(7/04/97、災害医学・抄読会)

災害医療のあり方

大塚敏文、災害医療ハンドブック、医学書院、東京、1996年、p.1-4

(担当:武田)


 20世紀後半、 特に1960年代以降より現代の社会は、常に災害の危機に直面しているといっても過言ではない。災害は進歩する、という言葉があるが、まさに災害もまた社会の進歩に伴い、多様化、多発化、深刻化、世界的拡散の道をたどっている。このような状況のなかでは、繰り返される災害のサイクルを念頭にいれて対処しなければいけない。

1.災害の定義

 大災害とは、ある限局した地域でほぼ同時に広範な破壊と窮迫をもたらす緊急事態で、日常の地域処理能力をはるかに越えた被害をもたらし、地域外からの支援を必要とする非常事態である。

 災害現場では、three T'sといわれるトリアージ(triage)、応急処置(treatment)、搬送(transportation)が緊急度と重症度を考慮しながら行われるべきである。また災害医療は、救急医療や集中治療のみでなく、心理学や社会学を含めた総合的医療を考えるべきである。

 災害を分類すると、まず自然災害(natural disaster)と人為災害(man made disaster)に大きくわけられる。前者は、地震や津波、風水害や疫病が、後者は、人を殺傷することが目的の戦争紛争型と、航空機事故、列車事故、高速道路事故などの産業工場型に分けられる。

2.災害サイクルから見た災害医療

 災害はどれでも独立したものといわれているが、重要な類似点がある。過去の大災害の疫学的考察により、自然災害のサイクルを推察し、各時相ごとに、適切で正確な援助をおこなうことが重要である。

(1)災害時になにをなすべきか

 まず第一に地域住民、救急隊、医療関係者各々に、予防と準備に関する教育が事前になされていなければならない。そして、繰り返し行う訓練と準備が必要である。また、災害時の損害を軽減するために備蓄も必要である。

 災害準備は、計画(planning)、訓練(training)、および備蓄(stockpile)がなければ本来の意味はなさない。

(2)災害時の医師の役割

 災害救助活動において医師の役割は重要である。医師の不適当な言動が、人々に与える影響は、極めて大きいからである。医師一人一人がどのような必要性をどのように満たすべきか考えをしっかりと持っていなければならない。

3.阪神・淡路大震災の教訓から医療に関する5つの問題点、解決策

(1)情報を共有化できる災害医療情報ネットワークの必要性

 今回の大震災では、情報のネットワーク体制が整っていなかったが、被災地の医療情報は、災害医療チームの派遣や被災地の医療を確保するために早期に必要となる。この医療情報を収集するための手段を確保するため、NTTにも災害特別回線を設置し、緊急時の使用に備えるとともに、病院の通信回線を耐震化し、無線送受信装置を併設するなどが必要となる。インターネットなどのコンピューターネットワークも現状では最善の策であろう。

(2)大災害時の初動体制

 災害医療における初動活動を国際的にSRMという。Sは捜査(search)、Rは、救助(rescue)、Mは医療(medical assist)である。欧米では、災害現場から救急医療が開始される。つまり、救出前に点滴を開始し、脱水に対する治療を行ったり、虚血肢に駆血帯を装着したり、ときには、on site surgeryと称して現場で四肢の切断術を行うこともある。このSRMに関しては、我が国においても今後考えなければならないだろう。

(3)現場でのトリアージ

 外科系の経験豊富なドクターが緊急度と重症度の両面から治療の優先度を決定していくのだがこの際、1人の命を救うために10人の命を失ってはならないのが災害医療の特殊性である。

(4)後方搬送体制について

 救急搬送では、陸地だけでなく、空と海の利用を考えるべきであろう。空では、将来的に、救急災害ヘリコプターの全国配備を考える必要がある。海では、フェリーボートなどの客船の利用も必要であろう。

(5)災害に強い病院と支援体制

 自分の働いていた病院が壊れたらどこの病院で働くか、地域の医療体制全体の流れを細かく決めるなど、自治体の枠を越えた災害医療体制を作ることが必要である。そして年に最低1回は、地震を想定した訓練を行うべきである。

