「Resuscitation」誌上のILCOR-CoSTR 関連文献論説5.心肺蘇生と心血管緊急治療における科学と治療推奨の2005年国際コンセンサス会議において論争の的となったトピックスについて(Editorial 5: Controversial Topics From the 2005 International Consensus Conference on Cardiopulmonary Resuscitation and Emergency Cardiovascular Care Science With Treatment Recommendations)
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(会議では)厳密なエビデンスの評価を行うワークシート手法3、潜在的な利害対立(conflicts of interest)を完全に公開し管理したこと4、そして治療ガイドラインよりもむしろ科学に焦点をしぼったことにより、2005年合意会議における380人の各国の参加者たちは最終的に、建設的で透明性のあるかたちで合意に到達することができた。参加者たちは、転帰に最もすばらしい影響を与えるとわかっている数少ない要因、とりわけ救助者トレーニングを複雑にすることなく、生存率を改善させる可能性が最も高いと思われる推奨事項に論議を集中することに同意した。複雑な訓練が好ましくないのは、最も重要な要素に注意を払うのをおろそかにする恐れがあるからであった。
全員が一致したことは、CPRの質、特に胸骨圧迫の回数と質、そして胸骨圧迫の中断を最小限にすることを更に強調することの必要性であった。参加者はさらに、患者が倒れたのち救助者が到着するまでの時間間隔(つまり、どのような蘇生の相(フェーズ)か)によって 、処置の順序を変える必要性があるかどうか(すなわち、胸骨圧迫と除細動のどちらを先行させるべきか)を考えた。
最近のデータでは、特に倒れてから救助活動が開始されるまでに4〜5分以上が経過している場合、心室細動の傷病者全てに除細動を先に行う標準的な方法に対して疑問が投げかけられている。専門家が検討できたのは、3つの症例研究と少し体格の大きめの動物でのデータのみであった。
もしも救急医療サービス(EMS)の病院外VF心停止での応答時間(911 [EMS]への通報からEMSが到着するまで)が4〜5分より長い場合には、除細動を試みるまでに CPRを行った方が、結果が良いかも知れない5,6。もしヒトでのエビデンスの全てが肯定的であったならば、議論の余地はなかったであろう。しかし1つの無作為研究(LOE27)では、倒れてから到着までの時間、あるいは倒れてから除細動までの時間のいかんに関わらず、除細動前のCPRに効果を見出すことはできなかった。付け加えておかなければならないのは、傷病者が倒れてからどれだけ時間が たっているかを救助者が知らないかも知れないということである。
会議の一部の参加者は、心停止からすでに4〜5分以上経過している場合には、救助者が初回通電の前に3分間のCPR(または、ある特定の時間かCPRサイクルの回数)行うという治療勧告を提案した。動物実験でのエビデンス8-10と1つの大規模な症例研究11は、一次性VFによる心停止後最初の数分は換気が必要でないことを示唆している。しかし窒息・低酸素症による心停止(例えば、小児の心停止のほとんどや溺水、薬物過量などの多くの非心臓性心停止)では、換気は重要である。会議の参加者の一部は、推奨内容に傷病者が小児であったり窒息・低酸素性の心停止(例えば溺水)の可能性がなければ最初の数分は換気を省略するという選択枝を入れることを提案した。一般の救助者への教育を簡素化するために、会議の参加者間の合意は、一般の救助者が行うには、すべての傷病者に対して同一の、統一的な蘇生手順にしようとするものであった。
除細動前のCPRに関連した生存率の改善は、EMS到着までの時間が 4〜5分以上かかる傷病者の場合にのみ認められたため、すべての突然のVF心停止傷病者に対して、除細動をする前に蘇生処置を勧めるという事を正当化するデータは充分でないというのが一致した意見であった。(会議の)専門家は、特にEMS到着までの時間が4〜5分になる病院外心停止の場合には、救助者にCPRを先にしてもよいという選択肢を許す治療勧告を望んだ。
専門家はEMS到着までの時間が4〜5分を超える場合の病院外心停止には、特に蘇生処置を先にする選択肢を救助者に許す治療勧告を望んだ。こうして、最後の結論は応答時間が通常4〜5分である場合には病院外のVFまたは脈なしVTの治療として、除細動を試みる前に1分半から3分のCPRを考慮するということになった。
