災害医学・抄読会 971219

諸外国の災害医療体制について

新地浩一、白濱龍興. 防衛衛生 43 (3): 55-66, 1996(担当:二宮)


<アメリカ合衆国の災害医療システム>

<スウェーデンにおける災害医療体制>

<アメリカ、スウェーデン、日本の防災体制の比較>

<日本の災害医療体制で他国に比して必要と思われるもの>

<まとめ>


国内災害緊急活動における民間企業の役割

長谷川 亮、狩野浩之. 災害医療ハンドブック、医学書院、東京、1996年、p.115-8
(担当:五島)


1.電気

  1. 電力設備の現状

    全国10社の電力会社
    発電所 →  送電線 → 変電所 → 引込線 → 供給先

  2. 電力の系統構成

    送電線:都市部でネットワーク化
    電力会社の電力系統の連係による相互支援

  3. 設備の耐震設計・施工

    科学的分析:震動波形を与えた実証試験

  4. 災害発生時の対応

    非常態勢の発令:情報の伝達、非常災害対策本部の設置
    → 要員の呼集、情報招集、資機材の調達・輸送の円滑化など

  5. 復旧活動

    送配電系統の切り替え 停電地域の縮小・時間の短縮
    設備の復旧
    ※官公庁、医療機関、報道機関、広域訓練所等を優先

  6. 防災連絡網の整備

    マイクロ波無線主体の通信回線
    通信衛星による通信網
    車載型移動局・可搬型移動局

2.ガス

  1. 災害と都市ガス

    水害:部分的供給不良、復旧早い
    地震:二次災害の誘発(ガス火災、ガス爆発)

  2. 都市ガスの供給形態

    全国約250社(民間・公営)
    大都市圏:LNG(液化天然ガス)主体、COを含まないガス
         高圧導管 → 中圧 → 低圧で輸送・供給
         大規模ユーザーは中圧、小規模ユーザーは低圧

  3. 耐震設計による予防対策

    震度6に対応する耐震設計
     LNGタンクの地下式化
     主要高中圧ガス導管への溶接鋼管の使用
     ガスホルダー(大規模地震後でも機能維持可能な設計)

  4. 二次災害防止

    ガス供給の停止:供給エリアのブロック化に基づく

    a.マイコンメーターによる個別ユーザーの遮断
      → 震度5で自動的に遮断

    b.低圧ブロックごとの供給停止
      → 低圧導管の一部漏洩で発動

    c.中圧ブロックごとの供給停止
      → 中圧導管の耐震レベル以上の大規模な地震で発動

  5. 供給再開

    ガスの復旧:安全確認作業が多い・上流より復旧 → 期間を有する(大規模地震後低圧の復旧まで2週間程度)
    燃料の備蓄による自衛も必要


災害救援援助のチェックリストと撤退判断

仲佐 保. 災害医療ハンドブック、医学書院、東京、1996年、p.157-61(担当:三好)


1)災害救援活動のチェックリスト

 災害活動を円滑にまた効果的に行うためには、最低限の活動のチェックリストを用意し、それに沿って行なうことにより、業務の漏れをなくす必要がある。チームリーダーならびに調整員は、このチェックリストの内容を把握し、適宜チェックするべきである。

A 日本から現地首都まで

  1. 要請内容の確認
  2. 災害情況の確認
  3. 現地連絡先の確認
  4. 日本連絡先の確認
  5. 現地医療事情の確認
  6. 国際諸機関からの情報
  7. 隊員の紹介
  8. 隊員の役割分担の確認
  9. パスポート
  10. 航空券
  11. 保険

B 現地首都から被災現場まで

01、日本本部への任国到着の報告  13、ドライバーの確保
02、現地日本関係者へのあいさつ  14、宿泊所の情報
03、保険省へのあいさつ      15、ガソリン、灯油の購入
04、災害対策本部へのあいさつ   16、飲料水の購入
05、現場対策本部へのあいさつ   17、食料品の購入
06、通信手段の確認        18、携行品の内容、数の確認
07、衛星通信・無線機の許可    19、現地購入品のリストアップ
08、通行許可証          20、携行機材、個人装備のデポ
09、医師、看護婦免許証の提出   21、資金の現地通貨への換金
10、気象情報の入手        22、航空券の再確認
11、現地地図の入手        23、マスコミとの会見
12、通訳の確保          24携行品の輸送

C 被災現場到着

  1. 対策本部へのあいさつ
  2. カウンターパートの紹介
  3. 市町村長へのあいさつ
  4. 現場状況の確認
  5. ニーズの確認
  6. 診療所の位置確認
  7. 他国援助隊との情報交換
  8. 診療所の決定
  9. 診療スケジュールの作成
  10. 日本本部への被災現場到着の報告
  11. 現地日本人関係者への第一報
  12. 宿泊場所の決定

