NEJM勉強会2003 第7回03/03/05 実施 Aプリント 担当: 光田 葉子 (mitsuda-tky@umin.ac.jp)
Case35-2002: A Nine-Year-Old Girl with Cold Intolerance, Visual-Field Defects, and a Suprasellar Tumor [Vol.347(20)]
───寒さに対する不耐性、視野欠損、トルコ鞍腫瘍を呈した9歳女児───

【患者】 9歳女児
【主訴】 寒気
【現病歴】
〜6ヶ月前 正常発達
6ヶ月前 「寒い」と寒気を訴える頻度が多くなった。
4ヶ月前〜 視力障害を訴え眼の屈折状態や病気の検査を施行するも、怖がり協力できず、原因不明。同じころ、学校での振る舞いが劇的に悪くなった。ひどく疲労感があると訴え、10〜12時間睡眠をとった。食欲は亢進したが、体重は増えなかった。
入院前数日 頭痛を訴え始めた。頭部外傷はなく、口渇や多尿は認められなかった。
19日前 神経眼科医の診察を受けたが、怖がり引っ込み思案であった。視力は右が20/80、左が20/400。左眼の求心性瞳孔反応欠損(注:両眼の瞳孔運動刺激の左右差で,交互に一眼ごとに光をいれ,直接瞳孔対光反応の左右差を比較する。)があり、両眼の視神経が蒼白で、両眼の視野の縮小(右側の同側半盲)が認められた。
14日前 造影MRI(→Figure1,2,3):トルコ鞍上にfluid-fluid levelのある5.0x3.5x3.5cmの腫瘤が認められた。後方の軟部組織の辺縁の数個の小さな嚢状の空間にも小さなfulid-fluid levelを認めた。これらの空間はエンハンスされていなかったが、たった5mlのガドリニウムしか注入されていない。腫瘤は視神経の方へ張り出していてそれと視交叉とを一部覆い隠している。腫瘤を取り巻く脳構造にT2時間延長やエンハンスはない。内頚動脈のflow voidが拡がっており、1本の前大脳動脈は同定できた。他のmidlineの異常や欠損などはない。右の錐体尖部の高信号は骨髄を示していると考えれられる。
MRA:内頚動脈の拡大はあるが、病変部にflowによるエンハンスは認められず、動脈硬化もなかった。軽度の脳室の突出があった。
4日前 血液検査施行(→下記の入院時検査所見参照)。尿検査は正常で、BUN、Cr、Gluは正常範囲であった。
紹介受診となった。

【既往歴・アレルギー歴】 amoxicillinにアレルギーあり
【生活歴】母子家庭で一人っ子
【家族歴】父親:消化性潰瘍
【入院時現症】 BT 36.6℃, PR 142/min, RR 20/min, BP 165/75mmHg
<HEAD & NECK> n.p. thyromegaly(-) , 項部硬直(-), lymph node(-)
<SKIN> rash(-), dry skin(-)    <CHEST> lung & Heart: n.p., palpable breast tissue(-), axillary hair(-)
<ABDOMEN> n.p.    <EXTREMITIES> n.p.
<NEUROLOGICAL> alert, fully ariented, fluent speech, <Cranial> 視力:右20/200、左は指の数を数えることのみ可, 両耳側半盲, 左がやや大きい両鼻側半盲, 両眼の瞳孔は軽度の反応性あり, 乳頭浮腫(-), EOM(full, full),他の脳神経機能は正常 <Moter> 5/5 <Sensory> light touch/pinprick/joint position: intact <Coordination & Gait> n.p. <DTR> (++, ++) <Babinski> Flexor, Flexor
 
【入院時検査所見】
<CBC> (4日前) Ht 34.3%↓, WBC 7400/mm^3, PLT 301,000/mm^3, MCV 80um^3↓
<CHEM> BUN/Cr/Glu w.n.l, Na 132mmol/l↓, K 4.2mmol/l, Cl 99mmol/l, CO2 22.1mmol.l, T4 3.5ug/dl↓, Thyroid hormone-minding index 0.70↓, fT4 index 2.5↓, TSH 3.45uU/ml, Cortisol 3.3ug/dl, PRL 1,918ng/ml, Somatomedin C 167(ng/ml)    <U/A> n.p.
<Chest Xp> 手術直前に取ったが、気管内チューブ・NGチューブ、右鎖骨下のCVラインがきちんと入っている他、特に異常は認められない。
 
 

Figure 1. 頭部MRI T1強調の矢状断面。
 

Figure 2. T1強調の冠状断面。
 

Figure 3. AxialのT2強調画像。
 
 

Figure1:頭部MRI T1強調の矢状断面。大きな不均一な病変(矢印)トルコ鞍から発生し、鞍上の脳槽にまで広がっている。
Figure2:T1強調の冠状断面。病変(矢印)によって視交叉(矢頭)が上方へ押しやられている。
Figure3:AxialのT2強調画像。前方部にFluid-Fluid level(矢印)を認める。後方部に小さな高輝度の部分(矢頭)を認める。