(なお、)(1)この勧告を院内の心停止にも適応すべきか、(2)除細動を試みる前の蘇生処置の理想的な実施時間、そして(3) 救助者が「まず除細動を」から「まず蘇生処置を」の方針に変更すべきVFの持続時間などを決めるデータは不充分であった。
圧迫と換気の比率
圧迫と換気の比率は会議の最も議論を呼んだテーマであった。専門家たちは、目撃された病院外VF心停止からの生存退院率は国
際的にみて平均6%と低く(LOE5)12-14、そして(この)生存率は近年、実質的に増加していないことを認めることで会議を始めた6。北アメリカの一般市民による除細動トライアル(Public Access Defibrillation trial)が以下のことを示した。すなわち、一般の救助者によるAEDプログラムはAEDなしの蘇生プログラムよりも生存率を上昇させ、訓練された(organized)一般の救助者のAEDおよび蘇生のプログラムは、目撃されたVF心停止の生存率を国際的平均の6%より改善したことである15。目撃された病院外のVF心停止に対する高い(49〜74%)生存率がCPRに加えて自動体外式除細動器(AED)を使う一般救助者のプログラムのいくつか、すなわちカジノで(LOE5)16、空港で(LOE5)17、商業旅客機で(LOE5)18,19、そして幾つかのケースでは第一救助者によるAEDプログラムで(LOE 220;LOE 321,22; LOE 423; and LOE 524)報告された。典型的にはより高い生存率は早期の蘇生処置と早期(倒れてから3〜5分以内)の除細動の両方が施されることと関係していた。
人間のデータではどの年齢の傷病者においても、蘇生処置における圧迫と換気の最良の比率は判明していない。説得力のある動物のデータは、胸骨圧迫が頻繁に中断されたり長々と中断される場合の有害性について明らかにしている。最近の臨床データでは、上級のCPRプロバイダーでさえ病院外25でも病院内 26であっても胸骨圧迫のない時間が頻回にあり、(さらに)一般の人では2回のレスキュー呼吸のために14〜16秒(その間、胸骨圧迫は中断されている)を要することが示されている27,28。
動物のモデルでは圧迫と換気の比率が15:2より大きいときにより良い結果が達成されている29。動物では突然のVFによる心停止で気道が開通している場合、換気補助なしで絶え間のない胸骨圧迫をすることにより良い結果が得られている30。1つの通信指令によるCPR口頭指導に関する研究では、心停止が明白でEMS応答時間が短い(4分)場合に胸骨圧迫のみで良好が結果が得られている31。
しかしながら、これらの研究の妥当性を、気道が開通していない病院外心停止の傷病者、すなわち窒息・低酸素性傷病者やEMS応答時間が4分を超えるところにいる傷病者などに対して判断するのは困難である。
現在行われているCPRは、心停止の傷病者に対して換気が多すぎるという実際の証拠が挙がってきた。(会議の)参加者たちは、CPR中は以前から推奨されているよりも少ない換気しか必要でないことに同意した。1つの観察研究では、熟練したパラメディックでさえ、病院外心停止の治療中の挿管患者に過剰な回数の換気をし、(また)この過剰な換気回数は、徹底した再訓練にも関わらずその後も続いたことを示した(LOE5)32。病院内の研究でも、高度な気道確保処置の有無に関わらず、蘇生中に過剰な換気が行われていることが示された26。ヒトでの転帰を調べた研究としては確認されていないが、2つの動物での研究では、過換気は胸腔内圧の過剰な上昇と、冠灌流圧及び脳灌流圧の低下を招き、(さらに)生存率を下げることが示された(LOE 6)32。
明らかな課題としては、窒息・低酸素およびVFによる心停止双方に対して簡単で適切であるべき勧告に、胸骨圧迫を増やす必要性をどのように盛り込むかであった。VF心停止では最初の数分には絶え間なく胸骨圧迫を行うことが適切であるが、窒息・低酸
素性の心停止や心停止が遷延したあらゆる場合では、おそらく換気がもっと重要だろうという合意があった。他方、一般の救助者に異なる状況に対して異なるCPRの手順を教えることは複雑すぎるだろうということも合意された。単純化するために、傷病者に対して救助者が1人で対処しなければならないときは、乳児(新生児は除く)から成人に至るまで、共通の30:2という比にする ことに合意されたが、これはヒト、動物、マネキンおよび理論的モデルなど使用できる最良のものを統合しての結論に基づくものであった。小児では、救助者が2人の場合は、圧迫と換気の比率を15:2とすることが勧告された。
