地震等による大災害時、初期の災害医療に対応するため、外科系の医師が診断、治療をする際に院内に備蓄しておくべきものは何があるだろうか。災害対策における備蓄の問題は病院全体の防災体制のうち主要な項目の1つである。その中で、外科系の医師は自らの活動を想定し、全体の防災体制に災害医療担当者として注文を出しておかなければならない。
平成7年1月、阪神、淡路大震災がおこった。地震発生後、2日目までは外科系の被災者がほとんどであった。また、直接地震による受傷でない血液透析、難病などの内科系の患者も治療継続のために困難をきわめた。この震災で、全体的診療機能や、各部門(検査部、X線診断部、手術部、病棟)の機能の低下が起こった。診療機能を低下させた主な原因は、水(73.6%)、通信(20.9%)、ガス(54.0%)、医療従事者(44.2%)、施設・設備(41.7%)、電気(33.1%)、医療品(20.9%)があげられている。この中で特に水、電気の代替えは困難であった。また、各部門における状況を具体的に述べると、1)検査部では、転倒、転落による機器類の故障等はあまりなく、機器類が稼働できなかった要因は、水の供給がほとんどなかったからである。2)X線診断部では撮影機器や高電圧発生装置の故障も多かったのだが、停電や給水停止による影響のほうが強かった。3)手術部では、多くの病院で使用不能となり、この要因としてやはり水や熱源がなかったことがあげられる(手指の消毒、滅菌器材の供給が不可能となった病院が多かった)。4)病棟においては、停電のために人工呼吸器が使えなくなったり、水や熱源がないため、入院患者の食事はかなり制限を受けた。このように、病院の機能が低下した主な理由は、水や電気や熱源の供給が不足したからであると言っても良いだろう。
外科系の診断、治療にも決定的な影響があった。電気は比較的早く復帰したものの、断水が続き、器材の滅菌、手指消毒が出来なかった。特に手術室における手術では、空調停止による清潔の保持や湿温管理が出来なかった。よって、手術室での手術が必要な被災者はできるだけ被災地外の病院に移送するべきである。そうなると、外科系診断・治療は主として救急措置となる。外来診察室やホ−ルなどを利用した応急処置に限定せざるを得ないだろう。そして、できるだけ早く被災地外の病院に移送すべきである。
また、こういった大震災に備えて、事前に医薬品などの器材の供給体制も整っていなければならない。この器材の緊急供給を受けるためには、情報、通信、交通が確保されなければならない。幸い今回の震災では病院等の素早い対応により、被災地外の組織からの救援を含めかなりの補給を受けることができた。
外科系の災害医療のための主な備蓄品としては次のようなものが考えられる。
1、医薬品
2、診療器材
これらを災害対策用に大量に備蓄し、使用期限が切れると交換していたのでは費用がかかる。院内の供給部門の面積が若干増すが、一般在庫と同じ棚に並べ順次使用と補給をしていくほうがよい。無論一般在庫の部屋や棚は地震に十分対応していることが前提である。日常の運用の中に置くことで、最初に災害用として購入する費用のみの負担増で済むのである。
⇒ 2ヶ月後にほぼ需要に見合う医療供給を回復
災害は人々の健康や生活に重大な影響を及ぼすだけでなく、その社会システムにも影響を及ぼすため救命・救急医療に平行し長期にわたって「こころのケア」を行うことが重要である。この論文は災害のもたらす心理社会的問題について述べ、併せてその危機に対する介入について述べたものである。
最後に筆者は北海道南西沖地震について触れ、十分な対処は行えず多くの防災関係者にとってそれほどの学習効果をもたらしていなかったことについて述べられていた。今後普段の救急診療の中で実際の災害現場を想定するといった意識付けを行うこと、行政や民間のレベルでの災害に対するシステム作りのなかで「こころのケア」を明確に位置づけすることが必要であると感じられた。
また化学薬品やプラスチック製造の原料として大量に使用されている。シアン化合物は体のどこからでも吸収され、その症状出現や重症化が非常に早いので、早期に特異的な解毒療法を行い救命する。
含窒素化合物の不完全燃焼によるHCNの発生も知られ、住宅火災ではCOよりもHCN中毒が死亡の原因と思われる症例が増えている。
ウメ、モモ、アンズなどのバラ科の種子の核に含まれるアミグダリンは消化管内で加水分解され、HCNを発生する。杏であれば約40粒で中毒症状が発生する。
