NEJM勉強会2003 第8回03/03/12 実施 Aプリント 担当: 東 健一 (higashi-tky@umin.ac.jp)
Case 38-2002: A 54-Year-Old Man with Hypercalcemia, Renal Dysfunction, and an Enlarged Liver(Volume 347(24): 1952-1960)
───高カルシウム血症、腎機能低下と肝腫大を呈した54歳男性───

【患者】 54歳男性
【主訴】 腹部膨隆、腹痛、発熱、寝汗
【現病歴】
  入院6週間前までは健康状態は良好だった。
  その頃より運動によるダイエットを始め、3週間後には118.8kgから107.2kgまで減った。顔は細くなったものの腹はむしろ出てきていると感じるようになり、その頃から腹部全体の激しい痛みが出てきた。嗜眠傾向もあり、体温は38.3℃まで上昇し、たびたび寝汗があった。
  入院18日前、胃腸病専門医受診したところ、肝腫大があると言われた。Ht40%、白血球と血小板数は正常で、プロトロンビン時間も正常であった。A型、B型、C型肝炎いずれのウイルスも陰性であった。胃食道および十二指腸の内視鏡検査でも異常は無かった。CT施行したところ、肝に無数の病変があり転移性疾患の存在を示唆した。肝の針生検では、どこか分からない原発巣の低分化癌との診断であった。
  入院3日前、当院受診し、丁寧な問診により、6〜12ヶ月にわたり血便があることが分かった。検査データをTable1に示す。CEA、hCG、AFPは正常であった。CFにて異常無し。
  高Ca血症と腎機能低下を伴う転移性癌の疑いで、当院入院した。
 
【生活歴】 会社重役。ビール2瓶/日、タバコは吸わない。ここ何週間か仕事に集中できず
【既往歴】 胸痛、頭痛、悪心、嘔吐、下痢いずれもなし
【家族歴】 母が白血病にて33歳で死去
【入院時現症】
  BT36.9℃、PR90/分、RR22/分、BP135/20(?)mmHg、SpO2=95%(room air)
[appearance]chronically ill  [skin]発赤(-)  [lymph nodes]左腋窩リンパ節 2.0cm, 右腋窩リンパ節 1.0-2.0cmが触知された  [lung]両側肺底部にて濁音、呼吸音減弱  [heart sound]正常  [abdomen]肝臓による著明な膨隆あり、圧痛はないが、midlineを越え、骨盤の上縁付近まで及んでいる。脾臓も左肋弓下にて触れる。打診にて腹水の所見(-)、四肢の浮腫(-)、便潜血(-)  [Neurology]正常
 
【入院時検査所見】(Table 1も参照。入院時施行していないものは入院3日前のデータ)
<CBC> WBC 11.2×103/mm3, Ht 38.0% (MCV 90μm3), Plt 38.7×104/mm3
<CHEMISTRY> Glu normal, UA normal, T.Chol. 148mg/dl, AMY normal, TP 7.4g/dl, Alb 2.4g/dl, Na 135mM, K 3.7mM, Cl 94mM, HCO3 28.0mM, Ca 13.4mg/dl, iP normal, Mg normal, BUN 37mg/dl, Cre 2.0mg/dl, T.Bil 5.8mg/dl, D.Bil 5.1mg/dl, AST(GOT) 324U/l, ALT(GPT) normal, ALP 632U/l, LDH 4003U/l, CA19-9 81U/ml
<COAGULATION> PT normal, PTT w.n.l.
<U/A> Bil(2+), Pro(+), RBC 3-5/hpf, WBC 0/hpf, bacteria Few, Na 25mM, K 55.6mM, Cl 11mM, osmorality 471mOsm/kg, シュウ酸Ca結晶少量
 
 

 
 
【画像所見】
胸部CT
(経口造影剤)
縦隔リンパ節腫脹(最大2cm)が右傍気管支部に数個認められる。両肺に多数の小結節が散在している(図1A)。大きい腫瘤は無い。2cm大の腋窩リンパ節が多数、両側に認められる(図1B)。
腹部骨盤CT
(図2。経口造影剤)
肝右側に腹水少量貯留。肝腫大著明で、多中心性(heterogenous)の病変が見られる。下腿背側、傍大動脈、鼠径部、腸骨リンパ節が0.8cm〜4.5cmの範囲で認められる。小さい腸管膜リンパ節も多数、線状に変化した小腸腸間膜(おそらく液体の貯留による)に付随して見られる。胆管拡張なし。脊髄変性が見られる。その他の腹部臓器に異常無し。
脳MRI FLAIR画像にて、左半卵円中心(大脳半球の内部を構成する白紙の大きな塊)に直径1.3cm程度のエンハンスはされないhighなエリアを認め、陳旧性梗塞もしくは脱髄を疑わせる。
腎US 上部に嚢胞が認められる。

 
 

Figure 1. Axial CT images of the Thorax Numerous nodules(arrows), up to 0.6cm in diameter, are scattered throughout both lungs(Panel A). There are multiple enlarged lymph nodes(arrows) in both axillae(Panel B)
 

Figure 2. Axial CT images of the abdomen and Pelvis, Obtained without the intravenous Administration of Contrast Material The liver is enlarged and heterogenous. There is a small collection of fluid around the right side of the liver (arrowhead), and there are several enlarged retroperitoneal and mesenteric lymph nodes in the upper abdomen (arrows)(Panel A). An image of the pelvis(Panel B) shows enlarged pelvic and iliac lymph nodes; there is an enlarged left external iliac node (arrow).
 
 
【入院後経過】
  パミドロネート(ビスフォスフォネート)、電解質改善薬、フロセミドが経口投与された。
体温は最初の24時間で37.8℃まで上昇したがその後解熱している。
入院2日目、患者の疲労感は軽減し、集中力は増した。
入院3日目、ある診断的手技が施行された。