酸素化と換気は新生児にとって必須であり、(一方)新生児の少数ではあるが胸骨圧迫 を必要とする。新生児で、圧迫・換気比率を今より高くすることを支持するデータはなかった。新生児における高い圧迫と換気の比を支持よって、新生児においては3:1の圧迫と換気の比率はそのまま残された。
試みられる除細動手順としての1回通電 対 3回通電
2000年のECCガイドライン33では最初または2回目の通電後もVFまたはVTが持 続する場合には途中胸骨圧迫を行うことなく、3回までの通電手順を重ねることが推奨されていた。2005年コンセンサス会議の参加者はこの戦略に異議を唱えた。その理由の1つが、3回の通電は圧迫の中断を延長し、それは最新の二相性除細動器の比較的高い初回通電の効果(通電後最低5秒間のVFの中断と定義される)からして必要ないと考えられるからである34、
研究者は、ヒトでも動物でも1回の通電による除細動戦略と比較した、3回通電の除細動の研究を1つも見出さなかった。しかし、効果的なCPRにするにはその中断を最小限にすべきだという合意があった。最初の通電と、引き続いての通電の双方の成功の度合いについて、いくつかの関連した研究が報告され、これらの研究は通電の 成功率を決めるために比較された。専門家達たちは全体の戦略として、1回の通電の後にすぐ胸骨圧迫をもってCPRを再開し、ある程度の(CPR)時間が過ぎるまで心電図解析や脈拍をチェックせずにCPRを続けるという勧告が、ベストだろうという合意に至った。専門家は一連のCPRが終わるまでリズムや脈拍をチェックせず、1回の通電の後にすぐ胸部圧迫を再開するCPRを行うことを勧告する全体的に最も良い戦略に対する合意に至った。
各通電後ただちに胸骨圧迫を再開することは新しい方法で、成果のデータに基づくものではない。この勧告は、蘇生中における胸骨圧迫の中断が過度になることへの憂慮と、 除細動の試みの前に例え短時間でも圧迫がないと、予想される心拍再開率が極
度に悪化するのではないかという懸念に基づいている35。
通電エネルギー量
1回通電の戦略(1-shock strategy)の勧告は新しい課題が生む。つまり最初 の通電における適切なエネルギー用量を決定することである。(そして)最初の通電としては、二相性切断指数波形(biphasic truncated exponential, BTE波形)では150〜200Jで、二相性直線(rectilinear)波形では120Jが妥当であるという合意が得られている。
院外心停止の研究では、最初のショックの効果は200Jに比べて360Jを使ったとしても効果が増すわけではなく、そしてまた(順に)より高い用量を用いてショックを繰り返すことで房室ブロックが起こりやすくなるが、長期的な有害性の証拠もない36。合意に至った勧告は、単相波形の除細動を使うときは最初も、引き続いて行う通電も360Jで行うのが妥当ということになった。
心停止の治療におけるバソプレシンの役割
会議中、最も異論のある議題の一つとして討論されたのは、二次救命処置における バソプレシンの役割であった。エピネフリンが広汎に使用されておりまたバソプレシンなどに関するいくつかの研究(studies involving vasopressin) があるにも関わらず、ヒトの心停止のどの段階においても血管収縮薬をルーチンに投薬することによって生存退院率が高められたという事を示した比較対照研究はないことが確認された。動物のデータはエピネフリンよりバソプレシンが有利であると示してはいるが、5つの無作為化試験からなるメタアナリシスでは心拍再開率、24時間以内の死亡、退院前の死亡においてバソプレシンとエピネフリンとの
間に統計的に有意な差は認められなかった37。個別の蘇生協議会はそれぞれの蘇生ガイドラインにおいて、バソプレシンの役割について決める必要がある。
蘇生後の治療
蘇生後の適切な治療についてはあまりよく研究されておらず、医学関連団体などにおいても標準化されていない38。2つの研究で治療的な低体温は、院外のVF心停止で、当初昏睡状態であった生存者の神経学的転帰を改善した。しかし、院内心停止やその他の調律からの心停止後のこの治療の役割についてはまだ結論がでていない39,40。更なる研究によって将来、低体温の役割を正確に解明することが期待される。
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■2005年コンセンサス会議における、議論の余地のある議題の選択と討論について
■最も議論の余地のある議題についての討論と結論の要約
■要約