D 活動中

  1. 日本への活動報告
  2. 現地日本人関係者への活動報告
  3. 医療統計ならびに記録
  4. カウンターパートとの協議
  5. 対策本部会議への参加
  6. 不足薬品・物品の請求、購入
  7. 全体ミーティングの実行
  8. 医療ミーティングの実行
  9. 医療廃棄物の処理
  10. 他国援助隊との協議

2)撤退判断

  1. 自然災害の場合

     自然災害の場合には、通常24〜48時間が救急患者の治療のピークと考えられ、そのあとは、軽傷者を残すのみで、急激にその数は減っていく。それ故に援助期間としても2〜3週間をこえる必要はあまりないと考えてよい。

  2. 旱魃被災民、難民キャンプの場合

     医療状況の元への復帰、医療状況の安定化、旱魃なら気候状況の復帰等を重点的に考え撤退をしなければならない。


チェルノブイリから10年

松本義幸、日本医事新報 No.3779: 53-6, 1996(担当:松田)


 1986年4月26日に旧ソ連のチェルノブイリ原子力発電所において事故が発生してから10年が経過した。事故10周年にあたり「チェルノブイリから10年:事故影響の総括」と題する国際会議が1996年4月8−12日の間、EC,IAEA,WHOの共済でウィーンにて開催された。会議には71カ国と20団体から845名が出席した。

 会議で取り上げられたトピックスは、1)事故初期の対応、2)放射性物質の放出と蓄積、3)被爆放射線量、4)急性臨床影響、5)小児甲状腺癌、6)長期健康影響、7)心理的影響、8)環境影響、9)社会的・経済的・政治的インパクト、10)原子力の安全性、11)石棺、12)展望と予測、と広範にわたっていた。今回は健康影響に関係するトピックスについて、その概要を紹介する。

(被爆放射線量)

1986−1987年の2年間、事故処理作業に参加した2万人は平均100mSv程度、そのうち約10%は250mSv程度の線量を受けており、一方事故現場で対応した数十人はおそらく数千mSvという致死的な線量を浴びたと思われる。また、1986年に立ち入り禁止地帯から避難させられた11万6000人については10%未満の人々が50mSv以上を、5%未満の人々が100mSv以上を受けていた。

(急性臨床影響)

 職業被爆した計237人が放射線被爆による臨床症状を示して病院に収容されたが、134人が急性放射線症と診断された。その134人の患者のうち28名が3ヶ月以内に放射線障害で死亡している。胃腸障害が重大な問題であり、10Gy以上の線量を受けた11人の患者が早期に致命的な肝機能の変化を引き起こした。死亡した28人の患者のうち26人が皮膚の障害を伴っており、身体表面の50%以上が損傷していた。急性期が過ぎた後、過去10年間に更に14人の患者が死亡している。

 当時推奨された骨髄移植による治療法は効果がなかった。免疫学的リスク、曝露特性の不均一性、手のほどこしようのない胃腸障害や皮膚障害といった放射線による他の合併症によるものと考えられる。今後は、骨髄障害に対してはややかに造血成長因子を投与することが最もよい治療法となるだろう。

 急性影響が大きかった患者ほど、現在も精神ストレスの影響を含めた多重の健康障害に苦しんでおり、それらに対する最新の治療と二次的影響に対する予防処置を必要としている。

(小児甲状腺癌)

 汚染地域の居住者で、1986年に子供であった人たちの間に甲状腺癌が極めて有為に増加しているが、これは今までのところチェルノブイリ事故の結果として放射線被爆が公衆の健康に与えたインパクトの唯一の明白な事実である。

 このような増加は、事故前に生まれていたかあるいは事故後6ヶ月以内に生まれた子供で観察されており、事故後6ヶ月以上たって生まれた子供の甲状腺癌発生率は、非被爆集団において期待される低いレベルに急激に低下する。更に、甲状腺癌の患者の大半は、放射性ヨウ素によって汚染されたと考えられる区域に集中している。

 今日までに診断された患者のうち、甲状腺癌によって死亡した子供は三人だけである。チェルノブイリ事故における子供の甲状腺乳頭癌は、進行性にもかわらず標準的な治療処置が適切に行われていれば良好に反応するようである。甲状腺摘出後の子供には生涯L-サイロキシンを投与することが必須である。

(長期的健康影響)

 汚染地域にすむ人々の一部および事故処理作業者の間で特定悪性腫瘍の発生率が増加しているという報告がいくつかある。しかし、これらの報告は一致制がなく、またここでいわれている増加は、被爆者の追跡調査方法における違いやチェルノブイリ事故後における患者把握数の増加を反映している可能性があり、これらについてはさらに調査を進める必要がある。

 白血病はまれな疾患であるが、放射線被爆後に危惧される主要疾患の一つである。日本の原爆被爆者やその他のデータにもとづく予測モデルによる白血病過剰死亡者数は、自然発生死亡者数に対して余りにも少なすぎるため確認されなっかった。要するに、今日まで白血病の発生率にも、あるいは甲状腺癌以外の悪性腫瘍に起因すると思われる整合性のある増加は検出されていない。

