災害医学抄読会 971121


国内災害緊急活動について
1.制度面からみた医療活動

高橋有二、災害医療ハンドブック、医学書院、東京、1996年、p.96-103(担当:石本)


《制度面からみた医療活動−災害救護活動の歴史的経過と関連法規−》

1、災害対策法令の成立

 近代的な国家形態を整えた明治に入って、古くからの災害救助制度としての常平倉、義倉、社倉などの備荒儲蓄の制度が発達し、法体系として「河川法」「砂防法」「災害準備金特別会計法」など整備されてくるが、各県により基礎財政面から不均等な部分が実施面で起こり、問題が多かった。1923年9月1日に発生した関東大震災の対策は戒厳令下に行われ、立法、行政、司法のすべてが軍の管理下におかれ、復旧、治安、経済統制まで行われた。1946年12月21日午前4時19分南海大地震が発生、これを契機に抜本的な被害者救済対策の必要に迫られ、1947年8月、第一回国会で「災害救助法」が成立した。災害に際して、国が災害を受けた者の保護と全体的な社会秩序の保全のために応急的に必要な処置を行うことを目的としている。この法令以外にも「警察官職務執行法」、「消防法」、「水防法」も災害関連法規として重要な役割を果たしている。

2、災害対策基本法

 災害対策全体について体系化、総合的かつ計画的な防災行政の整備、推進をはかり、災害の都度特例法を制定して対処してきたものを、1962年9月法律第150号(通称劇甚法)が制定、公布され、劇甚災害に際しての災害復旧事業の迅速、適切な遂行が確保されるようになった。これは災害の法的体系をさだめた基本的立法である。この法の要旨は「国土と国民の生命、身体および財産を災害から保護する」ことを明文化し、国及び地方を通ずる体制の確立、責任所在の明確化、防災の計画化、災害予防、応急対策、災害復旧、防災に関する財政的金融処置。その他必要な災害対策の基本を定めている。

3、 大規模地震対策特別措置法(1978年)

 これは、明らかに相模湾を中心とする東海大地震を想定しての法律であり災害のおきた後、法的に処置できなかった不備や教訓からうまれたものではなく、過去の災害のすべてを考慮して作られたものである。この法の成立に伴い、従来の防災対策、防災計画の中で、「発災前」「発災後」の間の、警戒宣言の発令による「きわめて切迫した発災前」の対策を早急に立案する必要がある。

4、 自衛隊法と災害救助活動法

 1995年の、阪神、淡路大震災でん自衛隊の災害救助活動はめざましいものであったが、一方、「初動の遅れ」も問題となった。阪神、淡路大震災の発生が1月17日午前5時46分、兵庫県知事から自衛隊出動要請があったのは、午前10時とされ、4時間のブランクがあったとされる。これは第一に知事の出動要請の遅れ、自衛隊側の要請待ち、政府の側の決断(首相は自衛隊のトップでもある。)の遅れという、法の中での3すくみ状態であったと言える。国の危機管理や内閣機能が有効に働いたとは言い難い。災害対策基本法は「国会における措置を待ついとまがない場合、法制定すべきものについても必要最小限、具体的かつ個別的事項に限り慎重な事後措置をこうじ、政令をもって必要な措置を取り得る」としている。

5、災害緊急事態の布告

内閣総理大臣は非常災害が発生し、その災害が国の経済および公共の福祉に重大なえいきょうを及ぼすべき異常かつ劇甚なものである場合、特別の必要があると認めた時、所要事項を明示して、災害緊急事態の布告を発することができる。

 今回の阪神、淡路大震災に際しての新聞報道によると、平時の法と緊急避難的な法の解釈のギャップはいくつか生じたとされている。

  1. 内閣機能と首相の権限;行政の最高意思決定権は閣議であり、首相は閣僚を通じて行政各部への指示をだすに止まり、首相官邸の緊急対応作りが遅れたとされている。

  2. 首相への報告の遅れ

  3. 緊急災害対策本部が設けられなかった。

  4. 海外からの救援医師の資格問題;兵庫県や神戸市の医務担当者が、医師法第2条、7条をもとに「日本の医師免許がないと医療行為は認められない」とし、当初、外国人医師は活動を制限された。

