またハザードマップというものがある。これは予測される火山噴火や集中豪雨に際して、降灰や噴石の被害、火砕流や土石流、地滑りによる被害などによる被害を被りやすい地域を予測するものである。雲仙普賢岳の火砕流発生時以前にハザードマップは作られていたらしいが、公表はされなかった。ハザードマップを公表しようとすると、住民や政治家たちからクレームが付くかららしい。これは自分たちの住んでいる場所に災害が起こる可能性があるという声に耳を傾けたがらないからである。阪神大震災の時も大地震発生の可能性の声は無視されていた。
信楽高原鉄道事故、雲仙普賢岳火砕流災害、北海道南西沖地震、釧路沖地震のいずれにおいても災害発生直後より電話が輻輳し、ほとんど使えなくなってしまった。阪神大震災では、さらにその規模が大きくなった。被災地内の病院では、目の前に負傷者が殺到しており、被害の状況や、どの病院がまともな治療をできるかなどはまったくわからなかった。病院の被災情報をどのように伝えたかというアンケートでは、職員が自転車、自動車などで直接伝えたという回答が多かった。今後は通信衛星を用いるなどして電話に頼らないシステムを確保することが重要な課題であろう。
2.正確な初期情報の伝達
東京地下鉄サリン事件では、当初病院にもたらされた情報は「地下鉄構内の爆発事故」であり、有毒ガス中毒らしいとわかった後もアセトニトリル中毒として情報が流された。このため救助にあたった救急隊員や警察官、医師、看護婦などにも中毒症状を示したものが少なくなかった。当初から有毒ガスによる集団ガス中毒であり、縮瞳と気道分泌物の増加があるとの情報(有機リン系の中毒であるという情報)があれば二次災害は予防できたに違いない。病院によっては、患者の状態から有機リン中毒としての治療が行われたところもあった。
3.医療センターの活用
危険物を大量に扱っている企業は中毒情報センターを積極的に利用すべきである。また、災害時には救急医療情報センターを有効に活用することが望ましい。
火砕流災害における被災者には、全身の熱傷、気道熱傷などの多く共通事項が見られる。地震の被災者の傷病パターンも似通ったところが見られる。
2.個々の災害に特徴的な疾病構造
北海道南西沖地震では津波による溺死者が多かったが、通常の溺死とは異なり気管内に多量の砂を飲み込んでいたのが特徴であった。阪神大震災においては倒壊した家屋の下敷きによる圧死が大半であった。このように同じ地震でも全く異なった様相を呈することもある。
3.人為災害の疫学
人為災害は自然災害よりも多様であり、疫学を論じることはできないとされている。しかし航空機事故、ガス爆発などのようにグループ同士での検証を行えば、法則性が見いだせ、それらに対する対策も考えられるだろう。
列車事故で見た場合、正面衝突、追突、オーバーラン、脱線のみ、転覆脱線の5グループに分類できる。それぞれのグループ別に負傷者や死亡者の割合を見てみると一定の傾向が見られる。したがって、正面衝突が発生した場合などは重傷者が多いであろうなどのことが予想できるのである。
4.災害後の時相と疾病構造
災害発生直後の超急性期(12〜24時間)には、外傷患者が主体であり緊急処置のニーズが高い。しかし、24時間後以降は、感冒、ストレスによる潰瘍や精神症状、心筋梗塞、高血圧などが主体となってくる。
5.探査と救助
災害の被災者に対する第一のケアは探査と救助であるが、二次災害が起こらぬように注意する必要もある。また、生き埋めなどにおいて、すぐに大型重機が使用できるとを限らない。素手に等しい救助活動を余儀なくされるため、救助犬育成やファイバースコープによる探査の訓練なども必要である。さらに、被災地のみでの救助活動には限界があるため、近隣の地方自治体との相互協力関係を平時から作っておかねばならない。
地区医師会は地方自治体の長と災害時医師派遣契約を締結している場合が多い。その契約に従って、自治体の長が必要と認めたときに医師会会員に災害現場への出動を要請することになっているが、出動要請を待っていては間に合わないので、医師会長の判断、あるいは医師本人の判断で災害現場に出動することがある。その場合、初期には役割分担が明確でなく、調整機能がほとんど働かず、混乱が少なくないようである。また、深夜の事故の連絡体制や通常の診療時間内に災害が発生した場合にも問題は残されている。
大学病院や地域の基幹病院には比較的医師や看護婦の人材も多く、災害時にそこからチームを組んで現場に派遣されれば、ある程度の活躍が期待できる。欧米の災害救護チームはほとんど病院単位で組織して災害派遣される体制になっている。しかし、従来、本邦では大学病院や救命救急センターなどの災害医療体制の中の位置づけは無に等しい。今日の平常時の救命救急医療の重責を大きく担っているこれらの地域の基幹病院の災害時の役割について、真剣に再考がなされなければならない。いずれにせよ、現場での応急処置、トリアージ、軽傷患者の受け入れ、重症者の転送・受け入れ、死体検案などについて、地域ごとに大災害を想定して、医療関係者の実質的な役割分担を考慮した災害対応計画の策定を急ぐ必要がある。
阪神・淡路大震災などでは、医療機関自体や医療従事者もやはり被災して、地域の医療サービス機能が大幅に低下するという現実をみせつけられた。
―ドクターカーによる救援活動―
塩野 茂、太田宗夫、救急医学 19: 1703, 1995(担当 長谷川)
高規格ドクターカーを有し、平時には表1に示す医療機材、医薬品を搭載して活動
している。医師、看護婦、ドクターカー専属運転手と近隣の消防署から研修に来てい
る救急救命士がそれぞれ1名ずつ常時待機しており、消防本部からの出動要請に備え
る。
2)出動の基準と実績
出動基準を表2に示す。活動実績としては、1994年4月から1995年3月まで
の1年間の出動件数は731件(2.0件/日)であり、内訳は現場出動531件、