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 災害医療体制を考える場合、日常から確実に運営できるシステムを構築しておくことが重要であろう。


地震

金田正樹、災害医療ハンドブック、医学書院、東京、1996年、p.6-16

(担当:林)


1、災害の特徴

 地震災害における死者、負傷者の数は火山、風水害などの他の自然災害に比べて圧倒的に多い。地震は二次災害として津波、火災、山崩れおよび土石流を発生させるためである。

 地震発生直後、最初にやらなければならないことは人命救助であり、最も忙しい場所は医療機関である。病院の中では、パニックにも等しい大混乱が起こることが予想される。その混乱を避けるには、地震の疾病構造を知っておくこと、普段からの病院の緊急医療対処計画を立てておくことが必要である。

 地震による人的被害は、震源の深さ、震源地からの距離、地盤の軟弱度、建造物の耐震性、人口の集中度などにより大きく影響されるが、屋内の家具が倒れたり、石塀が破損する震度5になると死傷者が出るといわれている。

 また、地震災害を大きくする要因に、直下型地震と地盤の液状化現象がある。直下型地震はマグニチュードが小さくとも、震源距離が短いため、その被害規模は大きくなる。液状化現象は、地下水を含む砂地に地震動が加わると砂中の間隙水圧が上昇し、砂の粘着力が失われて地盤が液状化してしまうことをいう。地盤が液状化すると物を支える力がなくなり、建築物は沈むか、倒れ、空洞の浄化槽などは軽いので地上に浮き上がってしまい、水が地上に吹き出す噴砂現象を引き起こす。

2、疫学

 発展途上国での地震で多くの死者が出ている。これは、耐震性のない日乾し煉瓦を積み上げただけの家屋や、鉄筋の構造が不十分な建物は、地震の規模がそれほど大きくなくとも簡単に壊れてしまうのと、人口が都市に集中したために死傷者が多くなる。このような国では地震によって建物の崩壊が一瞬にして起こるため、日本のように、まず落下物から身を守るためにテーブルの下に身を隠し、揺れが収まるのを待つというマニュアルは成り立たない。

 アジアは地震の多い地域であるが、隣の韓国にはその記録がない。それに比べて日本では地球上の約15%の地震が発生し、年間1000回近い有感地震があるといわれている。

 突然襲ってくる地震は、未だそれを予知することは難しく、一度大きな地震に見舞われると、予期せぬ人的被害をもたらすことになり、大都市周辺でのそれは大きくなる。地震災害医療を考えるとき、過去の教訓を十分把握した上で考えていかなければならない。

3、災害に伴う傷病の特徴

 地震によって引き起こされる被害はさまざまで、一次、二次、三次と被害が次第に波及していくに従って、その人的被害も増えていく。地震は建物を壊すだけでなく火災が発生し、家屋が燃え、津波が人をさらい、山崩れで家屋が埋まり、石油タンクやガソリンスタンドで爆発が起こり、工場や研究所から有毒ガスが発生することがある。特に大都市周辺での被害は大きくなり、上下水道・ガス・電気・通信・交通網が複雑に張り巡らされている、いわゆるライフラインの被害は、日常生活へはもちろんのこと人命救助の医療活動に重大な影響を与えることになる。