  5. 自衛隊の災害派遣をめぐる問題;第83条、94条の解釈上の問題

おわりに

 「法」も災害とともに進化し、成長してきている。大災害を受けた時代の人々は次世代へその対応を正しく伝える義務がある。


国内災害緊急活動について
2.関係諸機関の役割

平井邦彦ほか、災害医療ハンドブック、医学書院、東京、1996年、p.103-7(担当:濱本)


1、地方自治体

1)市長村長

2)大災害時の医療

2、消防

1)法的根拠など

2)災害時における消防機関の役割

  • 災害発生および拡大中

    1. 人命の安全確保にかかわる活動(行方不明者の検索、被災者の救助および応急救護、災害広報、避難誘導、警戒区域の設定、避難指示勧告など)

    2. 災害防除活動(消防、水防、障害物の除去、応急復旧など)

    3)他機関などとの連携

    4)広域災害などに対する広域応援体制の整備


    災害時の医薬品援助について

    安川隆子、日本集団災害医療研究会誌 2: 23-6, 1997(担当:鈴木)


     地震や難民発生などの災害時に世界各国から援助物資が届けられ、同時に、援助関係者も多く駆けつけてくる。しかし、諸外国からの援助が、受け入れ体制のいかんにより、必ずしも十分効果的な救援に結び付くとも限らないこと、また逆に援助の中身やそのやり方によっては、円滑な援助を妨げることにもなるということもあり得る。特に医薬品の場合は、不必要な薬や中身の不明な薬品も含めた大量の薬が、分類されないまま供与されることがしばしば見受けられる。そのため本来なら人命救助に当てられるべき貴重な人手がその判別分類にとられてしまったり、結局使いようがない薬を処理するために多額の資金がかかったりするなど、被災国にとって第2の災害にさえなっている場合もある。

     WHOは1996年5月に、他の国際機関やNGO等と共同して、医薬品援助のガイドラインを作成した。この中には、基本線として守られるべき4大原則が集約されている。

    基本的事項

    1 受け入れ国に最大の利益がもたされるようにする

     つまり受け入れ国が必要としているものを送るということである。なぜならば災害直後の混乱の中では、何が必要とされているかという情報が手に入りにくいこと、さらに、災害時には、どんな薬でも無いよりましという思い込みがあるからである。

     国連は、国際社会が迅速かつ適切な対応を実施できるよう、災害後の必要な情報を広く国際社会に流布するための制度を整えている。被災国の状況やニーズは、最新の情報がそのつど状況報告書という形にまとめられて、世界中に伝えられている。どのような医薬品や医療器材/消耗品、消毒剤がどの程度必要かを調べるのは、被災国の保健省や赤十字社、WHOなどの仕事であるが、その見積もりもこの報告書に盛られる。これらの機関が、ニーズの把握を迅速に行うよう一層の努力が求められる一方、援助する側もニーズが明らかになるまで医薬品の援助を控えるという態度が望まれる。

    2 受け入れ国の権限や体制、慣習を尊重する

     受け入れ国がその使用を認めているもの、またその国の医療関係者が使い慣れている医薬品を送る。

     WHOの必須医薬品モデルリストや国連が出している緊急援助品目要覧やWHO緊急医薬品キット、これらのリストは標準化されていて、多数の国が受け入れられる最大公約数的な医薬品や器材からなっている。さらに厳密を期するためには、現在多くの国が必須医薬品の概念を取り入れ、その国独自の必須医薬品のリストを作成していることに鑑み、被災国の独自のリストに基づいて医薬品を選択することもできる。

     危険性や不必要な薬剤耐性の出現の予防、国の医療経済や保健医療体制の維持、計画などを基にして作られた相手国の基準や方針を尊重するのは当然のことであろう。

    3 ダブルスタンダードを避ける

     これは質的に自分達が使えないような医薬品を送らないということである。期限に関しては最低1年使用期限が残っていることが必要である。

    4 援助国と受け入れ国の意思疎通を確実に行う

     これは2方向性の事柄で、受け入れ国は何をどのくらい必要であるかを明示し、一方援助国側は、計画しているまたは実施しつつある医薬品の援助の内容を受け入れ国に前もって伝えることが要請される。これによって現場での混乱を防ぐと共に受け入れ国が複数の援助国との間で調整作業を行うことを容易にする。


