める.
  30以上の独立した蕁麻疹様の丘疹が認められる.φ1-5cmで円形,落屑や水疱は伴わなず,主として上背部・胸部・腹部・鼠径部に分布する.
  血管拡張,粘膜の糜爛,爪周囲の紅変,脱毛,眼窩浮腫などは認められない.
 
【入院後経過】 入院後,ある診断的手技が施行された.