 地震が人的被害を与える直接的な原因は、1)建物の損壊および落下物、2)火災、3)津波、4)山崩れおよび土石流、5)有毒ガス、などがある。

4、医療対策

  1. 地震に津波、火災、山崩れが伴うとその人的被害は大きくなる。
  2. 震度5以上になると必ず人的被害が発生する。
  3. 直下型地震は地震の規模が小さくとも人的被害は大きくなる。
  4. 都市型地震災害は負傷者が圧倒的に多くなる。
  5. 広域災害の時はヘリコプター搬送が有用。
  6. 負傷者は普段から救急医療を行なっている病院に集中する傾向にある。
  7. 救急医療を阻害する主な原因は電話の不通と断水。
  8. 高齢者ほど負傷率が高い。
  9. 負傷者の約80%は四肢外傷で、その60%以上はガラス片、落下物、転倒が原因。
  10. 打撲、挫創、切創などの軽傷例が多く、重症例は全体の10〜20%。
  11. 重症例には挫滅症候群が含まれ、注意を要する。
  12. 冬期は熱傷例が多い。
  13. 夏期は食中毒、伝染病が発生する恐れがある。
  14. 津波による海水の誤飲で肺水腫例を見ることがある。
  15. 汚染創には十分な洗浄とデブリードマンが必要。
  16. 不眠、不安を訴える患者が多くなり、マイナートランキライザーの投与が必要。
  17. 衛生材料、麻酔薬、乳酸加リンゲル液、抗生剤、プラスマネート、破傷風トキソイドの使用頻度が高い。
  18. 時間の経過とともに医療ニーズも刻々と変わる。
  19. 避難所の医療サービスも早期に実施する。
  20. 医療ボランティアの活用は大きなマンパワーになる。
  21. 都道府県単位で災害医療拠点病院を設定し、整備することが必要。
  22. 各病院は災害医療のプランニングを作製し、その訓練をしておく必要がある。
  23. 医療関係者、消防、自治体防災関係者などに災害医療の教育が必要。


風水害、洪水

二宮宣文、災害医療ハンドブック、医学書院、東京、1996年、p.23-9

(担当:大田)


 風水害、洪水は水が直接災害をもたらす。災害サイクルからこれらの災害を考えると、前兆期として熱帯低気圧の発生、集中豪雨や地震があり、災害の発生を予想することができる。しかし、治水事業の拡充の度合いによっても災害の閾値は変わってくる。災害医療の面から風水害、洪水を考えると災害発生時から12時間以内の超急性期は、災害区域外からの援助は期待できないのでまず被災地の住民が救助、初期治療を開始しなければならない。水に流された人や土砂に埋まった人の救出、トリアージ、救護所の設置、患者の搬送、外科的救急処置、一時救命救急処置などである。24時間から48時間の急性期では、重傷者の転送を考えなければならない。しかし、道路の寸断、橋の崩壊、通信の不通などで陸路は不可能な場合が多い。このようなときはヘリコプターなどの空路に頼らざるを得なくなる。

 さらに土砂崩れなどの二次的な災害の危険が多い。1週間から2週間では、水とトイレが大きな問題となる。この時期では内科的疾患が増加し、感染症などの対策が必要である。飲み水、炊事の水、トイレの水など、生活に直接影響がでてくる。水の煮沸消毒、トイレの消毒などが大切である。また避難所のトイレと井戸や水補給所の位置にも注意が必要である。

 医療面では慢性疾患の急性増悪とか免疫能低下による病気に気をつけなければならない。このような災害時の治療で、外科的な物では、汚染創は洗浄、汚染組織除去の後、数日解放したままにしておき、感染が収まってから縫合するようにする。これをディレイド・プライマリー・クロージャーという。これは、初期に縫合すると消毒や抗生物質投与が十分できないため、必ず化膿してくるからである。内科的疾患は初期から高世代の抗生物質を使用しないようにする。これはむやみに抗生物質に対して抵抗性のある細菌を作らないためである。また治療とともに水、トイレなどの指導も大切である。国内の風水害、洪水では比較的早期に救援に入れるが、海外では1週間以後になることが多い。しかし災害医療援助は災害サイクルを考え、その時期にあった適切な医療を供給することが大切である。

 風水害の発生するメカニズムとしては降雨量が多くなってそれが木々で遮断されなかったり地面に浸透しきれなかったりして地表の表面流失量が閾値を超えると起こるとされている。従って治水事業の拡大で風水害を防止することもできる。さらに閾値を超えることが予想されたときはあらかじめ安全なところに避難しておれば人的被害は最小限に食い止めることができる。

 日本の国際緊急援助隊医療チームはスーダン、ネパール、ジャマイカなどに出動し大きな成果を上げている。しかし発展途上国では風土病や寄生虫疾患や国民の慢性的な栄養失調のために救助活動が妨げられることが多い。また普段から衛生状態のよくないところではこれらなどの伝染病にも注意を払う必要がある。

 災害が起こった後は再び災害に遭わないような場所に建物を建てるとか、堤防を高くするとか、計画に基づいた復興が必要である。


災害用の野外医療施設と移動病院

甲斐達朗、臨外 51(13): 1577-81, 1996(担当:渡辺)