    震災後2週間の病院活動から

    高橋玲比古、看護 47: 58-65, 1995(担当:戒能)


     震災のため病院機能が停止し、患者・職員ともに避難を余儀なくされた高橋病院院長の報告

     神戸市長田区の私立高橋病院は、戦前からの古い住宅密集地域にあり、築25年の鉄筋コンクリート造4階建て、ベッド数112床の、外科・内科・整形外科・放射線科・循環器科・胃腸科を標桟する病院である。病棟は3階と4階にあり、二次救急蛤番制にも参加し、年間の時間外の救急搬入は約600台に達する。

    〈震災直後〉

    〈病院からの避難〉

    〈本報告例の問題提起〉

    〈院長の結語〉

     我々の仕事は、我々自身が被災しても、必要とする人が周囲にいる限り続けなけれぱならない。この点、今回被災地の医療従事者は、まさに真価を間われたのであった。


    難民

    喜多悦子、災害医療ハンドブック、医学書院、東京、1996年、p.87-93(担当:山下)


    難民の定義 (難民条約、難民議定書に基づく)

     難民とは、人種・宗教・政治的信条などにより迫害を受けるという恐れにより国籍国の外に避難し、かつ国籍国の保護を受けえないか受ける意志を持たない者、もしくは自国の戦乱または外国の侵略のために国境を越えて避難した者

    ※ ここでは「難民」とは主として途上国で本来の生活場所から避難、移動を余儀なくされた集団と広い意味で考える。

    難民の置かれている時期による特徴

    1)大量避難時(急性期)

     さまざまな理由で、比較的短期間に、数千、多くは数万以上、時には十数万の人々が、本来の生活場所を離れて、多くは隣接国に避難する時期

    2)定住開始時(亜急性期)

     数万人以上の避難民が一定の地域に集結し、それぞれが固有の住居(シェルター)を定める時期で、新たな避難民の流入がほぼ止まり、特別な感染疾患の大流行もなく混乱が収まった時期

    3)定住時(慢性期)

     年余にわたる難民キャンプの多くは、受け入れ国の地方住民の生活とあまり変わらないことが多い。

    難民の位相と健康状態

    1) 大量避難時(急性期)

     1.感染症

     人間や動物の排泄物や生活汚物による居住環境、特に飲料水、食料の汚染に伴って起こる。

     赤痢、アメーバ赤痢、コレラ、腸チフスなどの下痢性疾患や肝炎、ポリオなどがこれに類する。他の感染症は、密集生活によって大流行がおこる小児急性疾患で、麻疹、百日咳、ジフテリア、また、慢性的経過をとる結核なども含まれる。

     2.栄養障害

     サブサハラアフリカ諸国など繰り返す旱魃や砂漠化により飢饉が慢性化している地域では、紛争による大量避難が起こると、重症栄養障害が最大の問題となる。いわゆるマラスムス(著しい痩せ)状態に、感染症を併発した乳幼児や授乳婦が集団の大半を占める。

    2) 定住開始時(亜急性期)

     大量避難時とほぼ同じ。ただし、外部からの援助が始まっていれば、改善傾向を示す。

    3) 定住時(慢性期)

     途上国農村部の保健医療状態とほぼ同様

    保健医療対策

    1) 大量避難時(急性期)

     生活に必要なインフラの存在しないところに、短期間で、いかに機能的なひなんキャンプを設営するかがポイントである。この時期の必須援助は飲料水、食料品、テントの配布であり、先進国で考える治療は二次的なものにすぎない。緊急援助のポイントは迅速性であるので、単一の援助機関だけでなく、他組織との連携と役割分担を行う。

    2) 定住開始時(亜急性期)

     必要な救急治療を継続する。また受け入れ国の施設設備や援助機関同士の連携のために、人口動態と疫学調査を行う。

    3) 定住時(慢性期)

     主体はプライマリー・ヘルス・ケアである。一般の開発援助と同様に住民参加型の公衆衛生活動を主体とし治療は必要最低限のものとする。

    難民問題の解決

     一時的に過剰な援助をするのではなく長期にわたる援助が重要であり、また難民予備軍ともいえる不平等と貧困の環境にある人々への支援も視野にいれることが大切である。
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