内服した場合は、悪心、嘔吐、腹痛を生じ、吸収されれば上記の全身症状を生じる。
皮膚汚染では、皮膚炎、局所の潰瘍、灼熱痛を生じ、大量汚染の場合には上記の全身症状を生じる。
目の汚染では、結膜炎や角膜、結膜の浮腫を生じる。
急性中毒の後遺症として、視神経障害による失明、人格変化や記憶の消失、NIDDMなどが報告されている。
拮抗薬治療として亜硝酸-チオ硫酸ソーダ療法がある。CNとチトクロム酵素内の3価鉄の結合は解離性であり、ほかの3価鉄イオンによってCNをはずすことができる。ヘモグロビンには2価鉄が存在するため、これを亜硝酸ソーダによって酸化しメトヘモグロビンを形成し、CNを除去ようとするものである。しかし遊離したCNは硫黄と結合して尿中に排泄されるため、硫黄の供給源としてチオ硫酸ソーダを投与する。
ヒドロキソコバラミンもCNと結合してシアノコバラミンとなり、解毒されて尿から排泄される。メトヘモグロビンのように血液の酸素運搬能を下げることなく亜硝酸ソーダのように血管拡張作用もないが、低血圧や、不整脈、アナフィラキシーを起こす。
1996年夏のアトランタオリンピックにおけるボランティア医療チームの存在
医療チームの仕事
センテニアル公園での爆弾爆発事件
トリアージ
アトランタの病院の事前の準備
事故後の対応
病院が機能を果たすには、
のような事項が十分に確保されている必要がある。
1995年1月17日午前5時46分、阪神・淡路大震災が発生した。被災した神鋼病院は、建物は6、7階病室は直ちに修復しないと入院患者の居住不能、ガスストップのため暖房システムが使用不能、自前の給食再開は当分不可能とされたため病院機能が十分果たせないと判断し、入院患者の安全、保護の立場から全員の転送を行った。
WHOは「災害とは地域の救急医療が圧倒される数の傷病者が発生した事象」と定義づけており、今回の大震災はこれに該当する。アメリカでは、1984年に国家災害医療システムが確立されており、神鋼病院も結果的にこの方策にしたがったことになり、食料などの物質を被災地より搬入し(イン)、患者を被災地外に運び出した(アウト)。このイン、アウトの搬送手段は自動車主体であり、今回の震度7の激震であっても、激震地より30km以遠には病院機能を十分に果たす転送可能な病院が存在すると思われるので、この30kmを搬送する幹線道路がきちんと確保できていれば、30〜40分で搬送可能であるので、大災害時には図のような広域救護システムが直ちに発令され、「アウト」と「イン」がスムーズに行われるようにすべきである。
既入院患者の転送はやむを得ないことと考えるが、スムーズに転送を行うには広域搬送システム構築が必要である。大災害の際に医師は、内科、外科の専門にとらわれることなく、プライマリケアに徹して行動し、更には医師の立場を離れ、搬送、整理などの雑用にも積極的に参加することが必要である。被災地での救急医療:2-2) 開業医の立場から
田中良樹、救急医学 19: 1673-6, 1995(担当:手塚)1、被害状況
情報過疎=電話、電気(TV、ラジオ)ストップ
生活環境=電気、ガス、水道途絶
仮設住宅―規模、収容人員、通勤通学への影響
電話、FAX=16日間、電気=8日間医療体制の状況、問題
医療体制に対しての提案
(神戸市は行政指定都市のため、検案書作成は監察医に一任されていた。)災害と心のケア;PTSDを中心として
堤 邦彦、救急医学 19: 1754-9, 1995(担当:広岡)(1)災害と心理的問題
(2)災害がもたらす心身への影響
(3)こころのケア
青酸ガス
山下 衛、救急医学 19: 1809-17, 95(担当:村田)1 シアン(CN)化合物とは
2 CN中毒の発現機序
3 CN中毒の原因物質
4 CN中毒の症状
5 CN中毒の診断
6 CN中毒の治療
7 問題点
アトランタオリンピックをささえた医療ボランティアチーム
―爆弾爆発とTriage―
Kazuyo Kanzaki Sooudi. Emergency nursing 10: 582-8, 1997
(担当:岡本)大震災時における既入院患者への対応
冨永純男、臨床外科 51: 1567-71, 1996(担当:田口)
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