 要旨:災害時には、医療の需要と供給にアンバランスを生じ現場より適正な医療施設への負傷者の流れがスムーズにいかず、未治療あるいは十分な治療が受けられない負傷者(患者)がさまざまな場所で放置されることがある。そのため、これらの負傷者の治療を行うため野外医療施設の設営が必要となる。災害の各時相により医療ニーズは変化するので、そのニーズに適した野外医療施設の設営が必要である。その迅速な展開を可能にする事前の訓練はもちろんのこと医療班の指揮命令系の確立、医療従事者の保険等の補償制度の確立、災害の時相に適した医療装備・医薬品のパッケージ化された備蓄等の事前の準備が最も重要である。

はじめに

 災害時には、医療の需要と供給間にアンバランスを生じ現場より適正な医療施設への負傷者の流れがスムーズに行かず、未治療あるいは十分な治療が受けられない負傷者(患者)が様々な場所で放置されることがある。そのため、これらの負傷者の治療を行うため野外医療施設の設営が必要となる。

野外医療施設をどこに設営すれば良いのか

1.集団災害

 日常の救急医療体制の処理能力を越えた多数の傷病者が発生する集団災害では、災害現場から医療施設への負傷者搬送がスムーズに行うことができず、災害現場に未治療の多数の負傷者が取り残されるため、現場でのトリアージと緊急応急処置を行うための野外応急施設が必要となる。

2.大規模災害

 日常の医療体制をも破壊される大規模地震などの大災害では、以下の場所に設営する。

  1. 負傷者が殺到する被災地内医療施設の負担軽減のため被災地病院周辺。
  2. 病院が機能不全に陥り入院患者の避難を余儀なくされた被災病院。
  3. 負傷者が集まりやすい消防署あるいは避難所やその周辺。
  4. 被災地内で日常の医療を継続するために避難所や学校などの公共施設。
  5. 多量の負傷者を被災地外の医療施設へ搬送するヘリポートなどの負傷者搬送基地。

野外医療施設

 地震などの広域災害であっても、被災地周辺の医療機関は機能している場合が多く、本格的な手術ができる野外医療施設の必要性は少ない。大災害と言えども上記1)−5)の場所で、重症負傷者の症状の安定化を図る治療や、搬送間の治療の継続、被災地域の医療体制が低下したための日常医療の継続のために野外医療施設が必要となる。

1.自走可能型

 既存の救急車、バス、列車等を災害時に野外医療施設として転用する。このためには、事前の転用の訓練が必要である。またこの型の医療施設は、被災地より被災地外の医療施設への負傷者転送に利用でき有用である。

2.テント型・コンテナ型

 一般に広く用いられているのがテントを利用した野外医療施設である。多数の負傷者に対処するには、テント内外の負傷者の流れを考慮した設営が必要となる。テント以外にヘリコプターで輸送可能なコンテナ型の野外医療施設も開発されている。

3.災害用医薬品・医療品の備蓄

 迅速な野外医療施設の展開には、医薬品・医療品等の装備の備蓄が必須である。しかも災害の各時相により医療ニーズは変化するので、そのニーズに適したパッケージ化された装備が必要である。可能ならば、装備を標準化し全国で共通のものを用いるようにすれば、多施設の医療従事者が共同して活動する可能性の高い野外医療施設では有用である。

移動病院

 移動病院は、戦時の野戦病院として諸外国で利用されているが、国内の災害において利用価値はそれほど高いとは思われない。しかし、被災地外への負傷者搬送がスムーズに行われない場合、あるいは広範囲にわたり医療機関が機能低下あるいは破壊した場合に利用価値がある。国内では、自衛隊の装備として移動病院があり、日頃よりその展開の訓練を行っている。移動病院は、テント型あるいはコンテナ型野外医療施設を組み合わせることにより設営する。