 事故処理作業者の間で癌以外のいくつかの非特異的健康異常の頻度が増加していることが報告されているが、被爆集団は一般大衆よりもずっと健康状態の追跡調査が受けていることによる可能性がある。また、このような増加がたとえ本当だとしても、それはストレスと不安の影響を反映している可能性がある。

(展望と予測)

 立ち入り禁止地帯を元の状態に戻すことは今のところ次の4点の理由から不可能である。1)居住区の近くに汚染の“ホットスポット”があること、2)その土地の地下水が放射線で汚染されている可能性があること、3)石棺が崩壊した場合の危険、4)食事と生活に課せられる厳しい制約。

 甲状腺癌発生率の増加はおそらく今後数十年間にわたって続くであろう。もし癌が早期に診断され、適切な処置が取られるなら、死亡数はこれよりかなり少なくなるはずである。これらの人々は、その生涯を通して慎重に監視する必要がある。

 放射線の影響については、広範囲な科学的知識が存在するにもかかわらず、人体に対する放射線の健康被害に関しては重要な未解決の問題が残されている。

 いかなる予測も三共和国の経済的、政治的、社会的状況を考慮に入れなければならない。精神的ストレスに伴う不安のような症状は、この事故の重要な遺産に数えられることになるだろう。


腸管出血性大腸菌O157による堺市集団感染の際の大阪市立大学付属病院の対応と問題点

栗田 聡ほか、日本集団災害医療研究会誌 1997; 2; 32-36(担当:AS)


 1996年7月、堺市内で6000人以上のE.coliO157による集団感染が発生し、規模の大きさ、小児が中心であること、溶血性尿毒症症候群(HUS)という重篤な合併症を有することから、特殊大災害と考えられた。本院救急部は発生当初より積極的に患者受け入れを行い、大阪府救急医療センタ−、堺市O157対策本部、当院人工腎部からの情報をもとにして、17例が入院した。その経験をもとに、特殊集団災害時の大阪市立大学医学部付属病院の対応と問題点について報告する。

T 情報の入手

 大阪府救急医療情報センタ−、堺市O157対策本部、当院人工腎部からの患者に関する情報を直接、あるいは事務部を通じて救急部に集中するように努めた。

U 当院での対応

 7月13日に救急病棟18床のうち6床室を確保し、学童4名が緊急入院した。患者数の増加を考慮し、当院内に男性部屋、女性部屋をそれぞれ6床確保した。また意識障害、呼吸・循環不全などを有する重症患者に対して集中治療部内に1床確保した。また、院内に救急部、小児科、人工腎部、血液内科、集中治療部などによる合同チ−ムを結成し、治療方針を決定した。

 当院に入院した患者は7月31日までで17例であり、小児は12例と約70%を占めていた。また、HUSの合併は4症例に認められた。

V 情報の発進

 当院における入院患者の状況などの情報はインタ−ネットを通じて発進した。その内容は基本的に、患者発生状況、当院での経過、治療指針、細菌学的基礎情報などである。それに応じて他の施設から応答があり、患者情報、治療情報を効率的に収集することができた。

W 治療方針

general treatment:

fluid infusion
lactobacillus bifidus
phosphomycin   100 mg/kg/day

treatment for HUS:

dipyridamole    5mg/kg/day
gabexate mesilate  2mg/kg/day
gamma-globulin  400mg/kg/day
hepatoglobin   4000 u/kg/day
plasma exchange
hemodialysis

HUS症例

 HUSは典型例では下痢や血便などの前駆症状の後に溶血性貧血、血小板減少症、急性腎不全を呈する疾患である。重症例では中枢神経症状、けいれんを併発するが、死亡率は5%以下といわれている。

 当院のHUS4症例のうち、18歳の女性は保存的療法のみで軽快したが、小児の3症例は血漿交換を行なった。全員軽快退院した。

Y 考察

 今回のE.coliO157集団感染は紛れもなく集団災害であり、その地域の医療機関の患者収容能力をこえた大量の患者が発生する状況では、周辺医療機関、特に大学病院は中心的役割を担う必要がある。大学病院における救急部は被災地の医療機関、周辺の救命救急センタ−、医療情報センタ−、行政などから情報を収集し、診療各科、基礎系医師らと連携しながら治療にあたる必要がある。

 集団災害の際には正確な情報を迅速に収集する必要があるが、大阪府救急医療情報センタ−を中心として情報を得ることができた。集団災害時には情報を集中的に管理する機関が有用であると考えられる。

 大学病院は基礎研究を含む広範囲な情報を発信する責務があると考えられるが、今回インタ−ネットを使用して情報発信を行い、その双方向性から、今後の災害医療においても有用に利用できる可能性が示唆された。

 当院で治療したHUS4症例は全員良好に経過したが、その治療法は今後の研究課題であり、HUSに対して今後詳細な検討がおこなわれ、治療法が確立することが望まれる。


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