病院間搬送200件であった。また、災害現場への出動を迅速に立ち上がらせるため
に、従来からセンターの近隣の名神高速道路や大阪国際空港の防災訓練にはドクター
カーを積極的に参加させ、ドクターカーは地域災害医療対策の一角に位置づけられて
いる。
慢性期の救援活動にも、ドクターカーは大きな力となった。被災地の足手まといに
ならない自己完結型であることが要求される救急医療を行う上で、必要なものをすべ
て積んで自分で移動できる“足”を持つことは必須である。また、ドクターカーは車
両そのものを診療所として使用できることや情報発信の利点もあった。
同社では、災害発生直後から後療法までを4段階に分け、期間の経過に伴う救護活動内容の移行の目安としている。
Phase0:生存被災者相互による救助、脱出、応急手当て。医療救護は実施不能。
また、危機管理体制の整備や、救護班の要員に対する救護訓練・研修を通じ、迅速かつ円滑な活動の実施に備えている。
発災直後の被災地では、多数の負傷者が被災地域内の医療機関に殺到し、特に重症者に対する処置が遅れることが予想される。また、医療施設が直接被災するなどして診療機能を失っているような場合は、より大きな混乱を招くこととなる。
このような状況をいち早く緩和するためには、災害対策本部の早急な設置と運営、また外部からの迅速な人員と資材の投入が必要である。
従来、日本赤十字社では非常時における情報伝達手段として電話ならびに業務用無線を活用することとしてきたが、どちらも地震により通信困難あるいは不能となった。また、現在日本赤十字社の業務用無線は、全国共通波として1周波数を使用しているが、複数の救護班の連絡調整を行うためには、これの増波をも考慮する必要がある。
2.防災関係機関との協力体制の確立
発災直後の被災地情報をはじめ、患者搬送・後送など、関係機関との協力により円 滑になると思われる活動が少なくない。今後は、どのような事項について、どこの機 関とどのような協力ができるか等について検討をしておく必要がある。
3.震災ストレスへの対応
今回の災害では被災者中心のケアを行ったが、救援に出向いた防災関係機関の職員やボランティアにも、災害に起因すると思われるストレス症状がみられることから、今後は、こうした支援者をも含む総合的な対応についての取り組みが期待される。
4.日本赤十字社の救護用装備
日本赤十字社の医療救護活動は、医師や看護婦が被災地に出向き、被災者への応急医療を行うとともに、重症患者については後送の必要性について判断を行おうとするものである。しかし、このような医師および看護婦等の搬送手段が確保されておらず、現在、救護班の搬送には救急車を使用しているのが実態である。当該救護業務用緊急車両の整備が急がれる。
また、患者取り扱い優先順位を示すトリアージタッグについても日本赤十字社以外 に自衛隊・消防などが使用するが、様式が異なるため取り扱いに不都合が生じている。
日本赤十字社は、これらの問題点を改善するべく、作業を始めているところである。
この地震災害では、Search & Rescueの面で、急性期の被災地消防機関の救助能力が、極悪な環境と限られたマンパワーのため、極めて低下していた。また地震発生後早期の外部からの救助チームの参入はなく、地域の救済は住民自身の救助活動に依存していた。Triageの面では、多くの救護所や避難所でトリアージスタッフが存在しなかった。また救出後トリアージを受け病院へ搬送されても、混乱の被災地病院では点滴をして寝かせておくだけが精一杯であることが多く、二次や三次のトリアージがなされずにいた。Transportationの面では、道路の寸断や渋滞のため陸路搬送は極めて長時間を要し、患者や物資の有効な移送手段が欠如していた。Treatmentの面では、急性期の被災地病院で、マンパワーの不足、医療物資の備蓄不足、ライフライン途絶による検査機器や治療機器の停止のため、医療の質と量の低下が避けられなかった。また、挫滅症候群など平時の診療では見られない傷病が多発し、医療者の知識不足も存在した。また、震災でうけた精神的ダメージのため、積極的な医療の受容ができないケースも存在した。
災害事例から学ぶ(下)
鵜飼 卓、事例から学ぶ災害医療、南江堂、東京、1995, pp 153-160(担当:大沢)E.トリアージと選別搬送
F.患者搬送と交通事情
G.医師の現場出勤と役割分担
H.病院の体制と混乱
I.超急性期の救援医療
J.集団災害と伝染病
K.マスメデイアの功罪
阪神・淡路大震災における救援活動
(大阪府千里救急救命センター)
1)運用体制II、震災直後の対応
III、震災当日の現地での救援活動
IV、震災翌日以降の活動
V、災害時ドクターカーの役割
おわりに
救援活動〜日本赤十字社の活動〜
石塚善行、救急医学19: 1708, 1995(担当:水谷)日本赤十字社の救護活動
(〜?時間)
Phase1:系統的救出医療。災害現場および救護所での医療が行われる。
(〜48時間)
Phase2:初期集中治療。各科専門医による緊急治療が行われる。
(〜14日間)
Phase3:後療法および更生医療。リハビリおよび職業指導が行われる。
(〜数カ月から数年)日本赤十字社の救護体制
「Phase0」短縮の重要性
問題点
災害死のケーススタディー
−阪神淡路大震災−
松阪正訓、甲斐達朗、太田宗夫、日本集団災害医療研究会誌 1: 31, 1996(担当:吉井)【はじめに】
【方法】
【結果】
【考察】
【結論】
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gochi@hypnos.m.ehime-u.ac.jp
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