病院船

 移動病院同様に国内の災害では野外医療施設に比べその利用価値は低いが、津波災害で広範囲の地域が被災し陸路や空路のアクセスが悪いときなどには有用となる。

 病院船を常設するには、その建造費や維持費が膨大であることと利用頻度が低いことで困難である。そこで、ノルウエーでは、6隻のフェリーボートを大災害あるいは戦時に病院船として転用する計画をもっている。最大の病院船は国際航路に利用されている1200〜1500人乗りフェリーボートを用い二百病床の入院施設と1200〜1500人の避難者を収容できるようにしている。ノルウエー政府はこれらの船を災害時には病院船として利用することを事前に契約しており、毎年1隻のフェリーボートを病院船に転用する訓練を行っている。

おわりに

 災害用の野外医療施設・移動病院について述べたが、大災害の急性期(48時間以内)の重症負傷者の救命を目的としてこれらの施設を設営するのであれば、その迅速な展開を可能にする医療班の指揮命令系の確立、災害時の時相に適した医療装備・医薬品のパッケージ化された備蓄等の事前の準備が最も必要である。


(座談会)クラッシュシンドローム対応の諸問題

鵜飼卓ほか、救急医学 19: 1765-74, 1995(担当:三平)


 阪神・淡路大震災では多数のクラッシュシンドローム(挫滅症候群)の患者が生じたが、日本でこれだけクラッシュシンドロームが多発したのは初めての経験であったといえる。クラッシュシンドロームの概念、特徴、『再灌流障害』などよく似た病態との相違、輸液療法等の初期治療、減張切開の可否、切断するかどうかの判断、血液浄化法の意義と選択、等の問題を述べていく。

(1)患者の概況

 以下に患者の具体像を述べる。

 高カリウム血症のため心停止が起こり、心配蘇生後に転送された患者。下肢切断した患者。筋膜切開を行い、その後下肢切断にふみきったが、最終的には敗血症のためなくなった患者。筋膜切開を行ったが、筋壊死が広がって感染し、敗血症となり、下肢を切断しようとしたが家族に反対された。持続血液濾過透析(CHDF)でコントロールしていたがアシドーシスと高カリウム血症が進行してしまった患者。減張切開を行った後22リットルの輸液をした。

(2)病態をどうとらえるか

 長時間四肢に圧挫が起こると、四肢の筋は虚血状態になる。四肢への圧迫がなくなったときに、骨格筋に再灌流が起こるわけだが、そのときに、毒性物質が全身に流出してしまい、全身の炎症反応(system inflammatory response syndrome: SIRS)が起こる。SIRSの具体例として、腎不全、尿細管壊死、他臓器不全などがあげられる。

(3)治療方針の立て方

 全身的な治療方針として、腎不全を予防するために、輸液を行う。局所的な治療方針として、筋膜切開を行う。

(4)体液管理をどう考えるか

 循環血液量を維持するため、適性尿量を目安にしたり、スワン・ガンツカテーテルを用いてCVPを測定し、至適な値になるように、輸液をする。腎不全を予防するためや、中毒物質を除去するために、大量に輸液を行い、CHDFをするという考え方もあるが、組織間の体液のシフトが強く起こっているのは事実である。

(5)血液浄化法の評価

 輸液を行い、循環血液量が安定すると、次に問題になるのは、体液中の中毒物質に同対処するかということになる。Azotemia、高カリウム血症、over hydrationにたいして、HD又はCHDF行う。

(6)減張切開、切断の問題点

 減張切開すると、確かにコンパートメントシンドロームを生じにくくするが、結果的には非常に輸液量が増えるし、感染も生じる。では何を基準にして減張切開をするかしないかを決めることは難しい。

(7)指標となる検査は何だったか

 クラッシュの重症度を反映するものとして、血小板、CPK、代謝性アシドーシス、高カリウム血症、低カルシウム血症、ミオグロビン、GOT、組織圧、輸液負荷に対する反応、等があげられる。

(8)合併損傷の影響

 四肢の圧挫と供に起こったものとして、骨盤損傷、大腿骨骨折、コタツに挟まれて起こった熱傷、などがあげられる。中毒物質により腎不全が起こり、その結果高カリウム血症が起こったり、挫滅した筋から直接カリウムが流出し高カリウム血症が起こる。血清中のカリウムが上昇することによって、心停止が生じた。


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